• 著者: Antonio Rossi, Massimo Di Maio, Paolo Chiodini, Robert L. Rudd, Lorenz Trigo, Timothy G. Wheatley, Sally Kamaluddin, Celia Bhagat, Christian Baize, François Moro-Sibilot, Giovanni Pappalardo, Fortunato Ciardiello
  • Corresponding author: Antonio Rossi (Division of Medical Oncology, S.G. Moscati Hospital, Avellino, Italy)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-04-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22473169

背景

小細胞肺癌 (SCLC: small-cell lung cancer) は全肺癌の約15%を占める極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、診断時には約70%がすでに進展型 (ED: extensive disease) として発見される。国際的な主要ガイドラインでは、SCLCの一次治療としてプラチナ製剤をベースとする2剤併用化学療法が標準治療として推奨されている。しかし、シスプラチン (CDDP) とカルボプラチン (CBDCA) のどちらがSCLCの一次治療において同等の有効性を持つかについては、長年にわたり臨床的議論の対象であり、その優劣は未解明な点が多かった。シスプラチンはより強力なアルキル化作用を持つと理論上考えられる一方、悪心・嘔吐、腎毒性、神経毒性といった非血液毒性が高いとされ、その投与には長時間の水分補給が必要となる。対照的に、カルボプラチンは骨髄抑制が強いものの、非血液毒性が少なく忍容性に優れるため、特に高齢者や全身状態 (PS: Performance Status) 不良例での使用が好まれる傾向にあった。

これまでに、卵巣癌などの一部の腫瘍ではカルボプラチンがシスプラチンに代わって使用されることを支持するランダム化比較試験 (RCT: Randomized Controlled Trial) が報告されているが、胚細胞腫瘍や頭頸部腫瘍ではシスプラチンが優れているとされる。非小細胞肺癌 (NSCLC) の一次治療におけるシスプラチンベースとカルボプラチンベースの化学療法を比較した複数のメタアナリシスでは、シスプラチンベースのレジメンが客観的奏効率 (ORR: Objective Response Rate) においてわずかに優れ、特定のサブグループでは全生存期間 (OS: Overall Survival) の延長も認められたが、毒性の有意な増加は伴わなかったことが示されている。これには Ardizzoni et al. JNatlCancerInst 2007 などの個別患者データ (IPD: Individual Patient Data) メタアナリシスが存在する。しかし、SCLCにおいては、両プラチナ製剤を直接比較した個々のRCTは検出力が不十分であり、どちらが優れているかについて明確な結論は得られていなかった。このため、個々の試験では検出困難な差異を検出する最も信頼性の高い手法であるIPDに基づくメタアナリシスが必要とされていた。SCLCの疫学は過去30年間で変化していることも Govindan et al. JClinOncol 2006 により報告されており、現代的な治療選択においてプラチナ製剤の最適な選択は重要な課題が残されている状態であった。このように、生存ベネフィットを損なうことなく毒性を軽減できる最適なプラチナ製剤の選択基準に関するエビデンスが不足していた。

目的

本 COCIS (Carboplatin Or CISplatin) メタアナリシスは、SCLC一次治療においてシスプラチンベースとカルボプラチンベースの化学療法を直接比較したランダム化比較試験の個別患者データを統合し、主要エンドポイントである全生存期間 (OS) および副次エンドポイントである無増悪生存期間 (PFS: Progression-Free Survival)、客観的奏効率 (ORR)、ならびに治療関連毒性を比較することにより、両プラチナ製剤の優劣を最高レベルのエビデンスで検証することを目的とする。また、性別、病期、全身状態 (ECOG Performance Status: PS)、年齢といった患者特性に基づくサブグループ解析を実施し、治療効果の異質性を評価することも目的とした。

