- 著者: L. Falchero, A. Vergnenegre, N. Girard, M. Antoine, A. Cortot, C. Chouaid, J. Mazières, J. Cadranel, L. Bigay-Game, B. Falchero, G. Rousseau-Bussac, H. Lena, J. Trédaniel, A. Faure Conter, E. Quoix, P. Fournel, J. Souquet, L. Mezquita, R. Corre, P. Baldacci, J.B. Auliac, C. Audigier-Valette, B. Langlais, C. Morin-Ben Abdallah, G. Robinet, I. Monnet, A.C. Metivier, E. Dansin, R. Descourt, P. Bombaron, I. Filleron, J.P. Ségura-Ferlay, A. Renault, F. Morin, F. Guisier, J. Otto, L. Debieuvre, R. Gervais, N. Schilling, F. Goupil
- Corresponding author: Lionel Falchero (Respiratory Medicine Department, Hopitaux Nord-Ouest, Villefranche-Sur-Saône, France)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-08-14
- Article種別: Original Article
- PMID: 39168000
背景
小細胞肺癌 (SCLC: small cell lung cancer) は、極めて悪性度が高く進行が速い神経内分泌腫瘍であり、フランスにおける肺癌全体の10-15%を占め、毎年約5000例の新規症例が報告されている。SCLCは、診断時にすでに遠隔転移を伴う広範型 (ES: extensive-stage) 疾患として提示される割合が約70%に達し、重篤な臨床症状と初回化学療法後の高い再発率を特徴とする。限局型 (LS: limited-stage) SCLCに対する標準治療は、プラチナ製剤とエトポシドの化学療法と胸部放射線療法の併用であるが、依然として予後は厳しい。
ES-SCLCの初回治療においては、長年にわたりプラチナ製剤とエトポシドの2剤併用化学療法が標準とされてきたが、2018年以降、抗 PD-L1 (programmed death-ligand 1) 免疫チェックポイント阻害薬の導入により治療パラダイムが劇的に変化した。Horn et al. NEnglJMed 2018 および Liu et al. JClinOncol 2021 の IMpower133 試験、さらに Paz-Ares et al. Lancet 2019 の CASPIAN 試験といった第III相ランダム化比較試験 (RCT: randomized controlled trial) により、化学療法への免疫療法追加が全生存期間 (OS) を有意に延長することが実証された。しかし、これらの臨床試験は厳格な選択基準を設定した患者集団を対象としており、実臨床における高齢者、パフォーマンスステータス (PS) 低下例、あるいは脳転移を有する患者を含む一般集団における免疫療法の治療効果や安全性については、依然として多くの部分が未解明である。
実臨床における大規模な縦断的データは、臨床試験の結果が一般の患者集団にどの程度外挿可能であるかを検証するために不可欠である。フランスにおいて10年ごとに非学術的公立病院で実施されている全国的な多施設前向きコホート研究である KBP (Kontemporary Bronchial cancer Patients) 研究は、2000年および2010年の時点で肺癌患者の動向を報告してきたが、2020年までの20年間にわたるSCLC患者の特性変化や、実臨床における免疫療法導入後の生存ベネフィットに関する包括的な分析データは不足していた。この実臨床におけるエビデンスの不足を解消し、ガイドラインの遵守状況や治療転帰の長期的推移を明らかにすることが強く求められていた。
目的
本研究の主要な目的は、フランス全国の KBP コホート (2000年、2010年、2020年) のデータを用いて、過去20年間におけるSCLC患者の臨床的背景、患者特性、および治療戦略の時系列的変化を包括的に比較分析することである。特に、患者の性別比、診断時年齢、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)、病期分類 (LS vs ES) の推移を明らかにする。
副次的目的として、2020年コホート (KBP-2020) およびその付随研究である ESCAP-2020 コホートにおいて、ES-SCLC患者に対する一次治療としての化学療法への免疫療法追加が、実臨床下での全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) に与える影響を定量的に評価する。その際、治療選択バイアスを排除するために entropy balancing 法を用いた共変量調整解析を行い、臨床試験の生存ベネフィットが実臨床でも再現されるかを検証する。さらに、Dingemans et al. AnnOncol 2021 などの国際的治療ガイドラインの遵守状況を評価し、実臨床における治療アクセスの課題を同定する。
