• 著者: Hidenobu Ishii, Koichi Azuma, Akihiko Kawahara, Kazuhiko Yamada, Yohei Imamura, Takaaki Tokito, Takashi Kinoshita, Masayoshi Kage, Tomoaki Hoshino
  • Corresponding author: Koichi Azuma (Division of Respirology, Neurology, and Rheumatology, Department of Internal Medicine, Kurume University School of Medicine, Kurume, Fukuoka, Japan)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25384063

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約15%を占める神経内分泌腫瘍であり、その予後は極めて不良である。初回化学療法 (シスプラチン+エトポシドまたはカルボプラチン+エトポシド) への奏効率は高いものの、多くの患者が再発し、化学療法抵抗性となるため、進展型SCLCの5年生存率は1-2%に留まる。過去30年間、SCLCの治療戦略は停滞しており、新たな治療法の開発が喫緊の課題であった。近年、モノクローナル抗体を用いた免疫チェックポイント阻害療法が、メラノーマ、非小細胞肺癌 (NSCLC)、腎癌などで有望な治療効果を示し、新しい治療モダリティとして注目を集めている。Pardoll et al. NatRevCancer 2012

Programmed cell death 1 (PD-1) 受容体はT細胞の活性化を調節するCD28ファミリーに属する分子であり、そのリガンドであるProgrammed cell death-ligand 1 (PD-L1; B7-H1) は多くの固形腫瘍で過剰発現することが知られている。Dong et al. NatMed 2002Parsa et al. NatMed 2007らの研究がそのメカニズムの一端を解明している。Topalian et al. NEnglJMed 2012Brahmer et al. NEnglJMed 2012による抗PD-1/PD-L1抗体 (ニボルマブ、MPDL3280Aなど) の第I相臨床試験では、進行固形腫瘍において抗腫瘍効果が確認され、PD-L1発現が治療奏効の予測因子となる可能性が示唆された。Brahmer etal. JClinOncol 2010Taube et al. SciTranslMed 2012も同様の知見を報告している。

PD-L1発現の予後的意義については、癌種によって報告が異なり、controversialな状況であった。NSCLC、大腸癌、乳癌、メラノーマではPD-L1発現が良好な予後と関連するという報告がある一方、食道癌、胃癌、肝細胞癌、膵癌、腎細胞癌、卵巣癌では不良な予後と関連すると報告されている。これらの相違は、癌腫の生物学的特性、腫瘍微小環境、使用される抗体、およびPD-L1陽性判定の閾値の違いに起因すると考えられる。当時、SCLCにおけるPD-L1発現の頻度、その臨床病理学的特徴との関連、および予後との関連はほとんど未解明であり、SCLCにおける免疫チェックポイント阻害療法の開発を進める上で、その基盤となるデータが不足していた。本研究は、久留米大学病院の単施設コホートを用いて、SCLCにおけるPD-L1発現の詳細な解析を初めて体系的に実施した先駆的な研究であり、SCLCにおける免疫療法の可能性を探る上で重要な知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、小細胞肺癌 (SCLC) 患者の腫瘍組織におけるProgrammed cell death-ligand 1 (PD-L1) 発現頻度を免疫組織化学 (IHC) 的に評価することである。さらに、PD-L1発現と患者の臨床病理学的因子(年齢、性別、ECOG Performance Status (PS)、病期、血清乳酸脱水素酵素 (LDH) 値、血清pro-gastrin-releasing peptide (proGRP) 値、血清neuron-specific enolase (NSE) 値)との相関を解析する。最終的に、PD-L1発現が全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) とどのように関連するかを後ろ向きに評価し、SCLCにおけるPD-L1の予後的意義を明らかにすることを目指した。本研究は、SCLCという予後不良な疾患に対する新たな治療戦略の基盤を確立することを目的とする。

結果

患者特性とPD-L1発現頻度: 解析対象となった102例のSCLC患者の臨床的特徴は、中央年齢70歳 (範囲36-85歳)、男性89例 (87.3%)、良好なPS (0-1) が87例 (85.3%) であった。病期はLDが41例 (40.2%)、EDが61例 (59.8%) であった。血清LDHの中央値は245 U/Lで、65例 (63.7%) が高値を示した。血清proGRPの中央値は294 pg/mL、血清NSEの中央値は22.4 ng/mLであった。PD-L1陽性発現は73例 (71.6%) のSCLC患者で認められ、これはNSCLCで報告されている陽性率 (約20-30%) と比較して顕著に高頻度であった。PD-L1の染色は、腫瘍細胞の膜および/または細胞質、ならびに間質リンパ球に観察された (Figure 1)。

