- 著者: Takaya Ikeda, Minoru Fukuda, Yoichi Nakamura, Akitoshi Kinoshita, Hiroaki Senju, et al. (Nagasaki Thoracic Oncology Group)
- Corresponding author: Minoru Fukuda (Nagasaki University Hospital, Clinical Oncology Center)
- 雑誌: Cancer Chemotherapy and Pharmacology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-07-18
- Article種別: Original Article (Phase II clinical trial)
- PMID: 25034978
背景
肺がんは世界・日本ともにがん死因の第1位であり、日本では2011年に70,293人 (がん死全体の19.7%) が肺がんで死亡した。小細胞肺がん (small cell lung cancer; SCLC) は肺がん全体の約20%を占め、化学療法に対する初期感受性は高いものの、大多数の患者が2年以内に再発・死亡する予後不良の組織型である。
進展期SCLC (extensive-disease SCLC; ED-SCLC) の標準療法は1981年以来エトポシド+シスプラチン (etoposide+cisplatin; EP) であったが、JCOG (Japanese Clinical Oncology Group) 9511試験 (Noda et al. NEnglJMed 2002) で日本ではイリノテカン+シスプラチン (irinotecan+cisplatin; IP) がEPと同等以上の生存ベネフィットを示した。しかし米国の確認試験 (Hanna et al. JClinOncol 2006; Lara et al. JClinOncol 2009 のSWOG S0124) ではこの結果が再現されず、2年生存率は8-19.5%・OS中央値9.3-12.8か月にとどまり、新規有効薬剤の開発が必要であった。
アムルビシン (amrubicin、SM-5887) は日本で開発された完全合成型9-aminoanthracycline誘導体であり、ドキソルビシンと同等の急性毒性を持つが心毒性がほぼないという薬理学的特徴を持つ (Suzuki et al. InvestNewDrugs 1997 のウサギ実験、Noda et al. 1998のbeagle犬慢性投与実験で確認)。単剤フェーズII (Yana et al. 2007 InvestNewDrugs、WJTOG study) で奏効率75.8%・OS中央値11.7か月、cisplatin併用フェーズI-II (Ohe et al. AnnOncol 2005) で奏効率87.8%・OS中央値13.6か月の優れた成績を示していた。一方カルボプラチンはシスプラチンの腎毒性を低減した白金製剤で、悪心嘔吐や腎機能障害が少なく外来化学療法に適する。何が足りなかったかと言えば、(1) アムルビシン+カルボプラチン併用の第II相での効果安全性evidenceが未確立、(2) 高齢者・腎機能低下例・低performance status (PS) 患者への適用根拠不足、(3) 非シスプラチン基盤レジメンの選択肢拡大、の3点である。同グループの先行phase I試験 (Fukuda et al. 2009 JTO) で35 mg/m² amrubicinが推奨用量と決定されたことを受け、本phase II試験が実施された。
目的
未治療ED-SCLC患者に対するamrubicin+carboplatin併用療法の有効性 (主要評価項目: 奏効率) と安全性を評価する。本研究の仮説は、標準療法奏効率60%に対し本レジメンが80%以上の奏効率を達成するとの想定 (α=0.05、β=0.20、必要症例数35) であった。
結果
患者登録・治療達成度: 35例登録、34例適格・評価可能 (1例は外部審査で限局期と判定され除外)。総148サイクル投与、患者あたり中央値4サイクル (1サイクル4例 [12%]・2サイクル2例 [6%]・3サイクル1例 [3%]・4サイクル11例 [32%]・5サイクル3例 [9%]・6サイクル13例 [38%])。1サイクルのみ4例の内訳: hypotension 3例・PS低下1例で中止。2サイクル中止2例 (PD/重症好中球減少)、3サイクル中止1例 (PR後PD)。5-6サイクル投与16例は腫瘍縮小持続を理由としたプロトコル外延長 (Fig 1, Fig 2)。本コホートはmale-dominant (76%) で年齢中央値64歳 (range 41-75)、Stage IV比率100%という典型的ED-SCLC集団であり、ECOG PS 0は4例 (12%)・PS 1は30例 (88%) であった。
