• 著者: Thomas A, Rajan A, Berman A, Tomita Y, Brzezniak C, Lee MJ, et al.
  • Corresponding author: Giuseppe Giaccone (Lombardi Cancer Center, Georgetown University)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-01-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25592632

背景

胸腺上皮腫瘍は稀な癌であり、前縦隔腫瘍の約20%を占める。組織学的特徴に基づき、胸腺腫と胸腺癌に分類されるが、胸腺癌はより悪性度が高く、化学療法への反応性が低く、遠隔転移の可能性が高いことが知られている。例えば、B1型胸腺腫の10年生存率が95%であるのに対し、胸腺癌の5年生存率は30-50%に過ぎない。手術が唯一の根治的治療選択肢であるが、切除不能または再発患者には緩和的化学療法が適用される。プラチナ系レジメンは胸腺癌患者で55-90%の客観的奏効を示すものの、プラチナ系化学療法失敗後の進行性胸腺上皮腫瘍に対する標準治療は確立されていないのが現状である。特に胸腺癌では予後不良にもかかわらず、全身治療の選択肢が乏しいことが課題として残されている。

スニチニブは、VEGFR (血管内皮増殖因子受容体)、KIT (KITプロトオンコジーン、受容体型チロシンキナーゼ)、PDGFR (血小板由来増殖因子受容体) などの複数のチロシンキナーゼを阻害する経口薬である。胸腺上皮腫瘍における血管新生の重要性は示唆されており、VEGFの過剰発現や微小血管密度が浸潤性や病期と関連することが報告されている。また、胸腺癌患者では血清VEGFおよびb-FGF (塩基性線維芽細胞増殖因子) 濃度が高いことが指摘されている (Sasaki et al. Surg Today 2001)。胸腺癌の約80%でKITの過剰発現が報告されており、約10%でKIT遺伝子変異が認められる (Pan et al. J Pathol 2004, Petrini et al. J Thorac Oncol 2010)。PDGFおよびPDGFRαも胸腺上皮細胞で過剰発現している (Cimpean et al. Int J Exp Pathol 2011)。これらの標的を阻害する薬剤が胸腺上皮腫瘍に有効である可能性が示唆されており、Strobelら (Br J Cancer 2010) は、スニチニブが3/4例の胸腺癌患者で奏効を示したと報告している。さらに、スニチニブは免疫細胞を調節し、T細胞機能を改善し、免疫抑制を逆転させる可能性も報告されている (Finke et al. Clin Cancer Res 2008, Ozao-Choy et al. Cancer Res 2009)。

胸腺上皮腫瘍の疫学的特徴については、Engels et al. IntJCancer 2003によって詳細に分析されている。また、胸腺上皮腫瘍の分子生物学的特性に関する研究も進展しており、Petrini et al. NatGenet 2014はGTF2I遺伝子の特定のミスセンス変異が高い頻度で発生することを報告し、Wang et al. SciRep 2014はエピジェネティック制御遺伝子の変異が胸腺癌に一般的であることを示している。しかし、プラチナ系化学療法抵抗性の進行胸腺上皮腫瘍に対するスニチニブの有効性と安全性に関する前向きな大規模臨床試験は不足しており、その臨床的有用性は未解明であった。

目的

本研究は、プラチナ系化学療法後に病勢進行した胸腺上皮腫瘍患者を対象に、経口チロシンキナーゼ阻害薬スニチニブの有効性と安全性を評価する非盲検第II相試験を実施することを目的とした。胸腺腫と胸腺癌では生物学的特性と臨床経過が異なるため、両腫瘍タイプを別々のコホートとして解析し、特に胸腺癌におけるスニチニブの臨床的活性を明らかにすることを目指した。

