- 著者: Karen Kelly, Laura Lovato, Paul A. Bunn Jr, Robert B. Livingston, Jeffrey Zangmeister, Sarah A. Taylor, Debasish Roychowdhury, John J. Crowley, David R. Gandara
- Corresponding author: Bonnie Granados (Southwest Oncology Group Operations Office, San Antonio, TX)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2001
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (第 II 相臨床試験)
- PMID: 11489808
背景
進展型小細胞肺がん (ES-SCLC: extensive-stage small cell lung cancer) は最も予後不良な悪性腫瘍の一つであり、2000 年時点で米国では年間約 40,000 例が新規診断され、大多数が診断年内に死亡していた。患者の三分の二は診断時すでに進展型を呈しており、その標準治療は組み合わせ化学療法が中心であった。当時普及していた代表的レジメンは、シスプラチン+エトポシド (PE) またはカルボプラチン+エトポシド (CE) の 2 剤併用であった。これらのレジメンは奏効率 (ORR: objective response rate) 65〜85%、完全奏効率 (CR: complete response) 10〜15% を示していたが、全生存期間 (OS: overall survival) 中央値は約 9 か月にとどまり、1970 年代の CAV (シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン) レジメンと比較して生存期間の本質的改善は乏しかった (Roth et al. JClinOncol 1992)。PE は毒性管理の利点から新規薬剤追加の基盤として有望視されていたが、既存の 2 剤療法では生存期間の改善が不足しており、より有効な治療戦略の開発が喫緊の課題として認識されていた。
そうした状況でタキサン系薬剤であるパクリタキセルが ES-SCLC に対する単剤活性を複数の第 II 相試験で示した。Ettinger et al. (Eastern Cooperative Oncology Group, ECOG) は未治療 ES-SCLC 32 例にパクリタキセル 250 mg/m² を 24 時間点滴 3 週ごとに投与後 PE へ切り替えるデザインで、確認済み ORR 34%・総 ORR 53%・OS 中央値 10.8 か月を報告した。Kirschling et al. (North Central Cancer Treatment Group) は同用量のパクリタキセル+G-CSF を 43 例に投与し ORR 53%・OS 中央値 10 か月を観察した。さらに Kelly et al. による University of Colorado 第 I/II 相試験では、パクリタキセル (135〜225 mg/m²)+シスプラチン (50 または 80 mg/m²)+エトポシドを組み合わせた PET (paclitaxel-etoposide-cisplatin) レジメンを 28 例に評価し、ORR 83%・CR 22%・OS 中央値 10 か月という高い活性が示された。この試験から導き出された推奨用量は、パクリタキセル 175 mg/m²+シスプラチン 80 mg/m²+エトポシド 80 mg/m² (Day 1 静注) / 160 mg/m² (Day 2-3 経口)+G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) Day 4〜14 であった。
これらの先行研究はPETレジメンの有望な単施設活性を示した一方、多施設共同試験における実臨床での有効性・安全性についての大規模なデータが不足しており、特にPS 2患者や脳転移を有する予後不良集団での治療成績は未解明であった。強力な3剤化学療法レジメンにおけるPS別の毒性リスク分布を定量化した系統的データも不足しており、PS 2患者に対するPETの安全域は未解明の課題として残されていた。後続のランダム化比較試験設計に必要な安全性・有効性データベースを構築することが本試験の出発点となった。
目的
未治療 ES-SCLC 患者を対象として、G-CSF 支持下での PET レジメンの有効性 (ORR、無増悪生存期間 [PFS]、OS) と安全性を多施設共同第 II 相試験 (SWOG S9604) として評価すること。主要目的は PET レジメンが SCLC 治療において有効か否かを OS によって判断することであった。真の OS 中央値が 13.5 か月以上であれば「有効」、9 か月以下であれば「それ以上の検討に値しない」とする統計的仮説のもと、一側性 0.05 水準のログランク検定 (log-rank test) を主解析とした。75 例の適格患者を 18 か月で登録し追加 1 年間追跡することで検出力 0.90 が設定された。副次的に奏効率・毒性頻度を 95% CI (confidence interval) で ±12% 以内の精度で推定することを目的とした。
結果
