- 著者: Natasha B. Leighl
- Corresponding author: Natasha B. Leighl (Princess Margaret Cancer Centre, University Health Network, Toronto, ON, Canada)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-03-23
- Article種別: Editorial
- PMID: 25870089
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は肺癌全体の約14%を占めるが、その予後は極めて不良であり、特に進展型SCLC (ES-SCLC) の5年全生存率は3%未満と推定されている。これは非小細胞肺癌 (NSCLC) の21%と比較して著しく低い数値である (American Cancer Society 2015, SEER Cancer Statistics Review 2014)。1970年代以降、北米ではSCLCの発生率が肺癌全体の17%から13%に減少したことが報告されているが、これは喫煙習慣の変化に一部起因すると考えられている (Govindan et al. JClinOncol 2006)。しかし、SCLCは依然として世界中で年間20万件以上の新規症例が発生し、診断後1〜2年以内に最大90%の患者が死亡するなど、依然として大きな負担となっている。
SCLCの標準全身療法は数十年間変化がなく、エトポシド-プラチナ (EP) 療法が限局型および進展型SCLCの両方で標準治療として維持されてきた (Rossi et al. JClinOncol 2012)。進展型SCLCでは、イリノテカン-プラチナ (IP) 療法も代替療法として受け入れられており、特に日本では標準治療とされている (Noda et al. NEnglJMed 2002, Hanna et al. JClinOncol 2006, Lara et al. JClinOncol 2009)。奏効患者に対する予防的全脳照射 (PCI) は、多くの研究で生存期間の改善をもたらしており (Slotman et al. NEnglJMed 2007)、最近の報告では、進展型SCLCの奏効患者に対する胸部放射線療法も生存期間を延長する可能性が示唆されている (Slotman et al. Lancet 2015)。再発後の二次治療では、奏効率が20%から30%であり、臨床試験における中央生存期間は6ヶ月から8ヶ月である (vonPawel et al. JClinOncol 1999)。シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン (CAV)、トポテカン、そして最近ではアムルビシンが二次治療の選択肢として挙げられる。
初回プラチナベース化学療法 (CDDP/CBDCA + エトポシド) の奏効率は60-70%と高いものの、急速に再発して治療抵抗性を獲得する特性があり、1980年代以来30年以上にわたって生存改善をもたらす新規治療が乏しかった領域である。初回化学療法後の維持療法 (maintenance therapy) は、非小細胞肺癌 (NSCLC) ではペメトレキセドやベバシズマブで確立されているが、SCLCでは複数の維持療法 (インターフェロン、トポテカン、EGFR阻害薬等) が第III相で失敗してきた。SCLCにおける治療開発は、進歩の欠如が投資と熱意の不足を招き、疾患の急速な進行により臨床試験に参加できる患者が少ないという課題を抱えている。約100種類の薬剤が現在肺癌で開発中であるが、SCLCで研究されているのはそのごく一部に過ぎない。このような状況下で、CALGB 30504試験は、ES-SCLCに対する初回PE化学療法後の維持療法として経口多標的TKI (VEGFR、PDGFR、KIT、FLT3標的) スニチニブをプラセボと比較した第II相プラセボ対照ランダム化試験であり、SCLC史上初めて有意なPFS延長を示した維持療法の報告となった。本論説は、CALGB 30504の結果を批判的に評価し、SCLC治療におけるスニチニブの位置付けと今後の展望を論じたものである。SCLCの治療において、特異的なドライバー遺伝子変異の同定が困難である点が、NSCLCとは対照的に、標的療法の開発を未開拓な領域としてきた。TP53とRB1の広範な不活性化、MYC増幅、VEGF、EGFR、KITなどの複数のタンパク質の高発現はよく知られているが、これらの知見を効果的な治療に結びつけることは依然として不足している。
目的
本論説の目的は、CALGB 30504試験の結果を背景に、進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) の初回治療後の維持療法としてのスニチニブの臨床的意義、位置付け、および限界を批判的に論じることである。さらに、SCLC治療における抗血管新生療法およびその他の新規治療戦略の今後の展望と、治療開発における残された課題について考察することを目的とする。具体的には、過去の抗血管新生療法の失敗例を踏まえ、スニチニブのPFS改善がOS改善に繋がらなかった理由、毒性プロファイル、バイオマーカーの必要性、および免疫チェックポイント阻害薬の台頭といった文脈の中で、スニチニブのSCLC治療における最適な役割を評価する。
