- 著者: Chung HC, Piha-Paul SA, Lopez-Martin J, Schellens JHM, Kao S, Miller WH Jr., Delord JP, Gao B, Planchard D, Gottfried M, Zer A, Jalal SI, Penel N, Mehnert JM, Matos I, Bennouna J, Kim DW, Xu L, Krishnan S, Norwood K, Ott PA
- Corresponding author: Chung HC (Department of Medical Oncology, Yonsei Cancer Center, Yonsei University College of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-12-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 31870883
背景
小細胞肺がん (SCLC) は、肺がん全体の約13%を占める悪性度の高い腫瘍であり、診断時には約70%の患者が広範期で発見される進行性の疾患である Govindan et al. JClinOncol 2006。SCLCは初回白金製剤ベース化学療法に対して高い奏効率 (約60〜80%) を示すものの、ほとんどの患者が6ヶ月以内に再発し、広範期SCLC患者の5年生存率はわずか5%と極めて予後不良である Sabari et al. NatRevClinOncol 2017。再発後の2次治療および3次治療における奏効率と奏効期間はさらに不良であり、有効な治療選択肢が極めて限られていることが長年の課題であった。
特に、2ライン以上の前治療後に再発・進行したSCLC患者は、治療選択肢が乏しく、予後が極めて悪いアンメットメディカルニーズが高い集団である。リアルワールドデータを用いた先行研究では、3ライン以降の全身療法を受けたSCLC患者の客観的奏効率 (ORR) は21.3%、奏効持続期間 (DoR) 中央値は2.6ヶ月、全生存期間 (OS) 中央値は4.4ヶ月と報告されており、1年生存率はわずか11%であった (Coutinho et al., Lung Cancer 2019)。このような背景から、新たな治療戦略の開発が強く求められていたものの、この難治性集団に対する有効な治療法は依然として不足している状況であった。
近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) がSCLC治療において有望な選択肢として浮上している。抗PD-1抗体であるペムブロリズマブ (pembrolizumab) は、第1b相多コホート試験KEYNOTE-028および第2相多コホート試験KEYNOTE-158において、前治療歴のある再発・転移性SCLC患者に対する単剤療法として臨床活性を示した。KEYNOTE-028試験では、PD-L1陽性SCLC患者においてORR 33.3%、OS中央値9.7ヶ月を達成し Ott et al. JClinOncol 2017、KEYNOTE-158試験ではPD-L1発現状況にかかわらずORR 18.7%、OS中央値8.7ヶ月を示した (Chung et al., J Clin Oncol 2018)。これらの有望な結果に基づき、米国食品医薬品局 (FDA) は、白金製剤ベース化学療法および少なくとも1ラインの他の治療後に進行した転移性SCLC患者に対する3次治療以降の選択肢としてペムブロリズマブを承認した。しかし、これらの試験はそれぞれ異なるPD-L1選択基準と投与スケジュールを有しており、特に2ライン以上の前治療を受けたSCLC患者におけるペムブロリズマブの有効性と安全性に関する統合的なエビデンスは未解明な部分が残されていた。この知識のギャップを埋めるため、両試験のSCLCコホートから、2ライン以上の前治療を受けた患者に特化したプール解析が必要とされた。
目的
本研究の目的は、第1b相KEYNOTE-028試験および第2相KEYNOTE-158試験のSCLCコホートから得られたデータを探索的にプール解析し、2ライン以上の前治療を受けた再発・転移性SCLC患者におけるペムブロリズマブ単剤療法の有効性および安全性を詳細に評価することである。具体的には、主要評価項目として客観的奏効率 (ORR) を、副次評価項目として奏効持続期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性を評価し、この難治性患者集団におけるペムブロリズマブの臨床的有用性を明らかにすることを目指した。また、PD-L1発現状況と治療効果との関連についても検討した。
結果
患者背景: 本プール解析には、2ライン以上の前治療歴がある再発・転移性SCLC患者83例 (KEYNOTE-028から19例、KEYNOTE-158から64例) が含まれた (Table 1)。患者の年齢中央値は62歳 (範囲: 24〜84歳) で、男性が53例 (63.9%) を占めた。ECOGパフォーマンスステータスは、PS 0が25例 (30.1%)、PS 1が57例 (68.7%) であった。前治療ライン数は、2ラインが53例 (63.9%)、3ラインが17例 (20.5%)、4ラインが9例 (10.8%)、5ライン以上が4例 (4.8%) であった。安定した脳転移を有する患者は13例 (15.7%) であり、83例中42例 (50.6%) が登録前に脳放射線療法を受けていた。PD-L1発現状況は、47例 (56.6%) が陽性、28例 (33.7%) が陰性、8例 (9.6%) が評価不能であった。追跡期間中央値は7.7ヶ月 (範囲: 0.5〜48.7ヶ月) であった。
