• 著者: Neal Ready, Anna F. Farago, Filippo de Braud, Akin Atmaca, Matthew D. Hellmann, Jeffrey G. Schneider, David R. Spigel, Victor Moreno, Ian Chau, Christine L. Hann, Joseph Paul Eder, Nicole L. Steele, Astrid Pieters, Justin Fairchild, Scott J. Antonia
  • Corresponding author: Neal Ready (Duke University Medical Center, Durham, NC, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2018-11-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30316010

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、診断時には既に進行期であることが多く、予後が不良である。初回治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法が広く用いられ、奏効率は60-80%と高いものの、ほとんどの患者が短期間で再発し、診断からの全生存期間 (OS) 中央値は1-2年程度にとどまる Byers et al. Cancer 2015。再発SCLCに対する2次治療としてはトポテカンが唯一承認されている薬剤であるが、その奏効期間中央値 (DOR) は3.3ヶ月と短く、Grade 4の好中球減少症 (静脈内投与で70%)、血小板減少症 (29%)、貧血 (42%) など、重篤な骨髄抑制が頻繁に発生する von Pawel et al. J Clin Oncol 1999。特に、2次治療以降の再発SCLC患者に対する治療選択肢は極めて限定的であり、奏効率は10-15%、OS中央値は5-7ヶ月程度と報告されている Demedts et al. Eur Respir J 2010。トポテカン耐性となった患者に対しては、有効な標準治療が存在せず、この領域には大きな未充足の医療ニーズが存在する。

SCLCは喫煙との関連が強く、高い腫瘍変異負荷 (TMB) を有することが知られており、これは免疫チェックポイント阻害剤に対する反応性の予測因子となる可能性が示唆されている Yarchoan et al. NEnglJMed 2017。この背景から、SCLCは免疫チェックポイント阻害剤の有望な標的として注目されてきた。ニボルマブは、PD-1 (programmed death 1) 免疫チェックポイント阻害抗体であり、非小細胞肺癌 (NSCLC) を含む様々な癌種で承認されている。先行研究であるCheckMate 017および057試験の統合解析では、既治療進行NSCLC患者においてニボルマブがドセタキセルと比較してOSを有意に延長することが示されている (ハザード比 [HR] 0.70, 95%信頼区間 [CI] 0.61-0.81) Vokes et al. Ann Oncol 2018。また、CA209-003試験の長期追跡解析では、既治療進行NSCLC患者におけるニボルマブ単剤療法の5年OS率は16%であった Gettinger et al. J Clin Oncol 2018

CheckMate 032試験 (NCT01928394) は、既治療の進行性または転移性固形癌患者を対象とした多コホート第I/II相非ランダム化オープンラベル試験であり、SCLC患者におけるニボルマブ単剤療法およびニボルマブとイピリムマブ併用療法の有効性と安全性を評価した。2016年にLancet Oncology誌で報告された中間解析では、SCLC患者におけるニボルマブ単剤療法の初期有効性シグナルと管理可能な安全性プロファイルが示された Antonia et al. LancetOncol 2016。本研究は、その後の追跡データに基づき、2レジメン以上の化学療法後に進行した再発SCLC患者のうち、3次治療以降にニボルマブ単剤療法を受けた患者サブセット (n=109) の有効性、安全性、およびバイオマーカーとの関連を詳細に報告したものである。この結果は、2018年8月に米国食品医薬品局 (FDA) が再発SCLCの3次治療以降に対するニボルマブ単剤療法を迅速承認する根拠となった。しかし、SCLCにおける免疫チェックポイント阻害剤の最適な位置付けや、長期奏効を予測するバイオマーカーの特定については、依然として未解明な点が多く、さらなる検討が不足している状況であった。

