• 著者: Huang Q, Liu L, Xiao D, Huang Z, Wang W, Zhai K, Fang X, Kim J, Liu J, Liang W, He J, Bao S
  • Corresponding author: Shideng Bao (Cleveland Clinic); Jianxing He, Wenhua Liang (First Affiliated Hospital, Guangzhou Medical University)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-08-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37595587

背景

腫瘍転移は癌関連死の主因であり、癌死の90%以上が転移に起因する。転移は多段階の複雑なプロセスであり、なかでも癌細胞が血管内皮を横断する血管内皮透過 (TEM, trans-endothelial migration) を要する血管内侵入 (intravasation) と血管外遊走 (extravasation) が律速段階となる。肺癌は全脳転移の40-50%を占め、進行肺腺癌 (ADC, adenocarcinoma) 患者の約50%が経過中に脳転移を発症するが、その予後は極めて不良である。脳転移治療の失敗は腫瘍の不均一性、治療抵抗性、抗癌剤送達を阻む血液脳関門 (BBB, blood-brain barrier) に帰せられるが、頻発する脳転移を駆動する機序の理解不足が最大の障害である。

肺腺癌は高度に不均一で癌幹細胞 (CSC, cancer stem cell) を含み、CSCは悪性増殖・治療抵抗性・再発を促進する。CSCはしばしば血管周囲ニッチに局在し腫瘍微小環境と相互作用する。CD44は肺腺癌CSCの同定に広く用いられ、CD44発現は上皮間葉転換 (EMT, epithelial-mesenchymal transition) と正に相関するが、CD44+ CSCがどのように転移へ関与するかは依然不明であった。脳転移の総説では転移過程の各段階と治療抵抗性が論じられている (Boire et al. NatRevCancer 2020Achrol et al. NatRevDisPrimers 2019)。乳癌では脳転移を仲介する遺伝子セットが同定されており (Bos et al. Nature 2009)、転移前ニッチが臓器特異的な転移の場を用意することも示されている (Peinado et al. NatRevCancer 2017)。しかし、癌幹細胞自身が血管ペリサイトを形成し、それが能動的に転移を駆動するという細胞・分子レベルの機構については知見が不足し、CD44+ CSC由来ペリサイト様細胞の役割には明確な knowledge gap が残されていた。本研究はこの手薄な領域を埋めることを目指した。

目的

本研究は、肺腺癌においてCD44+ CSCが血管ペリサイト様細胞 (Cd-pericytes) を生成するか、またCd-pericytesが循環腫瘍細胞 (CTC, circulating tumor cell) プールおよび脳転移形成において中心的役割を担うかを明らかにすることを目的とした。具体的には以下を検証した。

  • CD44+ CSCの腫瘍内分布と血管ペリサイトへの分化能の評価。
  • Cd-pericytesのTEM能の定量と、血管内侵入・血管外遊走への寄与の解明。
  • CTCプールにおけるCd-pericytesの濃縮の有無 (マウスおよびヒト患者) の検証。
  • Cd-pericytesが脳実質へ血管外遊走し、脱分化を経て脳転移巣を形成する能力の評価。
  • Cd-pericytesの高いTEM能を規定する特異的受容体・シグナル経路の同定。
  • 同定経路を標的とした介入による脳転移抑制効果の前臨床的検討。

結果

CD44+ CSCが腫瘍血管ペリサイトの大部分を生成する: 肺腺癌原発巣・脳転移巣において、CD44+ CSCは血管周囲ニッチに局在し、CD44陰性癌細胞より血管に近接していた。DesPro-GFP系譜追跡を用いたin vivo実験により、内皮細胞に接着する血管周囲ペリサイト様細胞の大部分がGFP陽性であり、ペリサイトマーカー (desmin, α-SMA, CD146) を発現することが確認された (Figure 1B-1G)。定量によりCD44+ CSC由来異種移植片では血管ペリサイトの大部分がCSC由来である一方、対応するCD44陰性ADC細胞からはペリサイトがほとんど形成されなかった。これらの癌細胞由来ペリサイト様細胞をCd-pericytesと命名した。

Cd-pericytesは際立って高い血管内皮透過能 (TEM) を持つ: フローチャンバーTEMアッセイでは、播種4時間後にCd-pericytes (GFP+) は上室で少数派 (12%未満) であったが、72時間後には下室で非ペリサイト癌細胞 (dsRed+) に対し3.5-fold以上に濃縮された (n=4 repeats、二元配置ANOVA、Figure 2C-2F)。DesPro-HsvTK + GCVでCd-pericytesを選択的に除去すると、内皮層とコラーゲンゲルを通過する癌細胞が有意に減少した (Figure S2)。一方、Cd-pericytesを含まない未分化CSCへのGCV処理はTEMに影響しなかった。これはCd-pericytesが効果的な血管内侵入に不可欠であることを示す。

