- 著者: Andreas Hermes, Bengt Bergman, Roy Bremnes, Lars Ek, Sverre Fluge, Christer Sederholm, Stein Sundstrom, Leif Thaning, Jan Vilsvik, Ulf Aasebo, Sverre Sorenson
- Corresponding author: Andreas Hermes (Grosshansdorf Hospital, Grosshansdorf, Germany)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2008
- Epub日: 2008-08-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 18779613
背景
小細胞肺癌 (SCLC: small-cell lung cancer) は進行が極めて早く、診断時に約3分の2が進展型 (ED: extensive disease) と診断される。ED-SCLCに対する標準的な初回化学療法は、長年にわたり白金製剤とエトポシドの併用療法 (PE療法またはEC療法) が主流であった。2002年に発表された日本での第III相試験である [[NEnglJMed-2002-Noda-Irinotecan plus cisplatin compared with etoposide plus cisplatin for extensive small-cell lung cancer|Noda et al. NEnglJMed 2002]] において、イリノテカン+シスプラチン (IP) 療法がエトポシド+シスプラチン (EP) 療法に対して全生存期間 (OS: overall survival) の有意な延長を示し、新たな標準治療の候補として注目された。しかし、その後米国で行われた大規模な追試である [[JClinOncol-2006-Hanna-Randomized phase III trial comparing irinotecancisplatin with etoposidecisplatin in patients with previously untreated|Hanna et al. JClinOncol 2006]] では、この生存期間の優越性が再現されず、結果は極めて controversial (議論百出) なものとなった。この不一致の原因として、人種差や薬物代謝酵素の遺伝子多型、あるいは投与スケジュールの違いなどが指摘されたが、欧米の日常臨床における最適なイリノテカン併用レジメンの確立には至おらず、依然として臨床的な課題が残されていた。また、北欧諸国においては、外来通院での投与が容易で腎毒性の低いカルボプラチンがシスプラチンよりも好んで使用される傾向にあるが、カルボプラチンをベースとしたイリノテカン併用療法の有用性については十分な検証がなされておらず、エビデンスが不足していた。さらに、経口エトポシドを用いたカルボプラチン併用療法 (EC療法) は、点滴投与の負担を軽減できるため高齢者や全身状態 (PS: performance status) が不良な患者に広く用いられていたが、これとイリノテカン+カルボプラチン (IC) 療法を直接比較した大規模試験は存在せず、その治療効果の差は不明であった。さらに、近年では [[NEnglJMed-2007-Slotman-Prophylactic cranial irradiation in extensive small-cell lung cancer|Slotman et al. NEnglJMed 2007]] により予防的全脳照射 (PCI: prophylactic cranial irradiation) の有用性が示されるなど、治療開発は進んでいるものの、初回化学療法の最適なレジメン選択に関する知見は依然として不足していた。このように、欧米の日常臨床におけるカルボプラチン併用療法としてのイリノテカンの位置づけは未確立であり、実臨床に即した高齢者やPS不良患者を含む集団での検証が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象として、イリノテカン+カルボプラチン (IC) 療法と、北欧で広く用いられている経口エトポシド+カルボプラチン (EC) 療法を直接比較することである。特に、年齢制限を設けず、全身状態 (PS) が不良な患者 (PS 2-4) や高齢者 (70歳超) を広く含む実臨床に近い患者集団において、IC療法がEC療法と比較して全生存期間 (OS) を改善するかどうかを検証することを主要な目的とした。また、副次的な目的として、完全奏効 (CR: complete response) 率、患者報告アウトカムに基づくQOL (quality of life: 生活の質)、および安全性を両群間で比較評価し、欧米における新たな標準治療としてのIC療法の妥当性を確立することを目指した。
結果