結果
本論説は論説であるため、新たな実験結果は提示されていない。著者が言及する主要な試験結果と論点は以下である。
CALGB 30504試験の主要結果: CALGB 30504試験は、未治療の進展型SCLC患者144例を対象とした第II相プラセボ対照ランダム化試験である。患者は4-6サイクルのEP療法後に病勢制御が得られた症例をプラセボ群とスニチニブ37.5 mg/日経口維持群に1:1でランダム化された。主要評価項目は維持療法からの無増悪生存期間 (PFS) であった。結果として、スニチニブ群はプラセボ群に対してPFSで有意な延長を示した (中央PFS 3.7ヶ月 vs 2.1ヶ月、HR 1.62、95% CI 1.02-2.60、p=0.022)。副次評価項目である全生存期間 (OS) は、中央9.0ヶ月 vs 6.9ヶ月 (HR 1.28、95% CI 0.79-2.10、p=0.16) であったが、統計的有意差には到達しなかった。維持療法中の奏効率 (ORR) は、スニチニブ群で10.4% (完全奏効7%を含む) であったのに対し、プラセボ群では2.9%であり、スニチニブ群で優位な傾向が認められた。
SCLC治療開発の歴史と抗血管新生療法の文脈: 著者は、SCLC史上、初回治療後の維持療法で有意なPFS延長を示したのはCALGB 30504試験が初めてである点を強調している。過去には、ベバシズマブ (SALUTE試験) がEP化学療法への追加でPFS改善を示したが、OS延長は認められなかった。フランスのIFCT-0802試験の中間解析でもベバシズマブの追加による改善は認められず、試験は中止された。アフリベルセプト (SWOG S0802試験) も二次治療のトポテカンに追加することで3ヶ月PFSの改善を示したが、OS改善はなく毒性が増加した。バンデタニブの維持療法試験 (NCIC Clinical Trials Group Study BR.20) は全体として陰性結果であり、低用量バンデタニブをEPと併用したHoosier Oncology Group LUN06-113試験も奏効率、病勢進行までの期間、生存期間の有意な改善を示さなかった。これらの過去の失敗例は、SCLCにおける抗血管新生療法の開発が困難であったことを示している。
スニチニブの毒性プロファイル: CALGB 30504試験では、スニチニブ群でGrade 3-4の有害事象が高頻度で報告された。具体的には、疲労、好中球減少、血小板減少、皮膚・粘膜毒性、高血圧がそれぞれ20-30%の患者で認められた。維持療法中の線量減量率は37%、早期中止率も25%と高く、忍容性は必ずしも良好ではなかったことが示唆される。この毒性プロファイルは、実臨床でのスニチニブの適用において慎重な評価が必要であることを示している。
SCLCの分子生物学的特性と標的療法の課題: SCLCはこれまで表現型的に均一な疾患と考えられてきたが、複数の共存するゲノム異常が特徴である。NSCLCとは対照的に、SCLCにおいて特定の癌遺伝子依存性を特定することが主要な課題であった。TP53およびRB1の広範な不活性化、MYC増幅、VEGF、EGFR、KITなどの複数のタンパク質の高発現がよく報告されている (Peifer et al. NatGenet 2012, Rudin et al. NatGenet 2012)。さらなるゲノムシーケンスにより、PTEN変異、FGFR1、SOX2、EGFR増幅、新規RLF-MYC1融合、ヒストン修飾遺伝子、KRAS、BRAF、MET、FGFR2、JAK3、PIK3CAなどの低頻度の異常が同定されている。これらの知見は、SCLCが単一の疾患として扱われるべきか、あるいはサブタイプに分類して治療戦略を立てるべきかという疑問を提起している。
今後の試験デザインに関する論点: Ready et al. (2015) は、CALGB 30504試験の結果に基づき、OSを主要評価項目とする大規模な第II相ランダム化試験の実施を提案している。しかし、本論説では、初期試験のサンプルサイズが小さいことを考慮すると、このデザインが適切であるか、あるいは維持スニチニブが生存期間を改善するかどうかを決定的に回答するために、十分な統計的検出力を持つ第III相試験に進むべきかという疑問を投げかけている。また、成功のハードルが低い進展型SCLCのみを研究対象とすべきか、あるいは限局型と進展型の両方を含めることで研究対象集団を増やし、患者登録を加速すべきかについても議論されている。スニチニブの用量設定も課題であり、半数の患者が用量減量を必要としたことから、次期試験では37.5 mgではなく25 mg/日を使用すべきかという提案もなされている。さらに、スニチニブの潜在的な標的を特定するためのバイオマーカーの必要性が強調されている。CALGB 30504試験ではバイオマーカーデータが報告されていないため、どのバイオマーカーがさらなる研究の最良の候補であるかを特定することはできない。腫瘍のVEGFまたは他のタンパク質発現、ゲノム異常、あるいは遺伝子多型や腫瘍マイクロRNAレベルなどのスニチニブの利益を予測する可能性のある他の因子によって患者を選択すべきかという問いが提示されている。
考察/結論
