• 著者: Jiang J, Liang X, Zhou X, Huang L, Huang R, Chu Z, Zhan Q
  • Corresponding author: Xiaohua Liang, MD (Department of Oncology, Huashan Hospital, Fudan University, Shanghai, China)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2010
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20521354

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は、毎年診断される肺癌新規症例の約15%を占め、肺癌による死亡の最大25%を占める。2008年には、米国で約32,000件のSCLC新規症例が診断されたと報告されている Lara et al. JClinOncol 2009。非小細胞肺癌と比較して、SCLCは一般的に倍加時間が短く、増殖率が高く、広範な転移が早期に進行する特徴を持つ。SCLC患者のほとんどは血行性転移を伴って受診し、約3分の2の患者が進展型 (E-SCLC) で診断される。未治療の限局型SCLC患者の全生存期間中央値は12週間、E-SCLC患者では6週間と極めて不良である。5年生存率は限局型SCLC患者で15〜25%、E-SCLC患者では1%未満である。SCLCは初期の化学療法および放射線療法に高い感受性を示す。E-SCLC患者において、化学療法単独でほとんどの患者の症状を緩和し、生存期間を延長することが可能である。最も一般的に使用される初期の併用化学療法レジメンは、長年にわたりエトポシドとシスプラチン (EP) が標準治療として確立されていた。

2000年、日本の研究者らは、E-SCLC患者154名を対象とした無作為化第III相試験において、トポイソメラーゼI阻害剤であるイリノテカンとシスプラチン (IP) の併用療法が標準的なEPレジメンと比較して優れた結果を示したと報告した Noda et al. NEnglJMed 2002。この研究は2回の中間解析後に早期に終了された。IP群の全生存期間中央値は12.8ヶ月であったのに対し、EP群では9.4ヶ月であり、統計的に有意な差が認められた (p=0.002)。Hermes et al. JClinOncol 2008もまた、イリノテカンとカルボプラチンの併用がE-SCLCの生存期間を延長し、生活の質もわずかに改善することを見出した。別の無作為化比較試験では、IPがEPよりも毒性が少なく、無増悪生存期間 (PFS) を改善する可能性が示唆された。これらの結果に基づき、NCCNガイドラインはE-SCLC患者の一次治療としてIPレジメンを推奨した。

しかし、その後の2つの大規模な研究では、肯定的な結果を裏付けることができなかった Hanna et al. JClinOncol 2006Lara et al. JClinOncol 2009。このため、E-SCLCにおけるIPレジメンの役割は依然としてcontroversialなままであった。大規模な研究が日本のJCOGの結果を裏付けられなかった理由の一つとして、IPとEPの用量とスケジュールにほとんど差がなかったことが考えられる。この疑問に答えるため、Southwest Oncology Group (SWOG) は、JCOG 9511と同じIPとEPの用量とスケジュールを用いたE-SCLCの北米患者を対象とした別の第III相無作為化比較試験 (SWOG 0124) をデザインした。残念ながら、SWOG 0124も肯定的な結果を裏付けることはできなかった。これらの異なる結果は、日本人集団とアメリカ人集団の間で薬理ゲノミクスの違いが生じている可能性を示唆している。SWOG 0124では、イリノテカン代謝に関連する遺伝子の異なる対立遺伝子バリアントを調べ、ABCB1 (ATP結合カセットサブファミリーBメンバー1) C3435T T/TおよびUGT1A1 (UDPグルクロン酸転移酵素1A1) G-3156 A/AがIP関連の下痢および好中球減少症のリスク増加と関連していることを見出した。しかし、これらの遺伝子型はいずれも有効性のアウトカムとは関連しないことが判明した。これらの議論が、本メタアナリシスの動機付けとなった。先行研究において、IPとEPの有効性および毒性プロファイルに関する包括的な比較は不足しており、特に人種やプラチナ製剤の種類による効果の違いを考慮した大規模な統合解析が待望されていた。

目的

本研究の目的は、未治療進展型小細胞肺癌 (E-SCLC) 患者を対象としたイリノテカン/プラチナ (IP) 併用療法とエトポシド/プラチナ (EP) 併用療法の有効性および毒性を、利用可能な全ての無作為化比較試験のデータを統合したメタアナリシスにより比較することである。具体的には、主要評価項目として全奏効率 (ORR)、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS) といった有効性エンドポイントを評価する。副次評価項目として、グレード3-4の貧血、好中球減少、血小板減少、嘔吐、下痢などの血液学的および非血液学的毒性、ならびに治療関連死の発生率を評価することを目的とした。これにより、IPレジメンがE-SCLCの一次治療においてEPレジメンの代替となりうるか否かを包括的に検討し、臨床現場での治療選択に資するエビデンスを提供することを目指す。

