• 著者: Derks JL, van Suylen RJ, Thunnissen E, den Bakker MA, Groen HJM, Smit EF, Damhuis R, Buikhuisen WA, Speel EJM, Dingemans AMC
  • Corresponding author: A.-M.C. Dingemans (Maastricht University Medical Centre, Maastricht, The Netherlands)
  • 雑誌: European Respiratory Journal
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-02-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28572122

背景

肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) は稀な肺癌サブタイプであり、その最適な全身治療は確立されていない。現在の欧州臨床腫瘍学会 (ESMO) ガイドラインではLCNECに対する特定の治療法は記載されておらず、米国臨床腫瘍学会 (ASCO) ガイドラインでは、小細胞肺癌 (SCLC) 型のプラチナ-エトポシド化学療法、または非小細胞肺癌 (NSCLC) 型化学療法のいずれかが推奨されているが、専門家の意見ではSCLC型化学療法がより適切であるとされていた。

LCNECのゲノムプロファイルがSCLCと類似しているという報告 (George et al. Nature 2015) や、予後および転移パターンがSCLCと重複するという報告 (Derks et al. EurRespirJ 2016) は、LCNECがSCLC型治療に最もよく反応することを示唆していた。しかし、LCNECとSCLCではSCLC型化学療法に対する反応に重要な違いが報告されている。例えば、LCNECを対象とした2つの第II相試験 (LeTreut et al. AnnOncol 2013Niho et al. JThoracOncol 2013) では、プラチナ-エトポシドまたはイリノテカン併用療法における客観的奏効率 (ORR) が31%から47%と報告されており、SCLCの第III相試験で報告されたエトポシド-シスプラチン併用療法のORR約66%と比較して有意に低かった (Rossi et al. JClinOncol 2012)。このSCLC型化学療法に対するLCNECの抵抗性が高いという報告から、一部の臨床医はNSCLC型化学療法を支持していた。

さらに、LCNECの病理診断はNSCLCやSCLCと重複するため困難であり、診断の不均一性が治療成績の評価を複雑にしていた。小規模な後方視的研究ではSCLC型とNSCLC型化学療法の優劣に関して相反する結果が報告されており、大規模な集団ベースのデータを用いた検証が不足していた。特に、ペメトレキセド含有レジメン (NSCLC-PEM) は、LCNECで報告されているチミジル酸合成酵素 (TS) の高発現により抵抗性が懸念されていたが、その効果を大規模コホートで検証した研究はこれまで報告されておらず、治療選択における重要なギャップが残されていた。

目的

本研究は、オランダ癌登録 (NCR) およびオランダ病理登録 (PALGA) の集団ベースデータを用いて、2003年から2012年の間にStage IV LCNECと診断され化学療法を受けた患者を対象に、NSCLC型化学療法 (NSCLC-t、主にゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビノレルビンを含む)、ペメトレキセドを含むNSCLC型化学療法 (NSCLC-pt)、およびエトポシドを含むSCLC型化学療法 (SCLC-t) の各レジメンにおける全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) を比較することを目的とした。また、3名の専門病理医によるパネルコンセンサス診断でLCNECと確定された症例に限定して解析を行うことで、診断精度の向上が治療成績の比較に与える影響を検討することも目的とした。

結果

パネル病理診断によるLCNECの再分類: 207例のLCNEC疑い患者のうち、パネルレビューによりLCNECと確定診断されたのは128例 (62%) であった。残りの症例はSCLC 27例 (13%)、NSCLC 16例 (8%)、その他36例 (17%) に再分類された。この結果は、LCNECの診断における病理レビューの重要性を示唆するものであり、パネル確定LCNECに限定した解析が最も信頼性の高い結果をもたらすと考えられた (Figure 1)。

パネル確定LCNEC患者における化学療法レジメン別の全生存期間 (OS): パネル確定LCNEC患者128例において、NSCLC-t化学療法 (n=60) を受けた患者のOS中央値は8.5ヶ月 (95% CI 7.0-9.9ヶ月) であった。これはNSCLC-pt化学療法 (n=20) を受けた患者のOS中央値5.9ヶ月 (95% CI 5.0-6.9ヶ月) と比較して有意に長く (ハザード比 (HR) 2.51, 95% CI 1.39-4.52; p=0.002)、SCLC-t化学療法 (n=48) を受けた患者のOS中央値6.7ヶ月 (95% CI 5.0-8.5ヶ月) と比較しても有意に長かった (HR 1.66, 95% CI 1.08-2.56; p=0.020) (Figure 2a, Figure 3)。多変量解析においてもこれらの結果は維持され、NSCLC-t化学療法がNSCLC-ptおよびSCLC-t化学療法と比較して優れたOSを示すことが確認された。

