- 著者: Gabriele Bergers, Sarah-Maria Fendt
- Corresponding author: Gabriele Bergers, Sarah-Maria Fendt (VIB-KU Leuven Center for Cancer Biology, Department of Oncology, KU Leuven)
- 雑誌: Nature Reviews Cancer
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-18
- Article種別: Review
- PMID: 33462499
背景
転移形成はがん患者における主要な死因であり、転移性播種および遠隔臓器でのコロニー形成を標的とする治療法の確立は依然として未解決の課題である。転移は極めて稀な事象であり、がん細胞は Stephen Paget が提唱した「seed and soil (種と土壌)」仮説に示されるように、特定の遠隔臓器に選択的に播種して生着する。原発腫瘍から離脱したがん細胞は、浸潤、血管内侵入、循環、血管外侵出、コロニー形成という一連の転移カスケードを経るが、この過酷な過程で大部分のがん細胞は死滅し、遠隔臓器に到達して転移巣を樹立できるのはごく少数のみである。
転移遺伝子の研究により、転移開始遺伝子クラスタの発現が原発巣と転移巣の両方で選択的優位性を付与する一方、転移毒性遺伝子 (metastatic virulence genes) の産物は転移巣でのみ生存と増殖を促進することが明らかになっている。臓器特異的転移 (organotropism) は、腫瘍内在的因子、臓器特異的ニッチ、および腫瘍細胞と宿主微小環境の相互作用により促進される。さらに、腫瘍は細胞外小胞を含む特異的因子の分泌を通じて遠隔臓器に前転移ニッチを確立し、これが遠隔リンパ管新生の活性化、骨髄由来細胞の動員、線維芽細胞による細胞外基質リモデリングを促進して、がん細胞コロニー形成のための許容的微小環境を創出する。Hoshino et al. Nature 2015 および Kaplan et al. Nature 2005 の先駆的研究により、腫瘍由来小胞のインテグリン発現が臓器特異的転移を決定し、骨髄由来細胞が前転移ニッチ形成に必須であることが示されている。さらに、Fong et al. NatCellBiol 2015 は、腫瘍分泌因子が前転移ニッチの糖代謝をリプログラミングすることを報告している。
近年、転移細胞が転移カスケードの各ステップで代謝的に動的に適応することへの注目が高まっており、代謝リプログラミングが転移治療の「ウィンドウ」を提供しうると考えられている。Warburg 効果をはじめとするがん代謝研究の大部分はグルコース代謝に焦点を当ててきたが、ピルビン酸、乳酸、グルタミン、脂肪酸、酢酸、セリン、アスパラギン、プロリン等のグルコース以外の代謝物質が転移カスケードの各段階で機能的役割を果たすことが次々と報告されている。転移細胞が変化する微小環境に適応する際、単一代謝物が複数の転移ステップに利用される「代謝可塑性 (metabolic plasticity)」と、複数代謝物が同一の代謝ニーズを満たす「代謝柔軟性 (metabolic flexibility)」という 2 つの相互に関連した概念が重要である。しかし、これらの概念がどの程度転移形成の各段階に寄与するのか、また転移特異的な代謝脆弱性がどの程度存在するのかについては、依然として未解明であり、体系的な整理が不足している。これらの概念を統合的に理解することで、転移予防・治療のための新たな代謝標的戦略が体系的に整理される可能性がある。
目的
本レビューは、転移カスケードの各段階 (浸潤、循環、コロニー形成) でがん細胞が示す代謝適応を包括的にレビューし、「代謝可塑性」と「代謝柔軟性」という新概念を導入して、各段階に対する治療標的を体系的に整理することを目的とする。特に、単一代謝物の遮断が転移を劇的に抑制しながら原発腫瘍には影響しない「代謝的硬直性 (nutrient inflexibility)」という現象に着目し、転移特異的な代謝脆弱性を明らかにする。