結果
患者背景および臨床的特性の20年間の推移: 2020年の KBP コホートには 8,999 例の肺癌患者が登録され、そのうち 1,137 例 (12.6%) が SCLC と診断された。SCLC の割合は 2000 年の 16.4% から 2010 年の 13.5% へ、さらに 2020 年の 12.6% へと有意に低下した (p<0.0001) (Table 1)。一方、女性患者の割合は 2000 年の 15.5% から 2020 年の 35.7% へと著明に増加した (p<0.0001) (Table 1)。診断時の平均年齢は 2000 年の 64.6 歳から 2020 年の 67.8 歳へと有意に上昇した (p<0.0001) (Table 1)。ECOG PS 0-1 の患者割合は 2000 年の 56.5% から 2020 年の 66.6% へと改善した。病期分類では、LS-SCLC の割合が 2000 年の 33.0% から 2020 年の 15.4% へと減少し、ES-SCLC の割合が 67.0% から 84.6% へと増加した (p<0.0001) (Table 1)。
2020年コホートにおける治療実施状況: 2020年コホートの LS-SCLC 患者 (n=165) のうち、70.9% (117/165) が一次治療としてプラチナ・エトポシド化学療法と胸部放射線療法の併用療法を受けた。胸部放射線療法の総実施率は 80.0%、予防的脳照射 (PCI) の実施率は 23.6% であった。一方、ES-SCLC 患者 (n=894) のうち、95.9% が一次治療としてエトポシドとプラチナ製剤 (カルボプラチン 89.2%、シスプラチン 7.4%) の併用化学療法を受けた。このうち、免疫療法 (抗 PD-L1 抗体) が併用された割合は 54.8% であった。脳放射線療法は 11.5% で実施され、10.2% の患者は緩和治療のみを受けた。ESCAP-2020 に登録された患者のうち、39.3% (346/881) が二次治療に移行し、その内訳は化学療法が 63.0%、放射線療法が 22.2% であった。二次化学療法では、カルボプラチン (42.7%)、エトポシド (34.9%)、トポテカン (18.3%)、ルルビネクチン (17.4%)、パクリタキセル (12.8%) などが使用された。
全生存期間 (OS) の20年間の推移: SCLC 患者全体の 1 年 OS 率は、2000 年の 34.4% (95% CI 31.5-37.7) から 2010 年の 35.2% (95% CI 32.3-38.4) を経て、2020 年の 38.4% (95% CI 35.7-41.4) へと有意に改善した (Table 2)。3 年 OS 率も 6.7% (95% CI 5.3-8.6) から 12.9% (95% CI 11.1-15.1) へと増加した (Table 2)。しかし、未調整の中央値 OS は 2000 年が 8.4 ヶ月 (95% CI 7.7-9.0)、2010 年が 8.7 ヶ月 (95% CI 8.0-9.4)、2020 年が 8.5 ヶ月 (95% CI 8.0-9.2) と、3つのコホート間で有意な差は認められなかった (Fig. 1)。COVID-19 パンデミックの影響を考慮し、年齢、性別、ECOG PS、病期で調整した多変量 Cox 回帰分析では、2020 年コホートは 2000 年と比較して OS が有意に改善しており、HR 0.84 (95% CI 0.76-0.93, p=0.001) を示し、2010 年と比較しても有意な改善を示した (HR 0.90, 95% CI 0.81-0.99, p=0.028) (Table 3)。3ヶ月ランドマーク解析 (n=791) では、1年OS率が 2000 年の 34.8% (95% CI 31.4-38.7) から 2020 年の 42.8% (95% CI 39.6-46.3) へと有意に向上した (p<0.001)。
2020年コホートにおける病期別および PS 別の生存成績: KBP-2020 において、SCLC 患者の中央値 OS は 8.5 ヶ月 (95% CI 8.0-9.2) であり、NSCLC 患者の 17.3 ヶ月 (95% CI 16.5-18.2) と比較して有意に不良であった (HR 1.78, 95% CI 1.66-1.91, p<0.0001) (Table 4)。LS-SCLC 患者 (n=167) の中央値 OS は 24.2 ヶ月 (95% CI 20.2-29.8) であったのに対し、ES-SCLC 患者 (n=913) では 7.3 ヶ月 (95% CI 6.5-7.9) であった (Table 4)。PS 別解析において、LS-SCLC の PS 0-1 群の中央値 OS は 26.1 ヶ月 (95% CI 20.3-38.4) であったが、PS 2-4 群では 13.8 ヶ月 (95% CI 9.0-26.0) に低下した (p<0.0001) (Table 4)。同様に、ES-SCLC の PS 0-1 群の中央値 OS は 10.2 ヶ月 (95% CI 9.2-11.3) であったのに対し、PS 2-4 群では 2.7 ヶ月 (95% CI 1.8-3.9) と極めて不良であった (p<0.0001) (Table 4)。