奏効率と完全奏効の割合: 99 例が登録され、9 例が不適格 (データ不十分 2 例、組織診断不正確 2 例、放射線画像が古い 2 例、2 週以内の照射歴 2 例、制御不良 CNS 転移 1 例) および 2 例が治療未実施のため、88 例が評価対象となった。このうち 84 例で奏効評価が可能であり、客観的奏効率 (ORR) は 57% (n=48)、内訳は CR 12% (n=10)、部分奏効 (PR: partial response) 45% (n=38) であった。安定疾患 (SD: stable disease) は 5% (n=4)、疾患進行 (PD: progressive disease) または早期死亡は 14% (n=11) であった。21 例 (25%) では骨シンチグラフィー再検査の未実施により奏効評価が完全に確定できなかった (Table 1)。先行単施設試験 (Kelly Phase I/II: ORR 83%; Glisson et al.: ORR 90%) と比較した ORR の低下は、多施設参加に伴う確認用画像検査の実施率低下によるものと解釈された。
全生存期間・無増悪生存期間と過去試験との比較: 主要エンドポイントである OS の median survival は 11 か月 (95% CI 8-13 months) vs 主要目標値 13.5 か月であり、1 年生存率 43% (95% CI 33-54%)、2 年生存率 8% (95% CI 2-15%) を示した (Fig. 1)。PFS 中央値は 6 か月 (95% CI 5-7 months) であった。本試験の主要目標である OS 中央値 13.5 か月は達成されなかったものの、過去の SWOG 試験や Roth et al. JClinOncol 1992 による PE/CAV 比較試験 (mOS 8-9 か月、1 年生存率約 33%) を数値上上回った。また SWOG/NCI-Canada (National Cancer Institute of Canada) の CODE 対 CAV/PE 試験 (Murray et al.) では PS 0-1・68 歳以下・脳転移なしという限定集団での mOS 11 か月であったのに対し、本試験は PS 2・脳転移 (13%) を含む予後不良集団で同等の生存成績を達成した。6 サイクル完遂率は 56% (n=49) であり、毒性による治療中断は 22% (n=19) であった。
予後因子 (PS・LDH・転移部位) による生存差: PS 0-1・正常 LDH・単発転移部位の患者群では median survival 14 か月であったのに対し、PS 2・LDH 高値・多発転移部位の患者群では median survival 8 か月と顕著な差が認められた (Table 1)。患者背景として、PS 2 が 28% (n=25)、LDH 高値が 64% (n=56)、多発転移部位が 53% (n=47)、脳転移が 13% (n=11) を占めていた。本試験では予後良好群と不良群の間で生存期間に 6 か月の差が生じており、PET レジメンの恩恵を受ける患者集団の同定が重要な知見として浮かび上がった。
血液毒性と非血液毒性のプロファイル: 83 例で毒性評価が可能であった (Table 2)。最も頻度の高い毒性は Grade 4 好中球減少症であり、G-CSF 5 μg/kg 支持下にもかかわらず 40% (n=33) に発生した。Grade 3 の血液毒性は好中球減少症 7%、血小板減少症 18%、貧血 12% であった。Grade 4 非血液毒性は稀で、電解質異常 (Na・K・Mg) 6%、脱水 4%、腎不全 2% (主にシスプラチン関連)、過敏性反応 2% (パクリタキセル関連)、倦怠感 2%、下痢 1% が認められた。Grade 3 の非血液毒性は悪心 20% (n=17)、嘔吐 16% (n=13)、倦怠感 14% (n=12) が主要なものであった。パクリタキセル特有の有害事象である末梢神経障害は Grade 3 が 2% (n=2)、Grade 2 が 27% (n=22) に観察され、Grade 3 の関節痛・筋肉痛は認められなかった (Table 2)。
PS 別の治療関連死亡率: 6 例 (7%) が毒性死した (好中球減少性敗血症 4 例、好中球減少を伴わない感染症 1 例、腎毒性 1 例)。このうち 5 例がサイクル 1 中に死亡した。毒性死した 6 例中 4 例が女性であり、3 例が PS 2 であった。PS 別の毒性死亡率は、PS 0-1: 3/61 (5%) vs PS 2: 3/22 (14%) (95% CI 3-35%) であり、差は観察されたものの統計学的有意差には達しなかった (P, not significant)。この PS 2 患者における毒性死率 14% は、本試験における最も重要な安全性シグナルであり、PET レジメンの PS 別リスク分布を初めて大規模な多施設環境で明示したデータである (Table 2)。
考察/結論
先行研究との違い: 本 SWOG 多施設第 II 相試験では ORR 57%・OS 中央値 11 か月・1 年生存率 43% という生存成績が得られ、既報の PE/CAV 比較試験 (Roth et al. JClinOncol 1992: mOS 8-9 か月、1 年生存率 33%) を上回った。単施設第 I/II 相試験 (Kelly et al.: ORR 83%、Glisson et al.: ORR 90%) と比較した ORR の低下については、多施設参加に伴う確認用骨シンチグラフィー実施率の低下が主因であり、本質的な有効性は維持されているとの解釈が示された。カルボプラチン置換の CET (carboplatin+etoposide+paclitaxel) 試験 (Birch et al.: mOS 10.6 か月) と同等の生存成績は、プラチナ製剤の種類が生存アウトカムへの影響は限定的であることを示唆する。ギリシャ GLCCG (Greek Lung Cancer Cooperative Group) による PET 対 PE の小規模ランダム化試験では PET 群の毒性死増加により早期中止となったが、これは本試験の毒性プロファイルと対照的であり、本試験の G-CSF 支持を伴う用量最適化レジメンが安全性上の改善をもたらしていることが示唆される。これまでの研究では PS 2 患者を対象とした PET レジメンの安全性データが系統的に欠如しており、本試験がこのギャップを初めて大規模に検討した。
