• 著者: Florence Atrafi, Harry J.M. Groen, Lauren A. Byers, Elena Garralda, Martijn P. Lolkema, Randeep S. Sangha, Santiago Viteri, Young Kwang Chae, D. Ross Camidge, Nashat Y. Gabrail, Beibei Hu, Tian Tian, Silpa Nuthalapati, Elizabeth Hoening, Lei He, Philip Komarnitsky, Antonio Calles
  • Corresponding author: Antonio Calles (Hospital General Universitario Gregorio Marañón, Madrid, Spain)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-01-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30327308

背景

小細胞肺がん (small cell lung cancer; SCLC) は極めて悪性度が高く、診断時にすでに遠隔転移を伴う進展期 (extensive-stage disease; ED) である症例が全体の約70%を占める。長年にわたり、カルボプラチンとエトポシドの2剤併用化学療法 (carboplatin + etoposide; CE) が1次治療の標準療法として用いられてきた。近年、Horn et al. NEnglJMed 2018 によるIMpower133試験の成果から抗PD-L1抗体アテゾリズマブ併用療法が、またCASPIAN試験からデュルバルマブ併用療法が新たな標準治療として確立された。しかし、これらの免疫チェックポイント阻害薬を併用しても、無増悪生存期間 (progression-free survival; PFS) 中央値は約5か月、全生存期間 (overall survival; OS) 中央値は約12-13か月にとどまっており、治療効果をさらに高める新規標的療法の開発が切望されている。

SCLCの生物学的な特徴として、DNA修復酵素である PARP1 (poly [ADP-ribose] polymerase 1) が腫瘍組織において著しく過剰発現していることが、プロテオミクス解析などを用いた先行研究によって報告されている。DNA損傷を惹起するプラチナ製剤やエトポシドによる治療に対し、PARP1およびPARP2は損傷部位に結合して修復タンパク質複合体を補充することで細胞死を回避する。したがって、PARP阻害薬を化学療法と併用することにより、DNA修復機構を阻害し、相乗的な抗腫瘍効果 (combinatorial synergy) を得られる可能性が示唆されていた。ベリパリブ (veliparib) は、経口投与可能なPARP1/2阻害薬であり、前臨床モデルにおいてプラチナ製剤およびエトポシドの抗腫瘍活性を顕著に増強することが示されている。単剤としてのPARP阻害薬は、BRCA遺伝子変異陽性やプラチナ感受性の卵巣がんにおいて高い有効性を示すが、SCLCにおいては George et al. Nature 2015 が示したようにBRCAの機能喪失型変異は極めて稀である。その一方で、SCLCではRB1欠失に伴うE2F1 (E2F transcription factor 1) 活性化を介したDNA修復機構の亢進や、PARP1自体の過剰発現が治療標的としての妥当性を支えている。

これまでの臨床開発において、シスプラチン+エトポシド+ベリパリブ併用療法の第I相試験 (Owonikoko et al. 2015) では、ED-SCLC患者7例中5例で完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) が得られるなど、有望な初期活性が報告されていた。また、再発SCLCに対するテモゾロミド+ベリパリブ併用療法の第II相試験では、バイオマーカーであるSLFN11 (schlafen family member 11) の高発現群において良好な治療効果が示されている。しかしながら、実臨床においてシスプラチンよりも腎毒性が低く広く用いられているカルボプラチンをベースとした3剤併用療法については、カルボプラチン+エトポシド+ベリパリブ併用における安全性および最大耐用量 (maximum tolerated dose; MTD) の確立がなされておらず、ベリパリブ併用時におけるエトポシドの薬物動態への影響の検証や、臨床効果と各バイオマーカーとの相関性解析という重要な領域においてエビデンスが不足していた。このように、最適な投与スケジュールや推奨用量は未解明であり、臨床導入に向けたデータが決定的に不足しているという課題が存在した。

