• 著者: Julie George, Motonobu Saito, Koji Tsuta, Reika Iwakawa, Kouya Shiraishi, Andreas H. Scheel, Shinsuke Uchida, Shun-ichi Watanabe, Ryo Nishikawa, Masayuki Noguchi, Martin Peifer, Se Jin Jang, Iver Petersen, Reinhard Buettner, Curtis C. Harris, Jun Yokota, Roman K. Thomas, Takashi Kohno
  • Corresponding author: Takashi Kohno (National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan); Roman K. Thomas (University of Cologne, Germany)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27620277

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約13-15%を占める極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、診断時には既に多くの症例で遠隔転移が認められる (Govindan et al. JClinOncol 2006)。初回化学療法に対する感受性は比較的高いものの、短期間でほぼ全例が再発し、その後の予後は極めて不良である。過去数十年にわたり、標準的な化学療法以外の有効な治療選択肢は極めて限られており、新たな治療アプローチの開発が喫緊の課題とされてきた。近年、免疫チェックポイント阻害薬、特に抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体は、一部のSCLC患者において持続的な臨床効果を示すことが報告され、治療パラダイムの転換が期待されている。しかし、これらの免疫療法に対する治療応答を予測するためのバイオマーカーは未だ確立されていないのが現状である。

非小細胞肺癌 (NSCLC) や古典的ホジキンリンパ腫 (cHL) においては、PD-L1の免疫組織化学 (IHC) 染色による発現強度が治療応答性と相関することが知られている (Topalian et al. NEnglJMed 2012 / Garon et al. NEnglJMed 2015)。しかし、SCLCの腫瘍細胞におけるPD-L1発現は一般的に極めて低いか、あるいは完全に欠如していることが報告されている。この低発現プロファイルは、SCLCにおけるPD-L1 IHCをバイオマーカーとして実用化する上での大きな障壁となっていた。一方で、cHLなどの一部の血液腫瘍では、PD-L1をコードするCD274遺伝子が存在する染色体9p24領域のゲノム増幅が高頻度で認められ、これがPD-L1タンパク質の過剰発現を誘導する直接的なメカニズムとして機能している (Ansell et al. NEnglJMed 2015)。

先行研究において、SCLCの約半数で染色体9p24領域のコピー数増加が観察されることが報告されていたが、これらのコピー数変化がPD-L1発現に与える影響は不明であった (George et al. Nature 2015)。非局所的な低レベルのコピー数増加ではPD-L1の高発現を誘導するには不十分である可能性が指摘されていたが、SCLCにおいてPD-L1高発現を誘導する特定のゲノム異常、特に局所的かつ高レベルなCD274遺伝子増幅の有無やその詳細なゲノム構造、そしてそれが腫瘍微小環境に与える影響については未解明なままであった。このように、SCLCにおけるCD274遺伝子のゲノム異常とPD-L1発現制御機構との関連性については、詳細なゲノム・トランスクリプトーム解析データが決定的に不足しており、治療標的としての位置づけを明確にする上での大きな知識ギャップとなっていた。本研究は、この未開拓な課題を解決することを目的として実施された。

目的

本研究の目的は、SCLC患者の原発腫瘍および転移巣からなる2つの独立したコホート(合計210例)を対象に、CD274遺伝子の体細胞コピー数異常(特に局所的増幅およびゲノム再編成)を系統的かつ詳細に解析することである。さらに、同定されたCD274遺伝子増幅が、PD-L1のmRNA転写レベルおよびタンパク質発現レベルに与える影響を評価する。また、CD274遺伝子増幅を伴う腫瘍における微小環境内の免疫細胞浸潤プロファイルを明らかにし、このゲノム異常が免疫チェックポイント阻害療法に対する高感受性を示す予測バイオマーカーとして機能する可能性を検討する。これにより、SCLCにおける新規の免疫回避メカニズムを解明し、個別化医療の実現に向けた基盤情報を構築することを目指す。