結果

試験抽出と患者特性: 電子検索により最初に2,064報の報告が抽出され、タイトルと抄録のスクリーニング後に13報が特定された。そのうち7報は除外され、最終的に6試験 (Noda et al. NEnglJMed 2002Hermes et al. JClinOncol 2008、Schmittel et al. 2006、Pan et al. 2006、Hanna et al. JClinOncol 2006Lara et al. JClinOncol 2009) が包含基準を満たし、解析対象となった (Figure 1)。これらの6試験には、合計1,476名の未治療E-SCLC患者が含まれ、IP群に792名、EP群に684名が割り付けられた。6試験中2試験 (Hermes et al. 2008、Schmittel et al. 2006) はカルボプラチンを使用し、残りの4試験 (Noda et al. 2002、Hanna et al. 2006、Lara et al. 2009、Pan et al. 2006) はシスプラチンを使用した。Jadadスコアによる試験の質評価は2点から4点の範囲であり、Pan et al. 2006の試験のみが二重盲検であった。各試験のベースライン特性は、患者の年齢中央値、性別割合、パフォーマンスステータス、および使用された化学療法レジメンにおいて多様性を示した (Table 1)。IPおよびEPの投与量とスケジュールも試験間で異なっていた。出版バイアスは、ファンネルプロット、Begg検定 (p=1.000)、およびEgger検定 (p=0.588) のいずれにおいても認められなかった。

全奏効率 (ORR) の比較: Hermes et al. 2008の試験は完全奏効 (CR) のみ報告し、部分奏効 (PR) を報告しなかったため、全奏効の症例数は5試験 (Noda et al. 2002、Schmittel et al. 2006、Pan et al. 2006、Hanna et al. 2006、Lara et al. 2009) から得られた。ITT解析の結果、IPレジメンはEPレジメンと比較して有意に高い全奏効率を達成した (RR 1.10, 95% CI 1.00-1.21, p=0.043)。この解析において有意な異質性は認められず (χ2=2.53, p=0.640)、固定効果モデルが使用された (Figure 2)。カルボプラチンを使用したSchmittel et al. 2006の試験を除外したサブグループメタアナリシスおよび感度解析では、IPレジメンの優位性は確認されなかった (RR 1.10, 95% CI 0.99-1.21, p=0.065)。このサブグループ解析でも異質性は認められなかった (χ2=2.37, p=0.499)。

全生存期間 (OS) の比較: OSのハザード比データは、4試験 (Noda et al. 2002、Hermes et al. 2008、Hanna et al. 2006、Lara et al. 2009) の1,345名の患者から得られた。統合されたHRは、IPが未治療E-SCLC患者のOSを有意に延長する可能性を示した (HR 0.81, 95% CI 0.66-0.99, p=0.044)。この解析では有意な異質性が認められ (χ2=14.96, p=0.029)、ランダム効果モデルが使用された (Figure 3)。カルボプラチンを使用したHermes et al. 2008の試験を除外したサブグループメタアナリシスおよび感度解析では、IPレジメンの優位性は確認されなかった (HR 0.85, 95% CI 0.67-1.07, p=0.163)。このサブグループ解析でも有意な異質性が認められた (χ2=6.46, p=0.040)。

無増悪生存期間 (PFS) の比較: PFSのハザード比データは、4試験 (Noda et al. 2002、Schmittel et al. 2006、Hanna et al. 2006、Lara et al. 2009) の1,206名の患者から得られた。統合されたHRは、IPとEPレジメン間でPFSに有意な差がないことを示した (HR 0.82, 95% CI 0.64-1.06, p=0.139)。この解析では有意な異質性が認められ (χ2=14.24, p=0.003)、ランダム効果モデルが使用された (Figure 4)。カルボプラチンを使用したSchmittel et al. 2006の試験を除外したサブグループメタアナリシスおよび感度解析でも、同様の結果が得られた (HR 0.88, 95% CI 0.68-1.15, p=0.354)。このサブグループ解析でも有意な異質性が認められた (χ2=10.62, p=0.005)。