患者背景および治療完遂状況: 2001年12月から2005年7月までに計220例の患者がランダム化され、そのうち非小細胞肺がん (NSCLC: non-small-cell lung cancer) などの不適格例を除外した209例 (IC群 n=105、EC群 n=104) が解析対象となった (Fig 1)。患者背景は両群間で良好にバランスが保たれていた (Table 1)。全患者の年齢中央値は67歳 (範囲 41-85) であり、70歳超の高齢者が35% (74例)、WHO PSが2以上の患者が47% (99例) を占めており、実臨床を反映した不良リスク集団であった。治療完遂率については、予定された4サイクルの化学療法を完遂した割合はIC群で78% (82例)、EC群で77% (80例) であり、両群間で差は認められなかった。また、実際に投与された薬剤の総用量は、両群ともに予定用量の93%であった。
主要評価項目としての全生存期間 (OS) の有意な延長: 主要評価項目である全生存期間 (OS) において、IC群はEC群と比較して有意な生存期間の延長を示した (Fig 2)。OSの中央値は、IC群で 8.5 vs 7.1 months であり、EC群に対するIC群のハザード比は HR 1.41 (95% CI 1.06-1.87, p=0.02) と、統計学的に有意な差が確認された。1年生存率はIC群で34% (95% CI 25-43%)、EC群で24% (95% CI 16-32%) であり、2年生存率はIC群で8%、EC群で3% であった。この生存期間におけるIC群の優越性は、年齢、性別、およびPSで層別化した多変量解析においても維持された。サブグループ解析として、全身状態が極めて良好なPS 0-1の集団 (n=110) におけるOS中央値は301日 (約10.0か月) であった。一方、全身状態が不良なPS 3-4のサブグループ (n=37) におけるOS中央値は127日 (約4.2か月) であり、この不良サブグループにおいても、HR 1.35 (95% CI 1.01-1.81, p=0.04) とIC群の有効性が示された。
完全奏効率 (CR率) および全体奏効率 (ORR) の改善: 副次評価項目である完全奏効 (CR) 率において、IC群はEC群に対して有意に優れた成績を示した。CRを達成した患者数は、IC群で18例 (17.1%) であったのに対し、EC群では7例 (6.7%) にとどまり、統計学的に有意な差が認められた (p=0.02)。全体奏効率 (ORR: overall response rate) についても、IC群が79% (83例) と、EC群の58% (60例) と比較して有意に高かった (p<0.05)。この高い奏効率と深い治療反応 (CR率の高さ) が、主要評価項目であるOSの延長に直接寄与したと考えられた。
血液毒性および非血液毒性のプロファイル: 安全性に関して、Grade 3または4の重篤な血液毒性の発生率は両群間でほぼ同等であった (Table 2)。Grade 3-4 of 白血球減少症はIC群で33% (34例)、EC群で34% (35例) に認められ、Grade 3-4 of 貧血はIC群で5% (5例)、EC群で8% (8例) であった。一方、Grade 3-4 of 血小板減少症については、EC群で26% (27例) であったのに対し、IC群では15% (16例) と、IC群において有意に少ない傾向がみられた (p=0.05)。非血液毒性においては、イリノテカンに特徴的な副作用であるGrade 3-4 of 下痢が、IC群で11% (11例) に発生し、EC群の1% (1例) と比較して有意に高頻度であった (p=0.003)。治療に関連した死亡 (治療関連死) は、IC群で3例 (3%)、EC群で9例 (9%) に認められ、EC群でやや多い傾向があったが、統計学的な有意差には至らなかった (p=0.072) (Table 3)。
患者報告アウトカム (QOL) の推移と症状緩和: QOLの評価において、全体的なアンケート回収率は85% (1,207/1,412フォーム) と極めて高かった。化学療法期間中 (最初の12週間) のQOLスコアの推移において、両群ともに治療開始後に呼吸困難 (dyspnea)、咳嗽、疼痛、および全体的な健康状態 (global QOL) の項目で10ポイント以上の臨床的に意味のある有意な改善が認められた (Fig 3)。両群間でのQOLスコアの直接比較では、睡眠障害 (sleep problems) が20週および36週時点でIC群において有意に軽度であった (p<0.05)。また、死亡を非緩和として定義した症状緩和率 (palliation rate) の解析では、呼吸困難および睡眠障害の緩和維持期間が、EC群と比較してIC群で有意に長期にわたり持続する傾向が確認された (Fig 4, p<0.01)。
考察/結論
先行研究との違い:
本研究は、日本人患者を対象にシスプラチンベースのレジメンでイリノテカンの優越性を示した [[NEnglJMed-2002-Noda-Irinotecan plus cisplatin compared with etoposide plus cisplatin for extensive small-cell lung cancer|Noda et al. NEnglJMed 2002]] の知見を、欧米 (北欧) の日常臨床で主流であるカルボプラチンベースのレジメン (IC療法) において検証したものである。米国で行われた大規模な追試である [[JClinOncol-2006-Hanna-Randomized phase III trial comparing irinotecancisplatin with etoposidecisplatin in patients with previously untreated|Hanna et al. JClinOncol 2006]] ではイリノテカンの生存ベネフィットが再現されず、その有用性は極めて対照的かつ議論のある状態であった。これら先行の北米試験と本試験の結果が異なり、IC群で有意なOS延長が得られた要因として、イリノテカンの投与スケジュールの違い (北米試験の週1回投与に対し、本試験は3週に1回の175 mg/m²投与) や、対照群に用いたエトポシドの投与経路 (点滴静注に対し、本試験は経口投与) によるバイオアベイラビリティの個人差が影響した可能性が考えられる。
