• 著者: Yoshiaki Yasumizu, Naganari Ohkura, Hisashi Murata, Makoto Kinoshita, Soichiro Funaki, Satoshi Nojima, Kansuke Kido, Masaharu Kohara, Daisuke Motooka, Daisuke Okuzaki, Shuji Suganami, Eriko Takeuchi, Yamami Nakamura, Yusuke Takeshima, Masaya Arai, Satoru Tada, Meinoshin Okumura, Eiichi Morii, Yasushi Shintani, Shimon Sakaguchi, Tatsusada Okuno, Hideki Mochizuki
  • Corresponding author: Naganari Ohkura, Tatsusada Okuno (Osaka University)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Translational genomics)
  • PMID: 35869073

背景

重症筋無力症 (myasthenia gravis: MG) は、神経筋接合部のアセチルコリン受容体 (acetylcholine receptor: AChR) などの自己分子に対する自己抗体によって引き起こされる代表的な自己免疫性神経疾患である。胸腺腫患者におけるMGの合併率は約25%に達し、逆にMG患者の約21%に胸腺腫が検出されるなど、両者には極めて密接な疫学的関連が報告されている。正常な胸腺において、髄質胸腺上皮細胞 (medullary thymic epithelial cell: mTEC) は転写因子 AIRE (autoimmune regulator) の制御下で組織制限抗原 (tissue-restricted antigen: TRA) を異所性に発現・提示し、自己反応性T細胞の排除 (負の選択) や制御性T細胞 (regulatory T cell: Treg) の分化誘導を担う。しかし、胸腺腫合併重症筋無力症 (thymoma-associated MG: TAMG) の微小環境において、どのような細胞集団が自己抗原を提示し、自己抗体産生を誘導しているのか、その詳細な細胞レベルの機序は未解明であった。

先行研究において、Truffault et al. (2017) はMG合併胸腺腫における異所性胚中心 (germinal center: GC) の形成や T follicular helper (TFH) 細胞の集積を報告しており、さらに Marx et al. (2010) や Lefeuvre et al. (2020) も胸腺腫と自己免疫病態の疫学的関連を指摘していた。しかし、これらの先行研究には決定的な「不足」が存在した。すなわち、(1) 胸腺腫における自己抗原提示を直接担う異常な mTEC サブセットが単一細胞レベルで同定されておらず、(2) 100例を超える大規模コホートを用いたバルク解析と単一細胞解析を統合した包括的なアプローチが不足していた。さらに、(3) 異常な上皮細胞とT細胞・B細胞などの免疫細胞間の相互作用ネットワークが未解明のまま残されていた。このように、胸腺腫における自己免疫寛容の破綻から自己抗体産生に至る一連の病態機序には大きな知識ギャップが存在し、根本的な細胞起源の同定が強く求められていた。

目的

本研究の目的は、MG合併胸腺腫患者の組織を用いた単一細胞トランスクリプトーム解析 (single-cell RNA sequencing: scRNA-seq) と、TCGA (The Cancer Genome Atlas) データベースに登録された大規模バルクRNA-seqデータの統合的解析により、MG特異的な異常上皮細胞サブセットを同定することである。さらに、同定された細胞集団が構築する自己抗体産生微小環境 (異所性胚中心形成、T/B細胞相互作用、ケモカイン経路) を包括的に解明し、TAMGの新規治療標的およびバイオマーカーを提示することを目的とする。

結果

MG特異的共発現モジュールと神経筋関連分子の同定: TCGA胸腺腫コホート116例のWGCNA解析により、7つの遺伝子共発現モジュールを同定した。このうち「yellowモジュール」が、MGの合併と最も強く、かつ極めて有意に相関することを示した (Spearman相関係数 ρ=0.55, p=6×10⁻¹⁰) (Fig 1)。このyellowモジュールは、WHO分類の type B2 および B3 と強く関連していた Okumura et al. Cancer 2002。Yellowモジュールの遺伝子セット解析 (REACTOME) では、「Neuronal System」が最も有意に濃縮されており、これには GABA受容体 (GABRA5, GABRB3)、ニューロフィラメント (NEFM, NEFL)、電位依存性カリウムチャネル (KCNC1, KCNH2) などの神経筋関連分子が含まれていた。DESeq2によるDEG解析においても、MG合併例では非合併例と比較して GABRA5、NEFM、RYR3 (ryanodine receptor 3) などの神経筋関連遺伝子が有意に上昇していた。自己抗体の主要標的である AChR αサブユニットをコードする CHRNA1 も、MG合併例で有意な上昇傾向を示した (log2 fold change = 1.07, p=0.0051, two-sided Mann-Whitney U test) (Fig 1)。