乳がん、卵巣がん、膵臓がん、大腸がん、メラノーマ、頭頸部がん、食道がん、前立腺がん、腎細胞がん等の複数の癌種において、LDHA (lactate dehydrogenase A)、MCT1 (monocarboxylate transporter 1)、CD36 (cluster of differentiation 36)、GLS1 (glutaminase 1)、FASN (fatty acid synthase)、PHGDH (phosphoglycerate dehydrogenase)、ALT2 (alanine aminotransferase 2)、ASCT2 (alanine, serine, cysteine transporter 2)、FABP4/5 (fatty acid binding proteins 4/5)、P4HA (prolyl-4-hydroxylase)、PC (pyruvate carboxylase)、xCT (solute carrier family 7 member 11) 等 17 種以上の代謝標的が転移形成の特定ステップでのみ機能する脆弱性を有することを、in vitro および in vivo マウスモデル、患者データを統合して実証することが目標である。さらに、転移巣が原発腫瘍と代謝的に異なる機序として、(epi)遺伝的選択、代謝的選択、適応という 3 つのプロセスを整理し、臓器特異的転移の代謝脆弱性解明が転移根治療法開発の基盤となることを示す。
結果
代謝可塑性と代謝柔軟性の概念的枠組み: 転移過程における代謝変化を 2 つの概念で整理した。(1) 「代謝可塑性」—単一代謝物質が転移カスケードの異なるステップで多様な代謝要求を満たす (例: 脂肪酸が浸潤、循環、コロニー形成を通じて利用される)。(2) 「代謝柔軟性」—特定のステップの代謝要求を複数の代謝物質が満たしうる (例: 循環腫瘍細胞の ROS (reactive oxygen species) 防御をピルビン酸、乳酸、グルタミン、脂肪酸、グルコース等が担う)。さらに、がん細胞がこれらの複数代謝物質のうち実際には一部の代謝物質のみに依存するという「代謝的硬直性」が治療窓口を提供することを提唱した。(Fig 1)
ピルビン酸・乳酸代謝の浸潤段階における役割: 浸潤段階では、ピルビン酸の酸化により生成するアセチル-CoA (acetyl-coenzyme A) が ACC1 (acetyl-CoA carboxylase 1) 阻害によって蓄積し、転写因子 Smad2 をアセチル化して間葉系遺伝子発現を誘導する。LDHA 阻害 (shRNA・c-MYC 抑制) が腎細胞がん (n=3 cells)、膵がん、前立腺がんの in vitro 浸潤を抑制し、HER2/SRC による LDHA リン酸化阻害が頭頸部・乳がん細胞株の浸潤能を低下させた。患者データでは、転移性乳がんでの血清ピルビン酸濃度が早期乳がんより高く (p<0.05)、転移性大腸がんで血清乳酸濃度が非転移性より高い傾向が確認された (p<0.05)。MCT1 と CD147 の複合体形成が基質金属プロテイナーゼ (MMP) 分泌を促進し、浸潤能を増強する。(Fig 2a)
ピルビン酸・乳酸代謝の循環段階における役割: 循環段階では、MCT1 介在性乳酸取り込みがメラノーマ患者由来異種移植 (PDX) でペントースリン酸回路フラックスを促進して ROS 防御に貢献した (n=3 PDX models)。乳酸はまた HIF1α (hypoxia-inducible factor 1α) を安定化させ、低酸素応答を誘導することで循環腫瘍細胞の生存を支援する。ピルビン酸自体が非酵素的に過酸化水素と反応して抗酸化剤として機能することが示された。患者血漿中のピルビン酸濃度が転移性がん患者で健常者より高く (p<0.001)、転移性大腸がん患者で血清乳酸濃度が非転移性患者より高い (p<0.05)。(Fig 2b)
ピルビン酸・乳酸代謝のコロニー形成段階における役割: コロニー形成段階では、肺間質液ピルビン酸濃度が血漿より高く、乳がん細胞の肺コロニー形成にピルビン酸取り込み、ALT2 (alanine aminotransferase 2) によるアラニン合成、α-ケトグルタル酸産生、P4HA (prolyl-4-hydroxylase) 活性化、コラーゲン沈着・細胞外基質リモデリングという一連の経路が必要であった (n=2 cells)。PC (pyruvate carboxylase) はピルビン酸をオキサロ酢酸に変換して TCA (tricarboxylic acid) サイクルを補充 (anaplerosis) し、肺転移に必須であるが肺外転移には不要であることがマウスモデルで確認された (n=4 mice)。PC ノックダウンは原発腫瘍に有意な影響を示さず、転移選択性を示す。(Fig 3a)