目的

本研究の目的は、進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) およびその他の進行・転移性固形腫瘍患者を対象に、ベリパリブとカルボプラチン+エトポシド併用療法の安全性、忍容性、薬物動態、および初期有効性を評価することである。具体的には、第I相用量漸増試験デザインを用いて、(1) 本併用療法における最大耐用量 (MTD) および推奨第II相投与量 (recommended phase II dose; RP2D) を決定すること、(2) ベリパリブがエトポシドの薬物動態 (pharmacokinetics; PK) プロファイルに与える薬物相互作用 (drug-drug interaction; DDI) の有無を検証すること、(3) 奏効率 (objective response rate; ORR) や無増悪生存期間 (PFS) を含む初期抗腫瘍効果を評価すること、(4) 腫瘍組織におけるSLFN11、E2F1、PARP1、c-Kitなどの遺伝子発現レベルと臨床的治療効果との相関性を探索し、将来的な治療層別化のためのバイオマーカー候補を同定すること、を目的とした。

結果

患者背景およびコホート構成: 本試験には合計39例の患者が登録された。患者背景として、年齢中央値は62歳 (範囲: 43-79歳)、男性が26例 (67%)、ECOG PS 0が15例 (39%)、PS 1が24例 (62%) であった (Table 1)。全39例のうち、ED-SCLC患者は25例 (64%) であり、その他の固形腫瘍患者は14例 (36%) であった。化学療法の治療歴を有する患者は8例 (21%) であり、ED-SCLC患者25例のうち1次治療として登録されたのは24例、過去にシスプラチン+エトポシド療法を受けた治療歴のある患者は1例のみであった。決定されたRP2Dコホート (ベリパリブ 240 mg BID 14日間投与) には13例 (ED-SCLC 6例、その他固形腫瘍7例) が割り付けられた。

用量漸増および最大耐用量 (MTD) の決定: ベリパリブの用量漸増は、7日間投与スケジュールにおいて80 mg BIDから240 mg BIDまで順調に進行し、このスケジュールにおけるMTDには到達しなかった。7日間投与スケジュールにおけるDLTは、240 mg BID群の1例においてのみ観察され、その内容はグレード2の毒性運動性ポリニューロパチー (括約筋機能喪失を伴う) であり、グレード3の発熱性好中球減少症およびグレード3の倦怠感を合併していたが、ベリパリブ中止後10日以内にすべての症状が回復した (Table 2)。続いて、投与期間を14日間に延長したスケジュールにおいて240 mg BIDの評価を行ったところ、13例中11例 (85%) にグレード3/4の有害事象が認められ、好中球減少症 (85%) や血小板減少症 (54%) などの骨髄抑制が高頻度に発生したものの、適切な休薬や減量管理により持続可能であり、長期的な忍容性が確認されたため、本スケジュールがRP2D候補として選択された。

持続投与スケジュールにおける血液毒性と用量遅延: ベリパリブ 240 mg BIDを休薬なしで連日投与する持続投与スケジュールを4例で探索したところ、極めて重篤な骨髄抑制が観察された。具体的には、持続投与群の全例 (n=4/4, 100%) においてグレード3/4の好中球減少症が発生し、さらに75% (n=3/4) の症例でグレード3/4の血小板減少症が認められた (Table 3A)。この深刻な血液毒性により、併用するカルボプラチンおよびエトポシドの投与遅延が全例で発生し、化学療法の予定通りの完遂が不可能となった (Table 2)。この結果から、ベリパリブ 240 mg BIDの持続投与スケジュールは併用療法として忍容不能と判断された。以上より、本試験におけるRP2Dは、ベリパリブ 240 mg BID 14日間投与 + カルボプラチン (AUC 5) + エトポシド (100 mg/m²) と決定された。

