• 著者: Murakami H, Yamamoto N, Shibata T, Takeda K, Ichinose Y, Ohe Y, et al. (JCOG Lung Cancer Study Group)
  • Corresponding author: Haruyasu Murakami (Shizuoka Cancer Center, Shizuoka, Japan)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24530204

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は、初回化学療法に対して高い感受性を示すものの、高率に再発し、再発後の予後は極めて不良である。特に、初回治療中または治療終了後90日以内に再発する「難治性再発 (refractory relapse)」SCLC患者の予後は極めて厳しく、標準的な二次治療が確立されていない状況であった。難治性SCLCに対するトポテカン単剤療法の奏効率 (ORR) は3-7%と低く、全生存期間 (OS) 中央値も4-5か月程度と報告されており、新たな治療選択肢の開発が強く求められていた。

アムルビシン (AMR) は、日本で開発された第3世代の合成アントラサイクリン系抗癌剤であり、その活性代謝物であるアムルビシノールとともにトポイソメラーゼII阻害作用を介して抗腫瘍効果を発揮する。これまでの国内での複数の第II相試験において、再発SCLCに対するアムルビシン単剤療法は有望な活性を示していた。例えば、Onoda et al. JClinOncol 2006によるTORG0301試験では、難治性SCLC患者においてORR 50%、OS中央値10.3か月の良好な成績が報告された。また、Inoue et al. JClinOncol 2008による北日本肺癌研究グループのランダム化第II相試験では、アムルビシンがトポテカンと比較して有意に高いORR (52% vs 14%) を示し、OSも良好な傾向が認められた。

しかし、欧米で実施された大規模な第III相試験 (ACT-1試験) では、アムルビシンはトポテカンと比較してORRと無増悪生存期間 (PFS) において優越性を示したものの、主要評価項目であるOSにおいては優越性を証明できなかった (OS中央値 7.5か月 vs 7.8か月、HR 0.880, 95% CI 0.733-1.057, p=0.17) とJotte et al. (2011) が報告している。この結果は、アムルビシンの有効性が人種差や先行治療レジメンの違いによって影響を受ける可能性を示唆していた。特に、欧米では初回治療としてエトポシド (topoisomerase II阻害薬) を含むプラチナ併用療法が標準的であるのに対し、日本ではNoda et al. NEnglJMed 2002の報告に基づきイリノテカン (topoisomerase I阻害薬) を含むプラチナ併用療法が広く用いられていたため、先行するトポイソメラーゼ阻害薬の種類がアムルビシンの効果に影響を与える可能性が指摘されていた。

このような背景から、難治性SCLCに対するアムルビシン単剤療法の有効性と安全性を、日本の実臨床に近い状況で前向きに確認し、特にエトポシド前治療歴がアムルビシンの効果に与える影響を詳細に評価することが、日本のSCLC治療戦略において重要な課題として残されており、この点が未解明であった。難治性SCLCに対する標準治療が確立されておらず、有効な治療選択肢が不足している状況であった。

目的

JCOG0901試験は、初回プラチナ製剤を含む化学療法中に病勢進行を認めた、または初回化学療法終了後90日以内に再発した難治性SCLC患者を対象として、アムルビシン単剤療法 (40 mg/m²を3日間連続静脈内投与、21日サイクル) の有効性および安全性を前向きに確認することを主要目的とした。主要評価項目は独立中央判定による奏効率 (ORR) であり、アムルビシンが難治性SCLCに対する標準治療選択肢となり得るかを検証した。

副次評価項目としては、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイルが設定された。さらに、本試験の重要な目的の一つとして、先行化学療法におけるエトポシド (topoisomerase II阻害薬) の使用歴が、アムルビシン単剤療法の有効性 (ORR、PFS、OS) に与える影響を層別解析により評価し、トポイソメラーゼ阻害薬間の交差耐性の可能性を検証することも含まれた。これにより、アムルビシンの最適な使用シーケンスを特定するためのエビデンスを確立することを目指した。