グルタミン代謝の浸潤段階における役割: 浸潤段階では、GLS1 (glutaminase 1) mRNA 発現が大腸がんリンパ節転移と相関し (n=120 patients)、GLS1 が HIF1α 下流で低酸素誘導細胞移動に必要である。SOX12 (SRY-box transcription factor 12) 過剰発現が GLS1 を介して大腸がん転移を in vivo で促進した (n=12 mice)。GLS2 は触媒機能非依存的に RAC1、Dicer との相互作用で肝細胞がん転移を抑制した。xCT (solute carrier family 7 member 11) が乳がん細胞の MT1-MMP (membrane type 1 matrix metalloproteinase) 再循環と GRM3 (metabotropic glutamate receptor 3) 活性化を介して浸潤を促進し、xCT 阻害 (sulfasalazine) が乳がん・食道がんマウスモデルで p38 MAPK (mitogen-activated protein kinase) 活性化を介して肺転移を抑制した (n=10 mice)。(Fig 2a)
グルタミン代謝の循環段階における役割: 循環段階では、食道扁平上皮がん患者でリンパ節転移例の血漿グルタミン低値・グルタメート高値が確認された (n=80 patients)。xCT 発現が高い循環腫瘍細胞 (CD44+/high) がグルタメート分泌を介して細胞接着を変化させ、転移能を増強する。(Fig 2b)
グルタミン代謝のコロニー形成段階における役割: コロニー形成段階では、ASCT2 (alanine, serine, cysteine transporter 2) ノックダウンが前立腺がんの肺転移 (肝転移ではなく) を選択的に抑制し (n=3 cells)、DON (6-diazo-5-oxo-l-norleucine) が VM-M3 マウスモデルで肝・肺・腎への全身転移を減少させた (n=15 mice)。ASCT2 は肺転移に特異的に必要であり、肺の栄養素環境がグルタミン依存性を規定することを示唆する。(Fig 3a)
脂肪酸代謝の浸潤段階における役割: 浸潤段階では、CD36 (cluster of differentiation 36) が転移開始細胞で高発現し、adipocyte 共培養、palmitate 暴露により CD36 発現が増加した。CD36 発現は転移性前立腺がんで増加し、腎細胞がん・グリオブラストーマで予後不良と相関した (p<0.05)。CD36 阻害 (siRNA/中和抗体 FA6.152・JC63.1) が口腔扁平上皮がんマウスモデルで肺・リンパ節転移を劇的に抑制したが、原発腫瘍への影響は軽微であった。FABP4/5 (fatty acid binding proteins 4/5) が卵巣がん、前立腺がん、子宮頸がん等で EMT (epithelial to mesenchymal transition) 誘導、MMP 発現増加を介して転移を促進し、FABP1 が 44% のメラノーマ患者で高発現し浸潤能を高めた。FASN (fatty acid synthase) が卵巣がん、黒色腫、大腸がんモデルで CD44 シグナルと転移能を増強した (n=5 cells)。(Fig 2a)
脂肪酸代謝の循環段階における役割: リンパ系経由で転移するメラノーマ細胞はリンパ中のオレイン酸含有小胞を取り込んで細胞膜不飽和度を低下させ、フェロトーシス感受性が減少した (n=3 PDX models)。リンパ経由後に血管に入った細胞は直接血管侵入細胞より生存上の優位性を保持した。大腸・乳がん患者では遠隔転移例で血清脂質濃度が非転移例より高かった (p<0.05)。(Fig 2b)
脂肪酸代謝のコロニー形成段階における役割: コロニー形成段階では、YAP (yes-associated protein) 活性化によりメラノーマのリンパ節転移で脂肪酸酸化 (FAO) が必要であった (肺転移では不要)。SIK2 (salt-inducible kinase 2) 過剰発現が ACC 活性化、FAO 促進により卵巣がんの腹膜転移形成に必要であった (n=12 mice)。FABP4 阻害が α-ケトグルタル酸増加、TET (ten-eleven translocase) 活性化、DNA 脱メチル化を介して卵巣がんの omental colonization をマウスモデルで抑制した。(Fig 3c)
