• 著者: Baine MK, Hsieh MS, Lai WV, Egger JV, Jungbluth AA, Daneshbod Y, Beras A, Spencer R, Lopardo J, Bodd F, Montecalvo J, Sauter JL, Chang JC, Buonocore DJ, Travis WD, Sen T, Poirier JT, Rudin CM, Rekhtman N
  • Corresponding author: Rekhtman N (Department of Pathology, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-10-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33011388

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は、その高い悪性度と限られた治療選択肢により、依然として臨床上の大きな課題である。病理学的には、SCLCは特徴的な形態、神経内分泌 (NE) マーカーの発現、および極めて高い増殖率によって特徴づけられる。歴史的に、SCLCは形態学的に均一な疾患として認識され、TP53およびRB1の不活化変異に代表されるゲノムの均質性が広く知られていた George et al. Nature 2015Peifer et al. NatGenet 2012。しかし、近年、SCLCの生物学的多様性が明らかになりつつある。

先行研究では、主にSCLC細胞株、遺伝子改変マウスモデル、患者由来異種移植片 (PDX) を用いた前臨床モデルに基づき、ASCL1およびNEUROD1という神経性転写因子によって駆動される異なる遺伝子発現プログラムによって定義されるSCLCのサブタイプが同定された Borromeo et al. CellRep 2016。ASCL1高発現腫瘍はNEマーカーの高発現と関連すると示唆された一方、NEUROD1高発現腫瘍は全体的にNEマーカーの発現が低いと報告された。しかし、NEUROD1高発現SCLCの特性は、その後の複数の研究でASCL1高発現腫瘍との類似性が報告されたため、確固たるものとはなっていなかった。

さらに、ASCL1/NEUROD1二重陰性の、いわゆる非NE SCLCのサブセットが、化学感覚性タフト細胞のマーカーであるPOU2F3を発現し、それに依存することが発見された Huang et al. GenesDev 2018。最後に、Hippo成長シグナル経路の転写制御因子であるYAP1が、非NE SCLCのサブセットで優先的に発現することが報告されたが、サブタイプを定義する転写ドライバーとしてのその役割は十分に確立されていない。これらの新規マーカーによって定義されるSCLCサブタイプには、異なる治療脆弱性が示唆されており、例えばASCL1高発現群に対するDLL3標的療法や、NEUROD1高発現群に対するAuroraキナーゼ阻害薬などが挙げられる Mollaoglu et al. CancerCell 2017Saunders et al. SciTranslMed 2015

これらの研究の結果、最近のコンセンサス提案では、SCLCをASCL1 (SCLC-A)、NEUROD1 (SCLC-N)、POU2F3 (SCLC-P)、およびYAP1 (SCLC-Y) のRNA発現によって定義される4つのサブタイプに分類することが提唱された Rudin et al. NatRevCancer 2019。しかし、これらの知見は主に実験モデルから得られており、実際のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 臨床検体におけるこれらのマーカーのタンパク質発現の分布や、それに関連する病理学的特徴の詳細は未解明であった。特に、ASCL1とNEUROD1の共発現頻度、YAP1の独立したサブタイプとしての妥当性、およびPOU2F3陽性腫瘍の病理学的特性に関する臨床検体ベースのデータが不足していた。SCLCの分子異質性に関する新たなデータは、バイオマーカー駆動型の個別化治療アプローチへの期待を高めているが、臨床検体におけるこれらのサブタイプの詳細な特徴付けは、その実現のために不可欠な知識ギャップである。

目的

本研究の目的は、SCLC臨床検体においてASCL1、NEUROD1、POU2F3、およびYAP1のタンパク質発現を免疫組織化学 (IHC) 的に包括的に解析することである。具体的には、これらの新規マーカーの発現分布、それらの相互関係、および従来のSCLC診断マーカー (シナプトフィジン、クロモグラニンA、CD56、INSM1などのNEマーカー、TTF-1、Ki-67、DLL3) との病理学的相関を明らかにすることを目指した。これにより、SCLCの分子サブタイプに関する前臨床モデルからの知見が、実際の患者検体においてどのように反映されるかを評価し、臨床的意義を持つ可能性のあるバイオマーカープロファイルを特定することを目的とした。特に、ASCL1/NEUROD1の共発現の頻度と細胞内分布、POU2F3およびYAP1が独立したSCLCサブタイプを定義しうるか否か、そしてこれらのサブタイプが従来の病理学的特徴や治療標的候補であるDLL3の発現とどのように関連するかを詳細に検討した。

