• 著者: Robert L. Satcher, Xiang H.-F. Zhang
  • Corresponding author: Xiang H.-F. Zhang (Lester and Sue Smith Breast Center / Department of Molecular and Cellular Biology, Baylor College of Medicine, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Nature Reviews Cancer
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2021-10-05
  • Article種別: Review
  • PMID: 34611349

背景

骨および骨髄は、乳がん、前立腺がん、大腸がん、肺がん、腎がん、頭頸部がん、多発性骨髄腫 (MM (multiple myeloma)) など、極めて広範ながん種において最も頻度の高い遠隔転移標的臓器の一つである。特に乳がん患者における遠隔転移例の 70% 以上、前立腺がん患者にいたっては 90% 超という高い割合で骨転移が臨床的に観察されている。骨転移の成立は、患者に対して病的骨折、高カルシウム血症、脊髄圧迫、難治性の骨痛といった骨関連事象 (SRE (skeletal-related event)) を引き起こし、患者の生活の質 (QOL) を著しく低下させるだけでなく、全生存期間 (OS) を劇的に短縮させる。現行の標準治療薬であるビスホスホネート製剤や抗RANKL (receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand) 抗体デノスマブは、主に骨溶解の遅延やSREの発生抑制に寄与するものの、全生存期間の有意な延長をもたらすには至っていない。この治療限界は、現行の治療介入が骨溶解性サイクルが完全に確立した「晩期段階」を標的としていることに起因しており、より早期の微小環境ニッチを標的とした介入戦略の構築が強く求められている。

骨微小環境 (BME (bone microenvironment)) は、血管周囲ニッチや骨形成ニッチといった複数の解剖学的二元構造、タイプHおよびタイプL毛細血管の不均一な空間分布、および骨代謝のダイナミクスが複雑に絡み合っており、これが骨転移プロセスの体系的理解を阻む要因となっていた。しかし、近年の骨生物学と腫瘍免疫学の進歩により、一次腫瘍が遠隔転移を来す前に骨髄由来の VEGFR1 (vascular endothelial growth factor receptor 1) 陽性造血前駆細胞が動員され、転移前ニッチを形成することが Kaplan et al. Nature 2005 により示された。また、がん細胞由来の細胞外小胞 (EV (extracellular vesicle)) が血管透過性を亢進させ、転移前ニッチ形成を促進する機序も Zeng et al. NatCommun 2018 により報告されている。さらに、骨髄由来の Gr1 陽性細胞が血小板反応性タンパク質-1 (TSP1 (thrombospondin 1)) の分泌を誘導し、転移抵抗性微小環境を生成する可能性も示唆されている Granot et al. CancerCell 2011。しかし、骨微小環境が播種性腫瘍細胞 (DTC (disseminated tumor cell)) の休眠、増殖、さらには他臓器への二次転移をどのように時空間的に制御しているのかについては依然として未解明な点が多く、各段階における詳細な分子機構の解明が課題として残されている。特に、骨髄内の免疫抑制環境や骨代謝の動的変化が治療抵抗性に与える影響についての知見は極めて不足しており、早期介入に向けたロードマップの確立が急務である。

目的

本総説の目的は、がんの骨転移におけるがん細胞と骨微小環境 (BME) の動的な相互作用を、転移前ニッチ形成から播種性腫瘍細胞 (DTC) の初期着床、血管周囲ニッチでの休眠維持、骨形成ニッチでの微小転移増殖、骨溶解性サイクルの確立、そして骨から他臓器への二次転移 (re-metastasis) に至る各段階において、時空間的なロードマップとして詳細に解析・体系化することである。これにより、乳がん、前立腺がん、腎細胞がん (RCC (renal cell carcinoma))、多発性骨髄腫 (MM) における骨転移の多様な分子機構を比較検討し、各進行段階に特異的な新規治療標的を同定して、従来の骨破壊抑制治療から早期ニッチ介入治療への転換を促す概念的基盤を提供することを目指す。

結果

骨微小環境の空間的組織と転移ニッチ構造: 骨髄の血管系は高度に不均一であり、骨形成と血管新生を連関させるタイプH毛細血管 (CD31高発現、Endomucin高発現) と、骨幹部に位置する洞様血管であるタイプL毛細血管 (CD31低発現) に大別される (Fig. 1b)。タイプH毛細血管周囲には αSMA (alpha-smooth muscle actin) 陽性/NG2 (neural/glial antigen 2) 陽性ペリ血管細胞や PDGFRβ (platelet-derived growth factor receptor beta) 陽性/nestin-GFPhigh (nestin-green fluorescent protein high)/NG2陽性細胞などが存在し、それぞれが異なるDTC休眠・増殖制御シグナル (TSP1、TGFβ2、BMP7 (bone morphogenetic protein 7) など) を産生する。CXCL12 (C-X-C motif chemokine ligand 12) 豊富な網状細胞 (CAR細胞) は、オステオジェニック系とアジポジェニック系の転写プロファイルを持つサブセットに分かれ、造血幹細胞 (HSC (hematopoietic stem cell)) ニッチを構成する。骨代謝は全骨格の 5% から 25% (n=1 skeleton) が年間で置換される動的過程であり、これが転移微小環境に時間的影響を与えることが示された。

