- 著者: Inoue A, Sugawara S, Harada M, Kobayashi K, Kozuki T, Kuyama S, Maemondo M, Asahina H, Hisamoto A, Nakagawa T, Hotta K, Nukiwa T
- Corresponding author: Akira Inoue (Department of Respiratory Medicine, Tohoku University Hospital, Sendai, Japan)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 25393793
背景
胸腺上皮性腫瘍 (TET) は稀少な腫瘍であり、進行性または再発性の症例に対する標準的な化学療法は未確立である。歴史的に、シスプラチン (cisplatin)、ドキソルビシン (doxorubicin)、シクロホスファミド (cyclophosphamide) を含む多剤併用レジメン (例: PAC療法やADOC療法) が用いられてきたが、これらのレジメンは十分なエビデンスが不足しており、重篤な毒性も問題であった。特に、シスプラチンによる悪心や腎毒性、アントラサイクリン系薬剤による心臓毒性は患者のQOLを著しく低下させる要因であった。
NCCNガイドラインでは、カルボプラチン (carboplatin) とパクリタキセル (paclitaxel) の併用療法 (CBDCA+PTX) が進行性胸腺癌 (TC) および浸潤性胸腺腫 (IT) の治療選択肢として推奨されている。Lemma et al. JClinOncol 2011によるフェーズII試験では、CBDCA+PTX療法はTC患者で客観的奏効率 (ORR) 21.7% (90% CI 9.0-40.4)、IT患者でORR 42.9% (90% CI 24.5-62.8) を示し、TC患者の全生存期間 (MST) 中央値は20.0ヵ月であった。しかし、このレジメンは重篤な末梢神経障害を伴うことが報告されており、患者のQOLを損なうという課題が残されていた。Socinski et al. JClinOncol 2012も同様の課題を指摘している。
また、シスプラチンとイリノテカン (irinotecan) の併用療法もTCに対してORR 32%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値5.0ヵ月という成績がOkuma et al. LungCancer 2011で報告されているが、骨髄抑制などの毒性が強く、日常臨床での適用は限定的である。高用量のシスプラチン、ビンクリスチン (vincristine)、ドキソルビシン、エトポシドを用いたCVDE (Cisplatin, Vincristine, Doxorubicin, Etoposide) 療法も有効性が示唆されているが、その毒性の高さから実臨床での導入は困難であった。これらの背景から、進行性TETに対する有効性と忍容性を両立する新たな化学療法レジメンの開発が強く求められていた。特に、従来の治療法では心臓毒性や末梢神経毒性といった重篤な副作用が問題となり、患者のQOLを著しく低下させるという点が未解明な課題として残されていた。
アムルビシン (AMR) は、第3世代の合成アントラサイクリン誘導体であり、小細胞肺癌 (SCLC) の治療において単剤療法 (45 mg/m²を3日間) およびカルボプラチンとの併用療法 (AMR 35 mg/m²、CBDCA AUC 4.0) で有効性が確認されている。Yana et al. InvestNewDrugs 2007。AMRは従来のドキソルビシン系薬剤と比較して心臓毒性が少なく、骨髄毒性以外の非血液毒性が軽度であることがSCLCの臨床試験で示されている。この有望な毒性プロファイルと有効性に基づき、北日本肺癌グループ (NJLCG: North Japan Lung Cancer Group) は、AMRとCBDCAの併用療法が進行性TETに対して許容可能な毒性プロファイルで有効性を示す可能性を仮説として立て、本フェーズII試験 (NJLCG0803) を実施することとした。特に、高齢患者が多いTETにおいて、心臓毒性や末梢神経毒性が少ないAMR+CBDCAレジメンは、QOLを維持しつつ治療を継続できる点で大きな利点となることが期待された。しかし、TETにおけるAMRの有効性に関するデータは不足しており、その臨床的意義を評価する必要があった。
目的
進行性または再発性の胸腺癌 (TC) および浸潤性胸腺腫 (IT) 患者を対象として、アムルビシン (AMR) とカルボプラチン (CBDCA) の併用療法 (AMR+CBDCA) の主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) を評価すること。さらに、副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイルを評価し、本レジメンの臨床的有用性を検証することを目的とした。特に、先行研究で末梢神経毒性が問題となっていたCBDCA+PTXレジメンと比較して、AMR+CBDCAレジメンが同等以上の有効性を持ちつつ、より良好な忍容性を示すかどうかの検討も重要な目的の一つであった。また、TCとITでAMR+CBDCAレジメンの有効性に差があるかどうかも探索的に評価することを目指した。本試験は、新たな治療選択肢が不足している進行性胸腺上皮性腫瘍の治療において、AMR+CBDCAレジメンの有効性と安全性のバランスを明確にすることを意図した。