結果

患者背景: 2009年11月から2011年2月にかけて、合計82例の難治性SCLC患者が登録された。全患者が有効性および安全性の解析対象となった。患者の年齢中央値は66歳 (範囲 44-74歳) で、男性が79.3%を占めた。ECOG PS 0-1の患者が100%であり、PS 2の患者は含まれていなかった。病期は、登録時において限局型が7.3%、進展型が92.7%であった。先行化学療法レジメン数は1レジメンが87.8%、2レジメンが12.2%であった。先行プラチナ製剤を含む化学療法として、イリノテカン併用レジメンを57.3% (n=47)、エトポシド併用レジメンを51.2% (n=42) の患者が受けていた。先行治療に対する奏効は、CR/PRが74.4%、SD/PDが25.6%であった。胸部放射線治療歴のある患者は15.9% (n=13) であった (Table 1)。アムルビシンの投与サイクル数中央値は4サイクル (範囲 1-22サイクル) であり、累積投与量が750 mg/m²を超えた患者は18例 (22.0%) であった。治療中止の主な理由は病勢進行 (n=67)、許容できない毒性 (n=8)、患者の同意撤回 (n=7) であった。用量減量は31例 (37.8%) で必要とされ、7例 (8.5%) で2段階の減量が行われた。

主要評価項目 (ORR): 独立中央判定委員会による全患者集団におけるORRは32.9% (95% CI 22.9-44.2%) であった。内訳はCR 2例 (2.4%)、PR 25例 (30.5%)、SD 37例 (45.1%)、PD 16例 (19.5%) であった。2例 (2.4%) は早期治療中止のため評価不能であった。帰無仮説 (ORR ≤ 10%) は有意に棄却され (p < 0.0001)、主要評価項目が達成された (Table 2)。疾患コントロール率 (CR+PR+SD) は77.0%であった。

生存成績: 全患者集団におけるPFS中央値は3.5か月 (95% CI 3.0-4.3か月) であり、6か月PFS率は23.2% (95% CI 14.7-32.7%) であった (Figure 1A)。OS中央値は8.9か月 (95% CI 7.6-11.3か月) であり、1年生存率は35.7% (95% CI 25.4-46.1%) であった (Figure 1B)。データカットオフ時において、81例 (98.8%) で病勢進行が確認され、66例 (80.5%) で死亡が確認された。

エトポシド前治療歴の影響: サブグループ解析の結果、エトポシド前治療歴の有無がアムルビシンの有効性に有意な影響を与えることが示された。エトポシド前治療歴のない患者群 (n=40) ではORRが45.0%であったのに対し、エトポシド前治療歴のある患者群 (n=42) ではORRが21.4%と有意に低かった (p=0.034) (Table 3)。PFS中央値も、エトポシド前治療歴のない群で5.1か月 (95% CI 3.5-6.0か月) であったのに対し、エトポシド前治療歴のある群では2.9か月 (95% CI 2.4-3.5か月) と有意に短かった (HR 2.11, 95% CI 1.35-3.30, p=0.0009) (Figure 2A)。同様に、OS中央値もエトポシド前治療歴のない群で13.1か月 (95% CI 9.1-15.3か月) であったのに対し、エトポシド前治療歴のある群では7.9か月 (95% CI 6.2-9.6か月) と有意に短縮していた (HR 1.86, 95% CI 1.13-3.06, p=0.0128) (Figure 2B)。その他の患者背景因子 (年齢、性別、PS、病期、先行治療レジメン数、イリノテカン前治療歴、先行治療への奏効、胸部放射線治療歴) では、アムルビシンのORRに顕著な差は認められなかった。

