• 著者: Aaron M. Goodman, Shumei Kato, Lyudmila Bazhenova, Sandip P. Patel, Garrett M. Frampton, Vincent Miller, Philip J. Stephens, Gregory A. Daniels, Razelle Kurzrock
  • Corresponding author: Razelle Kurzrock (Center for Personalized Cancer Therapy, UC San Diego Moores Cancer Center, La Jolla, CA, USA)
  • 雑誌: Molecular Cancer Therapeutics
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28835386

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、悪性黒色腫、非小細胞肺癌 (NSCLC)、腎細胞癌など、多様な癌種において持続的な奏効をもたらすことが示されているが、奏効する患者は全体の20〜40%程度に留まることが課題である。そのため、ICI治療の恩恵を受ける患者を正確に特定するための有効な予測バイオマーカーの確立が喫緊の課題である。これまで、PD-L1 IHC発現が主要なバイオマーカーとして広く研究されてきたが、PD-L1陰性腫瘍でも奏効が認められる一方、PD-L1陽性腫瘍でも無効例が存在するなど、その予測性能には限界があることが指摘されている。また、PD-L1発現の検出方法や陽性基準の標準化も課題であり、PD-1/PD-L1経路以外の免疫療法には適用できないという制約も存在する。これらの要因により、PD-L1単独ではICI治療の包括的な予測因子としては不足しているという認識が広まっている。

腫瘍変異負荷 (TMB) は、腫瘍細胞に蓄積された体細胞変異の総量を指し、これらの変異によって産生されるネオアンチゲン(新生抗原)の量と相関すると考えられている。ネオアンチゲンはT細胞応答を誘導し、腫瘍に対する免疫反応を活性化する可能性があり、TMBが高い腫瘍ほどICI治療への感受性が高いことが示唆されてきた。先行研究では、Snyder et al. NEnglJMed 2014 が悪性黒色腫におけるCTLA-4阻害薬の奏効と変異負荷の相関を報告し、Rizvi et al. Science 2015 はNSCLCにおけるPD-1阻害薬ペムブロリズマブへの応答が変異ランドスケープによって決定されることを示した。また、Le et al. NEnglJMed 2015 はミスマッチ修復欠損 (MMR-deficient) 腫瘍においてPD-1阻害薬が有効であることを示したが、これらの腫瘍は一般的にTMBが高いことが知られている。これらの研究は、全エクソームシーケンス (WES) を用いてTMBを評価したが、WESは費用と時間がかかり、臨床現場でのルーチン使用には不向きであるという課題があった。

ハイブリッドキャプチャーベースの次世代シーケンス (NGS) は、より少ない遺伝子パネルでTMBを測定し、同時に他のDNA変異も検出できるため、臨床応用への期待が高まっていた。しかし、多癌種にわたる大規模なコホートにおいて、NGSで測定されたTMBがICI治療効果の独立予測因子となるかを包括的に評価した研究は、本研究の時点では不足していた。特に、PD-1/PD-L1阻害薬だけでなく、CTLA-4阻害薬や併用療法を含む多様な免疫療法に対するTMBの予測性能、およびPD-L1発現との独立性については、さらなる検証が必要であり、この知識ギャップが残されていた。本研究は、FoundationOne 315-遺伝子パネルを用いて、多様な癌種におけるTMBの予測性能を検証し、この未解明な点を明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、多様な癌種の進行期固形癌患者1,638例を対象に、FoundationOne 315-遺伝子パネルで測定された腫瘍変異負荷 (TMB) が、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療(抗PD-1/PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、およびこれらの併用療法)に対する奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) の独立した予測バイオマーカーとなるかを後方視的に検証することである。特に、TMBがPD-L1発現とは独立した予測因子であるか、また癌種や治療レジメンの種類によらず一貫した予測性能を示すかについても評価することを目的とした。本研究は、TMBがICI治療の臨床的有用性を示すための重要なエビデンスを提供し、個別化医療の推進に貢献することを目指す。

結果

TMB分布と患者背景: 全体1,638例のTMB中央値は5 mutations/Mbであり、TMB高値群 (≥20 mutations/Mb) は全体の15%を占めた。癌種別に見ると、悪性黒色腫 (中央値11.2)、NSCLC (7.2)、小細胞肺癌 (SCLC; 8.5)、尿路上皮癌 (7.1)、頭頸部扁平上皮癌 (5.9) でTMBが高く、前立腺癌 (2.3)、乳癌 (3.8)、膵癌 (3.8)、肉腫 (2.8) で低い傾向が認められた。ICI治療を受けた151例の患者背景では、TMB高値群は低〜中間値群と比較して、60歳以上の高齢者 (71% vs 41%, p=0.0014)、男性 (76% vs 56%, p=0.0349)、白人 (89% vs 68%, p=0.0104) の割合が有意に高かった (Table 1)。

