• 著者: Francisco Javier Rodriguez-Baena, Angel Marquez-Galera, Pablo Ballesteros-Martinez, Alba Castillo, Eva Diaz, Gema Moreno-Bueno, Jose P. Lopez-Atalaya, Berta Sanchez-Laorden
  • Corresponding author: Berta Sanchez-Laorden (berta.lopez@umh.es) (Instituto de Neurociencias CSIC-UMH, San Juan de Alicante, Spain)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-02-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 39919736

背景

メラノーマは脳転移 (MBM: melanoma brain metastasis) を高頻度に発症するがん種の一つであり、その予後は極めて不良である。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) の併用療法により一部の患者で臨床的ベネフィットが得られているものの、症候性MBM患者やステロイド使用患者ではICIの効果が限定的であるという課題が残されている。脳腫瘍の免疫微小環境は、末梢から浸潤した骨髄由来マクロファージ (BMDM) と脳常駐のミクログリアで構成されるが、MBMにおけるミクログリアの役割は十分に未解明であった。特に、ミクログリアがメラノーマのコロニー形成とその後の増殖においてどのような相反する役割を担うか、そして抗腫瘍免疫の増強にミクログリアの再プログラミングが利用できるかについては、これまで十分に探索されていなかった。

先行研究では、脳転移におけるマクロファージの腫瘍促進的役割が支持されているが (Guldner et al. Cell 2020など)、ミクログリアが乳がんモデルにおいて脳転移のコロニー形成を抑制し、抗腫瘍免疫応答を促進するという対照的な報告もある (Evans et al. Nat Cell Biol 2023)。これらの知見は、脳転移におけるミクログリアの役割が腫瘍の種類や病期によって異なる可能性を示唆しており、文脈依存的な機能を持つことが示唆される。また、ICIの有効性にはT細胞応答が重要であることがAyers et al. JClinInvest 2017によって示されているが、MBMにおける免疫微小環境の特性と治療応答への寄与は依然として不明な点が多い。特に、MBMは代謝異常や末梢転移と比較して低い免疫細胞浸潤が特徴であり (Fischer et al. Cancer Discov 2019)、脳微小環境がMBMの独特な特徴と治療応答に大きく寄与することが示唆されている。

これらの文脈依存的な知見を統合し、MBMにおけるミクログリアの機能的役割を詳細に解明することが求められており、そのメカニズムの理解は新たな治療戦略を開発するための重要な課題である。特に、ミクログリアの可塑性と適応性から、その機能が抗腫瘍活性から腫瘍促進活性まで広範に及ぶ可能性があり、MBMの進行段階に応じたミクログリアの役割を特定することが、効果的な治療介入のために不足している知識である。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指す。

目的

NrasQ61K (Nras*) およびB16F10を用いたメラノーマ脳転移同系モデルにおいて、ミクログリアのMBMにおける役割を解明すること。特に、ミクログリアのRela/NFκBシグナルがMBMの進行にどのように寄与するかを明らかにし、この経路を標的とすることが抗腫瘍免疫と免疫療法応答を増強する治療戦略として有効であるかを検証することを目的とした。さらに、ヒトMBM患者のデータ解析を通じて、NFκB経路の活性化がICI抵抗性と関連するかどうかを評価し、NFκB経路の標的化がICI抵抗性MBM患者における治療効果を改善する可能性を検討することも目的とした。

結果

ミクログリアの文脈依存的役割: ミクログリアをメラノーマ細胞の侵入前に除去 (DT投与、Nras*注射前) すると、MBM負荷が有意に増加した (p<0.05)。具体的には、B16F10 MBMモデルでは、対照群 (n=18 mice) と比較してiDTR群 (n=17 mice) でMBM負荷が有意に増加した。一方、メラノーマのコロニー形成後にミクログリアを除去すると、MBM負荷が有意に減少した (p<0.001)。この結果は、ミクログリアが初期のコロニー形成段階では抗腫瘍的に機能するが、MBM確立後には腫瘍促進的に機能することを示唆している (Fig 1I, 2C)。この二面性は、ミクログリアの可塑性とMBMの進行段階に応じた微小環境の変化を反映していると考えられる。

TA-MGにおけるRela/NFκB活性化: scRNA-seqのTFact解析により、TA-MGにおいてRela、Stat1、Ppargが富化されていることが示された。ISMARA解析では、Rela (NFκB) の活性増加がTA-MGに特異的に検出された (TA-MACでは検出されず)。11名のヒトMBM組織全例において、IBA1+細胞のP65核移行が確認されたが、隣接する脳組織では認められなかった。これは、NFκB経路の活性化がヒトMBMの脳内マクロファージで生じていることを示唆する。さらに、既存のRNA-seqデータ (n=88例のMBM vs n=42例の体外転移巣) の解析でも、MBMにおいてRELAおよびNFKB1転写因子活性の富化が確認された (Fig 2H-K)。これらの結果は、MBMの進行においてミクログリアのNFκB経路が活性化し、腫瘍促進的な役割を果たす可能性を強く示唆している。