奏効率と奏効持続性: 主要評価項目であるORRは19.3% (16/83例、95% CI: 11.4-29.4) であった (Table 2)。内訳は、完全奏効 (CR) が2例 (2.4%)、部分奏効 (PR) が14例 (16.9%) であった。安定 (SD) は15例 (18.1%)、進行 (PD) は45例 (54.2%) に認められた。奏効した16例のうち、14例 (88%) がPD-L1陽性腫瘍を有していた。奏効例における追跡期間中央値は25.9ヶ月 (範囲: 16.1〜40.1ヶ月) であり、奏効までの時間中央値は2.1ヶ月 (範囲: 1.7〜4.1ヶ月) であった。奏効持続期間 (DoR) 中央値は未到達 (範囲: 4.1〜35.8+ヶ月) であり、カプラン・マイヤー推定によると、12ヶ月以上の奏効持続率は67.7%、18ヶ月以上の奏効持続率は60.9%であった (Fig 1)。データカットオフ時点で、9例 (10.8%) が奏効を継続中であり、その中には2例のCR患者が含まれていた。評価可能な75例中33例 (44%) で標的病変の縮小が認められ、22例 (29%) で30%以上の腫瘍縮小が確認された (Fig 2B)。
無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS): PFS中央値は2.0ヶ月 (95% CI: 1.9-3.4) であった (Fig 3A)。12ヶ月PFS率は16.9%、24ヶ月PFS率は13.1%と推定された。OS中央値は7.7ヶ月 (95% CI: 5.2-10.1) であった (Fig 3B)。12ヶ月OS率は34.3%、24ヶ月OS率は20.7%と推定された。PFS中央値が2.0ヶ月と比較的短いのは、多くの患者が早期に疾患進行を経験するためであるが、奏効した患者においては持続的な効果が認められる二峰性の分布が示唆された。
安全性プロファイル: 治療関連有害事象 (TRAE) は、83例中51例 (61.4%) に認められた (Table 3)。Grade 3以上のTRAEは8例 (9.6%) であった。最も頻繁に報告されたTRAEは、倦怠感 (12.0%)、そう痒症 (12.0%)、発疹 (12.0%)、甲状腺機能低下症 (10.8%)、関節痛 (9.6%) であった。Grade 3のTRAEとしては、大腸炎 (2例)、急性腎障害 (1例)、無力症 (1例)、肺炎 (1例)、副腎不全 (1例) が報告された。Grade 4のTRAEは認められなかった。治療関連のGrade 5 (死亡) のTRAEが2例報告された。1例は腸管虚血 (day 279)、もう1例は肺炎 (day 45) であった。TRAEにより治療中止に至った患者は5例 (6.0%) であった。
免疫関連有害事象 (irAE): 免疫関連有害事象 (irAE) は20例 (24.1%) に認められ、Grade 3以上のirAEは5例 (6.0%) であった。主なirAEは甲状腺機能低下症 (10.8%)、甲状腺機能亢進症 (6.0%)、および注入反応 (3.6%) であった。Grade 3のirAEには、大腸炎 (2.4%)、副腎不全 (1.2%)、膵炎 (1.2%)、肺炎 (1.2%) が含まれた。Grade 4または5のirAEは報告されなかった。irAEによる治療中止は2例 (2.4%) であった。irAEは全身性コルチコステロイドによる管理が可能であり、全体として許容可能な安全性プロファイルであった。
考察/結論
本探索的プール解析は、2ライン以上の前治療歴がある再発・転移性SCLC患者において、ペムブロリズマブ単剤療法が持続的な抗腫瘍活性と良好な忍容性を示すことを確認した。ORR 19.3%という数値は、先行研究であるKEYNOTE-158試験の全体集団 (ORR 18.7%) と同程度であり、KEYNOTE-028試験のPD-L1陽性集団 (ORR 33.3%) よりは低いものの、難治性SCLC患者における臨床的意義は大きい。特に、奏効した患者の61%が18ヶ月以上の奏効持続期間を示したことは、既存の3ライン以降の化学療法 (ORR 21.3%、DoR中央値2.6ヶ月) と比較して、奏効の持続性において大きな優位性があることを示している (Coutinho et al., Lung Cancer 2019)。
先行研究との違い: 本研究のOS中央値7.7ヶ月は、実臨床における3ライン以降のSCLC治療のOS中央値4.4ヶ月と比較して延長傾向を示しており、ペムブロリズマブがこの難治性集団において臨床的有用性をもたらす可能性を示唆する。これは、これまでの化学療法中心の治療戦略とは対照的な結果である。また、先行するCheckMate 032試験におけるニボルマブ (nivolumab) 単剤療法 (3 mg/kg) のORR 12%、DoR中央値17.9ヶ月 Ready et al. JThoracOncol 2019 と比較しても、ペムブロリズマブは同等以上の持続奏効が得られることが示された。しかし、CheckMate 331試験では、2次治療としてのニボルマブが化学療法 (トポテカンまたはアムルビシン) に対してOSの有意な改善を示さなかったことから (Reck et al., Ann Oncol 2018)、治療ラインによって免疫チェックポイント阻害薬の有効性が異なる可能性があり、本研究の結果は3次治療以降の状況に特化したものである。