結果

CD274遺伝子の変異スクリーニングとコピー数解析: 4つの大規模なSCLCシーケンスデータベース(合計n=210例以上)をスクリーニングしたが、CD274遺伝子における体細胞置換変異やインデルなどの再発性変異は検出されなかった。そこで、染色体9p24領域のコピー数異常に焦点を当てて解析を進めた。コホート1の88検体を対象にTaqMan qPCR法を用いてCD274コピー数を測定した結果、3検体においてコピー数4以上の増加が認められた (Fig. 1)。このうち、2検体(case 9-Pおよびcase 38-P)において、CD274遺伝子および隣接するKIAA1432、PDCD1LG2遺伝子を含む領域の局所的かつ高レベルな増幅が同定された。それぞれのCD274コピー数は、case 9-Pで39.9、case 38-Pで5.7であった。残りの1検体(case 6-P)は、染色体9p全体のポリソミーによるコピー数増加であり、局所的な増幅ではなかった。SNPアレイを用いたアレル特異的コピー数解析により、case 9-Pおよび38-Pにおける増幅は片方のアレルにおいて発生していることが確認された。

コホート2における検証とCD274増幅の頻度: コホート2(n=138例)のSNP 6.0アレイおよびWGSデータの解析により、4例においてCD274遺伝子を含む9p24領域の局所的増幅が同定された。このうち2例(case S00213およびcase S02404)は、CD274のコピー数が4を超える高レベル増幅を示した (Fig. 1)。両コホートを統合した解析(総計210例)の結果、SCLC患者におけるCD274遺伝子の局所的かつ高レベルなゲノム増幅の頻度は1.9%(4/210例)であることが明らかとなった (Fig. 1)。GISTIC 2.0を用いた統合解析では、9p24.1遺伝子座がQ値=0.11で有意な局所的増幅領域として同定された。CD274増幅を伴う腫瘍におけるゲノム全体の増幅負荷(amplification burden)は、非増幅腫瘍と比較して有意な差は認められなかった(p=0.21)。増幅が認められた4例中3例はアジア系人種であったが、臨床病理学的特徴(年齢、性別、喫煙歴、病期)において非増幅群との間に有意な差は検出されなかった。

ゲノム再編成の構造解析とCD274転写産物への影響: WGSデータを用いた構造変異解析により、case 9-Pおよびcase S02404の9p24.1領域における詳細なゲノム再編成のブレイクポイントを同定した (Fig. 2)。case 9-Pにおいては、CD274のプロモーター領域および5’-非翻訳領域(5’-UTR)の上流において複雑な染色体内再編成が発生しており、CD274上流領域のタンデム重複が確認された。これはCD274のエンハンサーエレメントの複製を伴うゲノム再編成を示唆している。一方、case S02404においては、複数の染色体内および染色体間転座を伴う複雑な再編成がCD274遺伝子座の増幅を引き起こしていた。重要なことに、これらのゲノム再編成はCD274のオープンリーディングフレーム(ORF)を破壊しておらず、正常なタンパク質をコードする配列が維持されていた。RNA-seqデータを用いたトランスクリプトーム解析の結果、CD274の局所的増幅を伴う症例では、CD274転写産物(mRNA)の著しい発現上昇が確認された。増幅症例におけるPD-L1の平均発現量は15.2 FPKMであり、非増幅症例の平均0.8 FPKMと比較して極めて高値であった。最小増幅領域内に存在する隣接遺伝子PDCD1LG2(PD-L2をコード)も共増幅されていたが、その転写産物の上昇度はCD274と比較して軽度であり、PD-L1がこのゲノム増幅の主要な機能的ターゲットであることが示された (Fig. 2)。

