• 著者: M Reck, I Bondarenko, A Luft, P Serwatowski, F Barlesi, R Chacko, M Sebastian, H Lu, J Cuillerot, TJ Lynch
  • Corresponding author: M Reck (Department of Thoracic Oncology, Hospital Grosshansdorf, Germany)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2012-08-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22858559

背景

進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) は、診断時に既に広範囲に転移していることが多く、化学療法に対する初期奏効率は高いものの、ほぼ全例が急速に再発し、極めて予後不良な疾患である。過去30年間の第III相試験において、標準的な化学療法レジメン(例えばシスプラチンまたはカルボプラチンとエトポシドの併用)を用いた治療成績は、中央値全生存期間 (OS) が8〜11ヶ月の範囲に留まり、有意な改善は認められていない Schiller et al. NEnglJMed 2002。この現状は、ED-SCLCに対する新規治療戦略の必要性を強く示唆している。

CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte antigen-4) は、T細胞の活性化を負に制御する重要な免疫チェックポイント分子である。その阻害は、T細胞の活性化と増殖を促進し、抗腫瘍免疫応答を増強することが示されている Leach et al. Science 1996。イピリムマブは、このCTLA-4を標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体であり、CTLA-4とリガンド (CD80/CD86) との結合を阻害することで、T細胞の抗腫瘍活性を高める。2010年から2011年にかけて報告された2つの第III相試験では、イピリムマブが転移性メラノーマ患者のOSを有意に延長する初の免疫チェックポイント阻害薬として承認され、その臨床的有用性が確立された Hodi et al. NEnglJMed 2010Robert et al. NEnglJMed 2011。これらの成功は、他の固形がん種、特にSCLCにおけるイピリムマブの可能性を探る動機付けとなった。

SCLCにおける免疫療法の根拠としては、免疫介在性のランバート・イートン筋無力症候群 (LEMS) を合併するSCLC患者が長期生存傾向を示すこと、またSCLCの長期生存者において抗腫瘍エフェクターT細胞と制御性T細胞の比率が高いことが報告されており、SCLCが免疫応答性を持つ可能性が示唆されていた。さらに、化学療法は腫瘍特異的抗原の放出を誘導し、T細胞活性化を促進する免疫原性細胞死を誘導することが前臨床研究で示されている Ramakrishnan et al. JClinInvest 2010。この免疫原性作用により、化学療法と抗CTLA-4抗体との相乗効果が期待された。しかし、化学療法と免疫療法の最適な投与タイミングについては未解明な点が多かった。先行研究では、化学療法と免疫療法の逐次投与が、同時投与と比較してより効果的な抗腫瘍免疫応答を誘導する可能性が示唆されていたため、本試験ではイピリムマブの投与タイミングを検討する目的で、化学療法と同時投与するconcurrent regimenと、化学療法先行後にイピリムマブを導入するphased regimenの2つのスケジュールが設計された。本研究は、非小細胞肺がん (NSCLC) とSCLCの合同試験であるCA184-041試験のED-SCLCコホートの結果を報告するものである。ED-SCLCの治療において、標準化学療法によるOSの改善が長らく不足しており、新たな治療戦略の確立が喫緊の課題であった。

目的

本研究の主要な目的は、未治療の進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) 患者を対象に、標準的な化学療法であるパクリタキセル (paclitaxel) とカルボプラチン (carboplatin) (CP) に、CTLA-4阻害薬であるイピリムマブ (ipilimumab) 10 mg/kgを併用した場合の有効性と安全性を評価することである。具体的には、イピリムマブの投与スケジュールとして、(1) phased投与スケジュール(CP先行後にイピリムマブを導入する群)と、(2) concurrent投与スケジュール(イピリムマブをCPと同時に開始する群)の2つの異なる投与法を設定し、それぞれをCP単独の対照群と比較検討する。

評価項目としては、免疫関連無増悪生存期間 (irPFS)、修正WHO基準に基づく無増悪生存期間 (mWHO-PFS)、全生存期間 (OS) を主要な有効性エンドポイントとして設定した。さらに、mWHO基準およびirRC (immune-related response criteria) 基準による最良総合奏効率 (BORR) と病勢コントロール率 (DCR) も評価する。安全性に関しては、治療に関連する有害事象 (AE) および免疫関連有害事象 (irAE) の発生率と重症度を詳細に評価し、イピリムマブ併用療法の忍容性を確認することを目的とした。本試験は、ED-SCLCにおけるイピリムマブの最適な投与戦略と、その臨床的意義を明らかにするための重要な第II相試験として位置づけられる。