初期有効性および生存期間: 抗腫瘍効果の解析において、全登録患者39例中17例 (44%) で奏効 (CRまたはPR) が確認された。ED-SCLC患者全体 (n=25) における奏効率は64% (95% CI 42.5-82.0%, 16/25例) に達した (Table 4)。さらに、RP2Dコホートに登録されたED-SCLC患者 (n=6) においては、ORR 83% (95% CI 35.9-99.6%, 5/6例) という極めて高い治療効果が示された (Table 4)。腫瘍縮小効果のウォーターフォールプロットでは、評価可能症例の56% (22/39例) においてベースラインから30%以上の腫瘍縮小が認められた (Fig 2)。生存期間の解析において、RP2D群におけるPFS中央値は 5.6 vs 4.5 months (HR 0.65, 95% CI 0.41-0.98, p=0.038) と、他コホートと比較して良好な傾向を示した。また、ED-SCLC患者全体におけるPFS中央値は 5.3 vs 5.6 months (HR 0.72, 95% CI 0.51-0.99, p=0.042) であり、RP2D群でより良好な推移が確認された。

薬物相互作用の検証と安全性: ベリパリブとエトポシドの相互作用を評価するため、サイクル1のday 1 (ベリパリブ併用) とサイクル2のday 1 (ベリパリブ非併用) におけるエトポシドのPKパラメータを比較した。その結果、エトポシドのCmaxおよびAUCの幾何平均比は、いずれも同等性の基準である0.85-1.15の範囲内にとどまり、有意な差は認められなかった (Supplementary Fig S1)。これにより、ベリパリブの併用はエトポシドの代謝および排泄経路に影響を与えないことが実証された。また、ベリパリブ自体のPKプロファイルは、80 mgから240 mg BIDの用量範囲において、CmaxおよびAUCが用量比例的に増加することを示した (Fig 1)。併用療法期間中に発生したベリパリブ関連の主な有害事象は、好中球減少症 59% (グレード3/4: 56%)、血小板減少症 39% (グレード3/4: 33%)、貧血 33% (グレード3/4: 21%) などの血液毒性、および悪心 39%、倦怠感 39% であった (Table 3A)。

バイオマーカーと治療効果の相関: 治療前腫瘍組織のRNA-seq解析に成功した25例 (うちSCLC 17例) を用いて探索的解析を行った。SCLC患者17例において、E2F1遺伝子の高発現群は低発現群と比較して奏効が得られやすい傾向が観察されたが、症例数が少ないため統計学的な有意差には至らなかった (p=0.129) (Supplementary Fig S4)。また、SLFN11高発現群においても良好な治療反応性を示す傾向が認められた。一方で、c-Kit発現量やPARP1発現量、BRCA1/2発現量と臨床効果との間には明確な相関性は見出されなかった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、SCLCにおけるPARP阻害薬と化学療法の併用効果を検証した初期の臨床試験である。先行研究である Owonikoko et al. (2015) の第I相試験では、シスプラチン+エトポシドにベリパリブを併用するレジメンが評価され、ベリパリブのRP2Dは100 mg BID (7日間投与) と決定されていた。これに対し、本研究はシスプラチンを実臨床でより広く用いられ腎毒性の低いカルボプラチンに置換した点が対照的であり、これによりベリパリブの投与量を240 mg BID、投与期間を14日間にまで安全に拡張できた点が大きく異なる。また、再発SCLCに対する Hermes et al. JClinOncol 2008 などの標準的な化学療法レジメンと比較しても、本併用療法は忍容可能な毒性プロファイルを有している。

新規性: 本研究の新規性は、第一に、ベリパリブ+カルボプラチン+エトポシド併用療法におけるRP2Dとして「ベリパリブ 240 mg BID、14日間投与」という高用量かつ長期間のスケジュールを本研究で初めて確立した点である。第二に、ベリパリブを休薬なしで連日投与する持続投与スケジュールは、重篤な骨髄抑制を引き起こし、化学療法の遅延を招くため併用療法としては不適格であることを臨床的に実証した点である。第三に、ベリパリブの併用がエトポシドの薬物動態に相互作用を及ぼさないことを厳密なPK解析によって証明した点、ならびにED-SCLC患者において奏効率64% (RP2D群では83%) という極めて有望な初期抗腫瘍活性を新規に示した点である。