PD-L1発現と臨床因子の相関: PD-L1発現と患者の臨床的特徴との関連を解析した結果、PD-L1陽性率はLD群で85.4% (35/41)、ED群で62.3% (38/61) であり、LD群で有意に高頻度であった (p=0.011) (Table 1)。一方、年齢 (<70歳 vs ≥70歳、p=0.272)、性別 (男性 vs 女性、p=0.186)、PS (0-1 vs 2-3、p=0.758)、血清LDHレベル (正常 vs 異常、p=0.108)、血清proGRPレベル (p=0.609)、血清NSEレベル (p=0.666) とPD-L1発現との間に有意な相関は認められなかった。LD病期でPD-L1発現が高頻度であるという所見は、腫瘍の進展早期から免疫監視機構からの逃避メカニズムが活性化している可能性を示唆する。

全生存期間 (OS) とPD-L1発現: 中央追跡期間は11.4ヶ月 (範囲0.7-134.6ヶ月) であった。PD-L1陽性群のOS中央値は16.3ヶ月であったのに対し、PD-L1陰性群では7.3ヶ月であり、PD-L1陽性群で有意に長いOSが認められた (p<0.001) (Figure 2)。単変量解析では、PD-L1陽性発現がOSの有意な予後良好因子であることが示された (HR 0.408, 95% CI 0.257-0.664, p<0.001)。この結果は、PD-L1発現がSCLC患者の予後を予測する上で重要なバイオマーカーとなり得ることを強く示唆する。

単変量解析による予後因子: 単変量解析の結果、良好なPS (HR 0.227, 95% CI 0.131-0.419, p<0.001)、LD病期 (HR 0.254, 95% CI 0.154-0.408, p<0.001)、低血清NSEレベル (HR 0.433, 95% CI 0.259-0.718, p<0.001)、正常血清LDHレベル (HR 0.628, 95% CI 0.398-0.974, p=0.039)、およびPD-L1陽性発現 (HR 0.408, 95% CI 0.257-0.664, p<0.001) がOSの有意な予後良好因子として同定された (Table 2)。年齢、性別、血清proGRPレベルはOSとの有意な関連を示さなかった。これらの因子は、SCLC患者の臨床管理において予後予測に活用できる可能性を持つ。

多変量解析による独立予後因子: Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析の結果、良好なPS (HR 0.390, 95% CI 0.192-0.841, p=0.018)、LD病期 (HR 0.403, 95% CI 0.199-0.804, p=0.010)、およびPD-L1陽性発現 (HR 0.435, 95% CI 0.241-0.803, p=0.008) が、他の因子とは独立したOSの予後良好因子として同定された (Table 3)。血清NSEレベル (HR 0.671, p=0.196) および血清LDHレベル (HR 1.130, p=0.679) は、多変量解析では独立した予後因子としての有意差を示さなかった。この結果は、PD-L1発現が病期やPSといった確立された予後因子とは独立した新規の予後バイオマーカーとして機能する可能性を示唆する。

病期別サブ解析: ED-SCLC患者のサブ解析では、PD-L1陽性群のOS中央値は9.2ヶ月であったのに対し、PD-L1陰性群では5.4ヶ月であり、PD-L1陽性群で有意なOSの延長が認められた (p=0.037) (Figure 3A)。この結果は、進展期SCLCにおいてもPD-L1発現が予後良好因子として機能し得ることを示している。しかし、ED-SCLC患者におけるPFSについては、PD-L1陽性群で5.2ヶ月、陰性群で4.6ヶ月と、有意差は認められなかった (p=0.747) (Figure 3B)。LD-SCLC患者では、PD-L1陽性群のOS中央値は25.5ヶ月、陰性群では21.8ヶ月であったが、有意差は認められなかった (p=0.146) (Figure 3C)。同様に、LD-SCLC患者におけるPFSも、PD-L1陽性群で10.6ヶ月、陰性群で7.9ヶ月と、有意差は認められなかった (p=0.083) (Figure 3D)。この「OSで差があるがPFSで差がない」というパターンは、PD-L1発現が一次化学療法への応答予測因子ではなく、むしろ疾患経過全体の予後(後治療への応答、腫瘍の生物学的攻撃性などを含む)を反映する予後因子であることを示唆する。

考察/結論

本研究は、久留米大学病院におけるSCLC患者102例の腫瘍組織を免疫組織化学的に解析し、SCLCにおけるProgrammed cell death-ligand 1 (PD-L1) 発現の意義を体系的に解明した先駆的な研究である。

新規性: 本研究で初めて、SCLCにおけるPD-L1陽性率が71.6%と、非小細胞肺癌 (NSCLC) で報告されている約20-30%と比較して顕著に高頻度であることを示した。また、限局期 (LD) SCLCとPD-L1発現との間に有意な正の相関 (LD 85.4% vs 進展期 (ED) 62.3%、p=0.011) が存在すること、およびPD-L1陽性発現が病期やPerformance Status (PS) とは独立した予後良好因子であること (多変量解析におけるハザード比 (HR) 0.435, 95% CI 0.241-0.803, p=0.008) を明確に示した。さらに、PD-L1発現が一次治療に対する無増悪生存期間 (PFS) とは無相関であり、予後因子としての性格を持つことを明らかにした。