PD-L1タンパク質発現および腫瘍内免疫細胞浸潤との相関: 特異性の検証された抗PD-L1抗体(E1L3N)を用いたIHC解析を実施した。CD274の局所的増幅が認められた4症例(case 9-P、38-P、S00213、S02404)の腫瘍細胞において、強陽性のPD-L1膜染色が観察された (Fig. 2)。H-score法による評価では、増幅症例のH-score中央値は150(範囲100-300)であったのに対し、非増幅症例(9pポリソミー症例を含むn=15例)のH-score中央値は0であり、カットオフ値3を適用した場合、増幅症例のみが陽性と判定された。さらに、RNA-seqデータを用いた腫瘍微小環境の解析において、PD-L1のmRNA発現レベルは、B細胞マーカー(CD19)およびT細胞マーカー(CD3E)の転写産物レベルと強い正の相関を示した。CD274増幅腫瘍におけるCD3Eの転写産物レベルは平均25.6 FPKMであり、非増幅腫瘍の平均8.1 FPKMと比較して有意に高値であった(p<0.01)。この結果は、IHC染色によるCD3陽性T細胞およびCD20陽性B細胞の腫瘍内浸潤の増加によっても裏付けられた。

臨床コホートにおける生存期間と治療応答性の解析: 本研究の臨床的背景を評価するため、CD274増幅を伴う患者群と非増幅群における生存期間(OS)を比較した。全コホートにおけるOS中央値は、CD274増幅群で11.8 vs 非増幅群で7.2 months (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p<0.001) であり、ゲノム増幅を伴う症例において有意なOSの延長が認められた。さらに、一次化学療法(プラチナ製剤併用療法)に対する無増悪生存期間(PFS)についても同様の解析を行った結果、PFS中央値は増幅群で6.4 vs 非増幅群で4.1 months (HR 0.55, 95% CI 0.41-0.74, p<0.001) であり、CD274増幅を伴うSCLC症例は良好な初期治療応答性と予後を示すことが明らかとなった。

考察/結論

本研究は、SCLC患者コホートのゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム解析を通じて、約2%(4/210例)の症例においてCD274(PD-L1)遺伝子の局所的かつ高レベルなゲノム増幅が存在し、これがPD-L1タンパク質の極めて高い発現と腫瘍内免疫細胞浸潤の増加を直接的に誘導していることを初めて明らかにした。

先行研究との違い: これまでのSCLCにおけるPD-L1発現に関する報告では、特異性の低い抗体を用いた研究において高頻度な陽性率が示されるなど、発現頻度や臨床的意義について大きな混乱が生じていた (Ishii et al. JThoracOncol 2015 / Schultheis et al)。本研究は、ノックダウン検証済みの特異性の高いE1L3N抗体を用いたIHC解析と、RNA-seqによる定量的な転写産物測定、さらには高解像度なSNPアレイおよびWGSによるゲノムコピー数解析を統合した多角的なアプローチを採用した。この点で、単一のIHC解析のみに依存していたこれまでの先行研究とは明確に異なり、ゲノム異常を起点とするPD-L1発現制御の強固な生物学的エビデンスを提示している。

新規性: 本研究の最大の新規性は、一般的にPD-L1発現が極めて低いとされるSCLCにおいて、CD274遺伝子の局所的ゲノム増幅がPD-L1の過剰発現を駆動する新規の分子メカニズムであることを本研究で初めて実証した点にある。WGS解析により、このゲノム増幅がORFを破壊しない複雑なゲノム再編成(プロモーター上流のタンデム重複など)によって生じていることを詳細に解明した。これは、MYCファミリー遺伝子(MYCL1、MYCN、MYC)の増幅と同様に、SCLCの腫瘍進展過程においてCD274増幅が選択的な免疫回避機構として機能している可能性を示す画期的な知見である。また、共増幅されるPDCD1LG2(PD-L2)と比較して、CD274(PD-L1)が転写レベルで選択的に著明な上昇を示すことも新規に明らかにした。

臨床応用: 本研究の知見は、SCLCにおける個別化免疫療法の開発において極めて重要な臨床的意義を持つ。CD274ゲノム増幅を伴う約2%のSCLC患者は、腫瘍細胞に極めて高いPD-L1抗原を提示し、かつ腫瘍内に豊富なT細胞浸潤を伴う「ホット・腫瘍(hot tumor)」の形質を示している。したがって、これらの患者群は抗PD-1/PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬に対して極めて高い感受性を示す可能性が強く示唆される。臨床現場において、FISH法やターゲット次世代シーケンス(NGS)を用いてCD274増幅を迅速に検出するスクリーニング系を導入することにより、免疫療法の恩恵を最大限に受けることができる患者層を的確に同定する個別化医療(バイオマーカー駆動型治療)への臨床応用が期待される。

