• 著者: Kentaro Tokumo, Takeshi Masuda, Takahiko Miyama, Shinichiro Miura, Kakuhiro Yamaguchi, Shinjiro Sakamoto, Yasushi Horimasu, Taku Nakashima, Shintaro Miyamoto, Takashi Yoshida, Hiroshi Iwamoto, Kazunori Fujitaka, Hironobu Hamada, Noboru Hattori
  • Corresponding author: Takeshi Masuda (Department of Respiratory Internal Medicine, Hiroshima University Hospital, Hiroshima, Japan)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-01-01
  • Article種別: Case Report
  • PMID: 29656748

背景

ニボルマブ (抗PD-1抗体) は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) を含む多様な悪性腫瘍の治療薬として承認された免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) である。臨床試験では、ニボルマブは従来の細胞傷害性化学療法と比較して重篤な有害事象の発生率が低いことが報告されてきた (Borghaei et al. NEnglJMed 2015Brahmer et al. NEnglJMed 2015)。しかしながら、ICIは肺炎、甲状腺機能低下症、肝炎、腸炎などの免疫関連有害事象 (irAEs) と呼ばれる特有の毒性プロファイルを有しており、その詳細な評価が不可欠である。血液学的障害は比較的稀なirAEとして認識されている。これまでに、ニボルマブによる重症白血球減少症、血小板減少症、および二血球減少症 (赤血球減少と血小板減少の合併) の個別の症例報告は存在した。例えば、Tabchi et al. (2016) はニボルマブによる重症無顆粒球症を報告し、Kanameishi et al. (2016) は特発性血小板減少性紫斑病を報告している。また、Inadomi et al. (2016) は抗PD-1抗体による二血球減少症の可能性を示唆した。しかし、肺癌患者においてニボルマブ誘発性の汎血球減少症 (白血球、赤血球、血小板の三系統減少) の報告はこれまでになく、その臨床的特徴、治療反応性、および予後に関する知見は不足していた。特に、ステロイド治療への反応性や、難治性の場合の代替治療戦略については未解明な点が多かった。本症例は、ニボルマブ治療中に発症した重症汎血球減少症の初の報告であり、その病態生理、治療への反応、および転帰を詳細に記述することで、ICI関連の稀な血液学的irAEに対する理解を深め、今後の臨床管理に資する情報を提供することを目的とする。本報告は、ICI治療における稀な血液学的irAEの臨床的特徴と管理に関する知識ギャップを埋める上で重要な情報を提供する。

目的

本報告の目的は、肺腺癌患者においてニボルマブ投与後に発症した重症汎血球減少症 (irAEとして) の臨床経過、診断、治療、および転帰を詳細に記述することである。特に、高用量ステロイド療法を含む既存の治療法に対する反応性を評価し、その病態生理学的メカニズムについて考察することを目的とする。本症例は、ニボルマブ誘発性汎血球減少症の初の報告であり、その病態生理、治療への反応、および転帰を詳細に記述することで、ICI関連の稀な血液学的irAEに対する理解を深め、今後の臨床管理に資する情報を提供することを目的とする。

結果

入院時の検査所見と診断: 患者の入院時、血液検査では重症汎血球減少症が確認された。白血球数 1,170/μL (好中球1%、リンパ球98%、単球1%)、ヘモグロビン 10 g/dL、血小板数 40,000/μLであった (Table 1)。直接ビリルビンおよびLDHは正常値であり、溶血性貧血は否定された。ANA、RF、PR3-ANCA、MPO-ANCAは全て陰性であった。サイトメガロウイルスDNAおよびパルボウイルスB19 DNAも検出されなかった。CRPは8.47 mg/dLと上昇していた。骨髄生検では、重度の低形成骨髄 (hypoplastic marrow) が認められた (Fig. 3)。リンパ芽球は存在したが、顆粒球、赤芽球、巨核球、および異型細胞は認められなかった。染色体異常も検出されなかった。これらの所見に基づき、MDS、PNH、ウイルス誘発性血球貪食症候群などの血液疾患を除外し、最終的にニボルマブ誘発性汎血球減少症と診断された。再生不良性貧血の可能性も完全に否定はできなかったが、ニボルマブ投与との時間的関連性からirAEと判断された。

ステロイドおよびIVIGへの無反応: 入院後、フィルグラスチム (75 μg/日) とステロイドパルス療法 (メチルプレドニゾロン500 mg/日を3日間静脈内投与) が開始された。その後、プレドニゾロン50 mg/日を静脈内投与に切り替え、さらに追加のステロイドパルス療法 (Day 16およびDay 28) とIVIG (20 g/日を5日間、Day 19) が順次施行された (Fig. 2)。しかし、これらの治療はいずれも汎血球減少症に対して奏効せず、血球数は持続的に低値を示した。入院から約2ヶ月後には好中球数が約1,000/μLに部分的に回復したが、赤血球および血小板の輸血が複数回継続して必要であった。

反復する感染症の合併と転帰: 入院時、発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia) と細菌性肺炎の診断を受け、タゾバクタム/ピペラシリンとボリコナゾールによる抗菌化学療法が開始された。しかし、Day 33にはFusarium solani感染による真菌性肺炎を続発し、Day 53にはカテーテル関連血流感染症を合併した。これらの反復する重篤な感染症のため、ステロイド以外の免疫抑制薬の投与は禁忌と判断され、実施されなかった。汎血球減少症の持続と反復感染症により、肺癌に対するさらなる化学療法も実施不可能となった。汎血球減少症発症から118日目に、肺癌の増悪により患者は死亡した (Fig. 4)。本症例は、ニボルマブによる重症汎血球減少症の初の報告であり、高用量コルチコステロイド治療に抵抗性を示した点が特筆される。