新規性: 本研究で初めて、PD-L1発現状況にかかわらず、ペムブロリズマブが再発・転移性SCLC患者の一部に持続的な抗腫瘍活性を示すことが確認された。奏効例の88%がPD-L1陽性であったものの、PD-L1陰性例でも1例のCRを含む奏効が認められたことは、PD-L1がSCLCにおける完全な予測バイオマーカーではないことを示唆する新規の知見である。これは、PD-L1発現に限定されずにペムブロリズマブの適用を検討できる可能性を示唆する。
臨床応用: 本解析結果は、ペムブロリズマブが2ライン以上の前治療歴があるSCLC患者に対する有効な治療選択肢であることを支持し、FDAの既承認を裏付ける強固なエビデンスを提供する。ペムブロリズマブの安全性プロファイルは、他の腫瘍種における単剤療法と同様に良好であり、重篤なTRAEの発生率は低く、irAEも全身性コルチコステロイドで管理可能であった。これは、化学療法と比較して忍容性が高い治療選択肢を臨床現場に提供する点で臨床的意義が大きい。
残された課題: 本研究の限界としては、比較対照群がない探索的プール解析である点が挙げられる。また、KEYNOTE-028試験とKEYNOTE-158試験の間には、PD-L1選択基準の有無や投与スケジュールの違い (10 mg/kg Q2W vs 200 mg Q3W) が存在する。ただし、先行研究では、これらの投与スケジュール間で薬物動態、安全性、および有効性に大きな差がないことが報告されている Chatterjee et al. AnnOncol 2016。今後の検討課題として、腫瘍変異負荷 (TMB) の高さが奏効予測因子となる可能性がKEYNOTE-158試験の解析で示唆されており (Marabelle et al., Ann Oncol 2019)、患者選択に資するバイオマーカーのさらなる特定が重要である。さらに、アテゾリズマブ (atezolizumab) やデュルバルマブ (durvalumab) といった免疫チェックポイント阻害薬が1次治療として標準化されつつある現在 Horn et al. NEnglJMed 2018, Paz-Ares et al. Lancet 2019、前治療にICIを含む患者における3ライン以降のペムブロリズマブの有用性については、今後の研究で評価する必要がある。
方法
本研究は、多施設共同非盲検第1b相多コホート試験であるKEYNOTE-028 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT02054806) および多施設共同非盲検第2相多コホート試験であるKEYNOTE-158 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT02628067) のSCLCコホートから、2ライン以上の前治療を受けた患者のデータをプール解析した探索的研究である。
患者選択基準: 対象患者は18歳以上、組織学的または細胞学的に確認された切除不能または転移性のSCLC患者で、ECOGパフォーマンスステータスが0または1、かつ2ライン以上の前治療歴がある者とされた。KEYNOTE-028試験では、腫瘍細胞および関連する炎症細胞の1%以上で膜性PD-L1発現が認められるPD-L1陽性腫瘍が必須条件であった (22C3抗体を使用)。一方、KEYNOTE-158試験ではPD-L1発現は必須条件ではなく、PD-L1複合陽性スコア (CPS) が1以上を陽性と定義した。
除外基準: 免疫チェックポイント阻害薬による前治療歴がある患者、活動性の中枢神経系 (CNS) 転移または癌性髄膜炎を有する患者 (ただし、安定した治療済みのCNS転移は許容された)、過去2年以内に全身治療を要する活動性自己免疫疾患を有する患者、または治験薬初回投与前7日以内に免疫抑制療法を受けた患者は除外された。
治療プロトコル: 患者はペムブロリズマブを最大2年間投与された。KEYNOTE-028試験では10 mg/kgを2週間ごとに投与し、KEYNOTE-158試験では200 mgを3週間ごとに投与した。疾患進行、許容できない毒性、またはその他の理由で中止されるまで治療を継続した。完全奏効 (CR) を達成した患者は、少なくとも24週間のペムブロリズマブ投与後に治療を中止することが可能であった。
評価項目: 主要評価項目は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1に基づき独立中央評価委員会によって評価された客観的奏効率 (ORR) であった。副次評価項目には、奏効持続期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性が含まれた。有害事象 (AE) は、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0に基づき評価された。
データカットオフ: KEYNOTE-028試験のデータカットオフは2018年7月31日 (最終患者登録から約3年後)、KEYNOTE-158試験は2018年7月13日 (最終患者登録から約2年後) であった。
統計解析: 本解析は探索的プール解析として実施された。ORRは、Clopper-Pearson法を用いて95%信頼区間 (CI) とともに算出された。DoR、PFS、およびOSは、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて推定された。安全性解析は、少なくとも1回のペムブロリズマブ投与を受けた全患者を対象とした。