• 著者: Akira Inoue, Shunichi Sugawara, Koichi Yamazaki, Makoto Maemondo, Toshiro Suzuki, Kazunori Gomi, Shingo Takanashi, Chieko Inoue, Minoru Inage, Hiroshi Yokouchi, Hiroshi Watanabe, Toumei Tsukamoto, Yasuo Saijo, Osamu Ishimoto, Fumihiro Hommura, Toshihiro Nukiwa
  • Corresponding author: Akira Inoue (Department of Respiratory Medicine, Tohoku University Hospital, Sendai, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2008
  • Epub日: 2008-10-13
  • Article種別: Original Article (Randomized Phase II Trial)
  • PMID: 18854562

背景

小細胞肺がん (small-cell lung cancer; SCLC) は肺がん全体の約12〜15%を占める悪性腫瘍であり、初期の化学療法に対する感受性は極めて高いものの、大半の症例が2年以内に再発し、全身転移によって死亡に至る。進展型SCLCにおける生存期間中央値 (median survival time; MST) は一般に10か月未満にとどまり、二次治療における有効な治療選択肢の確立は長年にわたる極めて重要な課題である。

カンプトテシン誘導体であり DNA topoisomerase I を特異的に阻害する topotecan は、化学療法感受性再発SCLCに対して14〜38%、難治性再発に対して2〜6%の奏効率を示すことが既報の第II相試験で示されていた。さらに、topotecan と CAV (cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine) 療法を比較した第III相試験である vonPawel et al. JClinOncol 1999 において、topotecan は CAV 療法と同等の生存期間と優れた症状コントロールを示したことから、再発SCLCに対する標準的な二次治療薬として承認され、広く用いられてきた。しかし、感受性再発例における MST も6か月未満と極めて限定的であり、難治性再発例に対してはほぼ無効であった。

一方、日本で開発された完全合成9-アミノアントラサイクリン系薬剤である amrubicin は、体内で活性代謝物 amrubicinol に還元され、主に DNA topoisomerase II を阻害することで強力な細胞毒性を発揮する。既治療の再発SCLC患者を対象とした先行研究である Onoda et al. JClinOncol 2006 では、感受性再発で50%、難治性再発で50〜60%という極めて高い奏効率が報告されていた。しかし、これらは単群の第II相試験であり、患者選択バイアスの影響を排除することが困難であった。

このように、再発SCLCの二次治療において amrubicin と標準治療薬である topotecan を直接比較したランダム化比較試験は存在せず、両剤の優劣は「未解明」のままであった。既存の知見だけでは、将来の第III相試験へ進めるべき最適な薬剤を決定するための客観的データが「不足」しており、この明確な knowledge gap を解決するために本ランダム化第II相試験が計画された。

目的

白金系化学療法による前治療歴を有する再発小細胞肺がん (SCLC) 患者を対象に、amrubicin 単剤療法と topotecan 単剤療法を無作為化割付により直接比較する。主要評価項目である客観的奏効率 (overall response rate; ORR) における amrubicin の優越性を検証し、あわせて無増悪生存期間 (progression-free survival; PFS)、全生存期間 (overall survival; OS)、および安全性を評価することで、将来の大規模な第III相試験において検証すべき最適な二次治療薬を選定することを目的とする。

結果

主要評価項目における amrubicin の有意な優越: 本試験には計60例が登録され、amrubicin 群の1例が治療開始前に急速な病勢進行により死亡したため、有効性および安全性の評価対象は59例 (amrubicin 群 n=29、topotecan 群 n=30) であった (Table 1)。主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) は、amrubicin 群で 38% (95% CI 21-58%, n=11/29) であったのに対し、topotecan 群では 13% (95% CI 1-25%, n=4/30) であり、amrubicin 群において統計学的に有意な奏効率の向上が示された (p=0.039) (Table 3)。また、疾患制御率 (DCR) においても、amrubicin 群が 79% (95% CI 60-92%)、topotecan 群が 47% (95% CI 28-66%) であり、amrubicin 群で有意に優れていた (p=0.015) (Table 3)。

