- 著者: Edurne Arriola, Matthew Wheater, Ian Galea, Nadia Cross, Tom Maishman, Debbie Hamid, Louise Stanton, Judith Cave, Tom Geldart, Clive Mulatero, Vannessa Potter, Sarah Danson, Pennella J. Woll, Richard Griffiths, Luke Nolan, Christian Ottensmeier
- Corresponding author: Edurne Arriola (Southampton NIHR Experimental Cancer Medicine Centre, University of Southampton, Southampton, UK)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-06-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 27296105
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約15-20%を占める悪性度の高い疾患であり、進展型 (ED-SCLC) の中央生存期間は9.5か月と予後不良であると報告されている (Oze et al. 2009)。30年以上にわたり、放射線療法の併用を除いて、生存期間の改善をもたらす新たな治療戦略は確立されていなかった。sunitinibやthalidomideなどの新規薬剤を標準化学療法に加える3剤併用試験も実施されたが、毒性死の増加により有効性の証明には至らなかった (Ready et al. 2015, Lee et al. 2009)。
近年、免疫チェックポイント阻害剤は、悪性黒色腫 (Hodi et al. NEnglJMed 2010、Schadendorf et al. JClinOncol 2015) や非小細胞肺癌 (NSCLC) (Garon et al. NEnglJMed 2015、Borghaei et al. NEnglJMed 2015) において劇的な治療効果を示し、新たな治療モダリティとして注目を集めている。SCLCにおいては、傍腫瘍性神経症候群 (PNS) が免疫系による腫瘍認識の臨床的証拠として観察されることがある。PNSを合併するSCLC患者では、Lambert-Eaton筋無力症候群 (Maddison et al. 1999) などにおいて予後が良好であるとの報告があり、SOX2、Hu、VGCCなどの神経抗原に対する自己抗体の存在が臨床的意義を持つ可能性が示唆されていた (Titulaer et al. 2009, Gozzard et al. 2015)。
細胞傷害性Tリンパ球抗原-4 (CTLA-4) は、T細胞活性化の早期に発現し、抗原提示細胞上のB7分子と結合することでT細胞応答を抑制する制御因子である (Thompson et al. 1997)。また、制御性T細胞 (Treg) にも高発現しており、抗CTLA-4抗体による結合はTregの除去を誘導すると考えられている (Romano et al. 2015)。Ipilimumabは抗CTLA-4抗体であり、転移性黒色腫の治療薬として承認されている (Hodi et al. NEnglJMed 2010、Maio et al. JClinOncol 2015)。SCLCのような急速に進行する腫瘍におけるイピリムマブの有効性は未解明であったが、化学療法による腫瘍細胞死が抗原放出を誘導し、イピリムマブによる免疫調節との相乗効果が理論的に期待された (Ma et al. 2010)。
先行研究であるReck et al. AnnOncol 2013の第II相無作為化試験では、カルボプラチン+パクリタキセルにイピリムマブを併用する「phased」戦略 (化学療法2サイクル後からイピリムマブを追加) がED-SCLCにおいて有望な結果 (irPFS 6.4か月) を示していた。しかし、標準一次治療であるカルボプラチン+エトポシド (CE) とイピリムマブの併用における安全性と有効性、および自己抗体を予測バイオマーカーとして探索した研究は不足していた。本試験 (ICE、NCT01331525) は、このギャップを埋めることを目的として計画された。
目的
