• 著者: Kim YJ, Keam B, Ock CY, Song S, Kim M, Kim SH, Kim KH, Kim JS, Kim TM, Kim DW, Lee JS, Heo DS
  • Corresponding author: Bhumsuk Keam (Seoul National University Hospital, Seoul, Korea)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31494530

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は、増殖能が高く、早期に転移を形成する悪性度の高い腫瘍である。初期の化学療法や放射線療法には良好な反応を示すものの、限局期SCLCの約70%、進展期SCLCのほぼ全例がその後の治療に抵抗性を示すことが知られている。一次化学療法後に病勢が進行した患者の予後は極めて不良であり、全生存期間 (OS) 中央値は6ヶ月未満と報告されているEisenhauer et al. EurJCancer 2009。再発・難治性SCLCに対する標準的な二次化学療法としては、トポテカンやアムルビシンなどが用いられるが、客観的奏効率 (ORR) は10-30%、OS中央値は6-8ヶ月にとどまり、依然としてアンメットメディカルニーズが高い状況である。効果的な治療選択肢が不足していることが大きな課題である。

近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の登場は、SCLC治療に新たな展望をもたらした。PD-1阻害薬であるペムブロリズマブの単剤療法を評価したKEYNOTE-028試験では、PD-L1陽性SCLC患者においてORR 33%が示されたが、対象がPD-L1陽性症例に限定されていたOtt et al. JClinOncol 2017。また、ニボルマブ単剤療法またはニボルマブとイピリムマブの併用療法を評価したCheckMate-032試験では、ORRは10-23%と、限定的な抗腫瘍活性が報告されたAntonia et al. LancetOncol 2016。これらの結果は、ICI単剤療法が一部のSCLC患者に有効である可能性を示唆するものの、より広範な患者集団での効果向上や、奏効の持続性向上が課題として残されていることを示している。特に、PD-L1発現が低い患者における効果は未解明な点が多い。

タキサン系薬剤であるパクリタキセルは、微小管の安定化を介して抗腫瘍効果を発揮するだけでなく、免疫調節作用も有することが知られている。具体的には、制御性T細胞 (Treg) や骨髄由来抑制細胞 (MDSC) の減少、免疫原性細胞死の誘導など、免疫応答を増強する効果が報告されている。これらの免疫調節作用により、パクリタキセルとICIの併用療法は、ICI単剤療法と比較して相乗的な抗腫瘍効果をもたらす可能性が示唆されている。非小細胞肺癌 (NSCLC) においては、ペムブロリズマブとプラチナ製剤ベースの化学療法の併用が、化学療法単独と比較してOSおよび無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することがGandhi et al. NEnglJMed 2018Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018Socinski et al. NEnglJMed 2018によって示されており、化学療法とICIの併用が標準治療となりつつある。SCLCにおいても、アテゾリズマブと化学療法の併用が一次治療としてOSとPFSを改善することがHorn et al. NEnglJMed 2018によって示され、進展期SCLCの一次治療の標準治療の一つとなっている。しかし、再発・難治性SCLCにおける免疫化学療法の有効性と、その効果を予測するバイオマーカーは未解明な点が多く、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題である。特に、エトポシド/プラチナ製剤一次治療後に病勢が進行した患者に対する有効な治療選択肢は不足しており、新たなアプローチが求められている。本研究は、このような背景のもと、再発・難治性進展期SCLC患者を対象に、ペムブロリズマブとパクリタキセルの併用療法の有効性、安全性、および予測バイオマーカーを検討することを目的とした。

目的

本第II相多施設共同単群試験の主要な目的は、エトポシド/プラチナ製剤による一次治療後に再発または難治性となった進展期小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象に、ペムブロリズマブとパクリタキセルの併用療法の客観的奏効率 (ORR) を評価することである。副次的な目的として、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、奏効期間 (DoR)、および安全性を評価した。さらに、PD-L1発現、次世代シーケンシング (NGS) による遺伝子変異解析、特にMETコピー数変異 (CNV) や腫瘍変異負荷 (TMB) などのバイオマーカーが、本併用療法の臨床効果と相関するかどうかを探索的に検討し、治療効果を予測する因子を特定することも目的とした。これにより、再発・難治性ED-SCLC患者に対する新たな治療選択肢の確立と、個別化医療への貢献を目指した。