結果

患者背景および治療経過: 本試験には、未治療のED-SCLC患者130例が登録され、ほとんどの患者が治療を受けた。ベースラインの患者特性は概ね均等に分布していたが、65歳超の患者の割合はphased群で31%と、対照群 (20%) およびconcurrent群 (19%) と比較してやや高かった。また、LDH上昇の患者割合はconcurrent群で58%と、対照群 (42%) およびphased群 (48%) と比較して高かった。イピリムマブの投与コース数中央値は、concurrent群およびphased群ともに4コースであった。維持期への移行率は、対照群で32%、concurrent群で29%、phased群で36%であった。

irPFS (免疫関連無増悪生存期間) の改善: Phased-ipilimumab群は、対照群と比較してirPFSを有意に改善した。中央値irPFSは、phased群で6.4ヶ月 (95% CI 5.19-6.87) であったのに対し、対照群では5.3ヶ月 (95% CI 4.67-5.72) であり、ハザード比 (HR) は0.64 (95% CI 0.43-0.94, p=0.03) であった (Figure 2A)。一方、concurrent-ipilimumab群ではirPFSの有意な改善は認められず、中央値irPFSは5.7ヶ月 (95% CI 5.19-6.87) で、HRは0.75 (95% CI 0.48-1.19, p=0.11) であった (Figure 2B)。この結果は、イピリムマブの逐次投与が免疫応答の増強に寄与する可能性を示唆する。

mWHO-PFS (修正WHO基準による無増悪生存期間) およびOS (全生存期間) の評価: mWHO基準に基づくPFSでは、3群間で有意な差は認められなかった。中央値mWHO-PFSは、対照群で5.2ヶ月、phased群で5.2ヶ月、concurrent群で3.9ヶ月であった (Figure 3)。phased群と対照群の比較ではHR 0.93 (95% CI 0.60-1.45, p=0.37)、concurrent群と対照群の比較ではHR 0.93 (95% CI 0.59-1.48, p=0.38) であった。全生存期間 (OS) については、初回解析 (99死亡時点、データカットオフ2010年8月27日) において、中央値OSはphased群で12.9ヶ月 (95% CI 7.89-16.46) vs 対照群で9.9ヶ月 (95% CI 8.64-11.73) であり、HRは0.75 (95% CI 0.46-1.23, p=0.13) とphased群で改善傾向が示されたが、統計的有意差はなかった (Figure 4A)。concurrent群のOS中央値は9.1ヶ月であった (Figure 4B)。追跡解析 (114死亡時点、データカットオフ2011年1月5日) においても、phased群のOS中央値は12.5ヶ月 (95% CI 7.9-14.9) vs 対照群は10.5ヶ月 (95% CI 8.6-11.7) であり、HRは0.76 (95% CI 0.48-1.19) と同様の傾向が維持されたが、有意差は認められなかった。2年生存率はphased群で25%、対照群で15%、concurrent群で15%であった。

腫瘍奏効率の比較: 腫瘍奏効率はirRC基準で評価した場合、phased群で最も高かった。irBORR (免疫関連最良総合奏効率) は、対照群で53% (95% CI 38-68)、concurrent群で49% (95% CI 33-65)、phased群で71% (95% CI 55-84) であった (Table 1)。mWHO-BORR (修正WHO基準最良総合奏効率) は、対照群で49% (95% CI 34-64)、concurrent群で33% (95% CI 19-49)、phased群で57% (95% CI 41-72) であった。irDCR (免疫関連病勢コントロール率) は対照群96%、concurrent群81%、phased群93%であった。mWHO-DCR (修正WHO基準病勢コントロール率) は対照群93%、concurrent群70%、phased群81%であった。irRC基準ではphased群で高い奏効率が示されたが、mWHO基準ではその差は小さかった。