安全性: 最も頻繁に認められたGrade 3または4の有害事象は血液毒性であった (Table 4)。好中球減少症は93.9% (Grade 3: 22.0%、Grade 4: 72.0%) の患者で発生し、白血球減少症は85.4% (Grade 3: 58.5%、Grade 4: 26.8%)、貧血は25.6% (Grade 3: 23.2%、Grade 4: 2.4%)、血小板減少症は20.7% (Grade 3: 14.6%、Grade 4: 6.1%) であった。発熱性好中球減少症は22例 (26.8%) で発生した。非血液毒性は概ね軽度であったが、Grade 3または4の有害事象として高血糖 (16.4%)、低ナトリウム血症 (15.9%)、感染症 (7.3%)、呼吸困難 (4.9%)、ALT上昇 (4.9%)、AST上昇 (3.7%)、食欲不振 (3.7%)、間質性肺炎 (3.7%) などが報告された。間質性肺炎は9例で認められ (Grade 4: 1例、Grade 3: 2例、Grade 2: 3例、Grade 1: 3例)、7例が毒性のため治療を中止した。胸部放射線治療歴のある患者では間質性肺炎の発生率が高かった (38.5% vs 5.8%)。G-CSFは51例 (62.2%) に投与され、輸血は9例 (11.0%) で必要とされた。本試験において治療関連死は認められなかった。アムルビシンに起因する心毒性のエビデンスは認められなかった。

考察/結論

JCOG0901試験は、難治性SCLC患者に対するアムルビシン単剤療法が、主要評価項目であるORR 32.9% (95% CI 22.9-44.2%) を達成し、臨床的に意義のある有効性を示すことを確認した単群第II相試験である。PFS中央値は3.5か月 (95% CI 3.0-4.3か月)、OS中央値は8.9か月 (95% CI 7.6-11.3か月) であり、これは歴史的対照であるトポテカン単剤療法の難治性SCLCにおける報告値 (ORR 3-7%、OS中央値4.7-5.4か月) を大きく上回る結果であった。この結果は、難治性SCLCという予後不良な集団において、アムルビシンが有効かつ安全な治療選択肢となり得ることを強く支持する。

先行研究との違い: 本研究の最も重要な知見は、先行化学療法におけるエトポシド前治療歴がアムルビシンの有効性を有意に低下させることを前向きに示した点である。エトポシド前治療歴のない患者群ではORR 45.0%、OS中央値13.1か月であったのに対し、エトポシド前治療歴のある患者群ではORR 21.4%、OS中央値7.9か月と、有意な差が認められた (OSのHR 1.86, 95% CI 1.13-3.06, p=0.0128)。この結果は、アムルビシンとエトポシドがともにトポイソメラーゼII阻害薬であることから、両剤間に交差耐性が存在するという仮説を強く支持するものである。この知見は、欧米で実施されたACT-1試験においてアムルビシンがトポテカンに対するOS優越性を示せなかった一因を説明する可能性がある。欧米では初回治療にエトポシドが広く用いられるため、アムルビシンの二次治療としての有効性が限定的であったと考えられる。これと対照的に、日本では初回治療としてイリノテカン (トポイソメラーゼI阻害薬) を含むレジメンが用いられることが多いため、エトポシド前治療歴のない患者群でアムルビシンがより高い有効性を示したことは、日本の臨床現場におけるアムルビシンの位置付けを強化するものである。

新規性: 本研究で初めて、難治性SCLCにおけるアムルビシン単剤療法の有効性が、先行するトポイソメラーゼ阻害薬の種類によって大きく異なることが前向きに示された。これは、トポイソメラーゼI阻害薬による前治療がトポイソメラーゼIIの発現を誘導し、その後のトポイソメラーゼII阻害薬への感受性を高めるという前臨床研究の報告を支持するものであり、SCLCの二次治療選択において、初回治療レジメンの考慮が極めて重要であることを新規に示した。

臨床応用: 本研究の結果は、難治性SCLCに対するアムルビシン単剤療法を日本の標準治療選択肢として確立する上で重要な臨床的意義を持つ。特に、初回治療でイリノテカンを含むレジメンを受けた患者に対しては、アムルビシンが有効な二次治療となり得ることを示唆している。これにより、SCLCの治療戦略において、初回治療と二次治療の薬剤シーケンスを考慮した個別化医療の重要性が強調される。