先行研究との違い: 本研究の結果は、NSCLC、大腸癌、乳癌、メラノーマなどで報告されている「PD-L1陽性=良好予後」というパターンと整合するものであった。しかし、食道癌、胃癌、肝細胞癌、腎細胞癌、卵巣癌などで報告されている「PD-L1陽性=不良予後」というパターンとは対照的である。このことは、癌腫の生物学的特性、組織微小環境、使用される抗体、および陽性判定の閾値によってPD-L1発現の予後的意義が異なることを再確認するものである。PD-L1発現が一次治療PFSと無相関であるという所見は、PD-L1が化学療法応答予測因子ではなく、患者の免疫監視能や腫瘍免疫原性を反映する予後因子として機能するという仮説を支持する。著者らは、効果的な化学療法がPD-L1発現を調節することで抗腫瘍免疫を減弱させる可能性という興味深い考察も提示している。

臨床応用: 本研究の知見は、SCLCにおける免疫チェックポイント阻害療法 (例えば、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブなど) 開発の生物学的基盤を提供するものである。PD-L1陽性SCLC患者では免疫療法への応答性が期待され、特にLD病期の患者でPD-L1発現が高頻度であることは、化学放射線療法と免疫療法の併用戦略の妥当性を支持する。本研究は、SCLCという予後不良な疾患に対する新たな治療戦略の道を拓く上で、重要な臨床的含意を持つ。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、解析対象の症例数が限定的 (n=102) であり、単施設の後ろ向き研究である点が挙げられる。第二に、大半の検体が経気管支肺生検標本由来であり、腫瘍の異質性や空間的なPD-L1発現のばらつきが結果に影響を与えた可能性がある。第三に、使用された抗PD-L1抗体 (Abcam製) と陽性判定閾値 (5%) が他研究と異なるため、直接的な比較が困難である。第四に、外科切除標本が限定的であったことも限界である。今後の検討課題として、より大規模な多施設共同研究による検証、PD-L1発現判定の標準化、免疫療法時代における予後バイオマーカーの再評価、および化学免疫療法における予測バイオマーカーの開発が重要となる。本研究は、SCLCにおける免疫療法応用の基盤を築いた歴史的に重要な研究として位置付けられる。

方法

患者選択: 久留米大学病院で2002年から2013年の間にSCLCと診断された178例の患者を後ろ向きにスクリーニングした。このうち、細胞診のみで診断された70例、およびパラフィン包埋組織ブロック中の腫瘍細胞が免疫組織化学に不十分であった6例を除外した。最終的に、十分な組織標本が利用可能であった102例の患者を本研究の解析対象とした後ろ向きコホート研究である。腫瘍検体の採取部位は、原発肺病変が83例 (81.4%)、肝転移が4例、脳転移が3例、骨転移が2例、皮膚転移が3例、リンパ節転移が7例であった。

臨床データ収集: 患者の臨床データとして、年齢、性別、ECOG PS、病期(限局期 (LD) または進展期 (ED))、血清LDHレベル(正常閾値229 IU/L)、血清proGRPレベル、血清NSEレベルを収集した。LD病期は、許容可能な放射線照射野内に病変が限局している場合と定義され、ED病期は、局所領域の境界を超えて進展している場合、悪性胸水または心嚢液、血行性転移を含む場合と定義された。ED-SCLC患者は一次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法を受けた。LD-SCLC患者41例のうち、31例 (75.6%) が化学放射線併用療法、3例が化学療法単独、7例が外科手術後に化学療法を受けた。本研究はヘルシンキ宣言の規定に従い、久留米大学病院の倫理審査委員会の承認を得て実施された。

PD-L1免疫組織化学 (IHC) 解析: 4 μm厚のホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を使用し、抗ウサギモノクローナルPD-L1抗体 (Abcam社製) を用いて免疫組織化学染色を行った。染色にはVentana BenchMark XT自動染色装置を使用し、CC1 retrieval solutionで30分間の熱処理後、PD-L1抗体と30分間インキュベートした。検出にはultraVIEW DAB検出キットを用いた。PD-L1発現の評価は、2名の経験豊富な病理学者 (A.K.およびM.K.) が患者の臨床情報を盲検化した状態で独立して行った。意見の不一致があった場合は、共同レビューにより最終的な判定を決定した。腫瘍細胞の5%超に染色が認められた場合をPD-L1陽性と定義した。この5%という閾値は、先行研究におけるPD-L1発現評価で用いられた基準を参考に設定された。

統計解析: PD-L1発現と患者の臨床的特徴との相関は、χ²検定またはFisher’s exact testを用いて解析した。全生存期間 (OS) は、治療開始日または初回診断日から死亡日または最終追跡日までと定義した。無増悪生存期間 (PFS) は、一次治療開始日から病勢増悪またはあらゆる原因による死亡日までと定義した。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて作成し、2群間の差の有意性はlog-rank testで評価した。多変量解析にはCox比例ハザードモデルを使用し、単変量解析でp値が0.05未満であった因子をモデルに組み込んだ。全ての検定は両側検定であり、p値が0.05未満を有意差ありと判断した。統計解析にはJMP version 10 (SAS Institute Inc.) を使用した。