結果

患者特性と試験の概要: 本メタアナリシスには、スイス (Joss et al. 1995)、ギリシャ (Skarlos et al. 1994)、日本 (Okamoto et al. BrJCancer 2007)、英国 (Lee et al. 2009) で実施された4つのランダム化比較試験から合計663名の患者が組み入れられた (シスプラチン群 n=328, カルボプラチン群 n=335)。患者のベースライン特性は両群間でバランスが取れていた (Table 2)。中央値年齢は67歳 (範囲27-86歳) であり、約78%が男性であった。全身状態 (ECOG PS) は0または1の患者が約72%を占めた。組み入れられた試験のうち、日本の試験とスイスの試験は進展型SCLCに限定されており、英国の試験はPS不良またはALP高値の限局型患者も組み入れた。ギリシャの試験のみが予後に関わらず限局型患者を組み入れた。限局型患者を組み入れた2つの試験では、胸部放射線療法が123名 (32.1%) に施行され、両治療群間で同様の割合であった (シスプラチン群34.2% vs カルボプラチン群30.1%)。予防的全脳照射も23.0%の患者に施行され、両群間で同様の割合であった (シスプラチン群23.3% vs カルボプラチン群22.8%)。中央値フォローアップ期間は31.9ヶ月と算出された (シスプラチン群29.4ヶ月 vs カルボプラチン群31.9ヶ月)。スイスの試験 (Joss et al. 1995) は、シスプラチン群が7種類の薬剤を含む交互投与レジメンであったのに対し、カルボプラチン群はカルボプラチンとテニポシドの併用であり、他の試験とは治療内容に大きな差異があった (Table 1)。

全生存期間 (OS) の有意差なし: 全患者において、589件の死亡が記録された (89%)。中央値OSはシスプラチン群 9.6 months vs カルボプラチン群 9.4 months であった。ハザード比 (HR) は 1.08 (95% CI 0.92-1.27, p=0.37) であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった (Figure 1A)。6ヶ月生存率はシスプラチン群75.3% vs カルボプラチン群72.7%であり、1年生存率はそれぞれ36.2% vs 35.0%であった。OSの治療効果には試験間で異質性が認められた (p=0.062) が、これはスイスの試験 (Joss et al. 1995) が高いHR値 (HR 1.95; 95% CI 0.99-3.83) を示したことに起因すると考えられた (Figure 2A)。このスイスの試験を除外した感度分析では、異質性は消失し (p=0.801)、HRは 1.01 (95% CI 0.85-1.19, p=0.94) となった。

無増悪生存期間 (PFS) の同等性: 全患者において、618件の病勢進行が記録された (93%)。中央値PFSはシスプラチン群 5.5 months vs カルボプラチン群 5.3 months であった。HRは 1.10 (95% CI 0.94-1.29, p=0.25) であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった (Figure 1B)。6ヶ月PFSはシスプラチン群45.4% vs カルボプラチン群40.8%であり、1年PFSはそれぞれ16.0% vs 12.2%であった。PFSの治療効果にも統計学的に有意な異質性が認められた (p<0.001) が、これもスイスの試験 (Joss et al. 1995) が高いHR値 (HR 2.02; 95% CI 1.06-3.86) を示したことに起因すると考えられた (Figure 2B)。このスイスの試験を除外した感度分析では、異質性は消失し (p=0.477)、HRは 1.00 (95% CI 0.85-1.19, p=0.95) となった。

客観的奏効率 (ORR) の比較: ORRはシスプラチン群67.1% (220/328; 95% CI 61.8-71.9%) vs カルボプラチン群66.0% (221/335; 95% CI 60.7-70.8%) であった。相対リスク (RR) は 0.98 (95% CI 0.84-1.16, p=0.83) であり、両群間でORRに有意な差は認められなかった。ORRについても異質性が認められた (p=0.035) が、スイスの試験を除外すると異質性は消失した (p=0.611)。

サブグループ解析と年齢による交互作用: 性別、病期 (限局型 vs 進展型)、全身状態 (PS 0-1 vs 2-3) による層別解析のいずれにおいても、治療群間に統計学的に有意な交互作用は認められず、特定のサブグループにおける一方の優越性は示されなかった (Figure 3A, 3B)。しかし、年齢によるサブグループ解析では有意な交互作用が認められ (p=0.046)、若年患者 (<70歳) ではシスプラチンベースの治療が、高齢患者 (≥70歳) ではカルボプラチンベースの治療がそれぞれ有利となる傾向が示唆された (Figure 3B)。

