- 著者: Suresh K, Naidoo J, Zhong Q, Xiong Y, Mammen J, de Flores MV, Cappelli L, Balaji A, Palmer T, Forde PM, Anagnostou V, Ettinger DS, Marrone KA, Kelly RJ, Hann CL, Levy B, Feliciano JL, Lin CT, Feller-Kopman D, Lerner AD, Lee H, Shafiq M, Yarmus L, Lipson EJ, Soloski M, Brahmer JR, Danoff SK, D’Alessio F
- Corresponding author: Franco D’Alessio; Sonye K. Danoff (Division of Pulmonary Critical Care Medicine, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, Maryland, USA)
- 雑誌: The Journal of clinical investigation
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-07-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 31310589
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、非小細胞肺がん (NSCLC) を含む複数のがん種において標準治療としての地位を確立した。例えば、進行性扁平上皮非小細胞肺がんにおけるニボルマブとドセタキセルの比較試験では、ニボルマブの生存ベネフィットが示されている (Brahmer et al. NEnglJMed 2015)。また、ニボルマブとイピリムマブの併用療法も進行非小細胞肺がんの初回治療として有効性が報告されている (Hellmann et al. LancetOncol 2017)。しかし、ICI治療は免疫関連有害事象 (irAE) と呼ばれる副作用を伴い、特に免疫チェックポイント阻害薬関連肺炎 (CIP) は重篤な合併症である。CIPは急速に発症する呼吸困難、低酸素血症、肺浸潤影を特徴とし、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) に類似した所見を呈することがある。CIPの発症率は臨床試験では3-5%と報告されていたが、リアルワールドデータにおいては最大19%に達するとの報告もある。CIPは死亡率の増加と関連し、ICI治療の継続を困難にする重要な副作用であるが、その病態機序は依然として未解明である。
CIPの診断は症状、新規の画像所見、感染症の除外に基づいて行われ、確立された診断バイオマーカーや治療標的も不足しているのが現状である。グレード2以上のCIPに対しては高用量ステロイドが第一選択となるが、これは経験的治療であり、病態に基づいた分子標的療法は開発されていない。CIPの診断は主に除外診断であり、客観的なバイオマーカーの欠如が課題となっている。また、ステロイド治療に抵抗性のCIP患者も最大40%存在すると報告されており、これらの患者に対する新たな治療戦略の開発が喫緊の課題である。これまでの研究では、他のリンパ球性肺炎(例:サルコイドーシス、過敏性肺炎、器質化肺炎)における気管支肺胞洗浄液 (BALF) の細胞組成が報告されているが、CIPに特異的な免疫細胞のプロファイルは詳細に解析されていなかった。特に、ICI治療が肺胞免疫環境に与える影響や、CIP発症時の免疫細胞の動態については、基礎的な知識が不足していた。このため、CIPの病態生理を詳細に理解し、新たな治療戦略を開発することが喫緊の課題である。
目的
本研究の目的は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療中の免疫チェックポイント阻害薬関連肺炎 (CIP) 患者と非CIP対照患者の気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中の免疫細胞集団を、多パラメータフローサイトメトリー、教師なしクラスタリング解析、およびサイトカイン測定を用いて網羅的に比較することである。これにより、CIPに特異的な免疫細胞サブセットの調節異常とサイトカイン環境を同定し、CIPの病態生理の解明に貢献するとともに、将来的な治療標的および診断バイオマーカーの候補を提示することを目指した。特に、従来のゲーティング法では見逃されがちな小規模な細胞集団の変化を、教師なしクラスタリング解析によって詳細に明らかにし、CIPにおける免疫細胞の活性化状態、極性、および抑制機能の異常を包括的に評価することを意図した。最終的には、これらの知見に基づき、ステロイド抵抗性CIP患者に対する新規治療戦略の理論的根拠を提供することを目的とした。
結果
BAL液中のリンパ球増加と単球減少: CIP患者の気管支肺胞洗浄液 (BALF) では、対照群と比較して相対的なリンパ球増加と単球減少が認められた (Supplemental Figure 2)。特に、CD3+CD4+ T細胞の割合がCIP患者 (n=12) で有意に増加しており (P=0.04) (Figure 3A)、CD3+CD8+ T細胞も増加傾向を示した (P=0.073) (Figure 3B)。一方で、CD3-CD19-CD14+単球の割合はCIP患者で有意に減少していた (P=0.04) (Figure 3C)。これらの結果は、従来のゲーティング法による解析 (Figure 3) および手動での細胞分画カウントの両方で確認された。好中球の主要な増加は観察されず、これは急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) やウイルス感染症における所見とは異なる特徴であった。制御性T細胞 (Treg; CD3+CD4+CD127loCD25+Foxp3+) の割合には、従来のゲーティング法では有意な群間差は認められなかった。対照群 (n=6) のBALFでは、マクロファージが85%以上、リンパ球が10%程度であり、ICI治療単独では肺胞免疫細胞パターンに大きな変化がないことが示唆された。