病態機序の推定: 本症例の病態機序として、再生不良性貧血と同様のメカニズムが推定された。すなわち、PD-1遮断により活性化したT細胞が造血幹細胞を傷害し、骨髄低形成をきたすという仮説である。骨髄サンプル中のリンパ球数が不十分であったためT細胞マーカーの詳細な評価は困難であったが、Michot et al. (2016) が報告した中枢性免疫介在性骨髄不全と同様の機序が示唆された。これは、イピリムマブ投与後の骨髄不全症例に関するMichot et al. EurJCancer 2016の報告と類似する。

考察/結論

先行研究との違い: 本症例は、肺腺癌患者においてニボルマブ投与後に発症した重症汎血球減少症の初の報告であり、これまでのニボルマブによる血液毒性(白血球減少症、血小板減少症、二血球減少症)の報告とは異なり、三系統の血球減少を伴う汎血球減少症を示した点で特筆される。ニボルマブによる血液毒性の発症率は臨床試験において5%未満と報告されており、汎血球減少症はさらに稀なirAEである。本症例の最も重要な特徴は、高用量コルチコステロイド療法が汎血球減少症に対して無効であった点である。irAE、特に血液毒性に対してコルチコステロイドが有効であった症例報告も存在するが、本症例のように治療抵抗性を示すケースも報告されており、その有効性に関するエビデンスは相反している。

新規性: 本研究で初めて、ニボルマブ誘発性汎血球減少症がステロイド治療に抵抗性を示し、重篤な感染症を合併することで治療選択肢が限定され、最終的に肺癌の増悪により死亡に至った臨床経過を詳細に記述した。これは、抗PD-1薬による骨髄毒性に関する重要な新規データとなる。病態機序としては、PD-1遮断により活性化したT細胞が造血幹細胞を傷害し、再生不良性貧血様の骨髄低形成を引き起こすという仮説が提唱されている。このメカニズムは、CD4+ヘルパーT細胞によるサイトカイン分泌やCD8+T細胞による組織浸潤が関与すると考えられる。しかし、本症例では骨髄サンプル中の細胞数不足のため、T細胞マーカーの詳細な評価は困難であり、残された課題である。

臨床応用: 臨床的示唆として、ICIを投与するすべてのがん患者において、重症汎血球減少症がirAEとして発症する可能性を念頭に置き、定期的な血液検査によるモニタリングを継続することが必須である。特にステロイド治療に反応しない骨髄毒性に対しては、感染リスクと免疫抑制薬の治療効果のバランスを慎重に検討する必要がある。本症例は、irAEの難治性血液毒性に対する新たな治療アプローチ、特に感染リスクを伴わない免疫調節戦略の開発が必要であることを示唆している。

残された課題: 今後の検討課題として、irAEとしての血液毒性の発症予測因子や、ステロイド抵抗性症例に対する最適な治療法の確立が残された課題となる。また、本症例では骨髄生検におけるT細胞マーカーの詳細な評価ができなかった点がlimitationとして挙げられる。

方法

本報告は症例報告である。対象患者は56歳日本人男性で、肺腺癌 (臨床病期T2N3M1b Stage IV、EGFR/ALK遺伝子野生型) と診断された。2015年1月に診断後、カルボプラチン、ペメトレキセド、ベバシズマブによる化学療法を4サイクル施行し、その後ペメトレキセドとベバシズマブによる維持療法を2サイクル実施した。しかし、病勢進行が確認されたため、2016年7月よりニボルマブ (3 mg/kg、2週毎) を二次治療として開始した。本症例は後方視的観察研究であり、特定臨床試験登録番号 (例: NCT00000000) は存在しない。

ニボルマブ3サイクル施行後、CTスキャンにより腫瘍の部分奏効が確認されたが、同時に汎血球減少症が出現した (好中球数 727/μL、血小板数 19,000/μL)。発熱は伴わなかった。外来でフィルグラスチム (75 μg/日) の皮下注射と血小板輸血が試みられたが効果がなく、汎血球減少症が持続したため、広島大学病院へ転院となった。入院時の検査では、白血球数 1,170/μL (好中球1%、リンパ球98%、単球1%)、ヘモグロビン 10 g/dL、血小板数 40,000/μLと重症汎血球減少症が確認された。直接ビリルビンおよび乳酸脱水素酵素 (LDH) は正常であり、溶血性貧血は否定された。抗核抗体 (ANA)、リウマチ因子 (RF)、抗好中球細胞質抗体 (ANCA) は陰性であった。サイトメガロウイルスDNAおよびパルボウイルスB19 (Parvovirus B19) DNAも陰性であった。C反応性蛋白 (CRP) は8.47 mg/dLと上昇していた。

骨髄生検を実施し、骨髄の形態学的評価を行った。また、骨髄異形成症候群 (MDS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH)、ウイルス誘発性血球貪食症候群などの血液疾患を除外するために追加検査を行った。治療としては、フィルグラスチム、高用量ステロイドパルス療法、静脈内免疫グロブリン (IVIG) 療法が順次施行された。統計解析は行われていない。