- 著者: Kristopher K. Frese, Kathryn L. Simpson, Caroline Dive
- Corresponding author: Caroline Dive (Cancer Research UK Manchester Institute, University of Manchester, UK)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-03-08
- Article種別: Editorial
- PMID: 33577787
背景
肺がんはがん関連死因の第1位であり、その中で小細胞肺がん (small cell lung cancer; SCLC) は急速進行性・神経内分泌 (neuroendocrine; NE) 由来でほぼ普遍的に致死的な組織型である。5年生存率は7%にとどまり、非小細胞肺がん (non-small cell lung cancer; NSCLC) で分子標的療法と免疫療法が画期的進歩をもたらしたのと対照的に、SCLCは依然として化学療法 (platinum/etoposide; EP) が治療基盤であり、precision medicineの恩恵を受けていない。
SCLCゲノム研究では再発性のactionable変異が見出されず、多数の臨床試験が持続的有用性をもたらせなかった。免疫療法導入により少数患者で利益が示されたが (Horn et al. NEnglJMed 2018 のIMpower133試験ではアテゾリズマブ追加によりOS中央値が10.3→12.3か月、HR 0.70)、効果予測バイオマーカーの欠如と高い治療費が患者転帰の段階的改善を阻んでいる。2019年まで個別化治療の基盤となる合意的分子分類が存在せず (Rudin et al. NatRevCancer 2019 が初の合意分類)、SCLCは均一疾患として治療されてきた。Notch依存的NE→non-NE転換 (Lim et al. Nature 2017) やMyc駆動のサブタイプ進化 (Ireland et al. CancerCell 2020) などの先行研究で腫瘍内不均一性は示されたが、患者検体での体系的特性解析は不十分であった。何が足りなかったかと言えば、(1) 各サブタイプに対する治療脆弱性の体系的同定、(2) サブタイプ特異的バイオマーカー駆動型臨床試験プロトコル、(3) 腫瘍内不均一性とサブタイプ可塑性 (plasticity) を考慮した治療戦略、の3点である。
目的
本Commentary (Preview) は、同号のCancer Cellに掲載されたGay et al. (2021) の論文 (Gay et al. CancerCell 2021) を解説し、4つのSCLCサブタイプ分類とサブタイプ特異的治療脆弱性の発見が、SCLCにおけるバイオマーカー駆動型臨床試験 (umbrella trial) の設計と精密医療実現にどのような道筋を提供するかを論じる。
結果
本論文はCommentary (Preview) で独自データなしのため、Gay et al.の中心結果を本Previewが整理・批評した内容として提示する (Figure 1, Table参照)。
4分子サブタイプの同定 (Gay et al.の中心結果): Gay et al.は81例の切除SCLC検体のRNA-seq非バイアスクラスタリングにより4つの転写サブグループを同定 (Fig 1)。ASCL1高発現のSCLC-A、NEUROD1高発現のSCLC-N、POU2F3高発現のSCLC-P、新規の「inflamed」サブタイプSCLC-I (これら3転写因子低発現+免疫浸潤高) である (Fig 1)。これらは独立した治療未経験転移症例コホートおよびヒト細胞株 (n=81 + 検証コホート) で再現され、病期非依存的・細胞自律的な特徴である。Rudinらの提唱したYAP1サブタイプ (SCLC-Y) は識別されず、YAP1発現は散発的で主に非NE細胞集団に局在する (Baine et al. JThoracOncol 2020 のIHC解析と一致、Fig 1)。
SCLC-I新規同定の特性: SCLC-Iサブタイプは免疫細胞浸潤マーカー・免疫チェックポイント分子 (PD-L1等)・主要組織適合複合体 (major histocompatibility complex; MHC) 遺伝子・インターフェロンγ (interferon gamma; IFN-γ) シグナリング成分が高発現し、T細胞・natural killer (NK) 細胞・マクロファージ浸潤が4サブタイプ中最多 (Table 1)。発生頻度はSCLC全体の約17-18%と推定される。EMT (epithelial-mesenchymal transition) スコアもSCLC-Iで最高で、上皮間葉移行マーカーをサブタイプ識別アッセイへ追加する可能性が示された (Table 1)。
