• 著者: Ramaswamy Govindan, Charu Aggarwal, Scott J. Antonia, Marianne Davies, Steven M. Dubinett, Andrea Ferris, Patrick M. Forde, Edward B. Garon, Sarah B. Goldberg, Raffit Hassan, Matthew D. Hellmann, Fred R. Hirsch, Melissa L. Johnson, Shakun Malik, Daniel Morgensztern, Joel W. Neal, Jyoti D. Patel, David L. Rimm, Sarah Sagorsky, Lawrence H. Schwartz, Boris Sepesi, Roy S. Herbst
  • Corresponding author: Roy S. Herbst (Section of Medical Oncology, Yale University School of Medicine, New Haven, CT, USA)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-04-28
  • Article種別: Clinical Practice Guideline
  • PMID: 35640927

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は肺がん治療を革新し、転移性非小細胞肺がん (NSCLC) における化学療法後の生存改善から始まり、一次治療、補助療法、術前補助療法、手術不能なステージIII NSCLCの維持療法、小細胞肺がん (SCLC) の一次治療、中皮腫の一次治療へと適応が急速に拡大してきた。2022年時点で、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、イピリムマブ、アテゾリズマブ、セミプリマブ、デュルバルマブといったFDA承認ICIが存在する。しかし、急速に変化する治療環境の中で、最新の臨床試験データに基づいた系統的な推奨事項の整理が喫緊の課題であった。特に、PD-L1発現などのバイオマーカーによる患者選択、自己免疫疾患患者などの特殊集団における免疫療法の使用、および毒性管理に関する課題が未解明であった。患者と介護者への教育と生活の質 (QOL) の支援も、免疫療法の最大の利益を達成するために重要である。Society for Immunotherapy of Cancer (SITC) は、2018年のNSCLC臨床診療ガイドライン (CPG) を更新し、SCLCおよび中皮腫を加えた包括的なCPGを策定する必要があると認識した。これまでのガイドラインでは、これらの疾患全体を網羅した詳細な治療戦略やirAE (免疫関連有害事象) 管理に関する情報が不足しており、臨床現場での意思決定を支援するための統一された見解が求められていた。例えば、Bray et al. CACancerJClin 2018が肺がんの高い死亡率を報告している一方で、ICIの導入が治療成績を改善しつつあるが、その最適な適用範囲や個別化医療への課題が残されていた。

目的

肺がん (NSCLC、SCLC) および中皮腫に対する免疫療法について、診断検査、バイオマーカー、治療推奨、特殊集団 (既存の自己免疫疾患 (AID) 患者、固形臓器移植 (SOT) 患者、高用量ステロイド使用患者など) への対応、免疫関連有害事象 (irAE) 管理、およびQOL支援を包括的に示すSITCの多職種専門家コンセンサスCPGを提供すること。

結果

診断検査・バイオマーカー推奨: 転移性NSCLCでは、包括的次世代シーケンシング (NGS) 検査 (LE:2) を推奨する。PD-L1発現検査は、転移性NSCLC全例で実施すべきである (LE:2)。SCLCや中皮腫では、PD-L1検査は予測バイオマーカーとして確立されていない。PD-L1アッセイのうち、22C3、28-8、SP263は互換性があるが、SP142は互換性がない (LE:3)。腫瘍変異負荷 (TMB) およびマイクロサテライト不安定性 (MSI) は、肺がんにおける十分なエビデンスがないため、ルーチン検査は推奨されない (LE:2)。(Figure 1)