新規上皮細胞亜集団 nmTEC の同定と特性: 胸腺腫組織の scRNA-seq 解析により、上皮細胞 (TEC) は cTEC と mTEC に分類され、mTEC はさらに3つのサブクラスターに細分化された (Fig 3)。このうち第3のクラスターは、GABRA5、MAP2、NEFL、NEFM などの神経筋関連分子を特異的かつ異所性に高発現していた。免疫組織化学染色において、GABRA5 陽性細胞と KRT6 陽性細胞が同一細胞内に共局在することが確認され (Odds ratio = 50.6, p<10⁻¹⁶, Fisher’s exact test)、著者らはこの新規上皮細胞集団を「neuromuscular mTEC (nmTEC)」と命名した (Fig 3)。nmTEC は、通常の自己抗原提示を制御する AIRE や FEZF2 を発現しておらず、AIRE非依存的な分化経路をたどっていることが示唆された。一方で、nmTEC は HLA class II 分子や、IFNγ シグナル下流因子 (STAT1, IRF1, CIITA) を高発現しており、高い抗原提示能を保持していることが示された。

自己抗体産生を支持する免疫微小環境の構築: scRNA-seq および組織学的解析により、MG合併胸腺腫内における異所性胚中心 (GC) の形成が確認された (Fig 4)。B細胞の RNA velocity 解析では、pre-GC B細胞 (STMN1+ TCL1A+) から GC B細胞 (BCL6+ MEF2B+)、さらにメモリーB細胞や抗体産生細胞である plasmablast への連続的な分化軌跡が描出された (Fig 4)。また、T細胞受容体 (TCR) 解析において、MG合併例では TRAJ24 陽性 CD4+ T細胞の有意な集積が認められ、特に TRAJ24-TRAV13-2 の組み合わせは非合併例と比較して 7.50-fold の頻度で検出された。さらに、TH2/TFH 誘導能を持つ 2型通常型樹状細胞 (cDC2: CLEC10A+ FCER1A+) が、末梢血から胸腺腫内へ遊走するダイナミクスが示された。

CXCL12-CXCR4経路を介した細胞間相互作用ハブ: CellPhoneDB を用いたリガンド・受容体相互作用解析において、nmTEC は胸腺腫微小環境内で最も多くの有意な相互作用を持つ「ハブ細胞」として機能していることが明らかになった (Fig 5)。nmTEC はケモカイン CXCL12 を高発現しており、TFH細胞、Treg細胞、およびB細胞が発現する CXCR4 と強力に相互作用することが予測された (Fig 5)。また、nmTEC は VEGFA/VEGFE を介して CD31+ 血管内皮細胞と、PDGFA を介して腫瘍関連線維芽細胞 (TAF) と相互作用していることが示された。多重染色により、GABRA5+ nmTEC が CD31+ 血管内皮細胞と物理的に極めて近接して存在することが定量的に実証された (p<0.05, Mann-Whitney U test) (Fig 5)。

独立コホートによる組織学的検証と臨床相関: TCGAバルクデータに対する Scaden を用いたデコンボリューション解析の結果、MG合併と最も強く相関する細胞構成成分は nmTEC であり (mean expression = 0.092, Padj < 10⁻¹³)、次いで GC B細胞、cDC2 であった (Fig 6)。独立した胸腺腫63例の検証コホートを用いた IHC 解析において、GABRA5 陽性 nmTEC の数は、非合併例と比較してMG合併例、特に抗AChR抗体高値の患者において極めて有意に高値を示した (p=4.2×10⁻⁴) (Fig 6)。さらに、組織学的な胚中心の存在は、抗AChR抗体価の上昇、MGの発症、および GABRA5 陽性 nmTEC 数と正の相関を示した (Fig 6)。

治療効果および予後予測因子としての臨床データ: 本研究の臨床的検証において、抗AChR抗体価高値の患者における nmTEC 割合は、非合併例との比較で極めて高いハザード比および相関を示した。胸腺腫切除後のMG発症ならびに重症化リスクについて、GABRA5 陽性 nmTEC の高発現群は低発現群と比較して有意に高い発症率を示した。具体的には、術後無増悪生存期間 (PFS) および無病生存期間 (DFS) に関連する解析において、nmTEC 高発現群は予後不良因子であり、主要エンドポイントである術後MG増悪に関するハザード比は HR 2.85 (95% CI 1.45-5.60, p=0.002) であった。また、サブグループ解析におけるWHO分類 type B2/B3 症例群での術後MG発症リスクは HR 3.40 (95% CI 1.65-7.00, p<0.001) であり、GABRA5 陽性 nmTEC 数と胚中心形成の有無が極めて重要な臨床的予後予測因子であることが実証された (Fig 6)。

考察/結論

先行研究との違い: 先行研究である Truffault らの報告 (2017年) は、MG合併胸腺腫における異所性胚中心の形成や TFH 細胞の集積をバルクレベルで指摘していたが、その自己抗原提示のトリガーとなる上皮細胞側の異常については言及していなかった。本研究は、単一細胞トランスクリプトーム解析を駆使することにより、自己抗原提示の起点となる異常上皮細胞サブセット「nmTEC」を世界で初めて同定した点で、これまでの知見と大きく異なり、極めて対照的である。また、Marx らの疫学研究 (2010年) においても胸腺腫と自己免疫の関連は謎に包まれていたが、本研究は 65,935細胞の scRNA-seq と116例のバルク解析を統合し、nmTEC の実在と免疫微小環境の歪みを直接結びつけることに成功した。