結果

患者背景と治療期間: 2012年5月15日から2013年10月2日までに合計41例の患者が登録され、胸腺癌患者25例、胸腺腫患者16例であった (Table 1)。登録患者の年齢中央値は57.5歳 (範囲 31-81歳) であり、40例中18例 (45%) が女性であった。ECOG performance statusは、40例中36例 (90%) が0または1であった。胸腺腫患者16例中13例 (81%) はB2またはB3型の組織学的特徴を有していた。胸腺癌患者24例中20例 (83%)、胸腺腫患者16例中9例 (56%) が胸腔外転移を有していた。両コホートとも、中央値で2レジメン (範囲 1-7) の先行治療を受けており、胸腺癌患者の58% (14/24)、胸腺腫患者の81% (13/16) が少なくとも2レジメン以上の先行治療を受けていた。40例の患者がスニチニブのプロトコル治療を受け、1例の胸腺癌患者は先行して治験中のマルチキナーゼ阻害薬を受けていたため不適格と判断され、プロトコル治療を受けなかった。治療期間中央値は胸腺癌患者で6.1か月 (IQR 3.1-9.1か月)、胸腺腫患者で6.9か月 (IQR 4.0-10.8か月) であった。データカットオフ時 (2014年4月9日) において、胸腺癌患者24例中19例 (79%) が少なくとも3か月間スニチニブを投与されており、3例が治療継続中であった。胸腺腫患者では16例中14例 (88%) が少なくとも3か月間治療を受けていたが、治療継続中の患者はいなかった。

スニチニブの臨床的活性: 胸腺癌コホートでは、評価可能23例中6例 (26%, 90% CI 12.1-45.3%, 95% CI 10.2-48.4%) が部分奏効 (PR) を示し、15例 (65%, 95% CI 42.7-83.6%) が病勢安定 (SD) を達成した (Table 2, Figure 1A)。完全奏効は認められなかった。9例 (39%, 95% CI 19.7-61.5%) の患者で10%から30%の腫瘍縮小が認められた。スニチニブに対する奏効は、胸腺癌患者において概ね迅速かつ持続的であった。PRを達成した6例の患者における奏効発現までの期間中央値は5.6か月 (範囲 2.7-13.8か月) であり、奏効期間中央値は16.4か月 (範囲 1.4-16.4か月) であった。データカットオフ時において、2例の奏効が継続中であった (各8.3か月)。一方、胸腺腫コホートでは、評価可能16例中1例 (6%, 95% CI 0.2-30.2%) のみがPRを示した (B3型胸腺腫) (Table 2, Figure 1B)。12例 (75%, 95% CI 47.6-92.7%) がSDを達成した。疾患制御率 (DCR) は、胸腺癌コホートで21例 (91%, 95% CI 72.0-98.9%)、胸腺腫コホートで13例 (81%, 95% CI 54.4-96.0%) であった (Table 2)。胸腺腫コホートは活動性不十分のため、登録患者16例で閉鎖された。

生存期間分析と安全性プロファイル: 無増悪生存期間 (PFS) 中央値は、胸腺癌患者で7.2か月 (95% CI 3.4-15.2か月)、胸腺腫患者で8.5か月 (95% CI 2.8-11.3か月) であった (Figure 2A)。追跡期間中央値17か月 (IQR 14.0-18.4か月) における全生存期間 (OS) 中央値は、胸腺癌患者では未到達であったが、胸腺腫患者では15.5か月 (95% CI 12.6か月-未定義) であった (Figure 2B)。1年OS率は、胸腺癌患者で78% (95% CI 58.0-90.4%)、胸腺腫患者で86% (95% CI 60.9-96.1%) と推定された。 Grade 3および4の治療関連有害事象は、治療を受けた40例中28例 (70%) で記録された (Table 3)。最も一般的なGrade 3以上の治療関連有害事象は、リンパ球減少症 (8例, 20%)、疲労 (8例, 20%)、口腔粘膜炎 (8例, 20%) であった。左室駆出率の低下は5例 (13%) で認められ、そのうち3例 (8%) はGrade 3イベントであった。治療中に3例 (8%) が死亡し、そのうち1例は胸腺腫患者で、心室細動による心停止であり、治療関連と判断された。この患者は心筋梗塞と房室ブロックの既往があり、冠動脈バイパス術とペースメーカー植え込みを受けていた。胸腺癌患者の63% (15/24) および胸腺腫患者の69% (11/16) の患者で用量減量が必要であり、主な理由は有害事象であった。胸腺腫コホートでは、2例 (13%) の患者(純粋赤芽球癆1例、低ガンマグロブリン血症1例)が治療中に自己免疫疾患を発症した。