結果

患者背景: 2016年4月から2018年3月にかけて、エトポシド/プラチナ製剤不応性の進展期SCLC患者26例が登録された (Table 1)。患者の年齢中央値は68.5歳 (範囲 54-78歳) であった。男性が23例 (88.5%)、女性が3例 (11.5%) を占めた。全患者がエトポシド/プラチナ製剤ベースの一次化学療法を受けており、半数の患者 (50.0%) が先行放射線療法 (脳のみ19.2%、胸部のみ11.5%、脳と胸部の両方11.5%、その他7.7%) を受けていた。ECOG PSは、0が3例 (11.5%)、1が23例 (88.5%) であった。PD-L1発現は、陽性 (TPS ≥1%) が4例 (15.4%)、陰性が22例 (84.6%) であった。

主要評価項目 (ORR) と奏効期間: 治療効果および毒性解析は、パクリタキセルを少なくとも1サイクル受けた全患者を対象に実施された。26例中23例が治療反応評価可能であった。確認されたORRは23.1% (6/26、95%CI: 6.9-39.3%) であった (Table 2)。内訳は、完全奏効 (CR) が1例 (3.9%)、部分奏効 (PR) が5例 (19.2%) であった。病勢安定 (SD) は15例 (57.7%)、病勢進行 (PD) は2例 (7.7%) であり、病勢コントロール率 (DCR) は80.7%であった。未確認PRの4例を含めると、合計38.5%の患者が奏効を示した。ターゲット病変の最長径の合計変化率を示すウォーターフォールプロットでは、多くの患者で腫瘍縮小が認められた (Fig. 1)。奏効期間 (DoR) 中央値は9.1ヶ月 (範囲 3.6-11.6ヶ月) であった。

生存成績: 追跡期間中央値は11.1ヶ月 (95%CI: 9.0-16.8) であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は5.0ヶ月 (95%CI: 2.7-6.7) であり、全生存期間 (OS) 中央値は9.1ヶ月 (95%CI: 6.5-15.0) であった (Fig. 2)。1年生存率は44%であった。これらの生存期間は、再発・難治性SCLCにおける従来の治療と比較して良好な傾向を示した。

METコピー数増加の予測価値: ターゲット遺伝子シーケンシング (TGS) はn=12例の腫瘍組織で実施された。解析の結果、METコピー数増加 (GISTIC score ≥1) を有する患者群 (n=8例) では、METコピー数非増加群 (n=16例) と比較して、PFSが有意に延長することが示された (10.5ヶ月 vs 3.4ヶ月、HR 0.33、95%CI 0.12-0.89、p=0.019)。ORRもMETコピー数増加群で50% (4/8) と、非増加群の12.5% (2/16) と比較して高かった (p=0.048)。この結果は、METコピー数増加がペムブロリズマブとパクリタキセル併用療法の有効性を予測するバイオマーカーとなる可能性を示唆している (Fig. 3)。

PD-L1発現およびTMBとの相関: PD-L1発現はn=22例 (85%) で陰性であり、PD-L1陽性 (TPS ≥1%) はn=4例 (15%) であった。PD-L1発現とPFSとの間に有意な関連は認められなかった (PD-L1陽性群3.9ヶ月 vs 陰性群5.0ヶ月、p=0.897)。腫瘍変異負荷 (TMB) は、腫瘍反応または生存転帰のいずれとも相関しなかった。末梢血中のナチュラルキラー (NK) 細胞活性は、2サイクル治療後の活性低下が腫瘍反応と有意に相関することが示された (p=0.022)。