再発パターン別のサブグループ解析: 事前設定された再発パターン別の解析において、化学療法感受性再発例 (n=36) における ORR は amrubicin 群で 53% (n=9/17)、topotecan 群で 21% (n=4/19) であり、amrubicin 群で高い傾向を示した (p=0.082) (Table 4)。化学療法難治性再発例 (n=23) における ORR は、amrubicin 群で 17% (n=2/12) であったのに対し、topotecan 群では 0% (n=0/11) であり、topotecan 群で奏効例が皆無であったのに対し、amrubicin 群では奏効が得られた (Table 4)。難治性再発における DCR は amrubicin 群で 68% (n=8/12)、topotecan 群で 18% (n=2/11) であり、amrubicin 群が有意に優れた疾患制御効果を示した (p=0.036) (Table 4)。

無増悪生存期間の延長と全生存期間の解析: 無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、amrubicin 群 3.5 months vs topotecan 群 2.2 months (HR 0.61, 95% CI 0.38-0.98, p=0.041) であり、amrubicin 群において病勢進行のリスクが有意に低減した (Fig 1A)。全生存期間 (OS) の中央値は、amrubicin 群 8.1 months vs topotecan 群 8.4 months (HR 0.97, 95% CI 0.56-1.68, p=0.910) であり、両群間に有意差を認めなかった (Fig 1B)。この背景として、topotecan 群の 70% (n=21/30) がプロトコル終了後に後続治療を受け、そのうち 19例 (63%) が amrubicin によるクロスオーバー治療を受け、その ORR が 21% (n=4/19) に達したことが OS の相殺に関与したと考えられた。多変量解析の結果、いずれかの治療ラインにおける amrubicin の使用が、OS の延長に最も強く寄与する独立した予後因子であることが示された (Fig 2)。

血液毒性および非血液毒性のプロファイル: 安全性評価において、Grade 4 の好中球減少は amrubicin 群で 79% (n=23/29)、topotecan 群で 43% (n=13/30) に認められ、amrubicin 群でより高頻度かつ高度であった (Table 2)。発熱性好中球減少症 (FN) の発現率は amrubicin 群で 14% (n=4/29)、topotecan 群で 3% (n=1/30) であった (Table 2)。一方、Grade 3以上の血小板減少は topotecan 群で 40% (n=12/30)、amrubicin 群で 28% (n=8/29) であり、topotecan 群で高い傾向がみられた (Table 2)。非血液毒性では、Grade 3以上の倦怠感が amrubicin 群で 17% (n=5/29) に認められた。なお、amrubicin 群において75歳の女性1例が、4サイクル目の治療後に重篤な骨髄抑制に伴う敗血症により治療関連死 (Grade 5) に至った (Table 2)。

考察/結論

本 NJLCSG 0402試験は、既治療の再発小細胞肺がん (SCLC) 患者を対象として、amrubicin と topotecan の有効性および安全性を直接比較した世界初のランダム化第II相試験である。

先行研究との違い: 本試験における topotecan 群の ORR (13%) および PFS (2.2か月) は、欧米で実施された第III相試験である Eckardt et al. JClinOncol 2007 などの既報における topotecan の成績 (ORR 14〜22%) とほぼ同等であった。この事実は、日本における承認用量 (1.0 mg/m²) であっても topotecan が適切な治療強度で投与されたことを示している。これまでの単群試験による amrubicin の有望なデータに対し、本研究はランダム化比較という厳格なデザインを用いることで、amrubicin が topotecan に対し真の優越性を有することを初めて実証した。

新規性: 本研究で初めて、化学療法難治性再発 SCLC に対しても amrubicin が 17% の ORR と 68% の高い DCR をもたらすことがランダム化設定において明らかになった。これまで難治性再発に対して一貫して 10% 以上の奏効率を示す単剤は存在しなかったため、この結果は極めて新規性が高い。また、前治療で etoposide (DNA topoisomerase II阻害薬) の投与を受けた症例においても amrubicin 群で 36% の奏効率が維持されており、同一の標的を持つ薬剤間での耐性交差が完全には生じないという重要な生物学的知見が本試験により初めて示された。