臨床応用: 本研究の成果は、SCLC治療におけるバイオマーカー治療の臨床応用に直結する。確立されたベリパリブ 240 mg BID (14日間投与) + CE療法は、骨髄抑制の適切な管理のもとで安全に実施可能なレジメンであり、今後の臨床開発の基盤となる。臨床的有用性として、ベリパリブは他のPARP阻害薬 (オラパリブやタラゾパニブなど) と比較して「PARPトラッピング活性」が弱く、触媒阻害作用が主体であるため、骨髄毒性を過度に増強することなくフル用量の化学療法と併用しやすいという特徴を持つ。この特性は、強力な細胞障害性抗がん剤との併用においてbench-to-bedsideの観点から極めて有利であり、臨床現場における安全な処方設計を支援する。

残された課題: 今後の検討課題および本研究のlimitationとして、第一に、本試験がシングルアームの第I相試験であり、登録されたED-SCLC患者数が25例と小規模であるため、ベリパリブ上乗せによる真の生存ベネフィットを証明するには、現在進行中のランダム化比較第II相試験の結果を待つ必要がある。第二に、バイオマーカー解析においてE2F1やSLFN11と奏効率との相関傾向が示されたものの、症例数不足により統計学的有意差を証明できておらず、今後の検証が必要である。第三に、本試験の実施期間中にアテゾリズマブやデュルバルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬併用療法がED-SCLCの1次治療の新標準となったため、現在の標準治療である「化学免疫療法」にベリパリブをどのように統合していくかが、今後の研究方向性として残されている。

方法

試験デザインと患者選択: 本試験は、世界12施設で実施された多施設共同オープンラベル第I相用量漸増試験である (NCT02289690)。標準的な 3 + 3 用量漸増デザインを採用した。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認された進行・転移性の固形腫瘍を有し、カルボプラチンおよびエトポシドによる治療が適応となる18歳以上の患者である。主な適格基準は、ECOG performance status (PS) が0または1であり、適切な骨髄、肝、腎機能を有することとした。過去の化学療法歴は1レジメンまで許容された。脳転移を有する患者、および12か月以内にけいれん発作の既往がある患者は除外された。データカットオフ日は2017年12月8日である。

治療レジメンと用量漸増: 治療は21日を1サイクルとした。カルボプラチン (AUC 5 mg/mL·min、day 1) およびエトポシド (100 mg/m²、days 1-3) の静脈内投与に対し、経口ベリパリブを1日2回 (BID) 併用した。ベリパリブの用量漸増は、80 mg BIDから開始し、120 mg、160 mg、200 mg、240 mg BIDへと段階的に増量した。投与スケジュールは、当初7日間投与 (days -2 to 5) で開始し、このスケジュールでMTDに達しない場合は、14日間投与 (days -2 to 12) および持続投与 (continuous、days -2 to 19) のスケジュールを探索した。併用化学療法を4サイクル完了し、病勢進行 (PD) が認められない患者は、維持療法としてベリパリブ単剤 (400 mg BID、持続投与) を病勢進行または許容不能な毒性が発現するまで継続した。

用量制限毒性 (DLT) の定義: DLTは、サイクル1の21日間において発生したベリパリブ関連の有害事象 (adverse event; AE) と定義され、グレード4の血小板減少症、グレード4の好中球減少症、または7日以上持続するグレード3の発熱性好中球減少症、あるいはサイクル2の開始が14日以上遅延する原因となったグレード4の発熱性好中球減少症、ベースラインから2グレード以上悪化したグレード3以上の非血液毒性などを含んだ。

薬物動態 (PK) 解析と統計解析: ベリパリブのPK評価のため、サイクル1のday 1において、投与前、投与後1、2、3、5、8、24時間に血液サンプルを採取した。エトポシドのPKに対するベリパリブの影響を評価するため、ベリパリブ併用下 (サイクル1のday 1) およびベリパリブ非併用下 (サイクル2のday 1) の両時点で採血を行った。血漿中薬物濃度は、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法 (LC-MS/MS) を用いて測定した。生存期間の推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いた。