- 著者: Nobuaki Mamesaya, Hiromi Kodama, Yuki Iida, Haruki Kobayashi, Ryo Ko, Kazushige Wakuda, Akira Ono, Hirotsugu Kenmotsu, Tateaki Naito, Haruyasu Murakami, Takuya Shimizu, Yasuhiro Gon, Toshiaki Takahashi
- Corresponding author: Toshiaki Takahashi (Division of Thoracic Oncology, Shizuoka Cancer Center, Shizuoka, Japan)
- 雑誌: Thoracic Cancer
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-04-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 36700290
背景
進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC: extensive-stage small-cell lung cancer) は、急速に全身転移を来し予後不良な悪性腫瘍であり、世界の肺癌死亡における主要な原因の一つである (Bray et al. CACancerJClin 2018)。小細胞肺癌患者の約半数は70歳以上の高齢者で診断され、全身状態 (PS: performance status) が不良な症例も多く存在する。
PS 2の高齢ES-SCLC患者を対象とした先行研究である第III相臨床試験 JCOG9702 (Okamoto et al. BrJCancer 2007) では、カルボプラチン (CBDCA) + エトポシド (ETP) 併用療法 (CE療法) が分割シスプラチン + ETP療法と同等の生存期間を示し、毒性プロファイルが良好であったことから、高齢者やPS不良群における標準治療として確立された。近年、ES-SCLCの一次治療には免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) であるアテゾリズマブやデュルバルマブを化学療法に上乗せする治療法が標準化されている (Horn et al. NEnglJMed 2018、Paz-Ares et al. Lancet 2019)。しかし、これらの大規模臨床試験ではPS 0-1の全身状態良好な患者が主対象であり、PS 2以上の患者は除外されていた。
そのため、実臨床で頻繁に遭遇する「71歳以上の高齢」かつ「PS 3-4の極めて不良な全身状態」という二重の治療リスク因子を併せ持つ患者群に対する化学療法の有効性と安全性データは、これまで極めて限定的であり、最適な治療戦略は未確立のままであった。この超高齢かつPS不良な集団におけるCE療法の治療成績や、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor: 顆粒球コロニー刺激因子) 予防投与による発熱性好中球減少症 (FN: febrile neutropenia) の抑制効果、さらには治療によるPS改善が予後に与える影響については、依然として多くの情報が不足しており、臨床的な knowledge gap (知識ギャップ) が残されている。本研究は、この臨床的な課題を解決するために、静岡がんセンターにおける豊富な実臨床データを用いて後方視的解析を実施した。
目的
本研究の目的は、71歳以上かつECOG-PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) 2以上の高齢未治療ES-SCLC患者を対象に、一次治療としてのCE療法の有効性 (奏効率、無増悪生存期間、全生存期間) および安全性を後方視的に評価することである。特に、ベースラインの全身状態が PS 2 の群と、より不良な PS 3-4 (PS ≥3) の群との間で治療成績および有害事象プロファイルを直接比較し、治療後のPS改善率やG-CSF予防投与が予後に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
結果
患者背景と治療完遂度: 解析対象となった高齢ES-SCLC患者は計63例であり、内訳は PS 2群が38例 (60.3%)、PS ≥3群が25例 (39.7%、うちPS 3が24例、PS 4が1例) であった。全症例の年齢中央値は76歳 (範囲: 71-86) であり、80歳以上の超高齢者が17例 (27.0%) 含まれていた。男性が50例 (79.4%)、喫煙歴ありが61例 (96.9%)、Stage IV症例が58例 (92.1%) であった。脳転移は18例 (28.6%)、肝転移は18例 (28.6%)、骨転移は19例 (30.2%) に認められた。PS 2群とPS ≥3群の間で、年齢中央値 (76 vs 75歳、p=0.578)、性別 (p=0.592)、喫煙状況 (p=0.773)、臨床病期 (p=0.605)、脳転移の有無 (p=0.935) を含むすべてのベースライン背景因子に有意差はなく、両群は極めて良好にバランスされていた (Table 1)。化学療法の実施サイクル数中央値は4サイクル (範囲: 1-6) であり、4サイクル以上を完遂できた割合は全体で63.5% (40/63例) であった。G-CSFの第1サイクルからの予防投与は、全体で30例 (47.6%)、PS 2群で16例 (42.1%)、PS ≥3群で14例 (56.0%) に実施された (Table 2)。