安全性プロファイル: 治療期間中に治療関連死は報告されなかった。全26例の患者が何らかの有害事象 (AE) を経験し、グレード3または4のAEは12件発生した (Table 3)。最も頻繁に報告されたグレード3-4のAE (5%以上の患者に発生) は、好中球減少症 (7.7%)、発熱性好中球減少症 (7.7%)、無力症 (7.7%)、低ナトリウム血症 (7.7%) であった。その他のグレード3-4のAEとして、貧血 (3.9%)、筋痛 (3.9%)、肺炎 (3.9%)、1型糖尿病 (3.9%) が認められた。免疫関連有害事象 (irAE) としては、甲状腺機能低下症 (全グレード) が19.2%の患者で報告された。重篤な有害事象 (SAE) は9例で合計13件観察され、そのうち6件がペムブロリズマブ、3件がパクリタキセルに起因すると判断された。1型糖尿病、発熱性好中球減少症、肺炎を含む5件の治療関連AEにより、4例の患者で治療中止に至った。パクリタキセルの減量は、好中球減少症および発熱性好中球減少症の2例で必要とされた。

考察/結論

本第II相試験は、エトポシド/プラチナ製剤不応性の再発・難治性進展期SCLC患者に対し、ペムブロリズマブとパクリタキセルの併用療法が、ORR 23.1%、PFS中央値5.0ヶ月、OS中央値9.1ヶ月という臨床的に意義のある抗腫瘍活性を示すことを明らかにした。これらの結果は、ペムブロリズマブ単剤療法を評価したKEYNOTE-158試験 (ORR 18.7%、PFS中央値2.0ヶ月、OS中央値8.7ヶ月) や、PD-L1陽性SCLCを対象としたKEYNOTE-028試験 (ORR 33.3%、PFS中央値1.9ヶ月、OS中央値9.7ヶ月) と比較しても遜色ない、あるいはより良好な生存期間を示しており、特にPD-L1発現が低いSCLC患者においても併用療法が有効である可能性を示唆する。

新規性: 本研究で最も注目すべき新規の知見は、METコピー数増加を有する患者群において、PFSが有意に延長したことである (10.5ヶ月 vs 3.4ヶ月、HR 0.33、95%CI 0.12-0.89、p=0.019)。これは、ICIと化学療法の併用療法における新たな予測バイオマーカー候補としてMETを提案する先駆的な発見である。MET増幅はSCLCの約20%で報告されており、MET経路がT細胞エフェクター機能や主要組織適合性複合体 (MHC) 発現に影響を与えることが既報で示されているため、生物学的合理性がある。この知見は、SCLCにおける免疫化学療法の効果を予測し、患者層別化を可能にする可能性を秘めている。

先行研究との違い: 従来のICI単剤療法がPD-L1発現陽性患者に限定的な効果を示すのに対し、本併用療法はPD-L1発現が低頻度であるSCLC患者集団 (本試験では15%がPD-L1陽性) においても活性を発揮した点で、これまでの単剤ICIの報告とは対照的である。これは、パクリタキセルが誘導する免疫原性細胞死、腫瘍抗原放出、骨髄系細胞の免疫調節など、PD-L1非依存的な機序が併用療法の効果に寄与している可能性を示唆している。

臨床応用: 本併用療法は、再発・難治性SCLC患者に対する新たな治療選択肢となりうる。特に、METコピー数増加を有する患者群におけるPFSの大幅な延長は、将来的にMETを標的とした治療戦略や、MET阻害薬と免疫化学療法の併用療法の開発に繋がる可能性があり、臨床的意義は大きい。この知見は、SCLCの個別化医療を推進し、より効果的な治療を患者に提供するための重要なステップとなる。

