• 著者: Giannis Mountzios, Longhua Sun, Byoung Chul Cho, Umut Demirci, Sofia Baka, Mahmut Gümüş, Antonio Lugini, Bo Zhu, Yan Yu, Ippokratis Korantzis, Ji-Youn Han, Tudor-Eliade Ciuleanu, Myung-Ju Ahn, Pedro Rocha, Julien Mazières, Sally C.M. Lau, Martin Schuler, Fiona Blackhall, Tatsuya Yoshida, Taofeek K. Owonikoko, Luis Paz-Ares, Tony Jiang, Ali Hamidi, Diana Gauto, Gonzalo Recondo, Charles M. Rudin
  • Corresponding author: Charles M. Rudin (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-06-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 40454646

背景

小細胞肺癌 (SCLC: small-cell lung cancer) は極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、広範期 (extensive-stage) SCLC患者の5年生存率は5%未満と極めて予後不良である。一次治療としてプラチナ製剤とエトポシドに免疫チェックポイント阻害薬であるPD-L1阻害薬を併用する化学免疫療法が標準であるが、全生存期間 (OS) の中央値は約12ヶ月に留まることが報告されている Paz-Ares et al. Lancet 2019Horn et al. NEnglJMed 2018。特に、一次治療完了後90日未満で病勢進行するプラチナ抵抗性の患者や、経過中に40-70%の患者で発症する脳転移を有する患者では、予後はさらに不良となる Slotman et al. NEnglJMed 2007Takahashi et al. LancetOncol 2017

過去30年以上にわたりSCLCの二次治療における進歩は限定的であり、多くの国でトポテカンが標準治療として用いられてきた vonPawel et al. JClinOncol 1999。ルルビネクテジンやアムルビシンといった薬剤が一部の国で承認されているものの、第III相試験においてトポテカンを上回る顕著なOS延長効果は示されていない Trigo et al. LancetOncol 2020vonPawel et al. JClinOncol 2014。これらの化学療法のOS中央値は7.5-9.3ヶ月と満足のいくものではなく、重篤な血液毒性をはじめとする有害事象が治療継続の大きな障壁となっていた Onoda et al. JClinOncol 2006。このように、有効性が限定的で忍容性にも課題がある現状は、二次治療におけるより効果的で安全な治療法が不足していることを示している。

タルラタマブは、デルタ様リガンド3 (DLL3) とT細胞上のCD3を同時に標的とする二重特異性T細胞誘導 (BiTE: bispecific T-cell engager) 抗体である。DLL3はSCLC患者の85-96%の腫瘍細胞表面に高発現する一方、正常組織での発現は限定的であり、有望な治療標的である。タルラタマブはDLL3発現腫瘍細胞とT細胞を物理的に架橋し、T細胞を介した強力な腫瘍細胞溶解を誘導する Giffin et al. ClinCancerRes 2021。しかし、タルラタマブがプラチナベース化学療法後に病勢進行した患者の二次治療において、標準化学療法と比較して優越性を示すか否かは未解明であり、臨床現場におけるエビデンスが圧倒的に不足していた。

目的

本研究 (DeLLphi-304試験) は、1ラインのプラチナベース化学療法中またはその後に病勢進行を認めた小細胞肺癌患者を対象として、二次治療におけるDLL3標的BiTE (bispecific T-cell engager) 抗体タルラタマブの有効性と安全性を、治験責任医師が選択する標準化学療法 (トポテカン、ルルビネクテジン、またはアムルビシン) と比較評価することを目的とした。主要評価項目は全生存期間 (OS) とし、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、患者報告アウトカム (PRO)、および安全性を検証した。

結果

患者背景と治療継続状況: 2023年5月31日から2024年7月30日の間に、計509名の患者がタルラタマブ群 (n=254) または標準化学療法群 (n=255) に無作為に割り付けられた。化学療法群の内訳は、トポテカンが185名 (73%)、ルルビネクテジンが47名 (18%)、アムルビシンが23名 (9%) であった。両群のベースラインにおける患者背景および疾患特性は均等に分布していた (Table 1)。全体の年齢中央値は65歳で、患者の45%が脳転移を有し、71%が免疫チェックポイント阻害薬による前治療歴を有していた。また、44%がプラチナ抵抗性 (一次治療終了後90日未満での再発) であった。データカットオフ時点 (2025年1月29日) における治療期間の中央値は、タルラタマブ群が4.2ヶ月、化学療法群が2.5ヶ月であった。治療を継続していた患者の割合は、タルラタマブ群で27% (69名)、化学療法群で7% (19名) であった。

