• 著者: D.L. Schaff, S. Singh, K.B. Kim, M.D. Sutcliffe, K.S. Park, K.A. Janes
  • Corresponding author: K.A. Janes (University of Virginia, Charlottesville, VA)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33531375

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は肺神経内分泌細胞 (PNEC) を起源とする高侵襲性の悪性腫瘍であり、5年生存率は5%未満と予後不良である。SCLCの腫瘍内不均一性 (intratumor heterogeneity) は治療抵抗性と再発の主因とされているが、その微小環境依存的な発生機序は解明が不十分であった。先行研究では、PNECが肺損傷時に他の細胞種へ可逆的に転換される幹細胞様の可塑性を有することが示されており Ouadah et al. Cell 2019、SCLCはこの可塑性が腫瘍化と連動することで多様な転写状態を呈すると考えられている。ASCL1高発現型、NEUROD1型、POU2F3型、YAP1型といったSCLC分子サブタイプの同定により転写調節の一端は明らかになったが Rudin et al. NatRevCancer 2019、同一サブタイプ内での細胞間転写制御の差異が微小環境によってどのように規定されるかについての知識は手薄であった。転写因子ネットワーク解析からSCLCのハイブリッド細胞状態の存在が示唆されたが Udyavar et al. CancerRes 2017、個別細胞レベルの定量的検出は困難であった。

従来のシングルセル解析では組織解離が必須であり、この解離ストレスがNotchシグナル活性化などの人工的な細胞状態変化を引き起こしin vivo の実態を歪める懸念が指摘されていた。特にSCLCが高頻度に転移する肝臓微小環境が腫瘍細胞の転写制御多様性にどのように関与するかは、gap in knowledge として残されていた。本研究は、細胞解離を回避したレーザーキャプチャーマイクロダイセクション (LCM) ベースの10細胞RNA-seq (10cRNA-seq) と確率論的プロファイリングを組み合わせ、3つの異なる微小環境下でのSCLC転写制御異質性を網羅的に比較した最初の研究である。

目的

本研究の目的は、Rb1/Trp53欠失マウスSCLC系KP1細胞を用い、(1) in vitro 球状培養、(2) 免疫不全ヌードマウス肝臓コロニー、(3) 免疫能正常C57BL/6-129S F1ハイブリッドマウス肝臓コロニーという3つの生物学的コンテクストにおけるSCLC転写制御異質性を定量的に評価することである。微小環境との異型細胞間相互作用 (heterotypic interactions) が細胞状態多様性の拡大に与える影響の分子機序を解明するとともに、in vivo で同定された異質性関連遺伝子群がヒトSCLCの予後層別化に貢献するか検証する。

結果

球状培養における転写制御異質性の同定と乳腺上皮との比較: in vitro KP1球状培養ではn=28の10細胞RNA-seqサンプルによる確率論的プロファイリングで405遺伝子が候補RHEGとして同定された (Fig. 2A)。遺伝子セット濃縮解析では細胞周期、Myc-mTORC1シグナル、代謝に関連するhallmarkが濃縮された。乳腺上皮球状培養 (MCF10A-5E) では同一手法で1,129遺伝子が候補として同定されており、KP1より有意に多く (p<0.001 by binomial test)、マウスとヒトのオルソログ対応後に57遺伝子が有意に共有された (p<0.001 by hypergeometric test; Fig. 2C)。共有RHEGにはKPNA2-CSE1L (核輸入体-輸出体の共変動、Pearson r=0.6; Fig. 2E)、ESYT1-SPTAN1 (膜-ER界面タンパク質)、脂質代謝酵素群 (ELOVL1/ACADVL/PHYH) の種を超えた共変動パターンが含まれた (Fig. 2D-I)。E3ユビキチンリガーゼHUWE1とTRIP12は相互排他的な変動を示し (Fig. 2H)、SCLC細胞が球状培養内で独立した転写状態を採用することが明らかとなった。RPC細胞 (Crebbp欠失SCLCモデル) では817遺伝子が候補として同定されKP1より約2-fold多く (p<0.001 by binomial test)、KP1-RPC共有候補は79遺伝子 (p<0.001 by hypergeometric test) であり、共有遺伝子にはKpna2、Cse1l、各種キナーゼ (Pbk、Prkar2a)、ホスファターゼ (Ppp1cc、Ppp2r1a)、エピゲノム調節因子 (Hdac2、Sin3a) が含まれた。