Rela cKOによるMBM抑制とOS延長: Cx3cr1+細胞特異的なRela欠損 (Rela cKO) は、Nras* MBM負荷を有意に減少させ (p<0.001; n=33 WT mice vs n=28 cKO mice)、B16F10モデルでも同様の効果が認められた。Rela cKOマウスでは、Nras* MBMでOS中央値が+10% (log-rank p<0.05)、B16F10 MBMで+9%延長した。この効果は、メラノーマ細胞の増殖減少と相関していた (Fig 3D)。皮下腫瘍モデルではRela cKOの効果は観察されず、この効果が脳常駐ミクログリアに特異的であることが示唆された (Fig 3C, E, J)。これは、脳微小環境におけるRela/NFκBシグナルの重要性を強調する。

DHMEQ (NFκB薬理学的阻害) によるMBM抑制: 脳透過性NFκB阻害薬であるDHMEQの全身投与により、B16F10 MBM負荷が有意に減少し (p<0.001; n=18 vehicle mice vs n=17 DHMEQ mice)、OSが+10%延長した。皮下腫瘍モデルでは効果は認められなかった (Fig 3G, H, M)。DHMEQは脳血液関門を通過し、MBMの増殖を抑制することで、Rela cKOと同様の治療効果を示した。

ミクログリア再プログラミング機序 (scRNA-seq): Rela cKOマウスのTA-MGでは、炎症促進性 (pro-inflammatory) サブグループへのシフトが観察され、CD8+ T細胞浸潤、NK細胞活性化、およびIFNγシグネチャーの増加が確認された。プロ腫瘍性マーカー (Arg1、Cd163、Cd274/PD-L1) の発現は減少し、抗腫瘍免疫が増強されていた。患者データでは、TA-MGの炎症促進性マーカー高発現がICI奏効例で高頻度であることが示された (Fig 4A-E)。具体的には、Rela cKO群ではPIM (proinflammatory microglia) スコアがRela WT群と比較して有意に増加した (p < 2.2e-16)。この再プログラミングは、TA-MGが抗腫瘍免疫応答を促進する表現型へと変化することを示唆する。PIMクラスターでは、CCL2、CCL3/4、CCL5、CCL12、CXCL10といったT/NK細胞を誘引するケモカインの発現がRela WT群と比較して有意に増加していた (Fig 4F-H, S5A)。

抗腫瘍免疫の増強: Rela cKOマウスのMBMでは、CD3+、CD3+/CD8+細胞傷害性T細胞、およびCD45+/NK1.1+ NK細胞の浸潤が増加した (Fig 5E, F)。CellChat解析により、PIMがエフェクターCD8+ T細胞に対して最も強い出力シグナルを持つことが予測された (Fig 5C)。特に、Ccl3、Ccl4、Ccl5を介したCcr5受容体との相互作用はPIMに特異的であった (Fig 5D)。さらに、Rela cKOマウスのCD8+ T細胞は、幹細胞様疲弊CD8+ T細胞 (Tpex) 表現型に関連するマーカーが富化されており、これはエフェクターT細胞プールの維持と補充に寄与するとされる (Fig 5I)。これらの結果は、ミクログリアの再プログラミングが適応免疫応答を強化することを示している。

ICI増感効果: Rela cKOは抗PD-L1抗体および抗PD-1/抗CTLA-4抗体との組み合わせでMBM負荷をさらに低下させ、ICI単独よりも有意に高い有効性を示した (p<0.05)。これは相乗効果を示唆するものであった (Fig 6H, I)。例えば、Rela cKOと抗PD-L1抗体の併用群 (n=11 mice) では、抗PD-L1単独群 (n=8 mice) と比較してMBM負荷が有意に減少した。また、ICI抵抗性MBM患者のミエロイド細胞ではNFκB活性が高いことが示された (Fig 6A)。ICI応答患者のミエロイド/ミクログリア細胞では、シナプス刈り込みや貪食などのミクログリア恒常性機能に関連する生物学的プロセスが富化されており、TMEM119、P2RY12、GPR34などのミクログリアの典型的マーカーや、IFIT3、AXL、FCGR3Aなどの炎症促進性遺伝子の発現が増加していた (Fig 6B-D)。これらの結果は、NFκB経路の標的化がICI抵抗性を克服し、ICIの有効性を高める可能性を示唆する。

考察/結論

本研究は、メラノーマ脳転移 (MBM) におけるミクログリアのRela/NFκB活性化が腫瘍促進的な腫瘍関連ミクログリア (TA-MG) 表現型をもたらすことを明らかにした。この経路を遺伝的または薬理学的に標的とすることで、ミクログリアが炎症促進性表現型に再プログラミングされ、抗腫瘍免疫が強化され、MBM負荷が減少することが示された。