Cd-pericytesは循環腫瘍細胞 (CTC) 中に濃縮される: DesPro-Cre-ERT2とloxP-dsRed-停止配列-loxP-GFPレポーターによる系譜追跡では、原発腫瘍内でCd-pericytes (GFP+) は約11%に過ぎなかったが、CTC中では52%超を占め、約4.6-fold濃縮されていた (Figure 3C-3F)。ヒト進行肺腺癌患者でも、原発腫瘍内のCD146+腫瘍ペリサイトは全癌細胞の約10%であったのに対し、CTC中では最大62%へ顕著に濃縮された (n=8 samples 肺ADC、n=11 samples CTC、両側t検定、Figure 3I-3J)。これらはCd-pericytesが血流中での生存と循環に有利な特性を持つことを示す。

Cd-pericytesは脳へ血管外遊走し脱分化して転移巣を形成する: 心臓内注入後24時間ではCd-pericytesの多くが血管内に留まったが、48時間後には大部分が脳血管外 (extravasated) に検出され、対応するCD44+ CSCより血管外遊走能が有意に高かった (n=6 brain slices、両側t検定、Figure 4D-4E)。頭蓋内移植ではCd-pericytesはCD44+ CSCと同等の腫瘍形成能と生存短縮を示し、NTCより著しく大きな腫瘍を形成した (n=6 mice/group、一元配置ANOVA、ログランク検定、Figure 5A-5C)。腫瘍内ではCd-pericytesがCD44+ CSCへ脱分化していた (Figure 5D-5E)。系譜追跡では、肺腫瘍由来のCd-pericytes (GFP+) が脳・肝へ移行し、脱分化したdsRed+ Pd-CSCとして微小転移を形成した (Figure 6H-6M)。DNAシーケンスにより、Cd-pericytes、Pd-CSC、親CD44+ CSC (MH1002) はALK (D1529E)、EGFR (S703F)、KRAS (G12D) の3変異を共有し、Cd-pericytesが確かにCSC由来かつ脱分化能を持つことが裏付けられた (Table S1)。

GPR124-Wnt7b-β-cateninシグナルがTEMと転移を駆動し、阻害は転移を抑制する: TCGA・GEO解析で腫瘍ペリサイトに30個の差次的発現遺伝子が同定され、GPR124が最も強く正相関した (Figure S6)。GPR124はCd-pericytesに特異的に高発現し、肺腺癌患者では高発現が予後不良と関連した (Figure S6)。Tet-on誘導性shRNAによるGPR124ノックダウンはCd-pericytesのTEM能・血管外遊走能を有意に低下させ (p<0.0001、Figure 8A-8C)、脳・肝転移の数とサイズを減少させた (5 mouse brains/group、両側t検定、Figure 8G-8L)。RNA-seqでGPR124ノックダウンによりWnt7b、β-catenin、EMT因子Slugの発現が低下し、Wnt7bサイレンシングもTEMを減弱させた (Figure S8)。GPR124はβ-cateninの核移行を促進し、構成的活性型β-catenin-S33Yの導入はGPR124ノックダウンによる血管外遊走障害をレスキューした (二元配置ANOVA、Figure 8M-8N)。GPR124特異的阻害薬は未確立のため、BBBを透過するWnt阻害薬LGK974 (前処理1 μM、続いて5 mg/kg/日 腹腔内投与) を用いたところ、脳転移の形成が有意に遅延・減少し、マウスの生存が延長した (n=9 mice/group、ログランク検定、Figure 8O-8R)。DesPro-HsvTKによるCd-pericytes選択的除去も脳・肝転移を顕著に抑制し生存を延長した (8 mice/group、Figure 7B-7G、Figure S5)。

考察/結論

本研究は、肺腺癌においてCD44+ CSCが血管ペリサイト様細胞 (Cd-pericytes) へ分化し、GPR124-Wnt7b-β-cateninシグナルを介した高いTEM能を獲得することで、CTCプールと脳転移形成を主導するという新規パラダイムを提示した。CSCのペリサイト化はEMT様の細胞遷移であり、Cd-pericytesから腫瘍形成性CSCへの脱分化は間葉上皮転換 (MET, mesenchymal-epithelial transition) を模す。

先行研究との違い: これまでの研究では骨髄間質細胞や内皮前駆細胞が腫瘍血管の構成に寄与することが知られていたが、本研究はこれまでの研究と異なり、癌幹細胞自身がペリサイトを形成し、それが血管内侵入・循環中生存・血管外遊走・脱分化という転移の律速段階を能動的に克服することを示した点で独自性が高い。脳転移を駆動する遺伝子や転移前ニッチに着目した既報とは対照的に、本研究は単一の癌細胞集団の可塑性に転移能の鍵を見いだした。