安全性プロファイル: 治療関連のグレード3/4有害事象の全体的な発生率は、イピリムマブ併用群で高く、concurrent群で43%、phased群で50%であったのに対し、対照群では30%であった (Table 2)。しかし、有害事象による治療中止率は3群間で類似しており、対照群9%、concurrent群7%、phased群5%であった。 免疫関連有害事象 (irAE) のグレード3/4の発生率は、対照群で9%、concurrent群で21%、phased群で17%であった。主なirAEは、皮疹、掻痒、下痢、関節痛、肝機能酵素上昇であった。グレード3の皮疹はconcurrent群で5%に認められたが、phased群では認められなかった。グレード3の下痢はphased群で10%に発生し、concurrent群で1例のグレード4下痢が報告された。グレード3の関節痛はphased群で10%に認められた。ALT上昇のグレード3/4はconcurrent群で15% (グレード3が6例、グレード4が1例)、phased群で5% (グレード3が1例、グレード4が1例) に認められた。AST上昇のグレード3/4はconcurrent群で10% (グレード3が4例、グレード4が1例)、phased群で7% (全例グレード3) に認められた。グレード4の肝炎がイピリムマブ併用群の各群で1例ずつ (2%) 発生した。下垂体炎の発生はなかった。concurrent群で1例の治療関連死亡がグレード4の肝毒性により報告された。ほとんどのirAEは、プロトコルで定められたガイドラインに従い、主にステロイド投与によって管理され回復した。 パクリタキセル/カルボプラチンに通常関連する有害事象(脱毛、倦怠感、悪心、末梢感覚神経障害など)の発生率と重症度は、イピリムマブの追加によって増悪することはなく、3群間でほぼ同等であった。グレード3/4の好中球減少、貧血、血小板減少などの血液毒性も、3群間で類似した発生率を示し、イピリムマブの追加が化学療法固有の毒性を増強しないことが確認された。

考察/結論

本試験は、進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) 患者に対するイピリムマブの有効性と安全性を評価した初の最大規模の無作為化第II相試験であり、いくつかの重要な知見をもたらした。

先行研究との違い: 本研究は、イピリムマブのphased投与スケジュール(化学療法先行後にイピリムマブを導入)が、免疫関連無増悪生存期間 (irPFS) を有意に改善する可能性を示した点で、これまでの化学療法単独の治療とは異なるアプローチの有効性を示唆した。一方、concurrent投与スケジュールでは、irPFSの改善は認められなかった。この結果は、化学療法と免疫療法の最適な投与タイミングが臨床転帰に影響を与える可能性を示唆しており、先行研究で示唆された化学療法による腫瘍抗原放出とそれに続くイピリムマブによるT細胞活性化増強という生物学的仮説を支持するものである。

新規性: 本研究で初めて、ED-SCLCにおいてイピリムマブのphased投与がirPFSの有意な改善 (HR 0.64, 95% CI 0.43-0.94, p=0.03) をもたらすことを新規に同定した。これは、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法における投与スケジュールの重要性を強調するものであり、今後の免疫療法開発における重要な知見となる。また、全生存期間 (OS) においてもphased群で良好な傾向 (中央値12.9ヶ月 vs 9.9ヶ月, HR 0.75, 95% CI 0.46-1.23, p=0.13) が示されたことは、統計的有意差には至らなかったものの、臨床的意義を持つ可能性を示唆する。

臨床応用: 本試験の結果は、ED-SCLCの治療戦略に免疫療法を組み込む可能性を示唆するものであり、臨床応用への道を開く重要なステップである。特に、phased投与スケジュールがirPFSの改善を示したことは、化学療法と免疫療法の併用において、免疫応答を最大限に引き出すための投与順序の最適化が臨床的有用性をもたらす可能性を示している。しかし、irPFSの改善がmWHO-PFSやOSに直接的に反映されなかった点は、免疫関連反応基準 (irRC) の臨床的妥当性に関する今後の検証の必要性を示唆している。