結果
患者背景: 2008年12月から2012年10月までに、合計51例の患者が登録された (Table 1)。内訳は胸腺癌 (TC) 群33例、浸潤性胸腺腫 (IT) 群18例であった。TC群の患者背景は、男性24例、女性9例、年齢中央値68歳 (範囲39〜78歳)、PS 0/1がそれぞれ14/19例であった。IT群は、男性11例、女性7例、年齢中央値64歳 (範囲44〜76歳)、PS 0/1がそれぞれ10/8例であった。WHO分類では、IT群はA型2例、B1型3例、B2型7例、B3型6例であった。前治療歴については、TC群では14例 (前治療1レジメン7例、2レジメン7例) が化学療法を受けており、うち5例がドキソルビシン含有レジメンであった。IT群では3例 (1レジメン2例、2レジメン1例) が化学療法を受けており、うち2例がドキソルビシン含有レジメンであった。TC群の未治療例は19例 (58%) であった。各群における治療コース数の中央値はいずれも4コース (TC群: 1〜6コース、IT群: 2〜15コース) であった。プロトコール治療終了後、26例 (51%) の患者が後続治療を受け、内訳はCBDCA+PTXが12例、S-1が9例であった。
胸腺癌 (TC) 群の有効性: 全TC群33例における客観的奏効率 (ORR) は30% (95% CI 14-46%) であり、病勢コントロール率 (DCR) は85%であった (Table 2)。完全奏効 (CR) は0例、部分奏効 (PR) は10例であった。特に、前治療歴のないTC患者19例におけるORRは42% (95% CI 20-62%) と、前治療歴のあるTC患者14例のORR 14% (95% CI 0-34%) と比較して高い奏効率を示した。この結果は、未治療のTC患者においてAMR+CBDCAレジメンが有望な治療選択肢となる可能性を示唆する。データカットオフ時点 (2013年12月、全患者の中央追跡期間24ヵ月) でのTC群の中央無増悪生存期間 (PFS) は7.6ヵ月、中央全生存期間 (MST) は27.3ヵ月、1年OS率は82%であった (Figure 1)。層別解析では、年齢65歳以下の患者 (n=25) のMSTが1,763日 (未到達) であったのに対し、65歳超の患者 (n=26) では667日であり、有意な差が認められた (p=0.0208) (Table 3)。これは高齢のTC患者において予後が不良である可能性を示している。
浸潤性胸腺腫 (IT) 群の有効性: IT群18例におけるORRは17% (95% CI 0-34%) であり、DCRは89%であった (Table 2)。PRは3例、安定 (SD) は13例、病勢進行 (PD) は1例、評価不能は1例であった。このORRは、先行研究のCBDCA+PTXレジメンにおけるITのORR 42.9% (90% CI 24.5-62.8%) を大きく下回る結果であり、AMR+CBDCAレジメンはIT群に対して期待された有効性を示さなかった。IT群のPFS中央値は7.6ヵ月であった (Figure 1)。IT群のMSTは58.0ヵ月であり、TC群と比較して良好な生存期間を示したが、これはTET疾患の生物学的特性 (ITが一般的にTCよりも予後が良好であること) を反映するものであり、AMR+CBDCAの薬効に起因するものではないと考えられる。
安全性プロファイル: グレード3/4の血液毒性として、好中球減少症が82% (G-CSF使用55%、中央値6日間)、発熱性好中球減少症が22%、貧血が33%、血小板減少症が20%に認められた (Table 4)。特にグレード4の好中球減少症は28例 (55%) に発生したが、これらはいずれも一過性であり、重篤な感染症への移行は少なかった。グレード3/4の非血液毒性として、悪心4%、下痢4%、感染症4%、AST/ALT上昇2%が認められたが、いずれも頻度および重篤度ともに軽微であった。末梢神経毒性はほとんど認められなかった。ドキソルビシン前治療歴のある患者 (TC 5例、IT 2例) を含め、心臓毒性は1例も報告されなかった点は、AMRの重要な利点として特筆される。TC群の36% (12例) およびIT群の33% (6例) でAMRの用量減量が必要となった。治療関連死亡は認められなかった。
考察/結論
本フェーズII試験は、進行性胸腺癌 (TC) および浸潤性胸腺腫 (IT) に対するアムルビシン (AMR) とカルボプラチン (CBDCA) の併用療法 (AMR+CBDCA) の有効性と安全性を評価した。
先行研究との違い: 本試験のTC群におけるORR 30% (95% CI 14-46%)、MST 27.3ヵ月、PFS 7.6ヵ月という成績は、先行するCBDCA+PTXレジメンのTC成績 (ORR 21.7%、MST 20.0ヵ月、PFS 5.0ヵ月) を数値上上回るものであった。また、シスプラチン+イリノテカン併用療法のTCにおけるORR 32%、PFS 5.0ヵ月や、高用量CVDE療法 (ORR 83%だが毒性が強く実臨床適用が困難) と比較しても、AMR+CBDCAは忍容性と有効性のバランスが優れている。特に、CBDCA+PTXレジメンで問題となっていた重篤な末梢神経毒性が本レジメンではほとんど認められなかった点は、これまでの治療法と異なり、高齢患者が多いTC患者層 (本試験の中央年齢68歳) において重要な利点である。ドキソルビシン前治療歴のある患者でも心臓毒性なしで投与可能であったことも、従来のドキソルビシン含有レジメンとの対照的な特徴である。