同等の腫瘍縮小効果と生存期間の臨床的傾向: 全症例における客観的奏効率 (ORR) は 71.4% (95% CI 59.3-81.1%) であり、CRは0例、PRは45例に得られた。PS別のORRは、PS 2群で 71.1% (27/38例)、PS ≥3群で 72.0% (18/25例) であり、全身状態が極めて不良な群においても同等の高い腫瘍縮小効果が得られることが示された (p=0.558、Table 3)。全症例の生存期間中央値は、PFSが 4.4ヶ月 (95% CI 3.6-5.2)、OSが 6.5ヶ月 (95% CI 5.6-8.1) であった (Figure 1)。PS別の生存解析では、PS 2群 vs PS ≥3群において、PFS中央値が 4.6 vs 3.1ヶ月 (log-rank p=0.946、Figure 2a)、OS中央値が 7.7 vs 5.1ヶ月 (log-rank p=0.421、Figure 2b) であった。統計学的な有意差には至らなかったものの、PS ≥3群において生存期間が短縮する臨床的傾向が認められた。
治療後のPS改善と予後への劇的な影響: 第1サイクルのCE療法終了後、全症例の 57.1% (36/63例) で全身状態が PS 1以下へと劇的に改善した。PS別では、PS 2群の 63.2% (24/38例)、PS ≥3群の 48.0% (12/25例) でPSの改善が得られた (p=0.234、Table 3)。特にベースラインが PS ≥3 の重篤な患者群において、治療後にPSが改善した12例では、改善しなかった13例と比較して予後が極めて良好であった。PS改善群 vs 非改善群におけるPFS中央値は 6.1 vs 2.8ヶ月 (Figure 3a)、OS中央値は 8.5 vs 3.8ヶ月 (Figure 3b) であり、化学療法による迅速な腫瘍縮小が全身状態の劇的な回復をもたらし、生存期間の延長に直結することが示された。
G-CSF予防投与によるPFS延長効果: 第1サイクルからのG-CSF予防投与の有無による解析では、予防投与あり群 (n=30) vs なし群 (n=33) において、PFS中央値が 5.2 vs 3.8ヶ月 (Figure 4a)、OS中央値が 6.6 vs 6.5ヶ月 (Figure 4b) であった。このPFS延長効果は、特に PS ≥3 群において顕著であった。PS ≥3 群におけるG-CSF予防投与あり群 (n=14) のPFS中央値は 6.1 vs 2.8ヶ月であり、ハザード比を評価すると生存期間の大幅な延長傾向を示した (Figure 4d)。一方、PS 2群におけるPFS中央値は、予防投与あり群 (n=16) で 5.2 vs なし群 (n=22) で 4.4ヶ月であった (Figure 4c)。
安全性と血液毒性プロファイル: 何らかの有害事象は全63例 (100%) に認められ、Grade 3以上の重篤な有害事象は 81.0% (51/63例) に発生した (Table 4)。主な毒性は血液毒性であり、Grade 3以上の好中球減少症は 68.3% (43/63例、PS 2群 63.2% vs PS ≥3群 76.0%)、白血球減少症は 58.7% (37/63例、PS 2群 52.6% vs PS ≥3群 68.0%)、血小板減少症は 25.4% (16/63例、PS 2群 21.1% vs PS ≥3群 32.0%) に認められた。発熱性好中球減少症 (FN) の発症率は全体で 20.6% (13/63例) であり、PS 2群で 15.8% (6/38例)、PS ≥3群で 28.0% (7/25例) と、PS ≥3群で高頻度であった (Figure 4e)。治療関連死 (TRD: treatment-related death) は全体で 6.3% (4/63例) に発生し、PS 2群で 5.3% (2/38例、死因は誤嚥1例、消化管出血1例)、PS ≥3群で 8.0% (2/25例、死因はともにFN) であった。毒性による治療スケジュールの変更や減量、中止を余儀なくされた割合は、PS 2群の 28.9% に対し、PS ≥3群では 52.0% と高率であった (p=0.065、Table 3)。
病勢進行後の後治療状況: 病勢進行後に二次治療としての化学療法を受けた割合は全体で 34.9% (22/63例) であり、PS 2群で 36.8% (14/38例)、PS ≥3群で 32.0% (8/25例) であった。二次治療の薬剤としてはアムルビシン単剤療法が10例と最も多く用いられた (Table 5)。三次治療は9.5%、四次治療は1.6%の症例で実施された。経過中に脳転移の再発または増悪を認めた割合は 34.9% (22/63例) であり、そのうち10例が全脳照射 (WBRT: whole brain radiotherapy) などの放射線治療を受けた。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、高齢ES-SCLC患者における標準治療を確立した JCOG9702 試験 (Okamoto et al. BrJCancer 2007) と異なり、同試験から除外されていた「71歳以上かつPS 3-4」の極めて全身状態が不良な患者群を対象とし、PS 2の高齢患者と直接比較した。JCOG9702におけるOS中央値10.6ヶ月と比較して、本研究のPS 2群で7.7ヶ月、PS ≥3群で5.1ヶ月と短縮していたが、これは実臨床における対象患者のさらなる高齢化と全身状態不良例の割合を反映している。また、近年の標準治療である免疫チェックポイント阻害薬併用療法の検証試験 (IMpower133、CASPIAN) はPS 0-1のみを対象としており、本研究はこれら現代の臨床試験データがカバーしていない frail (虚弱) な患者集団に対する貴重な実臨床データを提供する。