先行研究との違い: これまでの研究では、脳転移におけるマクロファージの腫瘍促進的役割が広く支持されてきたが (Guldner et al. Cell 2020など)、本研究はミクログリアがMBMの進行段階に応じて抗腫瘍的および腫瘍促進的な二面性を持つことを示した点で、これまでの知見と異なっている。特に、初期のコロニー形成段階ではミクログリアが保護的な役割を果たすが、確立されたMBMでは腫瘍促進的に機能することが明らかになった。これは、乳がん脳転移モデルにおけるミクログリアの抗腫瘍的役割を示したEvans et al. (Nat Cell Biol 2023) の報告と、マクロファージの腫瘍促進的役割を示したGuldner et al. Cell 2020の報告との間の矛盾を解消する知見である。

新規性: 本研究で初めて、MBMにおけるミクログリアのRela/NFκB経路活性化が腫瘍促進的TA-MG表現型を誘導し、この経路を標的とすることでミクログリアを炎症促進性に再プログラムし、抗腫瘍免疫を増強し、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への反応を改善することを示した。また、NFκB経路の標的化が体外腫瘍ではなく脳内腫瘍のみで役割を持つことを新規に同定した。さらに、ICI抵抗性MBM患者のミエロイド細胞でNFκB活性が高いことを示し、この経路がICI抵抗性を克服する標的となりうる可能性を提示した点も新規である。

臨床応用: 脳透過性NFκB阻害薬であるDHMEQがBBBを透過し、ICIと相乗効果を発揮するという知見は、MBM患者におけるICIの有効性を高める有望な治療戦略となる可能性を示唆しており、臨床応用可能な戦略として重要である。例えば、ICI抵抗性患者においてNFκB阻害薬を併用することで、ICIへの反応率を改善できる可能性がある。患者MBM組織における炎症促進性ミクログリアマーカーとICI応答の相関は、ミクログリア表現型評価が将来的なバイオマーカーとなる可能性を示しており、臨床現場での層別化医療に貢献しうる。これらの結果は、MBM患者におけるNFκB阻害薬とICIの併用試験の強力な根拠を提供する。

残された課題: ミクログリアはMBMの進行段階によって抗腫瘍/腫瘍促進の二面性を持つため、治療的介入の最適タイミングの検討が今後の課題として残されている。また、NFκB経路の活性化がミクログリアの炎症促進性表現型への再プログラミングをどのように誘導するかの詳細な分子メカニズムの解明も今後の研究で必要である。さらに、ヒトMBMにおけるNFκB阻害薬とICIの併用療法の有効性と安全性に関する大規模な臨床試験が、臨床的意義を確立するために不可欠である。

方法

マウスモデル:Nras* (NrasQ61K) およびB16F10メラノーマ細胞を内頸動脈注射し、免疫適格C57BL/6マウスで脳転移モデルを確立した。これらの細胞は色素沈着しており、MBMの視覚化と定量化を可能にした。ミクログリア除去実験:Cx3cr1CreER-ROSA26-iDTRマウスにジフテリア毒素 (DT) を投与し、ミクログリアを選択的に除去してMBM形成への影響を評価した。ROSA26-iDTRは、ジフテリア毒素受容体 (DTR) を発現する遺伝子改変マウスである。ミクログリア除去は、メラノーマ細胞注入前とコロニー形成後の2つのタイミングで実施された。scRNA-seq:MBM組織のCD45+・CX3CR1+細胞をFACSソートし、scRNA-seq (single-cell RNA sequencing) を実施した。これにより、腫瘍関連ミクログリア (TA-MG: tumor-associated microglia) と腫瘍関連マクロファージ (TA-MAC: tumor-associated macrophage) を分類した。scRNA-seqデータ解析には、Hao et al. Cell 2021で報告されたSeurat v4パッケージを用いた。NFκBシグナル解析:RNA-seqデータに対し、TFact (Transcription Factor activity) 解析およびISMARA (Integrated System for Motif Activity Response Analysis) を用いてRela活性化を同定した。また、ヒトMBM組織 (n=11例) においてP65の核移行を免疫組織化学 (IHC) で確認した。Rela cKO実験:Cx3cr1CreER-Relafl/flマウス(TA-MG特異的Rela条件付きノックアウト、Rela cKO)を用いてMBM増殖と全生存期間 (OS) を評価した。Rela cKOマウスでは、タモキシフェン投与によりCx3cr1+細胞におけるRela遺伝子欠損を誘導した。薬理学的標的化:脳透過性NFκB阻害薬であるDHMEQ (dehydroxymethylepoxyquinomicin) を全身投与し、MBM増殖とOSへの影響を評価した。DHMEQは10 mg/kgの濃度で腹腔内投与された。体外腫瘍特異性の検証:皮下腫瘍モデルにおいて、Rela cKOおよびDHMEQがメラノーマ増殖に影響しないことを確認し、脳内での特異的な役割を検証した。ICI増感:Rela cKOと抗PD-L1抗体、またはRela cKOと抗PD-1/抗CTLA-4抗体の組み合わせ療法の有効性を評価した。統計解析は、Student’s t検定、Mann-Whitney U検定、およびログランク (Mantel-Cox) 検定を用いて実施された。