結果

個別マーカーの発現頻度: ASCL1、NEUROD1、POU2F3、YAP1のいずれかのレベルでの発現は、それぞれ80% (n=160中128例)、56% (n=163中91例)、8% (n=159中12例)、33% (n=164中54例) の腫瘍で検出された (Table 1)。陽性症例における平均H-scoreは、ASCL1で173 (範囲: 4-300)、NEUROD1で95 (範囲: 1-300)、POU2F3で137 (範囲: 6-280)、YAP1で22 (範囲: 1-100) であった。ASCL1とPOU2F3の発現は陽性症例の92%でH-scoreが50を超え、通常高かった。NEUROD1はより広い発現範囲を示し、高発現者 (H-score > 50) が52%、低発現者が48%と均等に分布した。対照的に、YAP1の発現は一般的に低く、H-scoreが50を超えたのはわずか4例 (7%) であり、100を超えた症例はなかった。

ASCL1/NEUROD1サブタイプ分布と共発現: ASCL1とNEUROD1の両方の結果が得られた159例のSCLCにおける分布は、ASCL1のみ陽性 (ASCL1+/NEUROD1-) が41%、両者陽性 (ASCL1+/NEUROD1+) が37%、NEUROD1のみ陽性 (ASCL1-/NEUROD1+) が8%、両者陰性 (double-negative) が14%であった (Fig. 1A)。相対的な優位性に基づく分類では、ASCL1-dominantが69%、NEUROD1-dominantが17%、double-negativeが14%を占めた (Fig. 1B)。両マーカーのデュアル高発現 (ASCL1およびNEUROD1のH-scoreが両方とも>50) は35例 (22%) で認められた。ASCL1とNEUROD1の頻繁な共発現にもかかわらず、ほとんどの症例 (137例中120例、88%) でいずれかのマーカーが他方よりも強く優位であった (H-score差が>50ポイント) (Fig. 1C)。ほぼ同等の発現を示す症例は、両マーカーの発現が低い範囲で主に発生した。デュアル高発現の腫瘍の顕微鏡検査では、1例を除く全ての症例で両マーカーが同じ腫瘍細胞集団に共発現していることが明らかになった (Fig. 1D)。唯一の例外は、ASCL1とNEUROD1の発現が空間的に異なるサブポピュレーションに認められた症例であった (Supplementary Fig. 1)。

POU2F3の限定的分布: ASCL1、NEUROD1、POU2F3のIHC結果が得られた152例のSCLCにおいて、POU2F3の発現はASCL1/NEUROD1二重陰性腫瘍にほぼ排他的に限定されていた (p<0.0001, Fig. 2A)。二重陰性群の45% (22例中10例) がPOU2F3陽性であった。対照的に、非二重陰性腫瘍におけるPOU2F3発現は例外的な1例のみであった。この例外的な症例は、ASCL1/NEUROD1免疫プロファイルが異なる地理的領域を含むユニークな症例であり、ASCL1およびNEUROD1の発現がないPOU2F3発現の第3の異なる領域も含まれていた (Supplementary Fig. 1)。したがって、個々の細胞レベルでは、POU2F3の発現は全ての症例でASCL1およびNEUROD1と厳密に相互排他的であった。

YAP1: 独立サブタイプを定義せず: ASCL1、NEUROD1、YAP1のIHC結果が得られた151例のSCLCにおいて、POU2F3とは異なり、YAP1の発現は全てのサブタイプに広く分布していた (Fig. 2B)。YAP1はASCL1/NEUROD1陰性腫瘍でやや高発現していたが (p=0.03)、このサブグループ内ではPOU2F3陽性症例と陰性症例で発現は類似していた。この広範な分布は、YAP1がSCLCの明確なサブタイプを定義するマーカーとはならないことを示唆した。YAP1高発現 (H-score > 50) の4例は全て複合型SCLC組織型であり、YAP1がSCLCと他の組織型との混合部位に出現する特性を持つ可能性が示唆された (Fig. 5A)。YAP1発現はNEマーカー発現と逆相関し、YAP1高発現群では複合NEスコアが128 vs 187 (p<0.001) と有意に低かった。