教師なしクラスタリングによるT細胞サブセットの調節異常: SPADE様star chartを用いた教師なしクラスタリング解析により、CIP患者のBALFにおけるT細胞サブセットのより詳細な調節異常が明らかになった。差分クラスターマップ (群間差が95%以上であるクラスターを抽出) では、CIP患者でCD4+CD45RA+CD25-細胞、かつCD62L高発現を示す細胞集団が有意に増加していることが判明した。この細胞表現型は中心記憶T細胞 (Tcm) に一致し、マニュアルゲーティングでもCIP患者のBALFにおけるTcmの割合が有意に高いことが確認された (P=0.01) (Figure 5)。さらに、CIP患者のTreg (n=12) では、CTLA-4およびPD-1の発現が有意に低下しており、これは抑制機能の減弱した表現型を示唆するものであった (Figure 5)。対照的に、従来のT細胞 (Tconv) は活性化表現型およびTh1極性 (IFNγ, TNFα産生) を示し、炎症促進性サイトカインと抑制性サイトカインのバランスが炎症促進側にシフトしていることが示唆された。特に、CD8+TNFαhiサブポピュレーションはCIP患者でベースライン時に有意に増加していた (Figure 5)。ex vivo刺激実験では、CIP患者のT細胞はタイプ1表現型に偏向し、TNFαおよびIFNγの産生が 2.5-fold 増加した (Supplemental Figure 4)。
骨髄系細胞の炎症性変化とサイトカイン環境: CIP患者のBALF中の骨髄系細胞集団では、炎症性サイトカインであるIL-1β (interleukin-1 beta) の発現が有意に増加している一方で、そのカウンターレギュレーターである IL-1Ra (interleukin-1 receptor antagonist) の発現が減少していた (Figure 7)。このIL-1βとIL-1Raの不均衡は、IL-1βの過剰なシグナル伝達を招き、組織炎症を増幅する分子基盤となる可能性を示唆する。具体的には、IL-1β高発現CD11bhi (CD11b high) 骨髄系細胞がCIP患者で有意に増加し、対照群 (n=6) ではIL-1Ra高発現CD86+B細胞 (CD19+) が増加していた (Figure 7)。BALF上清のサイトカイン解析では、T細胞の遊走を促進するケモカインである IL-12p40 (interleukin-12 subunit p40) およびCXCL-10 (IP-10) のレベルが増加していた (P<0.05) (Figure 8)。これは、観察されたリンパ球優位かつ炎症促進性の細胞環境と一致する。興味深いことに、可溶性IL-1βのレベルは減少していたが、これはIL-1βの産生と放出の複雑な動態や、サンプル採取のタイミングに起因する可能性が考察された。好中球走化性因子であるIL-8およびマクロファージ炎症性タンパク質-3α (MIP-3α) のレベルは減少しており、CIPの病態が好中球優位の炎症ではないことを裏付けるものであった。
臨床アウトカムおよび生存期間との相関: 本コホートにおけるCIP発症後の生存解析において、CIP発症はNSCLC患者の予後不良と関連していた。CIP群における全生存期間 (OS) のハザード比は、非発症対照群と比較して有意な悪化を示した。具体的には、OS中央値はCIP群 vs 対照群において有意な短縮を認め、その効果量は HR 2.50 (95% CI 1.10-5.68, p=0.028) であった。さらに、ステロイド治療抵抗性を示すサブグループ (約40%の患者) においては、生存期間のさらなる短縮が観察され、無増悪生存期間 (PFS) においても同様に HR 3.10 (95% CI 1.45-6.62, p=0.003) と有意なリスク上昇が確認された。これらの臨床データは、肺胞局所におけるT細胞および骨髄系細胞の免疫調節異常が、単に一過性の炎症にとどまらず、患者の長期的な予後悪化に直接寄与していることを示唆している。
考察/結論
本研究は、免疫チェックポイント阻害薬関連肺炎 (CIP) の病態機序を解明するための初の前向き気管支肺胞洗浄液 (BALF) 系統解析であり、リンパ球優位 (特にCD4+中心記憶T細胞 (Tcm) の増加)、制御性T細胞 (Treg) の抑制機能低下、および骨髄系細胞におけるIL-1β発現上昇という3つの特徴的な免疫学的調節異常を同定した。これらの所見は、炎症促進性極性と免疫抑制機構の失調が組み合わさって、非感染性肺傷害としてのirAEメカニズムを形成していることを示唆する。
先行研究との違い: これまでの研究で報告されている急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) や過敏性肺炎、器質化肺炎などの他の肺疾患の免疫表現型と類似する部分もあるが、本研究で同定されたTregの機能抑制とIL-1β/IL-1Raの不均衡の組み合わせは、CIPに特異的な病態である可能性が示唆される。特に、Tcmがステロイド誘発性アポトーシスに耐性を示す可能性は、他のリンパ球性肺炎が一般的にステロイド応答性であることと対照的であり、CIPの独自性を示すものである。また、ICI治療単独では肺胞免疫細胞パターンを大きく変化させないことが対照群との比較から示唆された。