有効性 — 奏効率と生存: 34例の奏効評価でobjective tumor responseは27例 (奏効率 79.4% (95%CI: 63.6-88.5%)、CR 6例 [18%]・PR 21例 [62%]・SD 7例 [21%]・PD 0例)、主要評価項目を達成 (Table 2、Fig 1のWaterfall plot)。生存解析 (2013年6月時点、6例生存・28例死亡) でmedian PFS 6.5か月 (95%CI: 5.2-7.8か月)、median OS 15.6か月 (95%CI: 12.4-18.8か月)、1-/2-/3-/4-/5-year survival rate=63%/28%/7%/7%/0% (Fig 2A PFS曲線、Fig 2B OS曲線)。先行EP標準療法のOS中央値9.1-10.2か月およびIP療法のOS中央値12.8-13.6か月と比較し、本レジメンは15.6か月で約3-6か月延長を示した。
安全性 — 血液毒性 (主要): 34例中28例 (82%) がGrade 3/4血液毒性経験、21例 (62%) がGrade 4を経験 (Table 2)。Grade 3/4 neutropenia 28例 (82%、うちGrade 4が21例=62%)、Grade 3/4 leukopenia 20例 (59%)、Grade 4 leukopenia 4例 (12%)、Grade 4 thrombocytopenia 4例 (12%)。これらはamrubicin/cisplatin (Ohe 2005、JCOG 0509 Satouchi et al. JClinOncol 2014) で報告されたGrade 3/4 neutropenia 95.1-95.7%・thrombocytopenia 24.4-27.1%より低頻度であった (amrubicin用量差: 35 vs 40 mg/m²)。
安全性 — 非血液毒性とアムルビシン infusion reaction: 主要な非血液毒性はnausea 18例 (53%)、hypotension 3例 (9%) (Table 2)。hypotensionはcarboplatin初回投与時day 1またはday 2のamrubicin投与直後に出現したため、amrubicin infusion reactionと判断された (carboplatinの遅発性過敏反応とは時間経過が異なる)。これは過去にamrubicin単剤では報告がなく、本研究 + S-1併用試験 (Murakami et al. 2013) で初めて報告された新規副作用である。治療関連死 (treatment-related death) はなく、間質性肺炎 (pneumonitis、amrubicinで報告例あり) も観察されなかった (Fig 1, Fig 2の補足記述)。
考察/結論
先行レジメンとの違い・既存比較: 本phase IIで得られた奏効率79.4%は、これまでのED-SCLC標準レジメンであるIP (奏効率48-65%) およびEP (43.6-57%) のphase III比較と異なり、明らかに高い response rateを示した (Noda et al. NEnglJMed 2002; Hanna et al. JClinOncol 2006; Lara et al. JClinOncol 2009 と比較)。amrubicin/cisplatin phase II (87.8%、Ohe 2005) より低いものの、cisplatinをカルボプラチンに置換して非血液毒性と腎毒性を低減しながら高活性を保持した点で対照的な特徴を持つ。MST 15.6か月は先行EP (9.1-10.2か月)・IP (12.8-13.6か月)・amrubicin/cisplatin (13.6か月、Ohe 2005) と比較し最長クラスで、Inoue et al. 2010 (北日本Lung Cancer Study Group 0405、高齢者向けamrubicin/carboplatin) のMST 12.8か月をも上回った。これまで報告されていなかったamrubicin infusion reaction (3例、9%) の同定も、過去文献と異なる新規所見である。
新規性: 本研究で初めて、未治療ED-SCLCに対するamrubicin+carboplatin併用療法の第II相evidenceが提示された。先行phase I (Fukuda et al. 2009) でrecommended dose (RD) として決定されたamrubicin 35 mg/m² + carboplatin AUC=5の有効性安全性が確証され、JCOG 0509 phase III (Satouchi 2014) でamrubicin/cisplatinが35 mg/m²に減量されたMST 20.7か月という新規データとも整合する dosing rationaleを提供した。Hypotensionをamrubicin infusion reactionとして同定し、過去報告のなかった新規副作用を記録した点も独自貢献である。