血液学的毒性の比較: 全6試験がグレード3-4の血液学的毒性(貧血、好中球減少、血小板減少)を報告した。IPレジメンはEPレジメンと比較して、グレード3-4の貧血 (OR 0.51, 95% CI 0.36-0.72, p<0.0001)、好中球減少 (OR 0.26, 95% CI 0.12-0.54, p<0.0001)、および血小板減少 (OR 0.29, 95% CI 0.20-0.41, p<0.0001) が有意に少なかった (Figure 5)。好中球減少を除き、全ての毒性解析で有意な異質性は認められなかったため、血液学的毒性についてはランダム効果モデルが使用された。

非血液学的毒性の比較: 全6試験がグレード3-4の下痢を報告したが、Hermes et al. 2008の1試験はグレード3-4の嘔吐を報告しなかった。治療関連死は4試験 (Noda et al. 2002、Schmittel et al. 2006、Pan et al. 2006、Lara et al. 2009) のみで報告され、Pan et al. 2006の1試験では両群で治療関連死がゼロであったため、治療関連死の解析からは除外された。IPレジメンはEPレジメンと比較して、グレード3-4の嘔吐 (OR 1.51, 95% CI 1.01-2.25, p=0.044) および下痢 (OR 10.52, 95% CI 5.94-18.65, p<0.0001) が有意に多かった (Figure 6)。治療関連死は両群間で同等であった (OR 1.51, 95% CI 0.69-3.30, p=0.301)。非血液学的毒性については、有意な異質性が認められなかったため、固定効果モデルが使用された。

考察/結論

本メタアナリシスは、未治療進展型小細胞肺癌 (E-SCLC) 患者において、イリノテカン/プラチナ (IP) 併用療法がエトポシド/プラチナ (EP) 併用療法と比較して、全奏効率 (ORR) および全生存期間 (OS) を有意に改善する可能性を示唆した。具体的には、IP群のORRはEP群より有意に高く (RR 1.10, 95% CI 1.00-1.21, p=0.043)、OSも有意に延長された (HR 0.81, 95% CI 0.66-0.99, p=0.044)。しかし、無増悪生存期間 (PFS) については両群間で有意差は認められなかった (HR 0.82, 95% CI 0.64-1.06, p=0.139)。

先行研究との違い: 日本のNoda et al. NEnglJMed 2002によるJCOG 9511試験ではIP群のOSがEP群より有意に優れることが示されたが、その後の大規模な欧米の試験 (例: Hanna et al. JClinOncol 2006Lara et al. JClinOncol 2009) では同様の結果が再現されず、IPの役割はcontroversialなままであった。本メタアナリシスは、これらの異なる結果を統合し、全体としてはIPのOSにおける優位性を示した点で、これまでの個々の試験結果とは異なる包括的な視点を提供する。特に、OS解析における有意な異質性 (χ2=14.96, p=0.029) は、日本人集団と欧米人集団の間でのIPの効果の差異を示唆しており、これはUGT1A1遺伝子多型などの薬理ゲノミクス的要因がイリノテカンの薬物動態と毒性に影響を与えるというこれまでの報告と一致する。

新規性: 本研究で初めて、複数の無作為化比較試験のデータを統合することで、IPレジメンがEPレジメンと比較して、血液学的毒性 (貧血、好中球減少、血小板減少) が有意に少ない一方で、消化器毒性 (嘔吐、下痢) が有意に多いという明確な毒性プロファイルの違いを定量的に示した。この知見は、IPとEPの選択において、有効性だけでなく患者の毒性プロファイルを考慮した個別化医療の重要性を強調する点で新規性がある。

臨床応用: 本結果は、IPレジメンがE-SCLCの一次治療においてEPレジメンの代替となりうることを支持する。特に、血液学的毒性がEPよりも少ないというIPの特性は、骨髄抑制に脆弱な患者や、より積極的な支持療法が必要となる患者において、臨床現場での治療選択に重要な含意を持つ。しかし、消化器毒性管理の重要性も同時に示唆される。NCCNガイドラインがIP療法を推奨していることを本メタアナリシスは支持するものの、人種による効果の違いが示唆されたため、患者の遺伝的背景を考慮した治療選択が将来的な臨床応用において重要となる可能性がある。