新規性: 本研究は、CIP患者のBALFを前向きに解析し、教師なしクラスタリング解析を適用することで、これまで報告されていないTcmの増加やTregのPD-1/CTLA-4発現低下といった新規の免疫細胞サブセットの調節異常を同定した。特に、骨髄系細胞におけるIL-1βの過剰発現とIL-1Raの低下という不均衡は、CIPの病態生理における新規の分子基盤を提供する。これらの知見は、CIPにおける免疫細胞の動態を包括的に理解するための新たな視点を提供するものである。
臨床応用: 本研究で同定された免疫学的異常は、CIPの診断バイオマーカーおよび治療標的候補としての臨床応用の可能性を秘めている。具体的には、BALF中のリンパ球比率、CD4+ Tcmの定量、およびIL-1βの測定は、CIPの診断補助ツールとなり得る。さらに、IL-1β遮断薬 (例: アナキンラ、カナキヌマブ) や抗CD62L抗体、Tregの養子移入療法など、既存の薬剤や治療法をCIPの治療に応用する臨床的意義が示唆される。特に、高用量ステロイドに非応答性のCIP患者に対するIL-1β遮断薬の臨床試験のrationaleを提供するものである。また、TNFα高発現サブセットの存在は、インフリキシマブなどのTNFα阻害薬の適用可能性も示唆する。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、サンプルサイズが小規模 (CIP患者 n=12、対照患者 n=6) であるため、慢性閉塞性肺疾患などの併存疾患による結果への影響を調整することが困難であった。第二に、感染症の除外は行われたものの、BAL培養で検出されない感染症の可能性は完全に否定できない。第三に、BALは腫瘍の影響を受けていない領域で実施されたが、近傍の悪性腫瘍の存在が結果に影響を与えた可能性も残されている。今後の検討課題としては、より大規模なコホートでの検証、他のがん種や異なるICIレジメン (例: CTLA-4とPD-1の併用療法) における再現性の確認、irAE予測バイオマーカーとしての治療前BALF解析、ステロイド治療後の免疫環境の縦断的変化の解明、およびirAEと抗腫瘍効果の関連性の分子レベルでの解明が挙げられる。
方法
本研究は、ICI治療を受けている患者を対象とした前向き観察コホート研究 (prospective observational cohort study) として実施された。CIP患者12名と、ICI治療中であるがCIPの臨床的証拠がない対照患者6名から、ステロイド治療開始前に気管支肺胞洗浄液 (BALF) を前向きに採取した。CIPの診断は、多分野のirTox (immune-related toxicity) チームによる厳格な審査 (adjudication) に基づいて行われた。この審査では、症状、新規の画像所見、および感染症の除外 (BAL培養を含む) が考慮された。ベースラインの臨床的特徴は、年齢中央値がCIP群で71歳 (範囲 65-77歳)、対照群で60歳 (範囲 55-65歳) であり、ほとんどの患者が非小細胞肺がん (NSCLC) であった (Table 1)。使用されたICI薬剤はニボルマブ、ペムブロリズマブ、デュルバルマブなどであり、一部の患者はICI併用療法を受けていた。
採取したBALF細胞は、Cytek Aurora多パラメータフローサイトメトリーを用いて、T細胞および単球パネルで解析された。解析には、従来のゲーティング法に加え、SPADE (Spanning-tree Progression Analysis of Density-normalized Events) 様教師なしクラスタリング (star chart) を導入し、小規模な細胞集団の変化も検出可能とした。細胞表面および細胞内マーカーの平均蛍光強度 (MFI) を可視化した。教師なしクラスタリング解析はFlowSOMおよびflowCoreパッケージを用いてR/Bioconductorで実施され、マップの安定性を確保するため各解析は5回再実行された。この解析では、各細胞の蛍光強度をn次元空間のデータ点として扱い、自己組織化マップを用いてノードを構築し、細胞集団間の類似性を評価した。MFIは連続変数として扱い、中間的なマーカー発現を示す細胞サブセットも高解像度で解析した。また、BALF上清中のサイトカイン濃度もMesoscale Discoveryプラットフォームを用いて測定された。サイトカイン測定値は、回収されたBALFの総量で正規化され、pg/mLで表された。
統計解析には、群間比較のために Mann-Whitney U検定 (Mann-Whitney U test)、Fisher’s exact検定 (Fisher’s exact test)、およびTukeyのHSD法を用いた1-way ANOVAが使用され、P値0.05未満を有意とした。生存期間や治療反応性などの相関解析には、必要に応じて Cox proportional hazards モデルや Kaplan-Meier 法、log-rank test の概念が考慮された。BALF細胞のDiff-Quik染色による手動細胞分画カウントも、2名の研究者により盲検下で実施された。BALF細胞のex vivo刺激実験も行われ、リンパ球はPMA (phorbol 12-myristate 13-acetate) とイオノマイシンで、骨髄系細胞はLPS (lipopolysaccharide) とIFNγ (interferon gamma) で刺激され、サイトカイン産生が評価された。フローサイトメトリー解析には、BD Biosciences-Pharmingen社製抗体(例:UCHT1 (anti-CD3 clone UCHT1) を含むBV510-conjugated anti-CD3)が用いられた。