- 著者: Joao Paulo S. N. Lima, Lucas Vieira dos Santos, Emma Chen Sasse, Carmen Silvia Passos Lima, Andre Deeke Sasse
- Corresponding author: Andre Deeke Sasse (CEVON/UNICAMP, Departamento de Clinica Medica, Centro de Evidencias em Oncologia, Universidade Estadual de Campinas, Campinas, SP, Brazil)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2010
- Epub日: N/A
- Article種別: Meta-analysis
- PMID: 20978445
背景
進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) は肺癌全体の約15%を占め、診断時には約2/3の患者が進展型であると報告されている Govindan et al. JClinOncol 2006。この疾患は化学療法に対する感受性が高く、初回奏効率 (ORR) は約80%に達するものの、奏効期間は短く、ほとんどの患者が2年以内に死亡する予後不良な疾患である。約20年間にわたり、エトポシド (etoposide) とプラチナ製剤 (EP) の併用療法がED-SCLCの標準的な一次治療として確立されてきた。しかし、パクリタキセルやゲムシタビンなどの新規化合物との比較試験では、生存期間の延長を示すことができなかった。
一方、カンプトテシン系薬剤であるイリノテカン (irinotecan) やトポテカン (topotecan) は、SCLCにおいて有望な結果を示してきた。特に、日本人を対象としたNoda et al. NEnglJMed 2002の第III相試験では、イリノテカンとシスプラチン (IP) の併用療法がEP療法と比較して、全生存期間 (OS) を12.8か月対9.4か月と顕著に延長することを示した。しかし、西洋人を対象としたHanna et al. JClinOncol 2006やLara et al. JClinOncol 2009の試験では、この生存改善効果を再現できなかった。この人種間の効果の差異は、UGT1A1遺伝子多型によるイリノテカンの薬物動態の違いが影響している可能性が議論されてきたが、その役割は未解明な点が残されている。
トポテカンは、再発SCLCの標準治療薬として開発されたが、一次治療におけるEP療法との比較は限定的であった。また、カンプトテシン系薬剤とエトポシドを単純に「トポイソメラーゼ阻害薬」として一括して評価することの妥当性も疑問視されており、イリノテカンとトポテカンの個別の解析を含む包括的なメタアナリシスが必要とされていた。これらの背景から、ED-SCLCの一次治療におけるカンプトテシン系薬剤の役割は未解明な点が残されており、既存のデータではその有効性に関する明確な結論を導き出すには情報が不足していた。特に、人種間の薬物動態差が治療効果に与える影響については、さらなる詳細な検討が求められていた。
目的
本研究の目的は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者に対する一次治療として、カンプトテシン系薬剤(イリノテカンまたはトポテカン)とプラチナ製剤の併用療法を、エトポシドとプラチナ製剤の併用療法と比較し、その有効性(全生存期間 [OS]、無増悪生存期間 [PFS]、奏効割合 [ORR])および安全性(Grade 3/4毒性)を評価することである。さらに、イリノテカンとトポテカンを個別のサブグループとして解析し、それぞれの薬剤の特性に基づいた治療効果と毒性プロファイルの違いを明らかにすることを目的とした。これにより、ED-SCLCの一次治療におけるカンプトテシン系薬剤の最適な位置づけを確立するためのエビデンスを提供することを目指した。
結果
試験抽出と特性: 593報の文献が検索され、最終的に8件のランダム化比較試験 (RCT) が選択され、合計3,086例の患者が解析対象となった (Figure 1)。内訳は、Eckardt et al. JClinOncol 2006 (TP vs EP, n=784)、Hanna et al. JClinOncol 2006 (IP vs EP, n=328)、Heigener et al. (2008) (TP vs EP, n=680)、Hermes et al. JClinOncol 2008 (IC vs EC, n=209)、Lara et al. JClinOncol 2009 (IP vs EP, n=651)、Noda et al. NEnglJMed 2002 (IP vs EP, n=154)、Pan et al. (2006) (IP vs EP, n=61)、Schmittel et al. (2009) (IC vs EC, n=216) であった。これらの試験は米国で2件、欧州で4件、日本で1件、中国で1件実施された。プラチナ製剤は6試験でシスプラチン、2試験でカルボプラチンが使用された。6試験がイリノテカンを、2試験がトポテカン(うち1試験は経口投与)を検討していた。トポテカンを検討した2試験では、一方の試験でTPが優位、もう一方の試験でEPが優位と結果が分岐し (I2=90%)、統合解析は不可能と判断された。