化学療法サブタイプ別の全生存期間 (OS): NSCLC-t群の内訳では、プラチナ-ゲムシタビン療法を受けた患者 (n=46) のOS中央値は7.8ヶ月 (95% CI 5.9-9.6ヶ月) であり、プラチナ-ペメトレキセド療法 (OS中央値5.9ヶ月; p=0.019) およびプラチナ-エトポシド療法 (OS中央値6.7ヶ月; p=0.035) と比較して有意に長かった (Figure 2b)。多変量解析では、プラチナ-ゲムシタビン療法はプラチナ-ペメトレキセド療法に対して優れたOSを示し (HR 2.39, 95% CI 1.31-4.35; p=0.004)、プラチナ-エトポシド療法に対しても強い傾向が観察された (HR 1.54, 95% CI 0.97-2.43; p=0.066) (Figure 3)。プラチナ-パクリタキセル療法を受けた患者 (n=7) のOS中央値は8.7ヶ月 (95% CI 2.7-14.7ヶ月) であり、プラチナ-ペメトレキセド療法より有意に長く (p=0.034)、プラチナ-エトポシド療法に対しても強い傾向が観察された (p=0.057) (Figure 2b)。多変量解析では、パクリタキセルはペメトレキセド化学療法と比較して優れたOSを示し (HR 4.04, 95% CI 1.46-11.22; p=0.007)、エトポシド化学療法と比較しても有意な優位性を示した (HR 2.60, 95% CI 1.07-6.35; p=0.035)。

パネル確定LCNEC患者における無増悪生存期間 (PFS): PFSデータが利用可能であった119例において、NSCLC-t化学療法を受けた患者のPFS中央値は4.7ヶ月 (95% CI 4.2-5.3ヶ月) であった。NSCLC-pt化学療法を受けた患者のPFS中央値は4.1ヶ月 (95% CI 3.8-4.5ヶ月) であり、NSCLC-t化学療法と比較して有意に悪かった (p=0.040) (Figure 4a)。特にゲムシタビン化学療法を受けた患者のPFS中央値は5.2ヶ月 (95% CI 4.1-6.2ヶ月) であり、NSCLC-pt化学療法と比較して有意に長かった (p=0.034) (Figure 4b)。他の特定の化学療法サブタイプ間のPFSに有意差は認められなかった。

人口ベースの化学療法治療の経時的変化: 294例の患者において化学療法治療を解析した結果、LCNECに対するNSCLC-t化学療法治療は2003-2009年の59%から2010-2012年には31%へと有意に減少した (p < 0.001)。一方、SCLC-t化学療法は同時期に31%から53%へと増加した (p=0.002)。NSCLC-pt化学療法は10%から16%に増加したが、統計的に有意ではなかった (p=0.29)。

患者背景と治療プロファイル: パネル確定LCNEC患者128例のOS中央値は7.3ヶ月 (95% CI 6.3-8.2ヶ月) であった。患者の59%が男性で、中央年齢は65歳 (IQR 56-71歳) であった (Table 1)。転移部位としては肝臓 (53%)、骨 (27%)、非縦隔リンパ節 (22%) が最も一般的であった。単一臓器転移の患者は48%であった。化学療法は62%の患者で4サイクル以上投与され、中央値は4サイクル (IQR 2-4サイクル) であった。セカンドライン化学療法は23%の患者に投与された。NSCLC-t化学療法は46%の患者に投与され、そのうち76%がプラチナ-ゲムシタビン療法であった。NSCLC-pt化学療法は16%、SCLC-t化学療法は38%の患者に投与された。

考察/結論

本研究は、オランダの全国レジストリデータを用いた集団ベース解析として、パネル病理確認された転移性LCNEC患者において、NSCLC型化学療法、特にプラチナ-ゲムシタビン療法が、プラチナ-ペメトレキセド療法およびプラチナ-エトポシド療法と比較して有意に優れた全生存期間および無増悪生存期間をもたらすことを大規模に実証した点で新規性がある。この結果は、ASCOガイドラインで推奨されるSCLC型治療とは対照的である。