本論説は、CALGB 30504試験 (Ready NE et al., JCO 2015) の結果を踏まえ、SCLC初回化学療法後の維持療法としてのスニチニブの意義と限界を批判的に論じたものである。PFS HR 1.62 (95% CI 1.02-2.60、p=0.022) でスニチニブが有意にPFSを延長した事実は、SCLC治療開発史上、維持療法で初めてのポジティブ結果として歴史的意義を持つ。この結果は、SCLCにおける抗血管新生療法の可能性を示唆するものであった。
先行研究との違い: これまでのSCLCにおける抗血管新生療法は、ベバシズマブ、アフリベルセプト、バンデタニブなど多くの薬剤がPFS改善を示してもOS改善には至らず、毒性増加が問題となることが多かった。CALGB 30504試験もPFS延長は達成したものの、OS HR 1.28 (95% CI 0.79-2.10、p=0.16) で有意差に到達しなかった点は、過去の抗血管新生療法の結果と対照的ではない。このことは、SCLCの生物学的特性が、単一の抗血管新生療法ではOSに大きな影響を与えにくいことを示唆している。
新規性: 本研究で初めて、スニチニブがSCLCの維持療法としてPFSを統計学的に有意に延長する可能性を示したことは新規性がある。これは、SCLCの治療において、初回化学療法後の維持療法が有効である可能性を示唆する最初の明確なシグナルであった。しかし、その臨床的意義はOS延長の欠如と毒性プロファイルによって限定される。
臨床応用: スニチニブの毒性プロファイルの厳しさ (Grade ≥3の疲労、好中球減少、血小板減少が各20-30%)、線量減量37%、早期中止25%という忍容性の課題は、実臨床適用への障壁として残る。PFS延長がOS延長に結びつかない典型的パターンであり、維持療法の臨床的意義 (患者QOL・治療期間) を慎重に評価すべきである。本知見は、SCLCの維持療法における抗血管新生療法の役割を再評価する上で重要な臨床的含意を持つ。しかし、本論説発表後数年で、SCLC治療開発の主流は免疫チェックポイント阻害薬併用 (IMpower133、CASPIAN試験) に移行し、アテゾリズマブ/デュルバルマブ+EP併用維持がED-SCLCの標準治療となった。このため、スニチニブ単独維持は大規模第III相試験で検証されることなく、SCLC治療の主流から外れた。
残された課題: 今後の検討課題として、CALGB 30504試験のサンプルサイズが小さい (n=144) ため、最終結論には大規模第III相試験が必要である。また、抗血管新生の作用機序特異的バイオマーカー (VEGF、VEGFR発現、循環血管内皮細胞など) による患者選別が必要である。SCLCの遺伝子変異プロファイル (TP53、RB1、MYCファミリー増幅) からは、抗血管新生よりDNA修復経路 (PARP、ATR) 標的療法の方が有望との見方も存在し、今後の研究方向性として重要である。本論説の臨床的価値は、SCLC維持療法開発の歴史的文脈を整理し、抗血管新生療法のSCLCにおける限界 (PFS改善はOS改善に結びつきにくい) を明示、バイオマーカーベースの患者選別の重要性を提言し、免疫療法時代における維持療法戦略の転換を予見した点にある。今後の研究では、SCLCにおける免疫療法+抗血管新生療法の併用 (ATLANTIS、DeLLphi-304等)、DNA修復標的療法 (PARP阻害薬、ATR阻害薬)、NEUROD1/ASCL1/POU2F3/YAP1によるSCLCサブタイピングに基づく個別化治療の開発が残された課題として挙げられる。
方法
本論説は、特定の研究デザインやデータ収集方法を伴うものではなく、CALGB 30504試験 (Ready NE et al., JCO 2015, doi: 10.1200/JCO.2014.57.3105) の結果を中心に、先行するSCLCにおける抗血管新生療法試験の既存エビデンスを統合的にレビューし、批判的に考察したものである。著者は、ベバシズマブ、アフリベルセプト、バンデタニブ、サリドマイドなど、SCLCを対象とした過去の血管内皮増殖因子 (VEGF) およびVEGF受容体 (VEGFR) 阻害剤に関する第II相または第III相試験の結果を詳細に検討した。これらの試験結果をCALGB 30504試験の文脈に位置付け、SCLCにおける抗血管新生療法の全体的な有効性、安全性、および限界を評価した。
具体的には、CALGB 30504試験の主要評価項目である維持療法からの無増悪生存期間 (PFS) と副次評価項目である全生存期間 (OS) の結果、およびスニチニブの毒性プロファイルを詳細に分析した。また、過去の抗血管新生療法の失敗例と比較し、スニチCBのPFS改善がOS改善に結びつかなかった理由について考察した。さらに、SCLCの遺伝子異常プロファイル (TP53、RB1、MYC増幅など) や、VEGF、EGFR、KITなどのタンパク質発現に関する既報の知見を引用し、SCLCにおける標的療法の開発が困難である背景を説明した。
本論説では、CALGB 30504試験のサンプルサイズ、試験デザイン、用量設定、およびバイオマーカーの欠如といった限界を指摘し、今後のSCLC治療開発における適切な試験デザイン、バイオマーカーの探索、およびエンドポイントの選択に関する提言を行った。また、免疫チェックポイント阻害薬など、SCLCで開発中の他の新規治療法との比較検討も行い、スニチニブがSCLC治療の次の進歩となるか、あるいは過去の失敗例と同様に「袋小路」に終わるかについて、多角的な視点から論じた。統計手法に関する具体的な分析は本論説の範囲外であるが、CALGB 30504試験の統計結果 (HR、95% CI、p値) は詳細に引用されている。