NEマーカー、DLL3、TTF-1との相関: ASCL1-dominant群およびNEUROD1-dominant群のNEマーカー複合スコア (シナプトフィジン、クロモグラニンA、CD56、INSM1の平均H-score) は、それぞれ平均196および191であり、POU2F3群 (76) およびNOS群 (89) と比較して有意に高発現であった (p<0.0001, Fig. 3A)。POU2F3群の100%およびNOS群の83%がNE-low (複合NE H-score ≤ 150) であったのに対し、ASCL1-dominant群およびNEUROD1-dominant群ではわずか20%であった。個々のNEマーカーを解析した場合も、POU2F3およびNOSサブタイプで発現レベルが低かった。Ki-67増殖指数は全てのサブタイプで同等であり、ASCL1-dominant群で88%、NEUROD1-dominant群で90%、POU2F3群で89%、NOS群で86%であった (Fig. 3C)。TTF-1の発現はASCL1と強く関連しており、ASCL1発現のあるSCLCのほとんどがTTF-1陽性であった一方、NEUROD1のみ陽性の腫瘍は全てTTF-1陰性であった (Fig. 3D)。したがって、NEUROD1-dominantサブタイプはASCL1-dominantサブタイプと比較してTTF-1発現率が著しく低かった。POU2F3およびNOS腫瘍のほぼ全てがTTF-1陰性であった。DLL3 (TMAサブセット、n=41) は、ASCL1/NEUROD1二重陰性腫瘍では完全に陰性であったが、ASCL1-dominant群およびNEUROD1-dominant群では一貫して高発現を示した (各比較でp<0.0001, Fig. 3E)。DLL3の発現はASCL1-dominant群とNEUROD1-dominant群で同等であった。

組織型との関連: POU2F3群の50%およびNOS群の45%で複合型組織型 (腺癌、扁平上皮癌、LCNECの混在) が富化していた (ASCL1-dominant群の14%、NEUROD1-dominant群の11%と比較して) (Fig. 3F)。この所見は、POU2F3/NOS群がより可塑性の高い分化状態を示す可能性を示唆する。二重陰性SCLCは、形態学的に扁平上皮分化の証拠を欠き、扁平上皮マスターレギュレーターであるp40 (ΔNp63) の発現も一貫して欠如していた。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、SCLCの新規サブタイプを実際のFFPE臨床検体において、免疫組織化学的および病理組織学的に包括的に解析した初の試みである。複数の前臨床モデルでは、ASCL1とNEUROD1は主に相互排他的な発現を示すと報告されていたが、本研究ではSCLCの37%で両マーカーの有意な共発現が認められ、22%がデュアル高発現 (両マーカーのH-scoreが>50) であった。この結果は、より小規模なヒトSCLC FFPE検体を用いたZhang et al. TranslLungCancerRes 2018の研究とも一致しており、前臨床モデルにおける相互排他的な発現は、細胞培養やPDX条件下でのクローン選択に起因する可能性が示唆される。さらに、先行研究ではNEUROD1高発現腫瘍がNE遺伝子やDLL3の発現が低いなど、ASCL1高発現腫瘍とは異なる特徴を持つと示唆されていたが、本研究の患者検体では、NEUROD1-dominant SCLCはASCL1-dominant腫瘍と同等の高レベルのNEマーカーおよびDLL3を発現することが判明した。

新規性: 本研究で初めて、デュアル高発現のほとんど全ての症例が同一細胞集団内での共発現を示すことを文書化したものであり、異なる細胞サブポピュレーションにおけるサブクローン発現は稀であった。また、YAP1の発現が著しく低く、独立したSCLCサブタイプを定義しないことを示し、POU2F3がASCL1/NEUROD1二重陰性サブタイプに排他的に関連しており、SCLC全体の7%を占めることを新規に確認した。TTF-1はNEUROD1のみ発現腫瘍では一貫して陰性であったが、ASCL1発現のあるほとんど全ての腫瘍で陽性であったことも新規の知見である。