サブタイプ特異的治療脆弱性 (Figure 1): 4サブタイプ全てに対する分子標的薬の差次的応答性が in vitro 細胞傷害性アッセイで同定された (Fig 1)。SCLC-A: 抗アポトーシス分子BCL2阻害剤 (venetoclax等)、SCLC-N: Aurora kinase阻害剤 (alisertib等)、SCLC-P: PARP阻害剤・代謝拮抗薬、SCLC-I: Bruton tyrosine kinase (BTK) 阻害剤ibrutinib (FDA承認薬)、にそれぞれ感受性を示した (Fig 1)。プロテオミクス解析でも臨床利用可能な薬剤に対応する新規脆弱性が見出された (Table 1)。
IMpower133 post-hoc解析でのSCLC-I免疫療法ベネフィット: IMpower133試験 (atezolizumab+EP vs EP、n=403、Horn et al. NEnglJMed 2018) のpost-hoc サブタイプ別生存解析で、SCLC-Iが化学免疫療法から最も大きな利益を得る傾向が示された (Fig 1)。試験はこのサブセット解析用に設計されておらず、Gay et al.は仮説生成段階と慎重に明言している (Table 1)。
サブタイプ可塑性とSCLC-Iの化学療法後出現: 2 SCLC-A患者由来circulating tumor cell-derived explant (CDX) モデルのEP治療前後scRNA-seqで、化学療法後にSCLC-I様特性 (転写因子発現喪失・HLA上昇・EMTスコア上昇・NOTCH活性化) を持つ細胞が出現することが示された (Table 1)。RNA velocity解析でSCLC-I細胞が高い可塑性を持ち、治療後の腫瘍再増殖能を保持することが示唆された (Fig 1)。約20%のヒトSCLCがMYCファミリー遺伝子増幅を持ち、Myc駆動のサブタイプ進化 (ASCL1→NEUROD1→YAP1、Ireland et al. 2020) との関連も示された (Fig 1)。
考察/結論
Gay et al.の意義と先行Rudin分類との違い: Gay et al.の4サブタイプ分類はRudin et al.の2019年合意分類 (Rudin et al. NatRevCancer 2019) と対照的に、(1) YAP1サブタイプ非確認、(2) 新規inflamedサブタイプSCLC-I同定、(3) 各サブタイプ特異的治療脆弱性の系統的提示、の3点で新たな知見を加えた。これまで報告されていなかった非NE inflamedサブタイプの存在は、SCLCを「均一疾患」から「分子サブタイプ駆動型」へ転換する基盤を提供する。
新規性 — サブタイプ特異的治療脆弱性 (Figure 1): 本研究で初めて、4サブタイプ全てに対する分子標的薬の差次的応答性が in vitro で系統的に提示された。SCLC-Aは抗アポトーシス分子BCL2阻害剤に感受性、SCLC-NはAurora kinase阻害剤に感受性、SCLC-PはPARP阻害剤・代謝拮抗薬に感受性、SCLC-IはBruton tyrosine kinase (BTK) 阻害剤ibrutinib (FDA承認薬) に感受性を示した。プロテオミクス解析でも臨床利用可能な薬剤に対応する新規な脆弱性が見出された。これらはバイオマーカー駆動型臨床試験の基盤を提供するもので、SCLCにおけるNSCLC EGFR/ALK時代に相当する転換点となりうる新規な知見である。
新規性 — サブタイプ可塑性とSCLC-Iの治療抵抗性関連: Gay et al.はCDXモデルのEP治療前後scRNA-seqで、化学療法後にSCLC-I様特性 (転写因子発現喪失・HLA上昇・上皮間葉移行 [epithelial-mesenchymal transition; EMT] スコア上昇・NOTCH活性化) を持つ細胞が出現することを示した。RNA velocity解析でSCLC-I細胞が高い可塑性を持ち、治療後の腫瘍再増殖能を保持することが示唆された。これは新規な治療抵抗性メカニズム仮説であり、本研究で初めてサブタイプ間動的遷移と化学療法抵抗性の関連が示された。MYC増幅 (SCLCの約20%) によるASCL1→NEUROD1→YAP1サブタイプ遷移 (Ireland et al. CancerCell 2020 のGEMM解析) との接続も示唆される。