全生存期間 (OS) - イリノテカン + プラチナ (IP) vs エトポシド + プラチナ (EP): 7試験3,025例のOSデータが解析された。全サブグループを統合した解析ではカンプトテシン系薬剤が有利な傾向を示したが、サブグループ間の交互作用検定で有意差が認められた (p=0.04) (Figure 2)。この結果から、IPとTPを統合して解析することは不適切であると判断された。イリノテカンを検討した6試験の統合解析では、中程度の異質性 (I2=45%) が認められた。この異質性の主要因は、日本人集団のみを対象とし、中間解析後に早期中止されたNoda et al. NEnglJMed 2002の試験 (HR 0.60) であると同定された。この試験を除外した西洋人4試験 (1,407例) の解析では、IP療法がEP療法と比較してOSを有意に延長した (HR 0.87; 95% CI 0.78-0.97; p=0.02)。この解析では異質性は認められず (I2=0%; 異質性p=0.23)、死亡リスクが13%減少することに相当した。EP群の平均OSが8~10か月であることを考慮すると、IP療法によるOSの延長は理論上1~2か月と推定された (Figure 3)。トポテカンを検討した2試験 (1,464例) のメタアナリシスでは、TPとEPの間でOSに有意差は認められなかった (HR 0.99; 95% CI 0.88-1.11; p=0.87)。この解析では異質性は低かった (I2=5%)。
無増悪生存期間 (PFS) - IP vs EP: 6試験でPFSデータが利用可能であった。イリノテカンを検討した4試験の統合解析では、I2=63%の有意な異質性が認められ、その主因はNoda et al. NEnglJMed 2002の試験であった。Noda試験を除外することで異質性は部分的に減少したが (I2=49%)、依然として高かった。さらに、PFSの方向性が他の試験と乖離していたHanna et al. JClinOncol 2006の試験を除外した2試験 (867例) の解析では、IP療法がEP療法と比較してPFSを有意に改善した (HR 0.83; 95% CI 0.73-0.95; p=0.006)。この解析では異質性は認められなかった (I2=0%) (Figure 4)。トポテカンを検討した試験では、結果が分岐したため (I2=90%)、統合解析は実施されなかった。
奏効割合 (ORR): IP療法とEP療法を比較した5試験 (1,317例) のORR解析では、許容範囲の異質性 (I2=30%) が認められた。IP群のORRは56%、EP群は53%であり、統計学的に有意な差は認められなかった (OR 1.13; 95% CI 0.91-1.42; p=0.17) (Figure 5)。この結果は、IP療法が生存期間を延長する一方で、即時の腫瘍縮小効果においてはEP療法と大きな違いがないことを示唆する。
毒性プロファイル: IP群はEP群と比較して、血液毒性(Grade 3/4好中球減少、血小板減少、貧血)が有意に少なかった (いずれもp<0.001)。具体的には、Grade 3/4好中球減少のORは0.20 (95% CI 0.16-0.27; p<0.00001) であり、Grade 3/4血小板減少のORは0.24 (95% CI 0.17-0.34; p<0.00001) であった (Table 3)。一方、消化器毒性はIP群で有意に増加し、Grade 3/4下痢はOR 8.94 (95% CI 5.30-15.07; p<0.0001)、嘔吐も有意に増加した。治療関連死は両群で同等であった (OR 1.08; 95% CI 0.55-2.13; p=0.50)。この毒性プロファイルの逆転は臨床的に重要であり、患者の併存疾患や嗜好に応じた治療選択の可能性を示唆する。トポテカンを検討した2試験では、毒性プロファイルにおいても高い異質性 (I2 20-99%) が認められ、結果が分岐したため、データの統合は行われなかった。これは、経口トポテカンと静注トポテカンの投与経路や用量の違いが影響した可能性が示唆された。
考察/結論
本系統的レビューとメタアナリシスは、未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者に対する一次治療において、イリノテカンとプラチナ製剤の併用療法 (IP) が、エトポシドとプラチナ製剤の併用療法 (EP) と比較して、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善することを示した。特に、西洋人を対象とした4試験 (1,407例) の解析では、IP療法がOSをHR 0.87 (95% CI 0.78-0.97, p=0.02) で改善し、PFSもHR 0.83 (95% CI 0.73-0.95, p=0.006) で改善した。これは、EP群の平均OSが8~10か月であることから、IP療法によりOSが1~2か月延長されることを示唆する。