血液毒性と非血液毒性のプロファイル差異: 合計655名の患者が毒性解析に含まれた (Table 3)。血液毒性、特にグレード3-5の好中球減少、貧血、血小板減少はカルボプラチン群で有意に高率に認められた。重度好中球減少はカルボプラチン群73% vs シスプラチン群64% (OR 1.74; 95% CI 1.07-2.83; p=0.021) であった。重度貧血はカルボプラチン群25% vs シスプラチン群16% (OR 1.73; 95% CI 1.12-2.89; p=0.011) であった。重度血小板減少はカルボプラチン群42% vs シスプラチン群14% (OR 3.78; 95% CI 2.86-7.19; p<0.001) と、カルボプラチン群で約3.8倍高率であった。一方、非血液毒性、特に悪心・嘔吐、神経毒性、腎毒性はシスプラチン群で有意に高率に認められた (Table 3)。いずれかのグレードの悪心・嘔吐はシスプラチン群72% vs カルボプラチン群63% (OR 0.66; 95% CI 0.47-0.93; p=0.013) であった。いずれかのグレードの神経毒性はシスプラチン群19% vs カルボプラチン群7% (OR 0.29; 95% CI 0.14-0.58; p<0.001) と、シスプラチン群で約3.4倍高率であった。いずれかのグレードの腎毒性はシスプラチン群25% vs カルボプラチン群10% (OR 0.34; 95% CI 0.19-0.61; p<0.001) と、シスプラチン群で約2.9倍高率であった。治療関連死はシスプラチン群で1.9% vs カルボプラチン群で1.5%であり、両群間に有意差は認められなかった (OR 0.80; 95% CI 0.19-3.18; p=0.769)。

考察/結論

本 COCIS 個別患者データメタアナリシスは、SCLC一次治療においてシスプラチンベースとカルボプラチンベースの化学療法の有効性 (OS、PFS、ORR) が同等であることを最高レベルのエビデンスで示した。

先行研究との違い: これまでのメタアナリシスは主に非小細胞肺癌を対象としており、SCLCにおける両プラチナ製剤の比較は個々の試験の検出力不足により結論が不明であった。また、本研究は、文献データに基づくメタアナリシスと異なり、個別患者データを統合したことで、ランダム化の信頼性検証、データ品質チェック、元の解析の再現、および患者アウトカムの更新が可能となり、より確実な結論を導き出すことができた。特に、OSのHRの上限95% CIが1.27であったが、異質性の原因であったスイスの試験を除外すると1.19となり、カルボプラチンによる死亡リスクがシスプラチンより20%以上悪いという可能性を排除できることが示された。

新規性: 本研究は、SCLCの一次治療におけるシスプラチンとカルボプラチンの有効性を比較した、利用可能な全てのランダム化比較試験の個別患者データを収集した本研究で初めての、そして唯一のメタアナリシスである。この包括的なアプローチにより、両プラチナ製剤の有効性の同等性が最高レベルのエビデンスで新規に確立された。

臨床応用: 本知見は、SCLC患者の一次治療におけるプラチナ製剤の選択において、有効性の観点からは両者が同等であることを示唆する。したがって、患者の年齢、臓器機能、併存疾患、および期待される毒性プロファイルを考慮した個別化された治療選択が臨床現場で可能となる。特に、腎機能低下、難聴、神経障害のリスクが高い患者においては、非血液毒性が少ないカルボプラチンを選択することの妥当性が強く支持される。実際、その後の IMpower133 試験 (アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド) や CASSIOPEIA (durvalumab + platinum + etoposide) 試験といった免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた現代的レジメンにおいてカルボプラチンが使用された背景には、本メタアナリシスによるエビデンスが存在する。