免疫不全ヌードマウス肝臓でのATII様再プログラミングと傍分泌シグナル異質的活性化: 尾静脈注射によりヌードマウス肝臓に形成されたKP1 GFP+コロニーからn=33サンプルを収集し (100回サブサンプリング後)、898遺伝子が候補RHEGとして同定された (Fig. 3C)。球状培養の405遺伝子から有意に増加しており (p<0.001 by binomial test)、STATおよびIFNγ hallmarkが球状培養にない新たな遺伝子セットとして追加された。SNP解析でアレル一致度>99%が確認され、非KP1由来細胞からの汚染は無視できるレベルであった。肝臓コロニーで特筆されたのはATII細胞マーカーCd74とLyz2、ならびにCd74のリガンドMifが候補RHEGとして出現した点である。しかしこれら3遺伝子の10細胞サンプル間変動は有意な共発現を示さず (p>0.1 by hypergeometric test; Fig. 3D)、KP1細胞が完全なATII表現型ではなく部分的なATII様状態へ再プログラミングされることが示唆された (Fig. 3E)。GFP+Cd74+細胞の免疫蛍光解析では、ヌードマウス54コロニーの96%でCd74陽性細胞が検出され、GFP+細胞全体の9.4% (3,730/39,593細胞) がCd74陽性であった。NFκBサブユニットRelaとその標的遺伝子Sod2の強い共発現 (p<0.1 by hypergeometric test; Fig. 3F) が検出され、NFκB誘導受容体Ltbrも独立したRHEGとして同定された。Tabula Murisデータベース解析からLtbのリガンドが肝常在NK細胞で豊富に発現することが確認され、NK細胞介在の傍分泌NFκB活性化機構が提唱された。IL-33受容体Il1rl1下流のシグナル伝達因子群 (Tollip、Map3k7、Tab1、Mapk8/Jnk1、Mapk14/p38α、Dusp8) がそれぞれ独立したRHEGとして検出され、Mapk14上昇とMapk8/Dusp8低下の共発現が確認された (Fig. 3G)。Il33は肝ヘパトサイトおよびATII細胞から産生されるアラーミンであり、肺損傷時にPNECを刺激するシグナル経路がSCLC肝臓コロニーで再活性化される可能性が示された。

免疫能正常環境でのさらなる間質性非NE表現型の多様化: C57BL/6-129S F1ハイブリッドマウス肝臓コロニーではn=31サンプルから1,025遺伝子が候補RHEGとして同定された (Fig. 4E)。免疫能正常マウスではCD3+T細胞がヌードより有意に多くコロニー辺縁に集積し (p<0.001 by Wilcoxon rank-sum test; Fig. 4D)、F4/80+マクロファージはヌードより少ない異なる免疫微小環境が形成されていた。3コンテクストの全交点 (Monte-Carlo simulation、全2・3方向交点でp<0.001) から、3条件すべてに共通するcore RHEG 26遺伝子と、2つの肝臓コロニー条件に共通するin vivo RHEG 149遺伝子が定義された (Fig. 4F)。F1ハイブリッド特異的に過分散が増大した202遺伝子には神経内分泌マーカー (Rtn2、Pcsk1、Cep19) に加え、間質マーカー群 (Bgn、Sparc、Mgp) が含まれた (Fig. 4G)。CD74陽性GFP+細胞の割合はヌードマウスの9.4% (3,730/39,593) からF1ハイブリッドマウスでは26% (6,894/26,027) へと有意に増加した (p≈0 by binomial test)。Cd74-Bgn-Sparc共発現は野生型Hrasの上昇と相互排他的であり (Fig. 4H)、単純なEMT (上皮間葉転換) 様状態変化とは異なる間質的多様化が示された。自発性SCLCのBulk RNA-seqデータ (AdCMV-Cre vs AdCalca-Cre GEMM) との比較では、ATII細胞マーカーCd74・Lyz2の発現が原発腫瘍で高く転移巣で低いパターンが観察され (Fig. 5A, B)、Mgp誘導がCalca喪失と連動するパターンはAdCalca-Cre由来モデルでは観察されず、PNEC分化状態が異質性パターンを規定する可能性が示唆された。