免疫療法併用による生存ベネフィット (主要解析結果): 一次治療として化学療法を受けた ECOG PS 0-1 の ES-SCLC 患者 (n=381) において、免疫療法併用群 (n=251) は化学療法単独群 (n=130) と比較して、未調整の粗解析で OS が有意に延長した。粗解析における中央値 OS は 11.4 ヶ月 (95% CI 10.2-14.1) vs 7.3 ヶ月 (95% CI 6.3-8.8) であり、未調整 HR 0.62 (95% CI 0.50-0.78, p<0.0001) を示した (Fig. 2A)。粗解析における無増悪生存期間も有意に改善し、中央値 PFS は 5.9 ヶ月 (95% CI 5.6-6.4) vs 4.7 ヶ月 (95% CI 3.9-5.8) であり、未調整 HR 0.65 (95% CI 0.52-0.81, p<0.001) を示した (Fig. 2B)。
Entropy balancing 法を用いた共変量調整解析: 年齢、性別、ECOG PS、転移臓器数、脳転移の有無を完全に均衡化した重み付け多変量解析の結果、化学療法への免疫療法追加は、化学療法単独群と比較して全生存期間を有意に延長した。調整後の中央値 OS は 11.1 ヶ月 (95% CI 9.9-12.9) vs 8.1 ヶ月 (95% CI 7.0-9.4) であり、調整後 HR 0.62 (95% CI 0.47-0.81, p<0.001) を示した。1年OS率は 46.6% vs 29.5% であり、2年OS率は 20.2% vs 7.8% であった。また、無増悪生存期間についても免疫療法併用による有意な改善が確認された。調整後の中央値 PFS は 6.0 ヶ月 (95% CI 5.6-6.5) vs 4.9 ヶ月 (95% CI 4.4-5.4) であり、調整後 HR 0.62 (95% CI 0.49-0.78, p<0.001) を示した。1年PFS率は 17.1% vs 5.8% であり、2年PFS率は 11.3% vs 2.9% であった。COVID-19 罹患患者を除外した感度解析でも、同様の有意な OS および PFS 改善効果が維持されていた。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、3つの連続する KBP 全国コホートを用いた 20 年間にわたる大規模な実臨床データセットであり、これまでに報告されたことのない規模と期間で SCLC 患者の動向を解析している。Horn et al. NEnglJMed 2018 の IMpower133 試験や Paz-Ares et al. Lancet 2019 の CASPIAN 試験といったランダム化比較試験 (RCT) は、厳格な選択基準を満たした極めて限定的な患者集団を対象としていた。これら厳格な治験集団と異なり、本研究は高齢者や PS 低下例、脳転移例を多く含む実臨床の一般患者集団を代表しており、RCT の結果を実臨床へ外挿する際のエビデンスを提供している点で先行研究と大きく異なる。
新規性: 本研究は、フランス全国規模のコホートにおいて、ES-SCLC 患者に対する一次治療としての化学療法への免疫療法追加が、実臨床下で生存期間を有意に改善することを本研究で初めて大規模に実証した。特に、治療選択バイアスを補正するために entropy balancing 法を用いた調整解析を行い、免疫療法併用群が化学療法単独群と比較して、調整後中央値 OS を 11.1 ヶ月 vs 8.1 ヶ月 (HR 0.62, 95% CI 0.47-0.81, p<0.001) と有意に延長させることを示した。また、過去20年間における女性患者の急増 (15.5% から 35.7% への増加) や、診断時年齢の上昇といった疫学的動向を全国レベルで明らかにしたことも新規の知見である。
臨床応用: 本研究の成果は、実臨床における ES-SCLC に対する免疫療法併用化学療法の有用性を強く支持するものであり、Dingemans et al. AnnOncol 2021 などの標準的治療ガイドラインの推奨を実臨床レベルで裏付ける。免疫療法の追加により、1年OS率が 29.5% から 46.6% へ、2年OS率が 7.8% から 20.2% へと大幅に向上した事実は、臨床現場における意思決定において極めて重要な臨床的意義を持つ。ただし、2020年時点で免疫療法の使用率が 54.8% に留まっていたことは、新薬承認初期における行政手続きや臨床医の認識不足によるアクセスの不均一性を示唆しており、今後の臨床現場における普及と適切な患者選択が課題となる。
臨床試験との比較: 本研究における免疫療法併用群の調整後中央値 OS (11.1 ヶ月) は、IMpower133 試験 (12.3 ヶ月) や CASPIAN 試験 (12.9 ヶ月) で報告された数値よりもやや低い傾向にある。これは、実臨床コホートが臨床試験よりも高齢で、PS 低下患者や脳転移を有する予後不良因子を多く含んでいるためと考えられる。しかし、化学療法単独群に対する生存期間のハザード比 (HR 0.62) は、臨床試験で示された生存ベネフィットと同等かそれ以上であり、実臨床における免疫療法の有効性が極めて強固であることを示している。