主要評価項目における全生存期間の有意な延長: 追跡期間中央値が約11ヶ月の時点で実施された中間解析において、タルラタマブは標準化学療法と比較して統計学的に有意なOSの延長を示した (Figure 1)。OS中央値は、タルラタマブ群で13.6ヶ月 (95% CI 11.1-未到達) であったのに対し、化学療法群では8.3ヶ月 (95% CI 7.0-10.2) であった。主要評価項目であるOSの解析において、タルラタマブ群は化学療法群に対し、HR 0.60 (95% CI 0.47-0.77, p<0.001) と極めて有意な生存ベネフィットを示した。12ヶ月時点での生存率は、タルラタマブ群が53%であったのに対し、化学療法群は37%であった。このOS延長効果は、プラチナ抵抗性 (化学療法フリー期間90日未満) のサブグループにおいても一貫して認められ、HR 0.62 (95% CI 0.44-0.87, p=0.006) と良好な治療効果を示した。

無増悪生存期間と客観的奏効率の改善: PFS中央値はタルラタマブ群で4.2ヶ月 (95% CI 3.4-4.5)、化学療法群で3.7ヶ月 (95% CI 2.9-4.2) であった。Kaplan-Meier曲線が早期に交差し、比例ハザードの仮定が満たされなかったため、RMSTを用いた解析が行われた (Figure 2)。12ヶ月時点での制限平均PFSは、タルラタマブ群で5.3ヶ月、化学療法群で4.3ヶ月であり、有意な差が認められた (p=0.002)。客観的奏効率 (ORR) は、タルラタマブ群で35% (95% CI 29-41) であり、化学療法群の20% (95% CI 16-26) と比較して有意に高かった (Table 2)。奏効期間の中央値もタルラタマブ群で長く (6.9ヶ月 vs 5.5ヶ月)、12ヶ月時点で奏効が持続していた患者の割合は、タルラタマブ群で41%、化学療法群で13%であった。

安全性プロファイルと有害事象の比較: タルラタマブは、標準化学療法と比較して忍容性の高い安全性プロファイルを示した (Table 3)。Grade 3以上の有害事象の発生率は、タルラタマブ群が54%であったのに対し、化学療法群では80%と高かった。治療関連のGrade 3以上の有害事象も、タルラタマブ群 (27%) が化学療法群 (62%) よりも大幅に低かった。化学療法群では貧血 (28%)、好中球減少症 (22%)、発熱性好中球減少症 (11%) などの重篤な骨髄抑制が頻発した。一方、タルラタマブ群で最も頻度の高かったGrade 3以上の治療関連有害事象は、好中球減少症 (4%)、リンパ球減少症 (4%)、低ナトリウム血症 (2%) であった。有害事象による治療中止に至った患者の割合も、タルラタマブ群 (5%) が化学療法群 (12%) より低かった。

BiTE抗体特有の有害事象と患者報告アウトカム: BiTE抗体に特徴的な有害事象として、サイトカイン放出症候群 (CRS: cytokine release syndrome) と神経毒性が評価された。CRSはタルラタマブ群の56% (142名) で認められたが、その大部分はGrade 1 (42%) またはGrade 2 (13%) であり、Grade 3は1% (3名) にとどまった。免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群 (ICANS: immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome) はタルラタマブ群の6% (15名) に発生し、ほとんどがGrade 1または2であったが、ICANSに起因すると判断されたGrade 5の死亡が1例報告された。患者報告アウトカム (PRO) において、19週目の評価において、タルラタマブ群は化学療法群と比較して、QOLに大きく影響する呼吸困難の症状スコアを有意に改善した (平均群間差 -9.14点; 95% CI -12.64 to -5.64; p<0.001)。

考察/結論

DeLLphi-304試験は、プラチナベース化学療法後に病勢進行したSCLC患者の二次治療において、DLL3を標的とするBiTE抗体タルラタマブが標準化学療法と比較してOSを有意に延長することを示した最初の第III相無作為化比較試験である。