本研究の目的は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者に対するイピリムマブ (10 mg/kg) と標準一次化学療法であるカルボプラチンおよびエトポシド (ICE) の併用療法における安全性と有効性を評価することである。さらに、ベースライン時の自己抗体プロファイルが治療効果や毒性を予測するバイオマーカーとなり得るかを探索的に解析することも目的とした。具体的には、主要評価項目としてRECIST v1.0に基づく1年無増悪生存率 (PFS) を設定し、副次評価項目として免疫関連無増悪生存期間 (irPFS)、全生存期間 (OS)、客観的奏効率、および毒性プロファイルを評価した。自己抗体と臨床アウトカムの関連性を詳細に解析することで、将来的な患者層別化や個別化医療への貢献を目指した。
結果
患者背景と治療施行: 2011年9月から2014年4月にかけて42例の患者が登録された。3例はイピリムマブ投与前に試験を離脱し、1例は後に非定型カルチノイドと診断され除外されたため、有効性解析集団は38例であった (Figure 1)。患者の中央年齢は63歳 (範囲44-84歳)、男性が65.8% (n=25)、ECOG PS 1が65.6% (n=21) を占めた。主要な転移部位は肺 (71.1%)、リンパ節 (71.1%)、肝臓 (39.5%) であった。ベースラインでの自己抗体検査では、17例 (45%) が少なくとも1種類の自己抗体陽性であった。最も頻繁に検出されたのは抗SOX2抗体 (9例、23.7%) および抗核抗体 (ANA、10例、28.6%) であった (Table 2)。
38例中37例がサイクル3からイピリムマブ投与を開始し、中央値で6サイクル (範囲3-6) の併用治療を施行した。24例 (63%) が化学免疫療法フェーズを完遂した。しかし、23例 (61%) で化学療法が遅延し、15例 (40%) で用量修正が行われた。イピリムマブも15例 (40%) で投与遅延、13例 (34%) で投与省略が発生した。維持イピリムマブ投与を受けたのは9例 (24%) で、1例は78週間にわたり治療を継続した。PCIは9例 (24%)、胸部放射線治療は8例 (21%) と、いずれも施行率は低かった。
主要評価項目と有効性: RECIST v1.0に基づく1年PFS率は6/38例 (15.8%、95% CI 7.4-30.4) であり、事前に設定された閾値である8例 (25%) を達成せず、主要評価項目は未達成であった。中央PFSは6.9か月 (95% CI 5.5-7.9) であった (Figure 2A)。免疫関連奏効基準 (irRC) に基づく中央irPFSは7.3か月 (95% CI 5.5-8.8) であり、1年irPFS率は12.6% (95% CI 4.0-26.3) であった (Figure 2B)。中央OSは17.0か月 (95% CI 7.9-24.3) と、近年の他の試験 (約14か月) と比較して優れた結果を示した (Figure 3A)。1年OS率は55.5%、2年OS率は28.8%、3年OS率は約10%であり、長期生存者が認められた。
奏効率: RECIST評価可能29例中、21例 (72.4%) が客観的奏効 (CR 1例、PR 20例) を達成した。SDは3例、PDは5例であった (Table 3)。irRC評価可能33例中では、28例 (84.8%) が客観的奏効 (CR 2例、PR 26例) を達成し、SDは5例、PDは0例であった。irRCではpseudoprogressionを考慮した高い奏効率が示された。PCI施行患者は非施行患者と比較してOSが数値的に優れていた (中央OS 18.5か月 vs 12.3か月) が、統計的有意差は認められなかった (p=0.447)。
安全性: 全患者 (n=39) が少なくとも1つの有害事象 (AE) を経験した。Grade 3以上の毒性は35例 (89.7%) で発生し、そのうち27例 (69.2%) がイピリムマブ関連と判断された (Table 4)。イピリムマブ関連のGrade 3以上のAEとして最も頻繁に報告されたのは下痢 (19例、48.7%) であった。神経系AEは19例 (49%) で報告され、Grade 3以上の神経毒性は4例 (10%) で発生した。このうち3例 (8%) がイピリムマブ関連であり、軽度脳症やPNS様小脳症候群といった中枢神経障害が2例、重症頭痛とPS悪化が1例であった。