臨床応用: 本研究の知見は、SCLCの治療戦略に重要な臨床的含意を持つ可能性がある。ASCL1-dominantおよびNEUROD1-dominant群はDLL3高発現を示すことから、DLL3標的療法 (例: ロバルピツズマブ テシリン) の候補となる可能性がある。対照的に、POU2F3群およびNOS群はDLL3低発現、NEマーカー低発現というユニークな免疫表現型を示し、これらのサブタイプには異なる治療標的の探索が求められる。YAP1をSCLC-Yサブタイプの定義マーカーとして臨床使用することには、現時点では疑問が残る。

残された課題: 今後の検討課題として、IHCベースのSCLCサブタイプ分類が、患者の臨床転帰予測や治療感受性予測に有用であるかを検証する前向き研究が必要である。また、RNAレベルとタンパク質レベルでのマーカー発現の相関を詳細に解析し、前臨床モデルと臨床検体との間の乖離のメカニズムを解明することも重要である。本研究のlimitationとして、後方視的デザインであること、およびDLL3解析がTMAサブセットに限定されたことが挙げられる。

方法

本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) で病理診断されたSCLC 174例を対象とした後方視的横断研究である。解析対象検体は、主に2017年1月から2020年1月までの期間に診断された122例の臨床生検/切除検体と、組織マイクロアレイ (TMA) 上で解析された52例のSCLCで構成された。検体種別の内訳は、切除検体43例 (25%)、生検検体105例 (60%)、細針吸引検体 (FNA) 26例 (15%) であった。原発肺腫瘍からの検体は57例 (44%)、転移部位からの検体は74例 (56%) であり、転移部位の内訳は胸腔内リンパ節40例、遠隔転移34例であった。組織学的には、純粋SCLCが82%を占め、残りの18%は非小細胞肺癌 (NSCLC) 成分を伴う複合型SCLCであり、腺癌との複合型が7%、扁平上皮癌との複合型が3%、大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) との複合型が9%含まれていた。

免疫組織化学 (IHC) 解析では、ASCL1、NEUROD1、POU2F3、YAP1の新規サブタイプ定義マーカーに加え、従来のSCLC診断マーカーであるシナプトフィジン、クロモグラニンA、CD56/NCAM (Neural Cell Adhesion Molecule)、INSM1 (Insulinoma-associated protein 1)、Ki-67、TTF-1 (全例で評価)、およびDLL3 (TMAサブセット41例で評価) を用いた。POU2F3のプロトコルは新規に開発され、市販抗体 (クローン6D1, Santa Cruz) を使用し、消化管粘膜および肺気管支上皮の散在性細胞に特異的な強い核染色を示すことを確認した。

IHCの評価基準として、各マーカーの陽性細胞の割合 (1%〜100%) と染色強度 (1: 弱、2: 中、3: 強) を記録した。Ki-67とTTF-1を除く全てのマーカーについて、陽性率と染色強度を乗じてH-score (0〜300の範囲) を算出した。Ki-67指数は陽性細胞の割合として記録し、TTF-1は陽性 (あらゆる範囲と強度) または陰性としてスコア化した。複合NEスコアは、クロモグラニンA、シナプトフィジン、CD56、INSM1のH-scoreの平均値として算出した。全ての4つのNEマーカーが利用可能な症例のみを複合NEスコア解析に含めた。記述目的のため、個々のマーカーのH-scoreが50以下を低発現、50超を高発現とした。複合NEスコアでは、150以下をNE-low、150超をNE-highとした。ASCL1とNEUROD1の両方が発現している症例では、H-scoreが高い方を優位な表現型として分類した (例: ASCL1 H-score > NEUROD1 H-scoreの場合、ASCL1-dominant)。複合型SCLCの場合、IHCスコアはSCLC成分のみの発現を反映させた。

統計解析にはJMPバージョン14.0ソフトウェア (SAS Institute) を使用した。連続変数の解析には2標本t検定を、カテゴリデータの解析には尤度比χ²検定を用いた。