新規性: 本研究は、高齢者 (70歳超が35%) や全身状態不良患者 (PS 2-4が47%) を広く含む、実臨床の患者背景を極めて忠実に反映した未選択の集団を対象として、カルボプラチンとイリノテカンの併用療法が、標準的なエトポシド併用療法に対して有意な全生存期間の延長と完全奏効率の向上をもたらすことを、世界で初めて第III相ランダム化比較試験において新規に実証した。
臨床応用: 本試験の臨床的意義は極めて大きい。外来通院での治療が容易で、腎毒性や悪心・嘔吐などの副作用が少ないカルボプラチンをベースとしたIC療法が、経口EC療法に対して生存期間を改善し、かつQOLを損なわないことが示された。この知見は、特にシスプラチンの投与が困難な高齢者や、外来での化学療法を希望するED-SCLC患者に対する初回治療において、IC療法が極めて有用な治療選択肢となり得ることを臨床現場に示すものである。
残された課題: 今後の検討課題として、イリノテカン投与に伴う重篤な下痢 (Grade 3-4が11%) の適切なマネジメントが挙げられる。特に、第1サイクルにおける予防的抗菌薬の併用が下痢の頻度を高めた可能性があり、抗菌薬の使用プロトコルの最適化が必要である。また、本試験のlimitationとして、オープンラベル試験であるためQOL評価における主観的バイアスの影響を完全には排除できない点、および遺伝子多型 (UGT1A1など) による薬物動態の解析が行われていない点が挙げられる。今後の研究の方向性としては、近年標準治療となった免疫チェックポイント阻害薬 (atezolizumabやdurvalumabなど) とIC療法の併用における有効性と安全性の検証が望まれる。
方法
本試験は、ノルウェーおよびスウェーデンの多施設で実施された、オープンラベルのランダム化共同第III相臨床試験である。適格基準は、組織学的または細胞学的に確認された未治療のED-SCLC患者であり、18歳以上で適切な骨髄、肝、腎機能を有することとした。年齢の上限やWHO (World Health Organization) の全身状態 (PS) に関する制限は設けず、脳転移を有する患者の登録も許容した。
患者は、Haukeland大学病院の臨床がん研究センターにおいて、PS (0-1 vs 2 vs 3-4)、実施施設、および年齢 (18-70歳 vs 70歳超) を層別化因子として、ブロックサイズ4のランダム化により、IC群またはEC群に1:1の割合で割り当てられた。本試験は臨床試験登録 (NCT番号: NCT00852111) に準拠して実施された。
治療レジメンとして、IC群はカルボプラチン (Chatelut式を用いて算出されたAUC [area under the curve] = 4、これはCalvert式でのAUC = 5にほぼ相当) およびイリノテカン 175 mg/m²をいずれも第1日に静脈内投与し、3週毎に最大4サイクル繰り返した。EC群は、同様のカルボプラチン投与に加え、エトポシド 120 mg/m²/日を第1日から第5日まで5日間経口投与し、3週毎に最大4サイクル繰り返した。PSが3-4の患者、または70歳超の高齢患者に対しては、毒性を軽減するためにあらかじめプロトコルに従って投与量を3分の2 (67%) に減量して治療を開始した。第1サイクルにおいては、感染予防のためにトリメトプリム・スルファメトキサゾール (160/800 mg) およびオフロキサシン (200 mg) を1日2回、第5日から第14日まで予防投与した。
主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、ランダム化から死亡までの期間として定義された。副次評価項目は、完全奏効率 (CR率)、およびQOLとした。QOLの評価には、がん患者用QOL質問票である [[JNatlCancerInst-1993-Aaronson-The EORTC QLQ-C30 a quality-of-life instrument for use in international clinical trials in oncology|Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993]] (EORTC QLQ-C30) および肺がん特異的モジュール (EORTC QLQ-LC13) を用い、ベースライン時、化学療法中の3週毎 (最大12週)、およびその後の8週毎 (最大1年) に測定した。統計解析では、OSの比較にKaplan-Meier法およびlog-rankテストを用い、ハザード比 (HR) の算出にはCox比例ハザードモデル (Cox regression) を使用した。奏効率の比較にはカイ二乗 (𝛘²) 検定を用いた。