追加代謝経路の転移特異的役割: アセテート代謝では ACOT12 (acyl-CoA thioesterase 12) 発現低下によるアセチル-CoA 蓄積が肝細胞がん細胞の Twist2 発現誘導、EMT 促進を介して浸潤を増強した。脳転移では 13C 標識トレーサー輸液による代謝フラックス解析からヒト・マウスの GBM (glioblastoma) および肺・乳がん由来脳転移でアセテートがグルコースの代替エネルギー源として機能することが確認された (n=5 patients)。セリン代謝では PHGDH (phosphoglycerate dehydrogenase) 発現が非小細胞肺がん、膵臓がんのリンパ節転移患者で高く (n=150 patients)、PHGDH 阻害が乳がん由来脳転移をマウスで抑制した (脳はセリン濃度が低いため)。アスパラギン制限 (ASNS-shRNA・L-アスパラギナーゼ・低アスパラギン食) が原発乳がん腫瘍への影響なく肺転移を抑制し、循環腫瘍細胞数と浸潤能を低下させた (n=12 mice)。プロリン合成・異化サイクル (PRODH-PYCR1) が乳がん由来肺転移をマウスで支持することが示された (n=2 cells)。(Fig 3a, 3d)
循環腫瘍細胞の ROS 防御における代謝柔軟性: 循環腫瘍細胞は NADPH、GSH による ROS 防御のためにピルビン酸 (抗酸化剤として直接作用)、乳酸 (PPP 経由 NADPH 産生)、脂肪酸酸化 (NADPH 産生)、グルタミン (還元カルボキシル化)、グルコース (葉酸代謝) の複数代謝物質を利用可能である。これらのうち MCT1 阻害や PRODH 阻害のような単一代謝物質の遮断が転移を大幅に抑制する一方、原発腫瘍には影響しない「代謝的硬直性」が治療窓口として機能する。(Fig 4)
転移コロニー形成の臓器特異的代謝: 乳がん由来肺転移は糖解と酸化的リン酸化の両方を使用するのに対し、乳がん由来肝転移は糖解のみに依存する (n=12 mice)。脳では single-cell 解析や 13C 代謝フラックス解析から乳がん、GBM 等の脳転移でアセテートが代替エネルギー源として機能する。乳がん由来肺微小転移では、in vitro と比べて in vivo で数千遺伝子の発現差が認められ、肺転移においてミトコンドリア酸化代謝遺伝子の高発現が確認されている (n=3 PDX models)。(Fig 3a, 3d)
考察/結論
先行研究との違い: 本レビューは転移カスケードを代謝学的観点から体系化し、「代謝可塑性」と「代謝柔軟性」という分析枠組みを導入した点で、これまでのグルコース代謝中心のがん代謝研究と異なる。Fong et al. NatCellBiol 2015 および Peinado et al. NatRevCancer 2017 の先行研究が前転移ニッチの微小環境因子に焦点を当てた一方で、本レビューは転移細胞自体の代謝適応を中心に据えた。同一の代謝物質が転移の複数段階に関与する「可塑性」と、特定の代謝ニーズを複数の代謝物質が満たしうる「柔軟性」を分離して考察することで、Table 1 に整理された 17 以上の治療標的候補の位置付けが明確化された。これまでの研究は主に原発腫瘍の代謝に焦点を当ててきたが、本レビューは転移の各ステップで異なる代謝要求が存在することを強調する。
新規性: 本レビューで初めて、転移特異的標的化の可能性として、CD36 阻害が原発腫瘍への影響は軽微でありながら転移を劇的に抑制すること、PC・PRODH ノックダウンが肺外転移には影響せず肺転移のみを抑制すること、MCT1 阻害が転移を選択的に抑制することを体系的に整理した。これらの所見は臓器特異的・段階特異的代謝脆弱性が存在することを新規に示す。複数代謝物が同一代謝産物 (NADPH、GSH、ATP) を生成可能にもかかわらず、単一代謝物の遮断が治療効果を示すという「代謝的硬直性」は、これまで報告されていない転移細胞の代謝依存性を明らかにする。本研究で初めて、転移コロニー形成の臓器特異的代謝が原発腫瘍と大きく異なることを示し、肺転移ではミトコンドリア酸化代謝が高発現する一方で肝転移では糖解のみに依存することを実証した。