目的

本研究の目的は、2次以上の化学療法後に進行した再発小細胞肺癌 (SCLC) 患者に対するニボルマブ単剤療法を3次治療以降として投与した場合の有効性および安全性を評価することである。具体的には、客観的奏効率 (ORR)、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) を主要および副次評価項目として評価した。さらに、腫瘍PD-L1 (programmed death-ligand 1) 発現や腫瘍変異負荷 (TMB) などのバイオマーカーと治療効果との相関関係を探索的に解析し、ニボルマブ単剤療法に対する反応性を予測する因子を特定することも目的とした。これにより、再発SCLC患者におけるニボルマブの臨床的有用性を明確にし、今後の治療戦略の確立に貢献することを目指した。

結果

患者背景: 本解析には、CheckMate 032試験のSCLCコホートにおいて3次治療以降のニボルマブ単剤療法を受けた109例の患者が含まれた (非ランダム化コホート59例、ランダム化コホート50例)。患者の年齢中央値は64歳 (範囲45-81歳) であり、男性が56.0%を占めた。喫煙歴のある患者 (現喫煙者または元喫煙者) は92.7%であった。ECOG PSは0が29.4%、1が69.7%であった。前治療レジメン数は、2レジメンが71.6%、3レジメンが22.9%、4レジメン以上が5.5%であった。初回治療でのプラチナ感受性は、プラチナ感受性SCLCが65.1%、プラチナ耐性SCLCが33.9%であった (Table 1)。PD-L1発現が定量可能であった患者のうち、PD-L1陽性 (TC≥1%) は11.9%であった。

主要評価項目:客観的奏効率 (ORR) および奏効期間 (DOR): 3次治療以降のニボルマブ単剤療法を受けた全患者109例における独立中央判定委員会 (BICR) 評価による確認済みORRは11.9% (95% CI: 6.5-19.5) であった (Table 2)。内訳は、完全奏効 (CR) が1例 (0.9%)、部分奏効 (PR) が12例 (11.0%) であった。病勢安定 (SD) を含めた病勢制御率 (DCR) は22.0%であった。奏効までの期間中央値は1.6ヶ月であった。奏効期間中央値 (mDOR) は17.9ヶ月 (95% CI: 7.9-42.0) と、非常に長い持続性を示した (Figure 1)。客観的奏効を達成した患者のうち、61.5% (8/13例) が12ヶ月以上の奏効を維持しており、追跡終了時点 (中央値28.3ヶ月) で13例中8例 (62%) が奏効継続中であった。ECOG PS別のサブグループ解析では、ECOG PS 0の患者でORR 21.9%と、ECOG PS 1の患者のORR 6.6%と比較して高い奏効率が観察された。

無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS): 無増悪生存期間中央値 (mPFS) は1.4ヶ月 (95% CI: 1.3-1.6) であった (Figure 2)。6ヶ月PFS率は17.2% (95% CI: 10.7-25.1)、12ヶ月PFS率は11%であった。早期に病勢進行する患者が多い一方で、一部の患者では長期にわたる無増悪生存が認められた。全生存期間中央値 (mOS) は5.6ヶ月 (95% CI: 3.1-6.8) であった (Figure 3)。12ヶ月OS率は28.3% (95% CI: 20.0-37.2)、18ヶ月OS率は20.0% (95% CI: 12.7-28.6)、24ヶ月OS率は14.3%であった。歴史的な3次治療におけるOS中央値 (2-3ヶ月) と比較して、臨床的に意義のある生存期間の延長が示され、長期生存者が明確な集団 (tail of the curve) を形成していることが示唆された。

白金感受性およびPD-L1発現と治療効果の関連: 初回治療後のプラチナ感受性別に解析した結果、プラチナ感受性群におけるORRは11.8% (n=71) であったのに対し、プラチナ耐性群 (n=37) ではORR 12.0%と、両群で同等の奏効率が観察された。この結果は、ニボルマブがプラチナ耐性SCLC患者においても有効な治療選択肢となり得ることを示唆している。腫瘍PD-L1発現と治療効果の間に明確な相関は認められなかった。PD-L1 TC≥1%の患者群 (n=13) におけるORRは14.7%であったのに対し、PD-L1 TC<1%の患者群 (n=65) におけるORRは11.6%であり、統計的に有意な差はなかった。このことから、SCLCにおけるPD-L1発現は、ニボルマブ単剤療法の予測バイオマーカーとしては限定的であることが示された。