新規性: 本試験では、PS 2 患者において毒性死率が 14% (3/22 例) と高いことがこれまで報告されていない規模で新規に示された。PS は well-known な毒性リスク因子であるものの、PET のような強力な 3 剤+G-CSF レジメンにおける PS 2 患者の毒性リスクをこれほど明確に定量化したデータは存在しなかった。ECOG が進行非小細胞肺がん (NSCLC) 対象の 4 アーム試験 (E1594) で PS 2 患者 64 例における Grade 3-5 毒性増加を確認し早期中止した経緯 (毒性死率 8%) とも整合する知見であり、SCLC においても PS 2 への強力な多剤化学療法が許容限度を超えるリスクを持つことが新規に確認された。また、経口エトポシドのバイオアベイラビリティの変動性 (48〜57%) が個々の患者における毒性の予測困難性に寄与した可能性も新規に指摘された。現代の分子サブタイプ解析の時代においても (Schaff et al. CancerRes 2021)、PS 状態による患者層別化は SCLC 治療において依然として重要であり、本試験の知見はその歴史的根拠の一つとして位置づけられる。
臨床的含意: PS 2 患者では毒性死率が許容不能な高率であることが確認されたことから、PS 2 の SCLC 患者を PS 0-1 と分離して別途の試験設計で管理することの必要性が提言された。NSCLC 領域で PS 2 患者を独立群として扱う流れと一致したこの提言は、臨床現場での患者選択と毒性管理に直接的な臨床的含意を持つ。本試験は PET 対標準 PE を比較する大規模 Intergroup 無作為化第 III 相試験 (Cancer and Leukemia Group B 主導、PS 0-1 の ES-SCLC 対象、目標登録数 640 例、2001 年 6 月に目標達成) のための最大かつ最も包括的な安全性・有効性データベースを提供した点で、臨床応用に向けた橋渡し研究としての役割を果たした。また経口エトポシドのバイオアベイラビリティ変動 (48〜57%) に起因する毒性予測困難性への対処として、後続 Intergroup 試験ではエトポシドを全日程静注に変更するデザイン修正が採用された。
残された課題: 本試験の limitation として、奏効評価不能例が 25% (n=21) と多かったこと (骨シンチグラフィー再検査の未実施が主因) が奏効率の信頼区間を広げ、結果解釈に影響した。主要目標である OS 中央値 13.5 か月を達成できなかった点も重要な limitation である。PS 2 患者の毒性死率 14% と PS 0-1 の 5% の差は数値上顕著であったが、統計学的有意差には達しなかった (P, not significant)。今後の検討として、PS 2 の ES-SCLC 患者に対しては減量レジメンや支持療法を強化した別途の試験設計が必要とされる。また PET 対 PE の Intergroup 比較試験の最終結果の評価、および PS 2 患者に対する最適 SCLC 治療レジメンの確立が残された課題 (future research) である。さらに、現代の視点からは経口エトポシドのバイオアベイラビリティ変動が試験結果に与えた影響の後方視的定量化も未解決の問題として残っている。
方法
試験デザインと患者登録: SWOG (Southwest Oncology Group) が主導した多施設共同第 II 相試験 (S9604) であり、ClinicalTrials.gov が整備される以前の 1997 年 9 月から 1998 年 6 月に実施された。99 例が登録された。
患者選択基準: 組織学的または細胞学的に確認された ES-SCLC を有し、PS (performance status: 行動能力指標) が 0〜2、測定可能または評価可能な病変を有し、骨髄・腎臓・心臓・肝機能が適切な成人患者を対象とした。ES 病期は単一の許容可能な放射線照射野に収まらない病変と定義された。コントロール良好な脳転移を有する患者も適格とされた。先行する全身療法・生物学的療法は不可とされたが手術・放射線治療の先行は許容された。全患者が書面によるインフォームドコンセントを提出した。登録時の記述的因子として PS (0-1 vs 2)、LDH (lactate dehydrogenase: 乳酸脱水素酵素) 値 (正常 vs 異常)、転移部位数 (単一 vs 複数) が記録された。
治療レジメン: 21 日サイクルで計 6 サイクル実施。Day 1 にパクリタキセル 175 mg/m² を 3 時間かけて静注、シスプラチン 80 mg/m² を 30 分で静注、エトポシド 80 mg/m² を 30〜60 分で静注した。Day 2-3 にエトポシド 160 mg/m² を経口投与した。G-CSF 5 μg/kg/日を Day 4〜14 に皮下投与した。
用量変更基準: 好中球数 500/μl 未満または血小板数 50,000/μl 未満の最下点、あるいは血液学的回復に 2 週間以上の遅延を要した場合は 3 剤全ての減量を義務付けた。用量レベル 1 (パクリタキセル 150 mg/m²、シスプラチン 65 mg/m²、エトポシド 70/140 mg/m²)、用量レベル 2 (パクリタキセル 125 mg/m²、シスプラチン 50 mg/m²、エトポシド 60/120 mg/m²) の 2 段階を設定した。Grade 2 以上の神経障害ではパクリタキセルのみ減量した。
奏効・毒性評価: 奏効評価には SWOG 標準基準を、毒性評価には Common Toxicity Criteria version 2.0 を用いた。
統計学的手法: OS についてカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法で生存曲線を推定し、ログランク検定 (log-rank test) で群間比較を実施した。奏効率と毒性頻度は 95% CI を用いて推定した。