臨床応用: 本研究の臨床応用上の意義は3点である。①cisplatin不耐 (腎機能低下・難治性悪心嘔吐・低body weight高齢者) の未治療ED-SCLC患者で、奏効率79.4%・MST 15.6か月を提供する non-cisplatin treatment optionとして本レジメンが臨床的有用性を持つ。②外来化学療法への適用しやすさ (carboplatinは強制水分負荷不要・renal hydration不要・短時間投与可能) は臨床現場での実用性を高め、患者QoLに資する。③Grade 3/4 neutropenia 82%は依然高頻度だが、G-CSF併用+protocol-specific 75%減量で管理可能であり、treatment-related deathなく完遂可能であった点は、地域中核病院での実施可能性を支持する。
残された課題 / limitation: 著者らが明示する今後の検討課題・limitationは以下である。①単一群phase II試験で対照群を持たず、randomized controlled trial (RCT) によるEP / IPとの直接比較が残された課題である。②症例数35例 (適格34例) は efficacy signalとしては十分だが、サブグループ解析 (高齢者・PS 2・脳転移・腎機能低下) には不足し、今後の検討課題として大規模phase III試験が必要。③1年生存率63%・3年生存率7%は依然不良で、免疫療法併用 (atezolizumab・durvalumab) などの新規アプローチとの統合が今後の課題である。④hypotension/infusion reactionの機序解明とprophylactic premedication最適化も今後の研究展望として残された。⑤elderly subgroup (>70歳) での適用根拠は本試験では限定的で、Inoue 2010・JCOG 1201等の elderly-specific trialとの比較が必要というlimitationが認められる。
方法
研究デザイン: 多施設共同・単一群・第II相試験。Simon two-stage accrual designで設計、UMIN臨床試験登録 (UMIN000001115)、Nagasaki Thoracic Oncology Group主導の non-sponsored study。
コホート: 2008年3月-2011年11月に7施設で35例登録、適格34例 (1例は外部審査で限局期と判定され除外)。患者背景: 男性26例/女性8例 (76%男性)、年齢中央値64歳 (範囲41-75歳)、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) PS 0/1=4/30例、Stage IV 34例 (100%)。
適格基準: 組織学的または細胞学的にED-SCLCと診断された未治療例、年齢≤75歳、ECOG PS≤1、生命予後>12週、白血球≥4,000/μl、血小板≥10.0×10⁴/μl、ヘモグロビン≥9.0 g/dl、総ビリルビン≤1.5 mg/dl、AST/ALT≤正常上限2倍、血清クレアチニン≤正常上限。
治療レジメン: 先行phase I (Fukuda et al. 2009) に基づき、amrubicin 35 mg/m² 静注 day 1-3、carboplatin AUC=5 mg·min/ml 静注 day 1、3週ごと4サイクル反復が基本。granulocyte colony-stimulating factor (G-CSF) は好中球<1,000/μlで投与開始、>5,000/μlで中止。Grade 4血液毒性発生時は次サイクルで75%減量。
有効性・安全性評価: 腫瘍応答はResponse Evaluation Criteria in Solid Tumors (RECIST、1.0版) に従い、外部審査委員会で判定。Complete response (CR) は全測定可能病変の消失+4週以上維持。Partial response (PR) はtarget lesion長径和30%以上縮小。毒性はNational Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events v3.0 (CTCAE v3.0) で grade評価。
統計: 主要評価項目は奏効率 (objective response rate)。生存解析はKaplan-Meier法、95%信頼区間 (CI) は二項分布に基づき算出。Simon two-stage designで上限拒否境界は25 responses (CR+PR)。