他の実臨床研究との整合性: 本研究の結果は、イタリアの MAURIS (Atezolizumab Plus Carboplatin and Etoposide in Patients with Untreated Extensive-Stage Small-Cell Lung Cancer) 試験 (中央値 OS 10.7 ヶ月、PFS 5.5 ヶ月) や、スペインの IMfirst 試験 (中央値 OS 10.0 ヶ月、PFS 6.2 ヶ月)、さらにフランスの CLINATEZO (Long-term effectiveness and treatment sequences in patients with extensive stage small cell lung cancer receiving atezolizumab plus chemotherapy) 試験 (PS 0-1 患者における中央値 OS 12.2 ヶ月、PFS 5.2 ヶ月) など、近年報告された他の実臨床データと極めて良好な整合性を示している。
残された課題: 今後の検討課題として、免疫療法により2年以上の長期生存が得られる患者の臨床的・生物学的特徴を同定することが挙げられる。また、本研究は観察研究であるため、ランダム化が行われておらず、治療選択における潜在的なバイアスや未知の交絡因子の影響を完全に排除することはできないという limitation がある。entropy balancing 法による調整を行ったものの、PD-L1 発現量や腫瘍遺伝子変異量 (TMB) などのバイオマーカーデータが欠落している。また、2020年コホートは COVID-19 パンデミックの最中に実施されたため、医療アクセスや診断の遅れが生存成績に影響を与えた可能性がある。今後は、二次治療以降の最適な治療シークエンスの確立や、限局型 SCLC における免疫療法の役割についてのさらなる検証が必要である。
方法
研究デザインと対象患者: 本研究は、フランスの非学術的公立病院の呼吸器内科および腫瘍科において、2020年1月1日から12月31日までに原発性肺癌と新たに診断された連続患者を前向きに登録した全国多施設共同観察研究 (KBP-2020、ClinicalTrials.gov 登録番号: NCT04402099) である。本コホートは、厳格な選択基準を課す第III相ランダム化比較試験 (RCT) とは異なり、実臨床の患者集団を無選択に登録する前向きコホート研究 (prospective cohort study) のデザインを採用している。全患者から口頭同意および研究不参加の申し立てがないこと (non-opposition) を確認した。さらに、KBP-2020 に登録されたSCLC患者のうち、64の参加施設における5年間 (2020-2025年) の詳細な治療経過を追跡する付随研究 (ESCAP-2020) を実施した。比較対象として、同様のプロトコルで実施された過去のコホート (KBP-2000 および KBP-2010) のデータを用いた。
病期分類の定義: KBP-2000 では限局型 (LS) および広範型 (ES) の分類が症例報告書に直接記録された。KBP-2010 および KBP-2020 では、TNM 分類と初回治療内容に基づいて定義した。LS-SCLC は stage I-III で胸部放射線療法を受けた患者、ES-SCLC は stage III で胸部放射線療法を受けなかった患者、または stage IV 患者と定義した。
評価項目 (Endpoints): 主要評価項目 (primary endpoint) は全生存期間 (OS) とし、肺癌診断日から死亡日までの期間と定義した。3つのコホート間で均質な追跡期間を確保するため、診断から36ヶ月時点で生存期間を打ち切った (truncated)。また、診断後3ヶ月以内に死亡または追跡不能となった症例を除外した3ヶ月ランドマーク解析を行い、導入化学療法を4サイクル完了できたと考えられる集団の生存率を評価した。無増悪生存期間 (PFS) は、一次治療開始から二次治療開始、担当医が判定した増悪、または死亡のいずれか早い時点までの期間と定義した。
統計解析: 3つのコホート間の患者背景の比較には、Chi-squared 検定、Fisher’s exact 検定、ANOVA、または Kruskal-Wallis 検定を用いた。生存曲線の推定には Kaplan-Meier 法を用い、ログランク検定 (log-rank test) で群間比較を行った。コホート全体の生存期間推移を評価するため、年齢、性別、ECOG PS、病期、および時間依存共変量としての COVID-19 感染状況を調整した多変量コックス比例ハザード回帰分析 (Cox proportional hazards regression model) を実施した。
Entropy balancing 法による調整: 一次治療としてプラチナ・エトポシド併用化学療法を受けた ECOG PS 0-1 の ES-SCLC 患者を対象に、免疫療法併用群と化学療法単独群の比較を行った。治療選択バイアスを補正するため、entropy balancing 法を用いて、年齢、性別、ECOG PS、転移臓器数、脳転移の有無の共変量を両群間で完全に均衡化させた。R package WeightIt を用いて重み付けを算出し、cobalt package でバランス調整の質を検証した。調整後の OS および PFS のハザード比 (HR) と 95% 信頼区間 (CI) を加重 Cox モデルから算出した。感度解析として、COVID-19 診断患者を除外した解析も実施した。