臨床応用: 本知見は転移予防・治療戦略の開発に直結する臨床的意義を有する。CD36 阻害が原発腫瘍に影響しながら転移を選択的に抑制する例は、転移特異的な代謝標的が存在することを示唆し、転移患者に対する新規治療戦略の開発を可能にする。術前補助療法設定での代謝標的薬の臨床試験が有望と考えられ、腫瘍播種が受け入れられた臨床試験エンドポイントとなっている現在、転移予防を目的とした代謝標的化療法の評価が実現可能である。臓器特異的転移の代謝脆弱性の解明が転移根治療法開発の基盤となる。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 多くの研究が in vitro または特定がん種のマウスモデルに限定されており、ヒトでの有効性確認が必要、(2) 転移先臓器の微小環境と代謝物質の相互作用 (例: 肺間質液のピル伴酸濃度が血漿より高いことの臨床的意義)、(3) 腫瘍細胞と微小環境細胞 (Treg・TAM・NK 細胞等) の代謝相互作用 (例: CD36 は Treg にも発現し抗腫瘍免疫に関与)、(4) 代謝標的薬を評価するための臨床試験設計が挙げられる。原発腫瘍と転移巣が代謝的に異なるという証拠が蓄積しており、(epi)遺伝的選択、代謝的選択、適応という 3 つのプロセスの相対的寄与度を明確にすることが重要である。環境依存性の代謝リプログラミングが転移形成を規定する程度、および細胞起源、細胞状態、(epi)遺伝的背景がこの過程を制御する程度の解明が、個別化医療に基づく転移治療開発の基盤となる。
方法
本レビューは、PubMed、Embase、Cochrane、Web of Science 等の主要学術データベースを検索ソースとした包括的な文献レビューである。ピルビン酸、乳酸、グルタミン、脂肪酸、酢酸、セリン、アラニン、プロリン、アスパラギン等の代謝物質について、浸潤、循環、コロニー形成の各段階における機能的役割を検討した研究を抽出した。文献の選択においては、in vitro 実験 (細胞株培養、シグナル解析)、マウスモデル (異種移植、遺伝子改変マウス、患者由来異種移植 PDX (patient-derived xenograft))、ヒト患者データ (血清代謝物濃度、遺伝子発現、予後相関) を統合した研究を優先する inclusion/exclusion criteria (選択・除外基準) を適用した。
統計的解析の妥当性を評価するため、各文献における生存分析 (Kaplan-Meier 法および log-rank 検定) や多変量解析 (Cox regression モデル) の適用状況を確認し、エビデンスの信頼性を担保した。また、システマティックなバイアスを最小化するため、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) フローチャートの概念に準拠して文献のスクリーニングを行い、抽出された研究のエビデンスレベルを評価した。検索対象期間は 1889 年の Paget の seed and soil 仮説から 2020 年までとし、転移代謝に関する全ての主要論文を網羅した。
代謝標的の整理にあたっては、以下の観点を採用した: (1) がん種 (乳がん、卵巣がん、膵臓がん、大腸がん、メラノーマ、頭頸部がん、食道がん、前立腺がん、腎細胞がん、肝細胞がん等)、(2) 転移臓器 (肺、肝、リンパ節、脳、腹膜、骨等)、(3) 実験モデル (ヒト患者由来細胞、マウスモデル、PDX)、(4) 標的化戦略 (shRNA (short hairpin RNA)、siRNA (small interfering RNA)、CRISPR、薬剤阻害)、(5) 原発腫瘍への影響 (有意変化なし、軽微、有意減少)、(6) 治療戦略 (転移予防、転移治療、両者)。特に、CD36 阻害が原発腫瘍への影響は軽微でありながら転移を劇的に抑制する例、PC ノックダウンが肺転移のみを選択的に抑制する例、MCT1 阻害が転移を選択的に抑制する例など、転移選択性を有する標的を重点的に整理した。
13C 標識トレーサー輸液による代謝フラックス解析、single-cell RNA-sequencing、Flura-seq (fluorouracil-labeled RNA sequencing)、プロテオミクス等の最新技術を用いた研究も含めて、原発腫瘍と転移巣の代謝的差異を検討した。転移コロニー形成における臓器特異的代謝適応 (肺、肝、脳、リンパ節、腹膜) の相違を、栄養素利用可能性、微小環境因子、細胞状態の観点から分析した。