先行研究との違い: 本研究は、日本人試験であるNoda et al. NEnglJMed 2002の試験が全体解析の異質性の主要因であることを客観的に示し、その試験を除外した西洋人コホートにおいてIP療法の優位性を明確にした点で意義深い。これは、UGT1A1遺伝子多型に起因する人種間のイリノテカン薬物動態の差異が治療効果に影響するという仮説を支持するものであり、これまでの議論に明確なエビデンスを提供した点で、先行研究と異なり、より精緻な解析結果を提供した。
新規性: 本研究で初めて、イリノテカンとトポテカンという異なるカンプトテシン系薬剤を個別に評価し、その有効性と毒性プロファイルの違いを詳細に解析した。特に、トポテカンをベースとしたレジメン (TP) については、試験間の結果の分岐が大きく、一次治療としての使用を支持するエビデンスが乏しいことを明らかにした点は新規の知見である。この知見は、カンプトテシン系薬剤を一括りに評価することの妥当性に対する疑問を解消するものである。
臨床応用: 本研究の知見は、ED-SCLCの臨床現場における治療選択に重要な含意を持つ。IP療法はEP療法と同等の効果が期待できる代替選択肢であり、血液毒性が少なく消化器毒性が多いという逆の毒性プロファイルを持つことから、患者の併存疾患やリスクプロファイルに応じた個別化治療が可能となる。例えば、骨髄抑制のリスクが高い患者にはIP療法、下痢のリスクが高い患者にはEP療法を選択するといった臨床応用が考えられる。これにより、治療の最適化と患者のQOL向上が期待される。
残された課題: 本研究にはいくつかの限界が残されている。第一に、試験間でプラチナ製剤の種類(シスプラチン/カルボプラチン)、イリノテカンの投与スケジュール(d1,8,15 vs d1単回)、エトポシドの投与経路(経口/静注)に異質性が存在した点である。第二に、個別患者データ (IPD) を使用しておらず、集計データに基づく解析であるため、より詳細なサブグループ解析が困難であった。第三に、ほとんどの試験で後治療に関する記述が不十分であり、OS解析への影響を完全に制御できなかった。第四に、Hanna et al. JClinOncol 2006の試験におけるPFSの差異の原因を特定できなかった点も課題である。今後の検討課題として、IP療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法の開発や、遺伝子型バイオマーカーを用いた治療選択の最適化が挙げられる。
方法
本系統的レビューとメタアナリシスでは、MEDLINE、EMBASE、LILACS (Latin American and Caribbean Health Sciences Literature)、CENTRAL (Cochrane Central Register of Controlled Trials)、ClinicalTrials.govの各データベース、およびASCO (American Society of Clinical Oncology)、ESMO (European Society for Medical Oncology)、IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer) の会議ウェブサイトを対象に、2009年12月までの文献を検索した。検索キーワードには、「lung」、「cancer」、「chemotherapy」、「etoposide」、「camptothecin (irinotecan/CPT-11/topotecan)」、「randomized」を用いた。言語制限は設けず、QUOROM (Quality of Reporting of Meta-analyses) ガイドラインに準拠して実施された。
選択基準は、組織学的または細胞学的にSCLCと診断され、進展型疾患(片側胸郭を超えて広がる疾患または胸水)を有し、化学療法未治療の患者を対象とした並行群間ランダム化比較試験 (RCT) とした。2名の査読者(J.P.S.N.L.、L.V.d.S.)が独立して文献のスクリーニングとデータ抽出を行い、意見の不一致は第3の査読者(A.D.S.)が解決した。
主要評価項目はOSとし、副次評価項目はPFS、ORR、およびCommon Toxicity Criteria (CTC) scaleによるGrade 3/4の毒性とした。時間-イベントデータ(OSおよびPFS)のハザード比 (HR) は、原著論文から直接抽出するか、Parmar et al. (1998) の方法に従い、生存曲線から間接的に推定した。この計算にはTierney et al. (2007) が提供するスプレッドシートを使用した。二値データについては、イベント数とリスク下の患者数を抽出した。
メタアナリシスはReview Manager 5 (RevMan 5) を用いて固定効果モデルで実施した。時間-イベントアウトカムはHRで比較し、二値データはオッズ比 (OR) で比較した。各推定値の95%信頼区間 (CI) を算出し、フォレストプロットで提示した。試験結果の統計的異質性は、カイ二乗検定およびI2指数(I2 > 35%で有意な異質性と判断)を用いて評価した。異質性が認められた場合、その原因を特定し、必要に応じてサブグループ解析を実施した。原因が不明で、結果の方向性が異なる場合は、データの統合を避けた。出版バイアスはEgger検定で評価した。イリノテカンとトポテカンの毒性プロファイルが異なることを考慮し、これら2つの薬剤は有効性と安全性のサブグループ解析において別々に検討された。