TMBと奏効率: ICI治療を受けた151例において、TMB高値群 (≥20 mutations/Mb) の奏効率 (CR/PR) は58% (22/38例) であり、TMB低〜中間値群 (1-19 mutations/Mb) の20% (23/113例) と比較して有意に高かった (p=0.0001, オッズ比 [OR] 5.38, 95% CI 2.44-11.58)。TMB高値群は低〜中間値群と比較して奏効率が約3倍であった。また、ICI治療奏効患者のTMB中央値は19 mutations/Mbであったのに対し、非奏効患者では5 mutations/Mbであり、有意な差が認められた (p<0.0001) (Figure 1)。

TMBと無増悪生存期間 (PFS): TMB高値群のPFS中央値は12.8ヶ月であり、TMB低〜中間値群の3.3ヶ月と比較して有意な延長を示した (ログランクp<0.0001)。TMB高値群のPFSに対するハザード比 (HR) は0.34 (95% CI 0.23-0.50, p<0.0001) であり、低〜中間値群と比較して病勢進行または死亡のリスクが約66%低下したことを示唆する。多変量解析においても、TMB高値は独立したPFS延長因子であった (Table 2)。

TMBと全生存期間 (OS): TMB高値群のOS中央値は未到達であったのに対し、TMB低〜中間値群では16.3ヶ月であった (ログランクp=0.0036)。TMB高値群のOSに対するHRは0.33 (95% CI 0.19-0.58, p=0.0036) であり、低〜中間値群と比較して死亡リスクが約67%低下したことを示す。多変量Cox回帰分析(年齢、性別、癌種、治療ライン、CRP、アルブミン、治療薬で調整)の結果、TMB高値は独立した予後良好因子であることが確認された (HR 0.40, 95% CI 0.22-0.75, p=0.004)。

PD-L1発現との独立性: PD-L1 IHCデータが利用可能な66例のサブグループ解析では、TMBとPD-L1腫瘍細胞陽性率 (TPS) との間に弱い相関 (Spearman r=0.16) しか認められず、両バイオマーカーはほぼ独立して機能することが示唆された。TMB高値かつPD-L1陰性、あるいはTMB低値かつPD-L1陽性といったdiscordantな症例が複数存在し、TMBがPD-L1とは異なるメカニズムでICI応答を予測する可能性が示された。

抗PD-1/PD-L1単剤療法におけるTMBの予測性能: 抗PD-1/PD-L1単剤療法を受けた102例の患者群において、TMB高値群は低〜中間値群と比較して、奏効率が46% vs 14% (p=0.0025)、PFS中央値が10ヶ月 vs 2.2ヶ月 (p=0.0005) と、有意に良好な治療成績を示した (Supplementary Table S8, Figure 2B, E)。特に、TMBの閾値を連続的に変化させた場合、TMBカットオフ値の上昇に伴い、奏効率のオッズ比 (OR) およびPFS/OSのハザード比 (HR) が線形的に改善する傾向が認められた (Figure 3)。これは、TMBがPD-1/PD-L1単剤療法に対する治療効果と線形相関を持つことを強く示唆する。

癌種別および治療レジメン別解析: NSCLC、悪性黒色腫、尿路上皮癌、頭頸部扁平上皮癌、大腸癌 (MSI-Hを含む) など、主要な癌種サブグループにおいても、TMB高値群の奏効率およびPFS延長は一貫して再現された。特に、ミスマッチ修復欠損 (MMR-deficient) または高頻度マイクロサテライト不安定性 (MSI-High) を有する大腸癌患者の多くはTMB高値と重複し、75-80%という高い奏効率を示した。抗CTLA-4単剤療法 (n=15) や高用量IL-2療法 (n=9) を受けた少数の患者群においても、TMB高値の優位性が示唆された。抗CTLA-4単剤療法を受けた患者群では、TMB高値群のPFS中央値は6.4ヶ月 vs 2.7ヶ月であり、HR 0.38 (95% CI 0.17-0.81, p=0.0144) であった。しかし、抗CTLA-4と抗PD-1/PD-L1の併用療法を受けた患者 (n=17) では、TMB高値群の奏効率は83% (5/6例)、低〜中間値群では67% (8/11例) であり、TMBと治療効果の間に有意な関連は認められなかった (p=1.0000)。これは、併用療法がTMBレベルに依存せず、より広範な患者群に奏効をもたらす可能性を示唆する。

考察/結論

本研究は、FoundationOne 315-遺伝子パネルで測定された腫瘍変異負荷 (TMB) が、多様な癌種における免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療の奏効を予測する独立したバイオマーカーであることを、1,638例という大規模な後方視的コホートで初めて包括的に検証した重要な研究である。TMB高値 (≥20 mutations/Mb) の患者群は、低〜中間値群と比較して、ICI治療に対する奏効率が約3倍、無増悪生存期間 (PFS) が約3倍長く、全生存期間 (OS) も有意に延長することが示された。特に、抗PD-1/PD-L1単剤療法において、TMBと治療効果の間に明確な線形相関が認められたことは、TMBがこの種の治療に対する用量反応性のような関係を持つ可能性を示唆する新規の知見である。