探索的バイオマーカー解析: NCIで登録された33例の患者 (両コホート) のうち、25例でCEC (循環内皮細胞) の評価に利用可能な血液サンプルが得られた。サイクル3 Day1において、有核細胞中のアポトーシスCECの割合が減少または変化なしの14例の患者は、増加した9例の患者と比較して有意にOSが改善した (p=0.002) (Figure 3A)。胸腺癌コホートでは、サイクル3 Day1において、有核生存細胞中のCEP (循環内皮前駆細胞) の割合が減少または変化なしの11例の患者は、増加した2例の患者と比較してOSがわずかに良好であったが、統計的有意差はなかった (p=0.01) (Figure 3B)。 CTC (循環腫瘍細胞) の解析では、ベースラインでCTCが10個/10 mL以上の患者は、10個未満の患者と比較してOSがわずかに短い傾向を示した (p=0.006) (Figure 3C)。サイクル2 Day1でも同様に、CTCが10個/10 mL以上の患者はOSが短い傾向を示した (p=0.0095) (Figure 3D)。CTC数の45%以上の減少が認められた患者は、増加または45%未満の減少の患者と比較して、PFSがわずかに延長する傾向があったが、統計的有意差はなかった (p=0.02)。 免疫細胞サブセットの解析では、ほとんどの患者でTreg (制御性T細胞) PD-1発現およびCD8+ T細胞 CTLA4発現の増加が認められた (サイクル2 Day1でTreg PD-1発現 p=0.0095、サイクル3 Day1でTreg PD-1発現 p=0.03; サイクル2 Day1でCD8+ T細胞 CTLA4発現 p<0.0001、サイクル3 Day1でCD8+ T細胞 CTLA4発現 p<0.0001) (Figure 4A, 4C)。サイクル3 Day1でTreg PD-1発現が減少した4例の患者は、増加または変化なしの18例と比較して有意にOSが悪かった (p=0.0001) (Figure 4B)。サイクル2 Day1でCD8+ T細胞 CTLA4発現の増加が中央値を超えた15例の患者は、増加が小さい13例と比較してOSが良好であった (p=0.008) (Figure 4D)。 分子プロファイリングは22例の患者で実施され、胸腺癌患者の62%で体細胞変異が同定された。TP53およびDNMT3Aが最も頻繁に変異していたが、特定の変異とスニチニブへの奏効または生存期間との関連は認められなかった。KIT変異は検査された腫瘍では検出されなかった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、プラチナ系化学療法抵抗性の進行胸腺癌患者に対し、経口チロシンキナーゼ阻害薬スニチニブが堅牢かつ持続的な臨床的活性を示すことを、これまで報告された単一の標的薬試験と比較して初めて前向きに明らかにした。特に、先行研究ではいくつかの標的薬が胸腺癌に対して期待外れの結果に終わっていたのと異なり、本試験では胸腺癌コホートで26%の客観的奏効率と16.4か月の奏効期間中央値が達成されたことは特筆すべき点である。

新規性: 本研究で初めて、スニチニブが重度の前治療を受けた胸腺癌患者において、90%を超える高い疾患制御率 (DCR) を達成し、治療選択肢が限られるこの集団に新たな治療の可能性を提示した。また、CECやCTC、Treg PD-1やCD8+ T細胞 CTLA4といった免疫細胞サブセットの変化が、スニチニブ治療における生存期間の予測バイオマーカーとなる可能性を新規に示唆した点も重要である。