NSCLC治療推奨: PD-L1≥50%の転移性NSCLC (ドライバー変異なし): ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、またはセミプリマブ単剤療法が推奨される。高腫瘍負荷や症状が強い患者では、化学療法と免疫療法の併用を考慮する (LE:2)。Reck et al. NEnglJMed 2016 のKEYNOTE-024試験 (NCT02142738) では、ペムブロリズマブ群の5年OS率は31.9% (95% CI 24.5-39.5%) であった。 PD-L1<50%の転移性NSCLC (ドライバー変異なし): ペムブロリズマブと化学療法 (非扁平上皮NSCLCではKEYNOTE-189試験に基づく)、アテゾリズマブと化学療法 (ベバシズマブの有無にかかわらず)、またはニボルマブとイピリムマブ (2サイクルの化学療法併用の有無にかかわらず) が推奨される (LE:2)。Socinski et al. NEnglJMed 2018 のIMpower150試験 (NCT02366143) では、アテゾリズマブ、ベバシズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル併用群の24ヶ月OS率は43.4% (95% CI 36.9-49.9%) であった。 PD-L1 1-49%でPS良好かつ化学療法不適または拒否の患者: ペムブロリズマブ単剤を考慮可能である (LE:2)。Mok et al. Lancet 2019 のKEYNOTE-042試験 (NCT02220894) では、PD-L1 TPS ≥ 1%の患者において、ペムブロリズマブ群のOS中央値は16.7ヶ月 (95% CI 13.9-19.7) であった。 術前補助療法: 切除可能NSCLC (腫瘍≥4cmまたはリンパ節陽性) に対して、ニボルマブと白金系化学療法3サイクル術前投与が推奨される (CheckMate 816試験 (NCT03184255):病理学的完全奏効 (pCR) 率24.0% vs 2.2%、OR 13.94、99% CI 3.49-55.75、p<0.0001、LE:2)。 術後補助療法: ステージII-IIIA NSCLCでPD-L1≥50%の患者には、アテゾリズマブが推奨される (IMpower010試験 (NCT02273375):DFS HR 0.66、95% CI 0.50-0.88、p=0.0039、LE:2)。 手術不能ステージIII NSCLC: 同時化学放射線療法後にデュルバルマブ維持療法が推奨される (PACIFIC試験 (NCT02125461):OS HR 0.67、95% CI 0.54-0.84、LE:2)。 EGFR/ALK/ROS1変異陽性: 一次治療として適切な分子標的薬を投与し、チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 不応後に化学療法と免疫療法の併用を考慮する (LE:1,2)。(Table 2)

SCLC治療推奨: 進展型SCLC (ES-SCLC): カルボプラチン、エトポシド、アテゾリズマブの併用 (IMpower133試験 (NCT02763579):OS HR 0.70、95% CI 0.54-0.91、p=0.007) または白金系、エトポシド、デュルバルマブの併用 (CASPIAN試験 (NCT03043872):OS HR 0.73、95% CI 0.59-0.91、p=0.0047) が推奨される (LE:2)。維持療法後の予防的全脳照射 (PCI) は、臨床試験外では推奨されない。(Table 3)

中皮腫治療推奨: 切除不能胸膜中皮腫: ニボルマブとイピリムマブの併用が推奨される (CheckMate 743試験 (NCT02899299):OS中央値18.1ヶ月 vs 14.1ヶ月、HR 0.74、95% CI 0.61-0.89、p=0.002)。非上皮型では化学療法と比較してOS改善が大きく (18.1ヶ月 vs 8.8ヶ月)、上皮型では同等であった (18.7ヶ月 vs 16.5ヶ月) (LE:2)。PD-L1検査はルーチンには推奨されない (LE:2)。

特殊集団 (既存AID患者・SOT患者) 推奨: 既存AID患者: 多職種連携のもとで慎重にリスク・ベネフィットを評価する。低用量免疫抑制薬でコントロールされたAIDでは絶対禁忌ではない。高用量免疫抑制薬を要する活動性AID、中枢神経系 (CNS) AID、または生命を脅かすAID患者にはICIを避けるべきである (LE:3)。 SOT患者: 移植拒絶のリスクとICIのベネフィットを比較衡量する。腎移植患者は拒絶時に透析が可能なため、例外的に考慮可能である (LE:1)。 ベースラインのステロイド使用 (≥10 mg/日プレドニゾン): がん関連以外の目的で使用している場合、ICI奏効率に影響しない可能性がある (LE:3)。

irAE管理推奨: irAE管理は既存ガイドライン (SITC、NCCN、ASCO) に準拠する。NSCLC患者では免疫関連肺炎のリスクが特に高く、抗PD-1抗体治療を受けたNSCLC患者における全グレードの肺炎発生率は4.1% (95% CI 3.3-5.1%) であった。ベースラインの既存間質性肺疾患 (ILD) は相対的禁忌である (LE:3)。