イピリムマブ関連毒性による治療遅延は18例 (46%) で発生した。Grade 3以上の肝機能異常 (ALT/ALP上昇) はそれぞれ7.7%、好中球減少は23.1%で認められた。イピリムマブ関連死は5例 (13%) 報告された。これには心停止1例、発熱性好中球減少性敗血症1例 (治療中または直後)、肺炎1例、自己免疫性脳炎1例、敗血症1例 (最終治療後4-5か月) が含まれる。irAEの重症度とアウトカムの関連を探索的に解析した結果、Grade 1-2 irAE群の1年生存率は73%であったのに対し、Grade 3以上irAE群では47%と数値的な差が認められたが、統計的有意差はなかった。
自己抗体バイオマーカー解析: ベースライン自己抗体陽性群 (23例、60.5%) では、陰性群と比較して有意に長いirPFSが認められた (中央irPFS 8.8か月 [95% CI 5.1-10.7] vs 7.3か月 [95% CI 2.9-7.9], p=0.036) (Figure 2C)。特にANA陽性患者ではirPFSが有意に延長した (10.2か月 vs 6.9か月, p=0.032)。自己抗体陽性患者ではOS延長の傾向も認められた (中央OS 18.5か月 vs 17か月, p=0.144) (Figure 3B)。毒性との相関では、抗SOX2抗体および/または抗Hu抗体陽性患者15例中3例でイピリムマブ関連のGrade 3以上の神経毒性が発現したのに対し、陰性患者23例中では0例であった (p=0.054)。この結果は、抗神経抗体陽性が神経毒性のリスク因子となる可能性を示唆している。
考察/結論
本単群第II相試験 (ICE、NCT01331525) は、未治療ED-SCLC患者42例に対するイピリムマブ 10 mg/kgとカルボプラチン・エトポシド (CE) 併用療法の安全性、有効性、およびバイオマーカーを検証した。主要評価項目であるRECIST 1年PFS率15.8%は、事前に設定された閾値25%を達成しなかった。しかし、中央OS 17.0か月という結果は、近年の他の試験 (約14か月) を上回る長期生存のシグナルを示した。一方で、Grade 3以上の毒性が89.7%の患者で発生し、イピリムマブ関連死が5例 (13%) 報告されるなど、許容限界を超える高毒性が明らかになった。
先行研究との違い: Reck et al. AnnOncol 2013のカルボプラチン+パクリタキセル+イピリムマブ併用試験と比較して、本研究のCE+イピリムマブ併用療法は毒性が顕著に高かった。これは、エトポシドとイピリムマブの相乗毒性、または本研究で用いられたイピリムマブの高用量 (10 mg/kg、悪性黒色腫で承認されている用量は3 mg/kg) が原因であると推測される。これまでのSCLCにおける3剤併用化学療法試験でも毒性死の増加が課題となっており、本研究の結果は、イピリムマブの用量設定や併用療法の選択において慎重な検討が必要であることを示唆している。
新規性: 本研究で初めて、ベースライン自己抗体陽性が有効性 (irPFS延長、p=0.036) と神経毒性 (p=0.054) の両方を予測する可能性を示した。特に、抗SOX2抗体や抗Hu抗体陽性患者におけるGrade 3以上の神経毒性の増加は、免疫系による既存の腫瘍認識がイピリムマブによって増強され、自己免疫反応が引き起こされるという仮説を支持する新規な知見である。この発見は、SCLCにおける免疫療法の患者選択や毒性管理において重要な意味を持つ。
臨床応用: 本研究の知見は、ED-SCLCにおけるCTLA-4単独阻害療法の毒性プロファイルが臨床現場での適用を困難にする可能性を示唆している。しかし、自己抗体プロファイルが治療効果と毒性の両方を予測するバイオマーカーとして機能する可能性は、将来的な患者層別化や個別化医療への臨床応用が期待される。特に、抗神経抗体陽性患者では、免疫療法を選択する際に厳重な神経学的モニタリングが必須となる。また、より毒性プロファイルが良好な抗PD-1/PD-L1抗体との併用療法や、イピリムマブとニボルマブの併用療法がSCLCにおいて有望な結果を示していることから、これらの治療戦略におけるバイオマーカーの役割も今後の重要な検討課題となる。