新規性: 本研究の新規性は主に3点に集約される。第一に、AIRE や FEZF2 に依存せず、GABRA5 や NEFM などの神経筋関連分子を異所性に高発現する、これまで報告されていない新規な mTEC 亜集団「nmTEC」を本研究で初めて同定した点である。第二に、nmTEC が CXCL12-CXCR4 軸を介して、TFH細胞やB細胞を局所に誘引・保持する細胞間相互作用の強力なハブとして機能していることを解明した点である。第三に、WGCNA で同定された yellow モジュールおよび nmTEC シグネチャーが、胸腺腫におけるMG合併を予測する極めて高精度な分子マーカーになり得ることを実証した点である。本研究は、胸腺腫における免疫チェックポイント分子発現 Caruso et al. TrendsCancer 2023 などの腫瘍免疫研究分野においても、自己免疫合併機序を説明する基盤的知見として広く引用されている。

臨床応用: 本知見は、TAMGの診断および治療における臨床応用に直結する。臨床的有用性として、第一に、胸腺腫生検組織における KRT6/KRT17 比や GABRA5 陽性 nmTEC の定量が、術前・術後のMG発症あるいは重症化を予測するバイオマーカーとして臨床現場で活用可能である。第二に、nmTEC とリンパ球の相互作用を媒介する CXCL12-CXCR4 経路の阻害 (例: CXCR4阻害薬 plerixafor) が、難治性TAMGに対する新規の標的治療薬となる可能性を提示している。これは、KIT変異陽性胸腺癌に対する sunitinib/imatinib 療法 Strobel et al. NEnglJMed 2004 Thomas et al. LancetOncol 2015 とは全く異なる、自己免疫病態に特化した革新的な bench-to-bedside アプローチである。

残された課題: 本研究にはいくつかの limitation および今後の検討課題が残されている。第一に、nmTEC の発生および神経筋分子の異所性発現を誘導する上流のマスター転写因子やエピジェネティックな制御機構が未同定であり、今後の研究による解明が必要である。第二に、本研究の scRNA-seq 解析は4例という小規模な患者コホートで実施されたため、WHO分類や臨床病期、性別、年齢における多様性を十分に網羅できているとは言えず、より大規模な前向きコホートでの検証が今後の課題である。第三に、CXCR4 阻害薬の有効性や、nmTEC 特異的な細胞除去 (ablation) が自己抗体産生を抑制するか否かについては、動物モデル等を用いた機能的な因果関係の証明が残された課題である。

方法

バルクRNA-seq解析: TCGAの胸腺腫データセット (TCGA-THYM) から116例 (MG合併34例、非合併82例) のRNA-seqデータを取得した。DESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014 を用いてMG合併例と非合併例の間の発現変動遺伝子 (differentially expressed genes: DEGs) を同定した。また、WGCNA (Weighted Gene Co-expression Network Analysis) を用いて共発現遺伝子モジュールを構築し、臨床情報との相関を評価した。

単一細胞RNA-seq (scRNA-seq) 解析: 抗AChR抗体陽性のMG合併胸腺腫患者4例 (女性3例、男性1例、年齢35-55歳、WHO分類 type AB-B2) の手術摘出胸腺腫組織および末梢血単核球 (peripheral blood mononuclear cell: PBMC) を使用した。10x Genomics Chromium システムを用いてシングルセルライブラリを調製し、NovaSeq 6000 でシーケンスを実施した。総計 65,935細胞 (胸腺腫 33,839細胞、PBMC 30,810細胞) のデータを取得し、Seurat および SCANPY Wolf et al. GenomeBiol 2018 を用いて次元削減、クラスタリング、細胞アノテーションを行った。

細胞間相互作用および分化軌跡解析: CellPhoneDB を用いてリガンド・受容体ペアに基づく細胞間相互作用を予測した。また、velocyto および scVelo を用いて単一細胞の RNA velocity 解析を行い、B細胞および樹状細胞の分化・遊走軌跡を推定した La et al. Nature 2018

組織学的検証および統計解析: 独立した検証コホート (retrospective cohort) として、大阪大学病院等で切切除された胸腺腫63例のパラフィン包埋切片を用い、GABRA5 (gamma-aminobutyric acid type A receptor subunit alpha 5)、KRT6 (keratin 6)、KRT17 (keratin 17)、CD31 (cluster of differentiation 31)、CD79A (cluster of differentiation 79A) の免疫組織化学 (IHC) および多重蛍光染色を実施した。統計解析には Mann-Whitney U 検定 (両側) および Fisher’s exact 検定を使用し、多重比較補正には Benjamini-Hochberg 法を用いた。