先行研究との違い: 過去の小規模な後方視的研究では、SCLC型とNSCLC型化学療法の優劣に関して相反する結果が報告されていた (Naidoo et al. ClinLungCancer 2016、Sun et al. Lung Cancer 2012)。本研究は、3名の専門病理医によるパネルレビューでLCNEC診断を厳格に確定した大規模コホートを用いることで、これらの先行研究とは異なり、NSCLC-t化学療法の優位性を明確に示した。特に、ペメトレキセドの劣位性は、LCNECにおけるチミジル酸合成酵素 (TS) の高発現がペメトレキセド抵抗性に関連するという既報の知見 (Monica et al. Clin Cancer Res 2009) と一致しており、LCNECに対するペメトレキセドの使用を避けるべきという実践的な臨床的含意を持つ。

新規性: 本研究で初めて、オランダにおけるLCNECの治療傾向が2003年から2012年の間にNSCLC-t化学療法からSCLC-t化学療法へと有意に変化したことを示した。これは、2014年のオランダの呼吸器内科医21名を対象としたアンケート調査で、医師の80%がLCNECをSCLC化学療法で治療すると回答したことと一致する。この治療傾向の変化は、2005年にLCNECがSCLC型化学療法に良好な反応を示すと報告された研究 (Rossi et al. J Clin Oncol 2005) の影響を受けた可能性が考えられる。

臨床応用: 本研究の結果は、転移性LCNECの治療選択において、NSCLC型化学療法、特にゲムシタビンベースのレジメンを優先すべきであるという強力な根拠を臨床現場に提供する。これは、LCNECの治療戦略を再考する上で重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 本研究は後方視的デザインであり、化学療法データが全ての患者で取得できなかったこと、WHOパフォーマンスステータス情報が欠如していたこと、および無作為化されていないことがlimitationとして挙げられる。また、LCNECの分子サブタイプ (例えば、Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016で報告されたSCLC-likeとNSCLC-likeサブセット) が治療反応に与える影響については解析できていない。SCLC-t群でNSCLC-t群よりも短いOSが観察された背景には、SCLC-tが選択されたLCNEC症例がSCLC-like分子サブタイプ (TP53+RB1変異) に偏っていた可能性があり、分子サブタイプを考慮した前向き試験の必要性が今後の検討課題として残されている。これらの結果は、中央病理確認されたLCNEC患者を対象とした無作為化比較試験で前向きに評価される必要がある。

方法

本研究は、オランダ癌登録 (NCR) とオランダ病理登録 (PALGA、オランダの全国病理登録) からデータを抽出した後方視的集団ベース研究である。2003年1月1日から2012年12月31日までにStage IV LCNECとして登録された患者を対象とした。化学療法を受けた患者294例のうち、組織スライドが利用可能であった207例を抽出した。これらのスライドは、臨床転帰および元の診断について盲検化された3名の専門病理医 (E. Thunnissen、R. van Sulyen、M. den Bakker) によるパネルレビューに供された。LCNECの診断は、少なくとも2名の病理医が合意した場合に「パネルコンセンサスLCNEC」として確定された。

初回治療のプラチナ製剤ベースの併用化学療法は以下の3つのグループに分類された。

  1. NSCLC型化学療法 (NSCLC-t): ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、またはビノレルビンを含むレジメン。
  2. ペメトレキセドNSCLC型化学療法 (NSCLC-pt): ペメトレキセドのみを含むレジメン。
  3. SCLC型化学療法 (SCLC-t): エトポシドを含むレジメン。 プラチナ製剤はシスプラチンまたはカルボプラチンであった。

OSは診断日から死亡または最終追跡調査日まで、PFSは診断日から最初の病勢進行、死亡、または最終追跡調査日までと定義された。OSおよびPFSの推定にはKaplan-Meier法を用い、ログランク検定で比較した。多変量Cox回帰分析は、単変量解析で有意であった共変量 (性別、年齢、肝転移、診断時の転移臓器数) を含めて実施された。統計解析にはSPSS (バージョン22) が使用され、両側p値<0.05を有意と判断した。