先行研究との違い: 本研究は、SCLCの二次治療における既存の標準治療であるトポテカン、ルルビネクテジン、アムルビシンと異なり、OS中央値13.6ヶ月という極めて優れた生存ベネフィットを達成した。さらに、Grade 3以上の有害事象発生率が54%と、化学療法群の80%と比較して大幅に低く、特に重篤な骨髄抑制が稀であった点は、安全性プロファイルの観点からも対照的であり、タルラタマブが有効性と忍容性の両面で優れた治療選択肢であることを示唆している。

新規性: 本研究で初めて、DLL3を標的とするBiTE抗体という新規作用機序を持つ薬剤が、SCLCの二次治療において標準化学療法に対する優越性を第III相試験で証明した。T細胞を介した免疫療法がSCLCにおいても極めて有効な治療戦略であることを本研究で初めて実証した。

臨床応用: 本試験の堅牢なエビデンスは、プラチナベース化学療法後に進行したSCLC患者に対するタルラタマブの臨床現場における導入を強力に支持する。特に、プラチナ抵抗性の患者や脳転移を有する患者といった、これまで治療が困難であった集団においても一貫した有効性を示したことは、臨床的有用性が極めて大きい。また、BiTE抗体で懸念されるCRSは、そのほとんどが低グレードで予測・管理可能であり、実地臨床における安全な導入を後押しするものである。

残された課題: 本試験のlimitationとして、非盲検デザインであることが挙げられ、PROの評価や有害事象の報告にバイアスが生じた可能性は否定できない。また、適格基準がECOGパフォーマンスステータス0または1の患者に限定されていたため、より全身状態の悪い患者における有効性や安全性は今後の検討課題である。今後の研究として、タルラタマブをより早期の治療ラインで用いることの意義を検証する試験 (DeLLphi-305, DeLLphi-306試験など) が進行中であり、その結果が期待される。

方法

本研究は、多国籍、多施設共同、非盲検、無作為化第III相比較試験 (DeLLphi-304、ClinicalTrials.gov番号 NCT05740566) として実施された。適格基準は、1ラインのプラチナベース化学療法中またはその後に病勢進行が確認された18歳以上のSCLC患者で、ECOG Performance Statusが0または1の者とした。臨床的に安定している無症候性の脳転移を有する患者も組み入れ可能であった。DLL3の発現は登録の要件としなかった。

適格患者は、タルラタマブを投与する群と、治験責任医師が選択する標準化学療法を投与する群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。標準化学療法は、トポテカン、ルルビネクテジン、またはアムルビシン (日本のみ) から選択された。無獲得化は、PD-1/PD-L1阻害薬の前治療歴の有無、化学療法フリー期間 (<90日、90-180日、≥180日)、脳転移の有無、および選択された化学療法の種類を層別化因子として用いて行われた。

タルラタマブは28日を1サイクルとし、サイクル1の1日目に1mgのステップアップ用量を60分かけて静脈内投与し、同サイクルの8日目と15日に10mgを投与した。その後は2週間ごとに10mgを維持用量として投与した。化学療法は21日を1サイクルとし、各薬剤の標準的な用法・用量で投与された。試験治療は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ver 1.1に基づく病勢進行、許容できない毒性の発現、患者の同意撤回、または死亡のいずれかが生じるまで継続された。治療群間のクロスオーバーは許可されなかった。

主要評価項目は全生存期間 (OS) であった。主要な副次評価項目は、治験責任医師評価による無増悪生存期間 (PFS) および患者報告アウトカム (PRO) であった。PROは、欧州癌研究治療機構 (EORTC) の質問票 (QLQ-C30およびQLQ-LC13) を用いて、呼吸困難、咳嗽、胸痛などの症状スコア、ならびに身体機能および全般的健康状態を評価した。

有効性の解析は、無作為化された全患者を含むintention-to-treat (ITT) 集団を対象とした。安全性の評価は、少なくとも1回の試験治療を受けた全患者を含む安全性解析対象集団で行った。OSとPFSの解析には層別ログランク検定 (log-rank test) を用い、ハザード比 (HR) とその95%信頼区間 (CI) は層別コックス比例ハザードモデル (Cox regression) を用いて推定した。サンプルサイズはOS解析に基づいて決定され、約345件の死亡発生により検出力91%でHR 0.70を検出可能と算出された。比例ハザードの仮定が満たされない場合は、事前に規定された代替解析として制限平均生存時間 (RMST: restricted mean survival time) 法を用いた。