Notch2活性化は細胞解離アーティファクトである: KP1細胞のバルクRNA-seqではNotch2が3.4 ± 9.4 TPM (mean ± SD) で発現しているが、in vivo 肝臓コロニーのHes1発現はほぼ不検出 (0 ± 0.1 TPM) であった。KP1細胞を0.05%トリプシンまたは1×アキュターゼで5分間処理すると全長Notch2タンパク量が顕著に減少し (one-way ANOVA)、トリプシン処理ではNTM (Notch transmembrane) サブユニット/全長Notch2比が有意に上昇した (p<0.01 by ANOVA; Fig. 6C, D)。処理1時間後にはNotch標的遺伝子Hes1 (p<0.05 by Student t test with Šídák correction) およびHey1 (p<0.05) の有意な発現誘導が確認された (Fig. 6E-G)。この結果は従来のscRNA-seqで観察されるSCLCの非NE表現型変化の一部が細胞解離由来のアーティファクトである可能性を実験的に示した。

ヒトSCLCの予後クラスター同定: core RHEG 26遺伝子のヒトオルソログでヒトSCLC 79症例とコクラスタリングすると、マウスとヒトのデータが混在するパターンが観察され、細胞自律的異質性の種間保存が示唆された (Fig. 7A, B)。一方、in vivo RHEG 149遺伝子ではヒトSCLCとKP1データの混在は少なく、ConsensusClusterPlusにより1,000反復・80%サブサンプリングで4つの階層的クラスター (うち3つがロバスト) が同定された (Fig. 7C, D)。各クラスターにはASCL1/NEUROD1/POU2F3/YAP1の各サブタイプが混在し、分子サブタイプとは独立した層別化であることが確認された。生存データ利用可能な48症例では、第1クラスター症例が非クラスター症例より有意に長い全生存を示した (p<0.01 by log-rank test)。

考察/結論

本研究は、SCLCの転写制御異質性が細胞自律的なcore RHEGと微小環境依存的なin vivo RHEGという2層構造で成立することを本研究で初めて定量的に実証した。細胞状態の断片化は均質なin vitro 培養環境では限定的であり、肝臓の異種細胞 (ヘパトサイト、NK細胞、T細胞) との接触によって段階的に拡大するという階層的制御モデルが示された。これまでの研究が主にRB1/TP53欠失やゲノム変異を転写多様性の主要因として捉えてきたこととは異なり、本研究は微小環境との異型細胞間接触が腫瘍内異質性を能動的に拡大させるという視点を提供する。

技術的に新規な貢献として、LCM-10cRNA-seqが細胞解離によるアーティファクトを回避できることが実験的に証明された。これまで報告されていないメカニズムとして、標準的な解離酵素処理5分以内にNTM/全長Notch2比が上昇し、1時間以内にHes1/Hey1が誘導されることが確認された。このことは、PNECやSCLCのscRNA-seqデータの解釈において細胞解離プロセスの影響を考慮する必要性を示す重要な注意点である。また対照的に、10cRNA-seqによるin vivo サンプルではHes1はほぼ検出されず、scRNA-seqで報告された非NE表現型の一部が人工産物である可能性が高まった。

臨床応用の観点から、in vivo RHEG由来の予後層別化は既報の分子サブタイプ分類 (Rudin et al. NatRevCancer 2019) や George et al. Nature 2015 のゲノム変異に基づく分類とは独立した新規バイオマーカー軸を提示する。同一クラスター内に複数のSCLCサブタイプが共存するという知見は、SCLC転写サブタイプが特定の微小環境適応状態と解離していることを示す。IL33/Il1rl1経路およびNFκBシグナルを介した傍分泌適応はSCLC肝転移巣での臨床的意義のある治療標的候補となりうる。また、CD74陽性ATII様サブクローンが免疫能正常環境で9.4%から26%へ増加するという知見は、免疫細胞浸潤がSCLC細胞の表現型多様化を積極的に促進することを示唆し、免疫療法との組み合わせ戦略を検討する上での重要な文脈を提供する。