残された課題: 本試験にはいくつかの残された課題と限界がある。第一に、比較対照として用いられた化学療法がパクリタキセル/カルボプラチンであったが、ED-SCLCの一般的な標準化学療法はエトポシド/プラチナ製剤の併用である。後の前臨床データではエトポシドとイピリムマブの相乗効果が示されており、異なる化学療法との併用効果も検討されるべきである。第二に、n=130という比較的小規模な患者集団と、3アームデザインによる各比較の検出力不足が挙げられる。特にOSの改善を示すには、計画された検出力 (57死亡時点で57%) が不十分であった。第三に、irRCがまだ完全に検証されていない基準であるため、irRCに基づくデータ解釈には慎重を要する。本試験では、mWHO基準で進行と判断されたがirRCでは進行とされなかった28例のうち、irPDまで追跡されたのはわずか8例であり、irRCに基づく完全な評価には限界があった。これらの限界にもかかわらず、本試験はED-SCLCにおけるCTLA-4阻害薬の可能性と、phased投与スケジュールの仮説形成的な有益性を同時に示した重要な試験である。今後の検討課題として、より大規模な第III相試験での検証、異なる化学療法レジメンとの併用、およびバイオマーカーによる患者層別化が挙げられる。本試験の前向きな結果を受けて、phasedイピリムマブとエトポシド/プラチナ併用療法を評価する第III相試験 (CA184-156, NCT01450761) が実施されたが、OSの有意な改善は証明できなかった。しかし、本試験は、その後のIMpower133試験 (アテゾリズマブ+カルボプラチン/エトポシド) やCaspian試験 (デュルバルマブ+プラチナ/エトポシド) でPD-L1阻害薬と化学療法の併用がED-SCLCの生存改善を示し、免疫療法の標準化が実現するまでの開発過程における重要なexplanatory trialとして位置づけられる。

方法

本試験は、国際多施設共同無作為化二重盲検第II相試験として、7カ国32施設で2008年6月から2009年8月にかけて実施された。進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) コホートとして130例の患者が登録され、疾患タイプ (ED-SCLC/NSCLC) および治験実施施設で層別化された上で、1:1:1の比率で3つの治療群に無作為に割り付けられた。本試験はClinicalTrials.gov識別子NCT00527735として登録された。

患者選択基準: 組織学的または細胞学的に確認されたED-SCLC患者で、測定可能病変を有し、18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス0または1の未治療患者が対象とされた。主な除外基準には、CTLA-4モジュレーターによる先行治療、未コントロールの悪性胸水、脳転移、SCLC関連の傍腫瘍症候群、過去5年以内の悪性腫瘍、自己免疫疾患、グレード2以上の末梢神経障害、不十分な血液・肝機能・腎機能、免疫抑制剤または全身性コルチコステロイドの慢性使用などが含まれた。

治療プロトコル:

  • 対照群 (n=45): パクリタキセル 175 mg/m² とカルボプラチン AUC6 を3週ごとに最大6コース投与し、その後プラセボを12週ごとに維持投与した。
  • phased-ipilimumab群 (n=42): 最初の2コースはCPとプラセボを投与し、その後4コースはCPとイピリムマブ 10 mg/kgを併用投与した。導入期終了後、イピリムマブを12週ごとに維持投与した。
  • concurrent-ipilimumab群 (n=43): 最初の4コースはCPとイピリムマブ 10 mg/kgを併用投与し、その後2コースはCPとプラセボを投与した。導入期終了後、イピリムマブを12週ごとに維持投与した。 イピリムマブの用量変更は不可とし、パクリタキセルおよびカルボプラチンは添付文書に従い用量調整が可能であった。グレード2以上の非皮膚有害事象、グレード3以上の皮膚有害事象、またはグレード3以上の血液毒性が発現した場合、イピリムマブの投与を保留し、グレード1以下に回復しない場合は永続的に中止した。

評価方法: 腫瘍評価は、導入期には6週ごと、維持期には12週ごとに放射線画像診断を用いて実施された。独立放射線委員会が、修正WHO基準 (mWHO) と新たに提案された免疫関連反応基準 (irRC) の両方を用いて盲検下で腫瘍反応を評価した。irRCは、イピリムマブに特有の腫瘍反応パターン(新病変出現後の病変縮小など)を捉えるために開発された基準であり、新病変を進行とみなさず、総腫瘍量に基づいて評価する。

主要エンドポイント: 本試験の主要エンドポイントはNSCLCコホートにおけるirPFSであった。ED-SCLCコホートにおけるすべてのエンドポイントは副次的なものとして定義され、irPFS、mWHO-PFS、OS、mWHO-BORR (best overall response rate)、irBORR、mWHO-DCR (disease control rate)、irDCRが含まれた。

統計解析: 各イピリムマブ群と対照群との比較には、片側ログランク検定 (log-rank test) を用い、有意水準α=0.1とした。多重比較に対する調整は行われなかった。irPFS、mWHO-PFS、OSはカプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) で推定され、ハザード比 (HR) は非層別化Cox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いて推定された。irPFSの検出力は86イベントで74%、OSの検出力は57死亡で57%と計画された。安全性解析には、治験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者が含まれた。