残された課題: 本研究は単群の第II相試験であり、従来の二次治療との直接比較は行われていないため、その優位性を結論づけるにはさらなる検証が必要である。また、症例数が少ないため、バイオマーカー解析、特にPD-L1発現やTMBの予測価値に関する結論には限界がある。MET CNVの予測価値については、独立した大規模コホートでの検証が今後の検討課題である。さらに、MET阻害薬とペムブロリズマブ+パクリタキセルとの三剤併用療法の検討、一次治療としてのICI+化学療法 (例: アテゾリズマブ+EP療法) との適切なシーケンス、TMB・PD-L1・METなどの複合バイオマーカーの確立、およびルルビネクテジンや他のICIとの組み合わせの検討も今後の研究方向性として挙げられる。本研究は、再発SCLCにおける免疫化学療法の開発と分子層別化治療の方向性を示した重要な臨床研究である。

方法

試験デザイン: 本研究は、エトポシド/プラチナ製剤による一次治療後に再発または難治性となった進展期小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象とした、多施設共同、非盲検、単群の第II相臨床試験である。試験はソウル大学病院を含む複数の施設で実施された。本研究プロトコルは各施設の治験審査委員会によって承認され、ClinicalTrials.gov (NCT02551432) に登録された。

患者選択基準: 組織学的または細胞学的にED-SCLCと診断された患者が対象とされた。主要な選択基準は以下の通りである: 1) エトポシドとシスプラチンまたはカルボプラチンによる一次治療後に病勢進行を認めた患者 (初回治療からの再発期間は問わない)、2) ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0または1、3) Eisenhauer et al. EurJCancer 2009に基づき測定可能病変が1つ以上存在する、4) 十分な臓器機能を有する。脳転移を有する患者も、無症状であるか、手術または放射線療法後にステロイド治療なしで神経学的に安定していれば適格とされた。免疫不全の診断、全身性ステロイド治療またはその他の免疫抑制治療の既往、および適切に治療され完全に切除された子宮頸部上皮内癌、乳管内癌、基底細胞癌または皮膚扁平上皮癌以外の悪性腫瘍の既往がある患者は除外された。

治療レジメン: 治療は3つのフェーズで構成された。まず、PD-L1誘導フェーズとして、パクリタキセル175 mg/m²を3週ごとに1サイクル静脈内投与した。その後、誘導後治療フェーズとして、ペムブロリズマブ200 mgとパクリタキセル175 mg/m²を3週ごとに最大5サイクル併用投与した。パクリタキセルの累積毒性(特に末梢神経障害)を考慮し、パクリタキセルは最大6サイクルまで投与された。6サイクル終了後、病勢進行または許容できない毒性が発現するまで、ペムブロリズマブ単剤による維持療法が継続された。

評価項目: 主要評価項目は、RECIST version 1.1に基づく客観的奏効率 (ORR) であった。副次評価項目には、OS、PFS、奏効期間 (DoR)、および安全性 (NCI-CTCAE v4.0に基づく有害事象の評価) が含まれた。腫瘍評価は、胸部CTおよび脳MRIを含む画像診断により、ベースライン時、その後は少なくとも2サイクルごと (最大6サイクルまで)、その後は3サイクルごとに実施された。初期の画像上の病勢進行後も、臨床的に安定している患者は、少なくとも4週間後に進行が再確認されるまで試験治療を継続することが可能であった。

バイオマーカー解析: 腫瘍組織検体を用いて、PD-L1発現 (DAKO 22C3 pharmDxアッセイ、TPS ≥1%を陽性とする)、次世代シーケンシング (TGS) による90種類の癌関連遺伝子の遺伝子変異およびコピー数解析 (METを含む)、ならびに末梢血単核球のフローサイトメトリー解析による免疫細胞サブセットの評価が行われた。TGSはIllumina HiSeq2500を用いて実施され、n=14例の患者で解析可能であった。

統計解析: サンプルサイズは、Simonの2段階デザインに基づき、帰無仮説P0 = 0.25、対立仮説P1 = 0.50と仮定して算出された。検出力80%、αエラー0.05で、必要症例数は23例と決定された。脱落率10%を考慮し、合計26例の患者登録が計画された。PFSおよびOSの解析にはカプラン・マイヤー法が用いられた。すべての統計検定は両側検定であり、p値0.05未満を有意と判断した。すべての解析はSPSS for Windows Version 23.0を用いて実施された。