新規性: 本研究は、胸腺悪性腫瘍に対する化学療法の前向き試験としてはこれまでで最大規模のものであり、AMR+CBDCAレジメンが進行性TCに対して中等度の有効性を示すことを新規に示した。特に、未治療のTC患者におけるORR 42%は有望な結果であり、これまで報告されていない新たな治療選択肢となる可能性を示唆する。
臨床応用: 本試験の結果は、AMR+CBDCAレジメンが進行性TCに対する新たな治療選択肢として検討に値することを示唆する。特に、末梢神経毒性や心臓毒性が少ないという安全性プロファイルは、患者のQOL維持に貢献し、臨床現場での有用性が高いと考えられる。高齢患者や心機能に懸念のある患者にとって、このレジメンは重要な選択肢となり得る。
残された課題: 本試験にはいくつかのlimitationがある。第一に、サンプルサイズが小さく (TC 33例、IT 18例)、統計的に確定的な結論を導き出すには不十分である。TETの稀少性から大規模比較試験の実施は困難であり、単群フェーズII試験がエビデンスの中心とならざるを得ない現実がある。第二に、CBDCAの用量 (AUC 4.0) がやや低めに設定されており、より高用量 (例: AUC 5.0) での有効性および毒性は未評価のままである。第三に、AMR+CBDCAとCBDCA+PTXを直接比較するランダム化比較試験は行われておらず、現在でも胸腺悪性腫瘍に対する比較試験を実施するための患者数の確保は難しい状況にある。今後の検討課題として、バイオマーカーを用いた治療効果予測因子の探索や、免疫チェックポイント阻害剤との併用療法の可能性についても検討が必要である。
方法
本研究は、日本全国18施設が参加した多施設共同の非盲検単群フェーズII試験 (UMIN000001602) として実施された。患者登録期間は2008年12月から2012年10月までであった。
患者選択基準: 組織学的に胸腺癌 (TC) または浸潤性胸腺腫 (IT) と確定診断された20歳以上の患者が対象とされた。その他の主要な選択基準は以下の通りである。ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0または1であること。RECIST v1.1基準に基づき測定可能な病変を有すること。推定余命が3ヵ月以上であること。適切な臓器機能を有すること(白血球数 ≥ 4,000/mm³、好中球数 ≥ 2,000/mm³、血小板数 ≥ 100,000/mm³、ヘモグロビン ≥ 9.0 g/dL、総ビリルビン ≤ 1.5 mg/dL、AST/ALT ≤ 100 IU/L、クレアチニン ≤ 1.5 mg/dL、動脈血酸素分圧 ≥ 60 mmHg)。ドキソルビシン累積投与量が400 mg/m²以内であれば、前治療歴のある患者も登録可能であった。症候性脳転移、間質性肺疾患、ドレナージを要する大量の胸水・腹水、コントロール不良の糖尿病や心疾患などの重篤な合併症を有する患者は除外された。全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを取得した。
治療計画: アムルビシン (AMR) は、各治療サイクルのday 1からday 3にかけて、35 mg/m²(前治療歴のある患者は骨髄抑制のリスクを考慮し30 mg/m²に減量)を10分間かけて点滴静注した。カルボプラチン (CBDCA) は、day 1にAMR投与後、AUC 4.0の用量で30分以上かけて点滴静注した。これらの薬剤は3週ごとに繰り返して投与された。治療は病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。前投薬として、コルチコステロイドと制吐剤のセロトニン拮抗薬の使用が推奨された。重篤な毒性(グレード3以上の非血液毒性、血小板数20,000/mm³以下、4日以上持続するグレード4好中球減少、または前サイクルでの発熱性好中球減少)が発生した場合は、次サイクルからAMRの用量を5 mg/m²減量した。好中球減少に対してG-CSFの使用は許可されたが、予防的な使用は認められなかった。
評価項目: 主要評価項目は客観的奏効率 (ORR) であった。副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイルであった。腫瘍効果判定はRECIST v1.1基準に基づき、独立した外部審査委員会によって実施された。有害事象はNCI-CTCAE v4.0を用いて評価された。
統計解析: 主要評価項目であるORRについて、TC群ではORR 45%以上を有望、20%以下を限界と設定し、各群18例の登録が必要とされた(片側α=0.10、β=0.20)。IT群ではORR 75%以上を有望、50%以下を限界と設定し、同様に各群18例の登録が必要とされた。患者登録が当初の予定よりも遅延したため、TC群は追加登録を実施した。生存期間の推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が用いられ、生存曲線間の差の評価にはログランク (log-rank) 検定が適用された。