残された課題: 本研究は単群試験であり、ランダム化比較試験ではないため、選択バイアスの可能性がlimitationとして挙げられる。また、本試験では治療関連死は認められなかったものの、発熱性好中球減少症の発生率が過去の報告よりも高かった (26.8%)。これは、Hanna et al. JClinOncol 2006によるG-CSFの予防的投与に関するガイドライン (発熱性好中球減少症のリスクが20%以上の場合に推奨) を考慮すると、アムルビシン投与患者における骨髄抑制に対するより積極的な管理、例えば予防的G-CSFの使用が今後の検討課題となる。さらに、間質性肺炎の発生にも注意が必要であり、特に胸部放射線治療歴のある患者では慎重なモニタリングが求められる。今後の研究では、トポテカンや新規薬剤 (例えば、ルルビネクテジンや免疫チェックポイント阻害薬) との直接比較試験、あるいはトポイソメラーゼII-α発現やSLFN11などのバイオマーカーを用いた層別化戦略の検討が残された課題である。

方法

JCOG0901試験は、日本国内の25施設が参加した多施設共同、非ランダム化、単群第II相確認試験として実施された (UMIN000002763)。試験プロトコルはJCOGプロトコル審査委員会および各参加施設の倫理審査委員会によって承認された。

対象患者: 組織学的または細胞学的にSCLCと確定診断され、初回プラチナ製剤を含む化学療法を1または2レジメン受け、その治療中に病勢進行したか、または治療終了後90日以内に完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) を確認後に病勢進行した難治性SCLC患者が対象とされた。その他の主な適格基準は、年齢20-74歳、ECOG Performance Status (PS) 0-1 (ただし、PS 2の患者も10%まで許容されたが、最終的に登録されなかった)、測定可能病変の存在、十分な骨髄・臓器機能 (白血球数 ≥ 3000/mm³、好中球数 ≥ 1500/mm³、ヘモグロビン ≥ 9.0 g/dL、血小板数 ≥ 100,000/mm³、総ビリルビン ≤ 2.0 mg/dL、AST/ALT ≤ 100 IU/L、血清クレアチニン ≤ 2.0 mg/dL、室内気下PaO2 ≥ 60 mmHg)、アムルビシンによる治療歴がないこと、および書面による同意が得られていることであった。活動性の合併悪性腫瘍、大量の胸水・心嚢液、症候性脳転移、重篤な併存疾患を有する患者は除外された。

治療プロトコル: アムルビシンは40 mg/m²を1日1回、3日間連続で静脈内投与され、これを1サイクルとして21日ごとに繰り返された。治療は病勢進行、許容できない毒性、または患者の同意撤回まで継続された。前コースでGrade 3の発熱性好中球減少症、Grade 3の非血液毒性 (悪心、食欲不振、体重減少、クレアチニン、低ナトリウム血症、高血糖、脱毛を除く)、またはGrade 4の白血球減少症 (<1000/mm³) もしくは血小板減少症 (<20,000/mm³) が認められた場合、アムルビシンの投与量は35 mg/m²に減量された。さらに毒性が継続する場合は30 mg/m²への2段階目の減量が行われた。Grade 4の非血液毒性または3段階目の減量が必要な毒性が認められた場合は、プロトコル治療は中止された。G-CSFの使用は日本の保険適用に従い、発熱性好中球減少症の予防または治療のために許可された。

評価項目: 主要評価項目は、独立中央判定委員会 (診断放射線医を含む3名のレビューア) によるRECIST ver. 1.0に基づく奏効率 (ORR: CR+PR) とされた。CRまたはPRの確認には、初回奏効判定から少なくとも4週間後の再評価が必要であった。副次評価項目はPFS、OS、および有害事象の発生頻度と重症度 (CTCAE v3.0を使用) であった。心毒性の評価は必要に応じて医師の判断で行われた。

統計解析: 目標ORRを20%、閾値ORRを10%とし、片側α=0.05、検出力80%で、主要評価項目達成のために必要な症例数は80例と設定された。最終的に82例が登録された。生存期間の推定にはKaplan-Meier法が用いられ、サブグループ間の比較にはログランク検定が適用された。ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルを用いて算出された。カテゴリカルデータの比較にはFisherの正確確率検定が用いられた。すべての統計解析はSAS release 9.1統計ソフトウェア (SAS Institute, Cary, NC, USA) を用いて実施された。本試験はUMIN000002763として臨床試験登録されている。