腫瘍変異負荷 (TMB) と治療効果の関連: 別の解析 Goodman et al. MolCancerTher 2017Hellmann et al. NEnglJMed 2018 では、TMB高値群 (全エクソンあたり≥248変異、上位3分の1) におけるORRは21.3%であったのに対し、TMB中等度群では6.8%、TMB低値群 (0から<143変異) では4.8%と、TMBと奏効率の間に明確な正の相関が観察された。TMB高値群の12ヶ月OS率は35%と、他の群と比較して最も良好な生存アウトカムを示した。この結果は、TMBがSCLCにおけるニボルマブ単剤療法の有望な予測バイオマーカーとなり得ることを強く示唆している。TMB高値群のOS中央値は10.9ヶ月 (95% CI: 5.6-21.7) であったのに対し、TMB低値群では3.4ヶ月 (95% CI: 1.8-5.6) であり、TMB高値の患者でより長い生存期間が認められた (HR 0.44, 95% CI 0.23-0.84, p=0.012)。

安全性: 全グレードの治療関連有害事象 (TRAE) は55.0%の患者で報告され、Grade 3-4のTRAEは11.9%に発生した (Table 3)。TRAEにより治療中止に至った患者は2.8% (3例) であった。最も頻繁に報告された全グレードのTRAEは、掻痒症 (12.8%)、疲労 (10.1%)、悪心 (7.3%)、発疹 (6.4%)、下痢 (6.4%)、食欲不振 (5.5%) であった。免疫関連有害事象 (irAE) のほとんどはGrade 1-2であり、最も一般的なirAEは皮膚反応 (21.1%) であった。Grade 3-4のirAEとしては、肺臓炎が2例 (1.8%)、脳炎が1例報告された。治療関連死は2例 (肺臓炎、脳炎) であった。全体として、ニボルマブ単剤療法は忍容性が良好であることが示された。

考察/結論

本研究は、再発小細胞肺癌 (SCLC) におけるニボルマブ単剤の3次治療以降の有効性を評価した最大規模のデータセットであり、ORR 11.9%、mDOR 17.9ヶ月、mOS 5.6ヶ月、12ヶ月OS率 28.3%という結果は、2018年8月に米国FDAが再発SCLCの3次治療以降に対するニボルマブ単剤療法を迅速承認する根拠となった。特に重要な知見は、奏効例における驚異的な長期持続性 (mDOR 17.9ヶ月) と、長期生存者の存在である。SCLCという急速進行性で予後不良な疾患において、このような治療アウトカムは革命的であると言える。

先行研究との違い: これまでの再発SCLCに対する3次治療の標準は限定的であり、トポテカンによる3次治療の奏効率は5-10%、mOSは3-4ヶ月程度と報告されている。本研究のニボルマブ単剤療法は、これらの歴史的データと比較して、奏効率および生存率の両面で優位性を示し、免疫療法の「tail of the curve」効果が再発SCLC患者においても実現可能であることを初めて示した点で、これまでの治療パラダイムと対照的である。また、実臨床データとの比較においても、本研究の12ヶ月OS率 28.3%は、非免疫療法を受けた患者コホートにおける12ヶ月OS率 11%と比較して優位性を示している Schwartzberg et al. WCLC 2018

新規性: 本研究で初めて、再発SCLCの3次治療以降において、ニボルマブ単剤療法が持続的な奏効と良好な忍容性を示すことを大規模コホートで実証した。また、腫瘍変異負荷 (TMB) がニボルマブに対する奏効の有望な予測バイオマーカーとして有用である可能性を明確に示したことは新規の知見である。PD-L1発現がSCLCにおいては予測能が限定的であるという結果も、NSCLCとは異なるSCLCの生物学的特性を示唆するものであり、これまで報告されていない重要な情報である。