治療反応評価: 偽性増悪 (pseudoprogression) は低頻度 (NSCLCで5%) であり、iRECISTなどのICI対応基準を考慮する。放射線学的増悪後も臨床的に安定な場合は治療継続し、4〜8週後のCT再評価が合理的である。

考察/結論

本CPGは、2022年時点での肺がんおよび中皮腫に対する免疫療法の包括的な推奨事項を示したSITCガイドラインである。主要な臨床貢献として、Reck et al. NEnglJMed 2016Mok et al. Lancet 2019 (ペムブロリズマブ単剤)、PACIFIC (デュルバルマブ維持)、CheckMate 816 (ニボルマブ術前補助)、CheckMate 743 (ニボルマブ+イピリムマブ中皮腫) などの主要試験データを統合した推奨体系を提示した点が重要である。

先行研究との違い: これまでのガイドラインがNSCLCに限定されていたのに対し、本ガイドラインはSCLCと中皮腫も一括してカバーし、特に中皮腫の組織型に応じた治療推奨 (非上皮型でのニボルマブ+イピリムマブの強い推奨) を明確に示した点で先行研究と異なる。また、既存AID患者やSOT (固形臓器移植) 患者といった特殊集団への対応原則を詳細に提示した点も新規性が高い。

新規性: 本研究で初めて、PD-L1アッセイの互換性 (22C3、28-8、SP263は互換性あり、SP142は互換性なし) を明確に示し、TMBやMSIの肺がんにおけるルーチン検査の限界を強調した。さらに、術前・術後補助療法における免疫療法の役割、特にCheckMate 816試験に基づくニボルマブと化学療法の術前併用療法、およびIMpower010試験に基づくアテゾリズマブの術後補助療法の推奨を提示したことは、これまでの治療パラダイムに新たな選択肢を加えるものである。

臨床応用: 本ガイドラインは、急速に進化する免疫療法の臨床現場での適切な導入と管理を支援する上で臨床的有用性が高い。特に、PD-L1発現レベルに応じたNSCLCの一次治療選択、ES-SCLCにおけるICIの導入、切除不能中皮腫に対するデュアルICIの推奨は、患者の予後改善に直結する。また、irAEの管理や特殊集団への個別化されたアプローチは、ICI治療の安全性向上に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、ctDNAやTMBなどの新たなバイオマーカーの前向き検証、既存AID患者に対するICI治療の前向きコホート研究 (例: NCT03816345)、ICIと放射線療法の最適な組み合わせの確立が挙げられる。また、偽性増悪や過増悪といった非典型的な治療反応パターンに対するより精緻な診断基準と管理戦略も今後の研究で確立される必要がある。

方法

SITCが多職種専門家パネル (21名:腫瘍内科医、病理医、放射線科医、胸部外科医、患者アドボケートなど) を招集し、本ガイドラインを開発した。開発プロセスは、IOM (Institute of Medicine) の「Standards for Developing Trustworthy Clinical Practice Guidelines」に準拠した。推奨事項の根拠となるエビデンスレベル (LE) は、Oxford Centre for Evidence-Based Medicine Levels of Evidence Working Group (OCEBM) の分類 (LE: 1〜5) を使用して評価された (Table 1)。推奨事項は、公開ドラフトへのコメント収集後に確定され、採択の閾値は投票委員の75%以上の賛成とされた。パネルメンバーの利益相反はIOMの基準に従って管理され、ガイドライン開発への資金提供はSITCのみによって行われ、商業的資金は受け入れられなかった。本ガイドラインの推奨事項は、利用可能な文献エビデンスと臨床経験に基づき、小グループおよび全体会議でのオープンな議論、臨床質問票への回答、およびコンセンサス会議での正式な投票を通じて作成された。主要な臨床試験データは、ランダム化比較試験 (RCT) や大規模コホート研究から収集され、各推奨の根拠とされた。例えば、NSCLCの術前補助療法に関する推奨は、CheckMate 816試験 (NCT03184255) の結果に基づいている。統計解析手法としては、主要評価項目である全生存期間 (OS) や無増悪生存期間 (PFS) の評価にKaplan-Meier曲線とlog-rank検定が用いられ、ハザード比 (HR) とその95%信頼区間 (CI) が算出された。