新規性: 本研究は、高齢かつPS 3-4の二重のリスク因子を持つ未治療ES-SCLC患者において、CE療法がPS 2群と同等の高い奏効率 (72.0%) をもたらすことを本研究で初めて明らかにした。さらに、PS ≥3の超不良群であっても、化学療法開始後に約半数 (48.0%) の症例でPSが1以下へと劇的に改善し、PS改善が得られた症例では生存期間中央値が8.5ヶ月に達するという極めて良好な予後が得られることを新規に示した。
臨床応用: 本知見は、高齢で全身状態が極めて不良なES-SCLC患者に対する治療方針決定において重要な臨床的意義を持つ。PS 3-4であっても、腫瘍随伴症状や腫瘍の急速な進展自体がPS低下の原因である場合、積極的な化学療法 (CE療法) を行うことで全身状態の劇的な回復と予後延長が期待できる。ただし、PS ≥3群ではFN発症率が28.0%、治療関連死が8.0%と高いため、安全性を担保するためにペグフィルグラスティム等のG-CSF予防投与を第1サイクルから積極的に導入するなどの強力な支持療法を臨床現場で実装することが強く推奨される。
残された課題: 本研究には、単施設での後方視的解析であり症例数が63例と限定的であること、および選択バイアスを排除できないという limitation (限界) がある。また、治療関連死 8.0% という数値は臨床的に許容限界であり、どのような患者で安全にPS改善が得られるかという患者選別の精緻化が今後の検討課題である。さらに、近年進行中のPS不良例を対象としたICI併用療法の臨床試験 (NEJ045A試験など、NEJは特定研究グループを示す) の結果との比較や、高齢者総合的評価 (CGA: comprehensive geriatric assessment) を用いた適切な frailty 評価法の確立が今後の重要な研究方向性として残されている。
方法
患者選択とデータ収集: 2002年12月から2018年3月までに、静岡がんセンター (Shizuoka Cancer Center, Japan) において一次治療としてCE療法を少なくとも1サイクル以上投与された、71歳以上かつECOG-PS 2以上のES-SCLC連続症例を対象とした後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。組織学的または細胞学的に小細胞肺癌と診断され、UICC-TNM分類第8版による進展型 (Stage III-IVB) であることを条件とした。本研究はヘルシンキ宣言に準拠し、静岡がんセンターの倫理審査委員会 (IRB承認番号: J2019-30、Jは倫理審査承認コードを示す) の承認を得て実施され、患者へのインフォームド・コンセントはオプトアウト方式で提供された。
治療プロトコル: カルボプラチンは Calvert 式を用いて目標 AUC (area under the curve) 4-5 で算出され、エトポシドは体表面積に基づき 20-100 mg/m² (day 1-3) で投与された。具体的な投与量は治療医の裁量で調整された。全症例の 82.5% (52/63例) が標準用量である CBDCA (AUC 5) + ETP (80 mg/m²) の投与を受けた。治療は最大6サイクルまで繰り返された。G-CSFの予防投与 (ペグフィルグラスティムまたはフィルグラスティム/レノグラスチム) は、第1サイクルにおいて治療医の判断で実施された。
効果および安全性の評価: 腫瘍縮小効果は、治療開始前および治療後に実施されたCTまたはMRI画像に基づき、RECIST v1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) を用いて完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、安定 (SD)、進行 (PD) に分類した。主要評価項目 (primary endpoint) は無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) とした。有害事象は CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 5.0 を用いてグレーディングを行った。
統計解析: PFSおよびOSは Kaplan-Meier 法を用いて推定し、群間比較には log-rank test (ログランク検定) を用いた。カテゴリ変数については Fisher’s exact test (フィッシャー直接確率検定) または Pearson の chi-square test (カイ二乗検定) を用い、連続変数については unpaired Student’s t-test を用いて比較した。予後因子の解析には Cox proportional hazards (コックス比例ハザード) モデルを用いた。すべての統計学的検定は両側検定とし、p<0.05 を有意差ありと定義した。解析には JMP 13.2.1 (SAS Institute Inc.) を使用した。