臨床応用: 本知見は、再発SCLC患者、特に既存の治療選択肢が限られている3次治療以降の患者に対して、ニボルマブが新たな治療選択肢となることを示唆する。TMB高値の患者群では奏効率が21.3%と高かったことから、TMB検査を臨床現場で導入することで、ニボルマブの効果が期待できる患者を特定し、個別化医療を推進できる可能性がある。プラチナ感受性に関わらず同等の奏効率を示したことは、プラチナ耐性で予後が特に不良な患者群にとっても希望となる。

残された課題: 本研究は単アーム試験であり、対照群が存在しない点がlimitationである。また、SCLCの分子サブタイプ (ASCL1、NEUROD1、POU2F3、YAP1、INFLAMEDなど) とニボルマブの治療効果との関連については、さらなる検討が必要である。今後の研究課題として、ニボルマブとイピリムマブの併用療法、PARP阻害剤、DLL3標的療法など、他の新規治療法との最適併用戦略の確立が挙げられる。さらに、長期持続奏効者のクローナル進化やT細胞動態の解明は、免疫療法の作用機序を深く理解し、さらなる治療改善に繋がる今後の方向性である。

方法

本研究は、多施設共同非ランダム化第I/II相試験であるCheckMate 032 (ClinicalTrials.gov識別子 NCT01928394) のSCLCコホートから得られたデータを解析したものである。対象患者は、18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス (PS) 0または1、組織学的または細胞学的に確認された限局期または進展期SCLC、および1レジメン以上のプラチナ製剤ベースの化学療法歴を有する患者であった。本解析では、特に2レジメン以上の化学療法後に病勢進行した患者のうち、3次治療以降としてニボルマブ単剤療法 (3 mg/kg、2週ごと) を病勢進行または許容できない毒性が発現するまで投与された109例を抽出した。患者はプラチナ感受性や腫瘍PD-L1発現の有無にかかわらず登録された。

主要評価項目は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ガイドライン1.1版に基づき、独立中央判定委員会 (BICR) によって評価された客観的奏効率 (ORR) であった Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。副次評価項目には、BICRによる奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性 (NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events [CTCAE] v4.0に基づく) が含まれた。腫瘍評価はベースライン時、最初の24週間は6週ごと、その後は病勢進行または治療中止まで12週ごとに実施された。生存期間は治療中止後3ヶ月ごとにモニタリングされた。

バイオマーカー探索として、治療前の腫瘍生検検体 (アーカイブまたは新鮮検体) を用いて、PD-L1発現が検証済みの自動免疫組織化学 (IHC) アッセイ (Dako 28-8クローン抗体) により評価された。PD-L1発現は、評価可能な腫瘍細胞が100個以上含まれるセクションにおいて、腫瘍細胞膜の染色が1%以上の場合に陽性と定義された。また、腫瘍変異負荷 (TMB) は、全エクソンシーケンス (WES) を用いて評価され、高TMB群 (全エクソンあたり248変異以上、上位3分の1) と低TMB群 (0から143変異未満) に分類された。

統計解析は、非ランダム化コホートとランダム化コホートのニボルマブ単剤アームからプールされたデータを用いて実施された。有効性の解析は既報の通りに行われた。安全性プロファイルは、死亡、重篤な有害事象 (SAE)、治療中止に至った有害事象、全有害事象、および特定の有害事象の要約と患者ごとのリストによって評価された。データカットオフ日は2017年11月6日であり、中央観察期間は約28.3ヶ月であった。サブグループ解析は、病期、プラチナ感受性 (プラチナ感受性 vs プラチナ耐性)、PD-L1発現、およびTMBに基づいて実施された。