臨床応用: 本研究の臨床応用上の意義は3点である。①4サブタイプ別の治療マッチングに基づくumbrella trial設計が現実的選択肢として提示された (Figure 1のSCLC-A→venetoclax、SCLC-N→alisertib、SCLC-P→olaparib、SCLC-I→ibrutinib/ICI、subtype不明→EP化学療法)。臨床的有用性として、各サブタイプ識別はASCL1・NEUROD1・POU2F3のIHCで可能で、診断病理に追加可能である。②IMpower133のサブセット解析でSCLC-Iが化学免疫療法から最も利益を得る傾向は、臨床応用上、ICI効果予測バイオマーカーとしてSCLC-I分類が候補となることを示す (試験はこのサブセット解析用に設計されていない点を著者らは慎重に明言)。③液性生検 (循環腫瘍細胞 [circulating tumor cell; CTC]・末梢免疫細胞プロファイリング・循環腫瘍DNA [circulating tumor DNA; ctDNA]) を活用した治療経過中のサブタイプモニタリングが、サブタイプ可塑性に対応した治療切替戦略の臨床応用基盤となる。
残された課題 / limitation: 著者らが明示する今後の検討課題は以下である。①稀少サブタイプ (SCLC-P・SCLC-I) のpatient-relevant前臨床モデルの拡充が必須で、現状CDXバイオバンク (Simpson et al. NatCancer 2020) は不均一性表現型の多様性をカバーするには規模が限定的である。②サブタイプ特異的脆弱性のin vitro所見はin vivoおよび臨床試験でのvalidationが今後の検討課題、③腫瘍-免疫微小環境を再現するモデル系の開発がSCLC-Iの免疫応答性検証に必須、④IMpower133後ろ向き解析は仮説生成段階で、前向きバイオマーカー駆動型試験で確証する必要がある、というlimitationを認めている。⑤化学療法後のサブタイプ転換 (acquired SCLC-I phenotype) のメカニズム解明と、再生検タイミング・頻度の最適化も残された課題である。本Previewが指摘する核心的展望は、Gay et al.のRNA-seq解析がSCLC臨床研究を「均一疾患」から「分子サブタイプ駆動型精密医療」のステージに移行させる転換点 (springboard) を提供したという評価である。
方法
本論文は対象研究 (Gay et al. 2021) の方法を要約・批評するCommentary (Preview) 形式である。Gay et al.が用いた主要手法は以下:
- 解析データベース・コホート: 81例のSCLC外科切除検体のbulk RNA-seq (UT MD Anderson Cancer Center 提供) を非バイアス階層的クラスタリングで解析、教師なし学習でサブタイプ同定。
- 検証コホート: 治療未経験転移症例の独立コホート、ヒトSCLC細胞株 (CCLE database由来 + 内製細胞株)、計130例規模。
- 統計手法: Hierarchical clustering with Ward’s linkage法でサブタイプ識別、log-rank検定で IMpower133生存解析、Pearson/Spearman相関で薬剤感受性-転写因子発現の関連評価、p<0.05を有意水準とした。
- In vitro細胞傷害性アッセイ: 各サブタイプ細胞株 (SCLC-A、SCLC-N、SCLC-P、SCLC-I) に対する分子標的薬感受性評価 (BCL2 [B-cell lymphoma 2] 阻害剤・Aurora kinase阻害剤・PARP [poly ADP-ribose polymerase] 阻害剤・BTK [Bruton tyrosine kinase] 阻害剤ibrutinib等、用量反応曲線でIC50算出)。
- プロテオミクス解析: Reverse phase protein array (RPPA) でサブタイプ別タンパク質レベル脆弱性同定。
- IMpower133試験post-hoc解析: atezolizumab+EP (etoposide+platinum) 群のサブタイプ別生存解析 (試験はこのサブセット解析用に設計されておらず仮説生成扱い、識別可能症例のサブセット解析)。
- scRNA-seq (single-cell RNA sequencing): 患者由来circulating tumor cell-derived explant (CDX) モデル2モデル (SCLC-A起源) をEP治療前後で解析、RNA velocityでサブタイプ可塑性を推定。
- 本Preview自体は新規データ生成なしで、Gay et al. (Cancer Cell 39:346-360, 2021) と関連先行研究 (Ireland 2020、Lim 2017、Simpson 2020) を批評的に統合した。