臨床応用: 本知見は、プラチナ系化学療法後に進行した胸腺癌患者に対するスニチニブの臨床応用を強く支持するものである。現在、この患者集団に対する標準治療が存在しない臨床現場において、スニチニブは新たな治療選択肢として考慮されるべきである。また、探索的バイオマーカーの同定は、将来的に患者選択や治療効果予測に役立つ可能性があり、translationalな研究の進展に寄与する。例えば、Hodi et al. NEnglJMed 2010Brahmer et al. NEnglJMed 2012が示したように、免疫チェックポイント阻害薬の成功は、適切なバイオマーカーによる患者選択の重要性を強調している。

残された課題: 本研究のlimitationとしては、小規模な単群試験であること、および相関研究が探索的な性質を持つことが挙げられる。これらの予備的な結果は、限られたサンプル数と胸腺腫および胸腺癌のサブタイプ間の免疫学的変化の異質性を考慮して慎重に解釈する必要があり、より大規模なコホートでの確認が今後の課題である。また、多くの患者で用量減量が必要であったことから、標準用量が胸腺上皮腫瘍患者には高すぎる可能性があり、代替の投与スケジュールに関する今後の検討が必要である。最適な予測バイオマーカーの特定も残された課題であり、治療効果を最大化するための患者選択基準の確立が求められる。さらに、スニチニブによる免疫チェックポイント受容体発現の増加は、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の可能性を示唆しており、この仮説を検証する今後の研究が期待される。

方法

本研究は、米国2施設(National Cancer Institute (NCI) とIndiana University Medical Center)で実施された非盲検、単群、第II相試験 (NCT01621568) である。対象患者は18歳以上で、切除不能な進行胸腺腫または胸腺癌を有し、少なくとも1レジメン以上のプラチナ系化学療法後に病勢進行が認められ、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) performance statusが2以下、Response Evaluation Criteria in Solid Tumors (RECIST) version 1.1に基づく測定可能病変を有し、かつ十分な臓器機能と骨髄機能を持つ患者であった。

患者にはスニチニブ50 mgを1日1回経口投与し、6週間サイクル(4週間投与、2週間休薬)で、病勢進行または許容できない有害事象が発生するまで治療を継続した。有害事象管理のため、2段階の用量減量(37.5 mg、25 mg)および最大3週間の治療中断が許容された。ベースライン評価には、病歴、身体診察、胸部・腹部・骨盤CT、各種臨床検査、心電図が含まれた。腫瘍奏効はRECIST version 1.1に従って評価され、当初は2サイクル終了時に評価されたが、後に各6週間サイクルで12か月間、その後は2サイクルごとに評価するよう変更された。奏効は初回確認から少なくとも4週間後に再確認された。有害事象はNCI Common Toxicity Criteria version 4.0に従ってグレード分類された。

主要評価項目 (primary endpoint) は、各コホート(胸腺腫または胸腺癌)における治験責任医師評価による客観的奏効 (ORR: objective response rate) であり、完全奏効または部分奏効 (PR: partial response) と定義された。副次評価項目は、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、全生存期間 (OS: overall survival)、および奏効期間であった。PFSは治療開始日から病勢進行日まで、OSは治療開始日から死亡日までと定義された。

統計解析では、胸腺癌コホートにはSimonの最適2段階デザインが用いられ、5%の客観的奏効 (p0=0.05) を除外し、25%の客観的奏効 (p1=0.25) を目標とした。胸腺腫コホートにはMiniMaxデザインが用いられ、10%の客観的奏効 (p0=0.10) を除外し、30%の客観的奏効 (p1=0.30) を目標とした。PFSおよびOSの推定にはKaplan-Meier法が用いられた。曲線間の比較にはlog-rank testが使用された。探索的バイオマーカー解析として、循環内皮細胞 (CEC: circulating endothelial cell)、循環内皮前駆細胞 (CEP: circulating endothelial progenitor cell)、循環腫瘍細胞 (CTC: circulating tumor cell)、制御性T細胞 (Treg: regulatory T cell) のPD-1発現、CD8+ T細胞のcytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4 (CTLA4) 発現が評価された。また、ホルマリン固定パラフィン包埋組織から抽出したDNAを用いて、197の癌関連遺伝子のエクソンキャプチャーシーケンスによる分子プロファイリングも実施された。