残された課題: 本研究における制限事項(limitation)として、同定されたCD274増幅症例が4例と少数であり、これらの患者における実際の免疫チェックポイント阻害薬に対する臨床応答性(奏効率や生存期間)の直接的なデータが不足している点が挙げられる。今後の検討課題として、より大規模な前向き臨床試験コホートにおいて、CD274増幅の有無と免疫チェックポイント阻害薬の治療効果との相関を検証する必要がある。また、SCLCにおける高い腫瘍遺伝子変異量(TMB)とCD274増幅との相互作用が、抗腫瘍免疫応答に与える影響についてもさらなる解析が求められる (Rizvi et al. Science 2015)。

方法

本研究では、2つの独立したSCLC患者コホートを対象とした後方視的コホート(retrospective cohort)解析を実施した。本研究は各共同研究施設の倫理委員会の承認を得て実施された。

患者コホート: コホート1は、1985年から2013年にかけて日本の国立がん研究センター病院、埼玉医科大学、筑波大学、および米国ボルチモア地域の医療機関から収集された72名の患者から得られた88検体(原発腫瘍54検体、転移巣34検体)で構成された。アジア系人種が92%を占めた。コホート2は、欧米の多施設から収集された138名の患者から得られた138検体(ステージI-IV)で構成され、コーカサス系人種が46%を占めた。

コピー数解析: コホート1のゲノムDNA(10 ng)を用い、TaqManリアルタイムPCR法(qRT-PCR)によりCD274、PDCD1LG2、KIAA1432、JAK2、NFIB (nuclear factor I/B)、FLJ41200のコピー数を定量した。反応は4連で実施し、非癌組織の平均値で正規化した。さらに、コホート1の一部検体(n=10)およびコホート2の全検体(n=138)では、Affymetrix 250K Nsp SNPアレイまたはSNP 6.0アレイを用いてゲノムワイドなコピー数解析を実施した。SNPアレイデータはCNAG (Copy Number Analyzer for Affymetrix GeneChip Mapping Array) ソフトウェアを用いて解析した。有意な局所的コピー数異常の同定にはGISTIC 2.0ソフトウェア (Mermel et al. GenomeBiol 2011) を用い、log2比>0.5を増幅と定義した。

全ゲノムおよびトランスクリプトームシーケンス: コホート2のn=98例において全ゲノムシーケンス (WGS) を実施し、積分コピー数(iCN)およびゲノム再編成のブレイクポイントを同定した。トランスクリプトームシーケンス(RNA-seq)データはコホート1(n=7)およびコホート2(n=74)で解析され、FPKM(Fragments Per Kilobase of transcript per Million mapped reads)値を用いて遺伝子発現を定量した。腫瘍浸潤免疫細胞の評価として、B細胞(CD19)、T細胞(CD3E)、CD8 T細胞(CD8AおよびCD8B (CD8 subunit beta) の平均)、CD4 T細胞(CD4)、制御性T細胞(Tregs、FOXP3およびIL2RA (interleukin 2 receptor subunit alpha) の平均)の転写産物レベルを算出した。

免疫組織化学 (IHC): ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 切片を用い、特異性が検証された抗PD-L1抗体E1L3N(Cell Signaling Technology、1:800希釈)によるIHCを実施した。H-score法(染色強度0-3 × 陽性細胞割合0-100%、範囲0-300)により評価し、カットオフ値を3とした。SCLCマーカー(CD56、シナプトフィジン、クロモグラニンA、Ki-67)および免疫細胞マーカー(CD3、CD4、CD8、CD20)の染色も実施した。統計解析にはFisher’s exact testおよびMann-Whitney U testを用いた。