臨床応用: 本試験の成果は、日本における再発 SCLC の二次治療において amrubicin を標準治療薬として位置付けるための臨床的有用性を決定づけた。OS において両群間に有意差がみられなかったものの、後続治療におけるクロスオーバー解析および多変量解析により、amrubicin の使用が生存期間の延長に最も寄与することが示された。この知見は、二次治療のみならず三次治療以降における amrubicin の臨床応用に対しても強い根拠を与えるものである。

残された課題: 本試験における limitation として、サンプルサイズが比較的小規模 (n=59) であること、および日本人集団に限定された試験であることが挙げられる。また、amrubicin 群において 1例の治療関連死が認められたように、特に高齢者や PS 不良例における高度な好中球減少および感染症への対策が今後の検討課題である。さらに、近年の免疫チェックポイント阻害薬併用による一次治療後の再発例における amrubicin の最適な位置付けや、新規薬剤との比較検証が今後の重要な研究方向性となる。

方法

本試験は、北日本肺がん研究グループである NJLCSG (North Japan Lung Cancer Study Group) の主導による多施設共同ランダム化第II相試験 (NJLCSG Trial 0402) として実施された。北日本の12施設において2004年2月から2007年7月までに患者登録が行われた。本試験は各施設の倫理委員会または施設内審査委員会 (institutional review board; IRB) の承認を得て、ヘルシンキ宣言に準拠して実施された。

適格基準: 組織学的または細胞学的に確認されたSCLC患者、20歳以上、白金系化学療法による前治療歴を有する、ECOG performance status (PS) が0〜2、適切な骨髄機能 (絶対好中球数 [absolute neutrophil count; ANC] ≥1,500/mL、血小板数 ≥100,000/mL、ヘモグロビン ≥9.0 g/dL)、肝機能 (AST/ALT ≤100 IU/L、総ビリルビン ≤2.0 mg/dL)、腎機能 (血清クレアチニン ≤1.5 mg/dL)、動脈酸素分圧 ≥60 mmHg、左室駆出率 (left ventricular ejection fraction; LVEF) ≥60%を満たす症例。症候性の脳転移、ドレナージを要する大量の胸水、コントロール不良の合併症 (糖尿病、心疾患、感染症、肺線維症) を有する症例は除外された。

層別化と治療割付: 登録患者は、再発パターン (感受性再発: 前治療完了から90日以上の期間を経て再発、難治性再発: 前治療中に病勢進行または前治療完了から90日未満で再発) および ECOG PS (0-1 vs 2) を層別因子として、amrubicin 群または topotecan 群に 1:1 の割合で無作為に割り付けられた。

投与スケジュール: Amrubicin 群では、amrubicin 40 mg/m² を生理食塩水 20 mL に溶解し、Day 1〜3に5分間かけて静脈内投与し、3週間毎に繰り返した。Topotecan 群では、topotecan 1.0 mg/m² (日本における承認用量) を生理食塩水 100 mL に溶解し、Day 1〜5に30分間かけて点滴静注し、3週間毎に繰り返した。両群ともに、病勢進行、忍容不能な毒性、または患者の同意撤回がない限り、少なくとも3サイクル継続することを原則とした。プロトコル治療終了後の後続治療に制限はなく、クロスオーバー投与も許容された。毒性発現時の減量規定として、Grade 4の好中球減少が4日以上持続、Grade 3の発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia; FN) 、Grade 4の血小板減少、または Grade 3以上の非血液毒性が発現した場合、amrubicin は 35 mg/m² に、topotecan は 0.8 mg/m² に減量された。

評価項目と統計解析: 主要評価項目は RECIST 基準に基づく ORR であり、外部の独立評価委員会による判定が行われた。副次評価項目は PFS、OS、および有害事象 (NCI-CTC version 2.0) であった。統計設計として、期待奏効率を40%、閾値奏効率を15%、α=0.05、β=0.10 (検出力 90%) と設定し、必要症例数は各群27例 (計54例) と算出された。群間の比較には Fisher’s exact test を用い、PFS および OS の推定には Kaplan-Meier 法および log-rank test を用いた。生存期間に対する予後因子の探索には、ステップワイズ法を用いた多変量解析として Cox regression (Cox比例ハザードモデル) を適用した。