新規性: 本研究で初めて、Cd-pericytesがGPR124を特異的に高発現し、これがWnt7b-β-cateninシグナルを活性化してTEM能を強力に高めることをnovelな機序として同定した。CD44+ CSC → Cd-pericytes → Pd-CSCという双方向の細胞可塑性が転移の各段階に適応的に機能するという概念は、これまで報告されていない視点を転移生物学に提供する。共有変異 (ALK, EGFR, KRAS) による系譜証明はこの可塑性を遺伝学的に裏付けた。

臨床応用: 本知見は脳転移の診断・治療への橋渡しに直結する。臨床的意義として、患者CTCの主要成分がCD146+ Cd-pericytesであり高濃縮されることは、Cd-pericyte検出が脳転移リスク評価のリキッドバイオプシーバイオマーカーとなる可能性を示す。GPR124は脳転移組織に高発現し予後不良と関連する表面受容体であり、その標的化、あるいはBBB透過性Wnt阻害薬LGK974による下流遮断は、脳転移の予防・治療における有望な治療標的となり得る。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒト試料におけるCd-pericytesの定量とGPR124の予後予測価値の検証、BBB横断を促す内皮側機構の解明が挙げられる。GPR124特異的阻害剤は未開発であり、全身性Wnt阻害の毒性を回避するCd-pericyte特異的送達系の構築も今後の研究方向である。心臓内注入モデルは血管内侵入段階を欠くなどの limitation があり、複数モデルの併用が必要である。乳癌など他癌種の脳転移へ本機序が一般化するかも更なる検討を要する。

方法

ヒト肺腺癌手術検体 (原発巣・脳転移巣)、患者由来CSC、およびマウス同所性モデルを組み合わせた基礎研究である。

細胞株・試薬: CD44+ CSCおよび非CSC・非ペリサイト腫瘍細胞NTC (non-tumorigenic non-pericyte cell) は患者由来肺腺癌・脳転移組織 (MH1002, MH1012, MH1015, DI178) からパパイン解離とフローサイトメトリー (FACS, fluorescence-activated cell sorting) で単離した。Cd-pericytes (GFP+) はDesminプロモーター駆動GFP (DesPro-GFP) を導入したCD44+ CSC由来異種移植片からFACSソーティングで単離した。CSCの自己複製能・腫瘍形成能はスフェア形成アッセイとin vitro限界希釈アッセイで検証した。

動物モデル・系譜追跡: NOD/SCID gamma (NSG) マウスを用い、施設内IACUC承認下で実験した。同所性肺腺癌異種移植片はCD44+ CSCを気管内注入して樹立し、脳転移モデルは心臓内注入で樹立した。DesPro-GFPによる遺伝的系譜追跡でCD44+ CSC由来ペリサイトの形成を追跡し、DesPro-Cre-ERT2と、CMVプロモーター下にloxP-dsRed-停止配列-loxP-GFPを配したCre/loxPレポーターでCd-pericytes (GFP+) と非ペリサイト腫瘍細胞 (dsRed+) を識別した。DesProプロモーター駆動HsvTK (herpes simplex virus thymidine kinase) と基質GCV (ganciclovir) によりCd-pericytesを選択的に除去した。

TEM・血管外遊走解析: フローチャンバーTEMアッセイ、コラーゲンゲル浸潤アッセイ、トランスウェルTEMアッセイでCd-pericytesのTEM能を定量した。心臓内注入で循環させたCd-pericytesの脳実質への血管外遊走を、DyLight594-lectin標識血管とともに共焦点顕微鏡と3D再構築で経時的に追跡した。

分子解析: RNAシーケンス解析でCd-pericytes、CD44+ CSC、ペリサイト由来CSCであるPd-CSC (pericyte-derived cancer stem cell) を比較し、TCGAおよびGEO (GSE166720, GSE19804) データベースで腫瘍ペリサイトのGPR124発現を解析した。DNAシーケンスで共有変異を確認した。Tet-on誘導性shRNAでGPR124をノックダウンし、GPR124下流のWntリガンドWnt7b (Wnt family member 7B) の関与をサイレンシングで検討した。構成的活性型β-catenin (β-catenin-S33Y) によるレスキューを検証し、Wnt阻害薬LGK974を前臨床治療に用いた。

統計解析: GraphPad Prism 9で解析し平均±SEMで示した。群間比較には両側不対t検定、一元配置ANOVA、二元配置ANOVA、またはログランク検定 (log-rank test) を用い、p<0.05を有意とした。