残された課題として、本研究のモデルが尾静脈注射による肝臓コロニーであるため自発的転移との差異は検証されておらず、今後の検討が必要である。EGFP導入による免疫原性の影響も否定できず、C57BL/6-129S F1における骨髄/リンパ系バランスの差異が肝臓微小環境を転移前から変化させている可能性もlimitationとして認識される。さらに、同定されたin vivo RHEG各遺伝子の機能的役割の解明、SCLC肺原発部位および他の転移臓器 (骨、脳) における検証、ATII様・間質的サブクローンを標的とした介入実験、ならびにヒトSCLC転移巣での直接的な確認が今後の研究課題として挙げられる。

方法

Rb1F/F Trp53F/F マウスにAdCMV-Creを経気管的に投与して樹立されたKP1 SCLC細胞系にEGFPをレンチウイルス導入し、3つのコンテクストで解析した。(1) EGFPラベルKP1細胞をRPMI-1640+10% FBS中で三次元球状培養として維持し、(2)-(3) ヌードマウス (athymic nude、Envigo、n=3接種) またはC57BL/6-129S F1ハイブリッドマウス (Jackson Laboratory、n=4接種) に尾静脈注射 (2×10^5細胞) し、約30日後に形成された肝臓コロニーをクライオ包埋した。凍結切片 (8μm) から蛍光ガイドLCMにより10細胞プールを採取し、10cRNA-seq (NextSeq 500、75-bp paired-end) を実施した。各コンテクストでn=28〜33サンプルを収集した。

確率論的プロファイリングと候補RHEG同定: RSEM (version 1.3.0) + Bowtie 2 (version 2.3.4.3) でGRCm38.82にアラインしTPM正規化した。過分散解析 (overdispersion analysis) ベースの確率論的プロファイリングで候補RHEG (Robustly Heterogeneously Expressed Genes、異質的に発現する遺伝子) を同定した。肝臓コロニーサンプルでは11肝臓マーカー (Alb, Fgb, Cyp3a11ほか) とのSpearman r相関 (Fisher Z変換、p<0.05) が有意な遺伝子を除外し、100回サブサンプリング (n=28サンプル×20コントロール) で75%以上の出現を要求した。全エクソームシーケンシング (100×coverage、Genewiz) で同定したKP1特異的SNPを用い、10cRNA-seqサンプルの純度 (>99% allelic concordance) を確認した。追加検証として、Chga-GFP;RbΔ/Δ;p53Δ/Δ;p130Δ/+;Crebbp-/-細胞 (RPC細胞、Crebbp欠失SCLCモデル) の球状培養でも同様の解析を行い一般性を検証した。

独立検証: 免疫組織化学 (IHC; F4/80抗体1:200、CD3抗体1:300、CD74抗体1:200) で免疫細胞とCD74陽性細胞を定量した。IHC細胞数の群間差はWilcoxon順位和検定、CD74陽性細胞割合の差は二項検定 (arcsine平方根変換後のランダム効果二元配置ANOVA p=0.13 で動物間・コロニー間ばらつきが同等と確認)、Notch2タンパク量の差は一元配置ANOVA with Tukey HSD事後検定、Notch標的遺伝子の発現差はStudent t検定+Šídák補正で評価した。RNA FISHによりSOX4の異質的発現を独立検証した。

ヒトSCLCデータとの比較: ヒトSCLC 79症例のBulk RNA-seq (GSE60052) とのコクラスタリングはConsensusClusterPlus (version 1.48.0; 80%サブサンプリング×1,000反復) で実施し、ロバストなクラスターを同定した。生存解析 (データ利用可能な48症例) はlog-rank検定で評価した。遺伝子セット濃縮解析には Liberzon et al. CellSyst 2015 を使用した。