残された課題: 本メタアナリシスにはいくつかのlimitationが存在する。第一に、各試験におけるIPおよびEPの投与量、スケジュール、および使用されたプラチナ製剤 (シスプラチンまたはカルボプラチン) が不均一であったことである。第二に、個別患者データ (IPD) を用いた解析ではないため、患者背景因子 (例: 人種、UGT1A1遺伝子型、PS) と治療効果との交互作用を詳細に解析することは不可能であった。第三に、PFS解析データが限定的であり、OS改善とPFS非改善の乖離の理由を完全に説明できなかった点も今後の課題である。今後の検討課題として、進行中の試験の結果を統合したさらなるメタアナリシスや、個別患者データを用いた解析により、人種や遺伝子型に基づく治療層別化の有用性を検証することが挙げられる。また、近年、免疫チェックポイント阻害薬とEPの併用療法がE-SCLCの新たな標準治療として確立されつつあるため、IPと免疫チェックポイント阻害薬の併用療法の開発や、IP適応患者の遺伝子型による層別化が今後の研究方向性となる。

方法

2009年4月、PubMedデータベースおよびCochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) データベースを用いて電子検索を実施した。検索キーワードは「small cell lung cancer」または「small cell lung carcinoma」とし、「randomized controlled trial」に限定した。公開言語および年次制限は設けなかった。また、過去10年間の米国臨床腫瘍学会 (ASCO) および欧州臨床腫瘍学会 (ESMO) の年次総会抄録も検索対象とした。さらに、原著論文およびレビュー論文の参考文献リストも追加の試験を特定するために確認した。進行中の研究を特定するため、Physician Data QueryおよびClinicalTrials.gov (http://clinicaltrials.gov) も検索した。

試験の選択: イリノテカンとシスプラチンまたはカルボプラチンを組み合わせたIPレジメンと、エトポシドとシスプラチンまたはカルボプラチンを組み合わせたEPレジメンを比較した、未治療E-SCLC患者を対象とした無作為化第II相および第III相臨床試験を適格とした。患者は病理学的に確認されたSCLCであり、臨床的に進展型疾患と診断されている必要があった。公開および未公開の試験、全文および抄録を含めた。上記の包含基準を満たさない試験は除外された。本メタアナリシスには、NCT00168896およびNCT00349492などの進行中の試験は含まれなかった。

妥当性評価: Jadadらによって報告された方法を用いて、試験のオープン評価を実施した。これは、(1) 適切な無作為化方法が報告されているか (0-2点)、(2) 適切な盲検化方法が報告されているか (0-2点)、(3) 脱落者および中止が報告されているか (0-1点) の3つの質問に基づいて試験を評価した。各試験のJadadスコアはTable 1に示されている。

データ抽出: 全てのデータは、2名の独立した調査者 (J.J.およびL.H.) によって標準化されたデータ抽出フォームを用いて抽出された。意見の不一致は、独立した専門家 (X.L.) との議論によって解決された。各論文から、以下の情報が収集された:筆頭著者、出版年、Jadadらの方法による質スコア、研究期間、患者数、奏効評価に適格な患者数、パフォーマンスステータス、年齢中央値、化学療法レジメン、全奏効を達成した患者数、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) のハザード比 (HR) およびその95%信頼区間 (CI)、グレード3-4の貧血、好中球減少、血小板減少、嘔吐、下痢などの特定の毒性データ、および治療関連死。HRが直接報告されていない場合は、Parmarらの公開された方法論に基づいてKaplan-Meier曲線からlog HRと分散を推定した。

統計解析: 全奏効率の相対リスク (RR)、OSおよびPFSのHR、ならびに異なる種類の毒性のオッズ比 (OR) は、STATA SE 10.1パッケージ (StataCorp, College Station, TX) を用いて計算された。全奏効、OS、PFSについてはintention-to-treat (ITT) 解析が実施され、毒性については治療を受けた患者の解析が実施された。統計的検定はp値が0.05未満を有意とみなした。RRが1より大きい場合はIP群でより多くの全奏効を反映し、HRが1より大きい場合はIP群でより多くの死亡または進行を反映し、ORが1より大きい場合はIP群でより多くの毒性を示す。試験間の統計的異質性を調査するために、標準的なχ2 Q検定が適用された (p < 0.10で研究間の有意な差が示唆される)。異質性が認められない場合は固定効果モデルを、有意な異質性が認められる場合はより保守的な推定値が生成されるランダム効果モデルを採用した。全てのp値は両側検定であり、全てのCIは95%の両側確率カバレッジを有した。

出版バイアス: 出版バイアスの可能性を最小限に抑えるために、広範な検索戦略が採用された。さらに、ファンネルプロット、Begg検定 (p=1.000)、およびEgger検定 (p=0.588) によると、出版バイアスは認められなかった。