残された課題: 本研究の限界として、単群・非ランダム化デザインであるため、化学療法単独群との比較がなく、自己抗体の予測因子としての役割を厳密に証明できない点が挙げられる。また、症例数が限定的 (n=38) であり、イピリムマブ関連神経毒性と腫瘍進行に関連する神経症状の鑑別が困難な場合があった。PCIの実施率が低かった (24%) ため、脳転移の制御が不十分であった可能性も否定できない。さらに、自己抗体の閾値や測定法の標準化が不足しており、これらの知見を他の研究に適用する際にはさらなる検証が必要である。本試験結果を受けて実施された第III相CA184-156試験 (Reck et al. 2016 JCO) では、CE+イピリムマブ群とプラセボ群でOSに有意差が認められず (11.0 vs 10.9か月、HR 0.94, 95% CI 0.79-1.12, p=0.3775)、CTLA-4単独阻害によるSCLC一次治療は失敗に終わった。しかし、本研究のバイオマーカーに関する知見は、SCLC免疫療法における患者選択や自己免疫疾患リスク評価の重要性を示した先駆的研究として歴史的意義を持つ。今後の研究では、PD-1+CTLA-4併用療法におけるバイオマーカーによる層別化、抗神経抗体陽性例での神経毒性予防戦略、およびより精密なバイオマーカー開発が残された課題となる。
方法
試験デザインと患者選択: 本試験は、英国の6施設で実施された単群非ランダム化第II相試験 (single-stage A’Hern’s design) である。統計学的設計では、両側α=0.05、検出力80%とし、RECIST v1.0に基づく1年PFS率が臨床的に興味深い閾値である25% (p1) を超える場合、治療を「worth developing further」と判断するために、40例の評価可能患者が必要とされた。有効性の閾値は、1年PFS達成患者が8例以上と設定された。
適格基準は、18歳以上、組織学的または細胞学的に診断されたSCLC、全身療法未治療、ECOG PS 0-1、適切な臓器機能、HIV/HBV/HCV非感染であった。除外基準には、根治的化学放射線療法が適応となる限局型SCLC、症候性CNS転移、自己免疫疾患の既往、イピリムマブ前治療歴、免疫抑制剤の併用などが含まれた。
治療プロトコル: 患者は、カルボプラチン (AUC 6、day 1 IV) とエトポシド (120 mg/m² IV day 1、100 mg×2/day PO day 2-3) を21日毎に最大6サイクル投与された。イピリムマブは10 mg/kgをサイクル3-6のday 1に投与する「phased strategy」を採用し、その後は30週目以降12週毎に免疫関連進行または許容できない毒性が発生するまで維持投与された。イピリムマブの減量は許可されず、カルボプラチンおよびエトポシドの用量調整は各施設の慣行に従って行われた。予防的全脳照射 (PCI) は、導入化学免疫療法完了後に選択的に実施可能であった。
評価項目と安全性評価: 腫瘍評価は、コンピュータ断層撮影 (CT) により最初の1年間は6週毎、その後は12週毎に疾患進行まで実施された。奏効判定は、RECIST v1.0と免疫関連奏効基準 (irRC、Wolchok et al. ClinCancerRes 2009) の両方で評価された。主要評価項目はRECIST v1.0に基づく1年PFS率であった。副次評価項目には、PFS、irPFS、全生存期間 (OS)、最良総合奏効、および毒性 (NCI CTCAE v4.0) が含まれた。有害事象 (AE) は最終イピリムマブ投与後90日まで収集された。イピリムマブ関連AE (irAE) は、治療関連性があり、免疫介在性と考えられたAEと定義された。
バイオマーカー解析: ベースライン時および臨床的に適応がある場合に、自己抗体の検出が行われた。抗VGCC (voltage-gated calcium channel) および抗VGKC (voltage-gated potassium channel) 抗体はラジオ免疫沈降アッセイで測定された。抗SOX2、抗Hu、抗Yoなどの神経内細胞抗原に対する抗体は、霊長類小脳を用いた間接免疫組織化学、イムノブロッティング、および半自動ELISA法を用いて検出された。
統計解析: 解析は、ITT集団 (全登録患者)、安全性解析集団 (イピリムマブを1回以上投与された患者)、および有効性解析集団 (安全性解析集団のうち適格基準を満たした患者) で実施された。生存解析にはKaplan-Meier法が用いられ、95%信頼区間 (CI) はWilson区間を用いて算出された。自己抗体陽性群と陰性群間の探索的解析も行われ、irRC、irPFS、OS、および毒性発生との関連が評価された。