先行研究との違い: これまでの研究では、Snyder et al. NEnglJMed 2014 が悪性黒色腫におけるCTLA-4阻害薬の奏効と変異負荷の相関を、Rizvi et al. Science 2015 がNSCLCにおけるPD-1阻害薬への応答と変異ランドスケープの関連を報告していたが、本研究はこれらの知見を多癌種横断的に、かつFoundationOneのような臨床的に利用可能なNGSパネルを用いて確認した点で、これまでの報告とは異なる。また、PD-L1発現とTMBが独立した予測因子である可能性を示唆した点も重要である。

新規性: 本研究で初めて、TMBがPD-L1発現とは弱い相関しか示さず、独立した予測バイオマーカーとして機能することを示した。これは、両バイオマーカーを組み合わせることで、ICI治療の適応判断の精度を向上させられる可能性を提示する。さらに、抗PD-1/PD-L1単剤療法においてTMBと治療効果の間に線形相関があることを示した点は、TMBが単なる閾値バイオマーカーではなく、連続的な予測因子としての価値を持つことを示唆する新規性のある発見である。

臨床応用: 本研究の知見は、FoundationOneなどのターゲットNGSパネルを用いたTMB評価が、多様な癌種におけるICI治療の適応判断において重要なツールとなり得ることを強く支持する。特に、希少癌や治療選択肢が限られる患者において、TMBをバイオマーカーとして利用することで、免疫療法の恩恵を受けやすい患者を特定し、治療機会を提供できる可能性がある。これは、個別化医療の推進に大きく貢献する臨床的意義を持つ。

残された課題: 本研究は後方視的解析であり、特定の癌種や免疫療法レジメンにおける患者数が少ないというlimitationがある。特に、抗CTLA-4単剤療法や高用量IL-2、併用療法におけるTMBの予測性能については、さらなる大規模な前向き研究での検証が今後の課題である。例えば、抗CTLA-4と抗PD-1/PD-L1の併用療法では、TMBと治療効果の間に有意な関連が認められず、TMBレベルに依存せずに奏効をもたらす可能性が示唆されたが、この結果は患者数が少ないため、より大規模なコホートでの確認が今後の研究方向性として挙げられる。また、TMBの最適な閾値が癌種によって異なる可能性があり、例えばNSCLCでは10 mutations/Mbがより適切であるという報告もあるため、癌種特異的な閾値の最適化が必要である。さらに、TMB以外のネオアンチゲン特性(例:ネオアンチゲンの質やMHC結合能)の評価、血液ベースTMB (bTMB) の標準化、そしてTMB、PD-L1、MSI状態、遺伝子シグネチャーなどを統合した複合バイオマーカーの開発も今後の研究方向性として挙げられる。

方法

患者選択とデータ収集: 本研究は後方視的コホート研究 (NCT02478931) として実施された。2012年10月から2016年8月までにカリフォルニア大学サンディエゴ校ムーアズがんセンターでFoundation Medicine社の包括的ゲノムプロファイリングを受けた1,638例の癌患者のカルテをレビューした。このうち、免疫療法を受けた患者151例が治療成績評価の対象となった。患者は進行期固形癌であり、悪性黒色腫、非小細胞肺癌 (NSCLC) が多く含まれたが、その他19種類の多様な癌種も含まれた (Table 1)。本研究はUCSD Institutional Review Boardのガイドラインに従って実施され、同意が得られた。

TMB測定: ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 腫瘍組織サンプルからFoundationOneアッセイ(ハイブリッドキャプチャーベースNGS)を用いてTMBを測定した。使用されたパネルは、時期により182、236、または315遺伝子を対象とし、ゲノムの約1.2 Mb領域を解析した。TMBはmutations/Mbとして定量され、既知のドライバー変異や生殖細胞系多型は除外された。TMBレベルは、Foundation Medicineの公式レポートに基づき、低値 (1-5 mutations/Mb)、中間値 (6-19 mutations/Mb)、高値 (≥20 mutations/Mb) の3群に分類された。この閾値は、大規模コホートにおいて患者を約50%(低TMB)、40%(中間TMB)、10%(高TMB)に層別化するものである。また、TMBは連続変数としても評価された。

免疫療法: 評価対象となった免疫療法は、抗PD-1抗体 (ペムブロリズマブ、ニボルマブ)、抗PD-L1抗体 (アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ)、抗CTLA-4抗体 (イピリムマブ)、および抗CTLA-4/抗PD-1/PD-L1併用療法、高用量IL-2、その他の免疫療法が含まれた (Table 1)。複数の免疫療法レジメンを受けた患者については、最長のPFSを示した治療レジメンが解析に選択された。

評価項目と統計解析: 主要評価項目はRECIST v1.1基準に基づく奏効率 (ORR; 完全奏効 [CR] または部分奏効 [PR])、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) であった。PFSは免疫療法開始から病勢進行または死亡までの期間、OSは免疫療法開始から死亡までの期間と定義された。統計解析には、カテゴリカル変数の比較にFisherの正確検定、生存解析にはKaplan-Meier法とログランク検定 (Mantel-Cox test) が用いられた。多変量解析にはCox比例ハザード回帰モデルが適用され、年齢、性別、癌種、治療ライン、CRP、アルブミン、治療薬の種類などの因子で調整された。P値が0.05未満を有意と判断した。線形回帰分析も実施され、TMBと治療効果の線形相関が評価された。