残された課題: 本メタアナリシスにはいくつかの limitation も存在する。試験間の治療スケジュール、特に併用薬や放射線療法の有無、プラチナ製剤の用量設定に違いがあった。特にスイスの試験では、シスプラチン群が7種類の薬剤を含む交互投与レジメンであったのに対し、カルボプラチン群はカルボプラチンとテニポシドの併用であり、治療強度の大きな差が異質性の原因となった可能性がある。また、限局型SCLC患者のサブグループ解析については、本メタアナリシスに含まれる限局型患者の多くが進行した病態や予後不良因子を有していたため、明確な結論を導き出すにはデータが不足している。今後の検討課題としては、免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた現代的レジメンにおけるプラチナ製剤選択の影響や、特定のバイオマーカーに基づくプラチナ製剤の個別化選択の可能性についての研究が挙げられる。

方法

本メタアナリシスは COCIS (Carboplatin Or CISplatin) メタアナリシスとして実施された。2008年12月および2009年6月に更新された系統的文献検索により、SCLCの一次治療においてシスプラチン含有化学療法とカルボプラチン含有化学療法を比較した、公開済みおよび未公開の全てのランダム化比較試験が特定された。検索は PubMedEMBASEMEDLINE、および Cochrane Database を用いて行われ、主要な国際会議 (米国臨床腫瘍学会、欧州臨床腫瘍学会、欧州癌会議、世界肺癌学会) の議事録も2005年以降について検索された。キーワードには「small cell lung carcinoma」、「carboplatin」、「cisplatin」、「randomized trial」が使用された。

特定された9報の論文のうち、重複データ、非ランダム化試験、ランダム化第II相非比較試験、または計画的なクロスオーバー試験を理由に5報が除外された。最終的に、スイス、ギリシャ、日本、英国で実施された4つの適格な random assignment による第III相ランダム化比較試験 (phase III RCT) から個別患者データ (IPD) が収集された。収集されたデータには、患者識別子、生年月日、性別、病期 (限局型/進展型)、転移部位数、全身状態 (PS)、ベースラインの検査値 (乳酸脱水素酵素、アルカリホスファターゼ、アルブミン、ヘモグロビン、血小板、白血球数、好中球数など)、割り付けられた治療、ランダム化日、胸部放射線療法および予防的全脳照射の有無、ならびに各毒性の最悪グレード、客観的奏効、病勢進行日、生存状態、死亡日/最終フォローアップ日などが含まれた。解析前に、各試験のデータは元の論文との整合性が慎重に確認され、データベースの品質は良好であることが確認された。

全ての解析は intention-to-treat (ITT) 原則に基づき、試験ごとに層別化して実施された。全ての検定は両側検定であった。主要エンドポイント (primary endpoint) はOSであり、ランダム化日から死亡日または最終フォローアップ日までの期間と定義された。OS曲線は Kaplan-Meier 法を用いて推定され、層別 log-rank test により比較された。中央値フォローアップ期間は Schemper and Smith 法により算出された。治療効果の異質性は、試験固有の治療効果推定値を持つモデルと全体的な治療効果推定値を持つモデルの尤度比検定により評価された。この統計量は、異質性がないという帰無仮説の下で、J-1 (Jは試験の総数) 自由度のχ2分布に近似的に従う。

副次エンドポイントはPFS、ORR、および治療関連毒性であった。PFSはランダム化日から病勢進行日、または病勢進行のない患者の死亡日、または最終フォローアップ日までの期間と定義され、OSと同様の解析が行われた。ORRは完全奏効または部分奏効を達成した患者を奏効者とし、層別 Mantel-Haenszel χ2検定により比較された。試験間の治療効果の差は Breslow-Day 検定を用いて検出された。

毒性変数は「いずれかのグレード (グレード1-5) 対 毒性なし」および「重度 (グレード3-5) 対 毒性なし/軽度 (グレード0-2)」に二値化された。毒性発生率は層別正確検定により比較され、Zelen の正確検定を用いて試験間の毒性効果の差が検出された。プールされたオッズ比 (OR: Odds Ratio) と95%信頼区間 (CI: Confidence Interval) は正確法により推定された。統計解析には S-PLUS (statistical analysis software) 6.0 Professional、SAS 9.2、SigmaPlot 8.0 for Windows、R 2.13、および StatXact 7 ソフトウェアパッケージが使用された。