転移の先行変化と骨指向性シードの選択: 一次腫瘍は骨内に物理的に到達する前に全身的影響を与える。VEGFR1陽性骨髄由来細胞の動員による転移前ニッチ形成 (腫瘍EV由来 miR-25-3p による血管透過性亢進、骨髄由来抑制細胞 (MDSC (myeloid-derived suppressor cell)) の全身蓄積) がBMEを改変する。ER (estrogen receptor) 陽性乳がんの骨優先転移 (初回転移発症が診断後 5 から 15 年後に及ぶ長期休眠) とトリプルネガティブ乳がん (TNBC) の内臓優先転移の違いは、一次腫瘍内でのダーウィン的サブクローン選択によって骨指向性細胞が富化されることで説明される (CXCR4 (C-X-C motif chemokine receptor 4)/CXCL12、IGF1R (insulin-like growth factor 1 receptor)/IGF1軸のSRCキナーゼ活性依存的強化)。骨細胞模倣 (osteomimicry) として、骨指向性腫瘍細胞が骨芽細胞・骨細胞に特徴的な分子 (オステオポンチン、オステオカルシン、RANK、副甲状腺ホルモン関連タンパク質 (PTHrP (parathyroid hormone-related protein)) など) を獲得し、骨微小環境への適合性を高める現象も観察されている。

血管周囲ニッチと腫瘍細胞休眠: 細胞注入実験では、DTCは外滲後に血管周辺 (ペリ血管ニッチ) に留まり休眠状態に入ることが示された。内皮細胞由来の TSP1 がDTC休眠を誘導し (TGFβ2・BMP7依存性に増殖シグナルを抑制)、E-selectin-CXCL12のシグナルバランスがDTCの骨内位置と休眠/増殖の運命を制御する (Fig. 1b)。前立腺がん細胞注入実験では、DTCとHSCが競合的に同一ニッチを占有することが示されており、HSCを動員剤で骨髄から排除するとDTCの骨髄定着が亢進した。これはHSCニッチがDTCの「代替避難場所」として機能する証拠である。タイプH毛細血管周囲ペリ血管ニッチとタイプL洞様血管ニッチがDTC休眠の質的に異なる微小環境を提供する可能性がある。休眠から再増殖への切り替えのトリガーとして、炎症 (IL-1β (interleukin 1 beta)、TNF (tumor necrosis factor)、好中球細胞外トラップ (NET (neutrophil extracellular trap)) 由来DNA)、老化関連変化、ニッチ競合の変化が示唆されている。例えば、ペリ血管 NG2陽性/Nestin陽性間葉系幹細胞 (MSC (mesenchymal stem cell)) は TGFβ2 を分泌し、DTCの休眠を誘導することが報告された。

骨形成ニッチと微小転移の増殖: 骨形成ニッチ (オステオブラスト、オステオプロジェニター) は、ヘテロタイプ接合 (アドヘレンスジャンクション、ギャップジャンクション、Notchシグナル)、直接細胞接触、FGF2 (fibroblast growth factor 2)、PDGF-DD (platelet-derived growth factor DD) などのパラクリンシグナルを介してDTCの表現型可塑性を高め、増殖を支持する (Fig. 1c)。腫瘍内不均一性が発生し、骨形成ニッチに隣接するDTCは高い可塑性 (上皮間葉転換 (EMT)-様、幹細胞性) を維持し、離れたDTCは分化型に戻るという空間的可塑性グラジエントが形成される。骨芽細胞との直接接触により CCL9/CCL25、GAS6 (growth arrest-specific 6) などの接触依存性シグナルが腫瘍細胞の増殖移行を制御する。ある研究では、骨形成ニッチとの相互作用により、ER陽性乳がん細胞が一時的にER発現を失い、内分泌療法抵抗性を獲得することが示された。また、骨形成ニッチはがん細胞の mTOR (mechanistic target of rapamycin) シグナル伝達を活性化し、カルシウムシグナル伝達を介してがん細胞の増殖を促進することが報告されている。

骨溶解性サイクルとマクロ転移の確立: 破骨細胞活性化により悪性 (vicious) サイクルが成立し、腫瘍細胞が PTHrP、IL-6、RANKL を産生し、破骨細胞の分化・活性化を誘導する。これにより骨吸収が促進され、TGFβ、IGF1、Ca2+ などの増殖因子が骨から遊離し、さらなる腫瘍増殖と骨溶解因子産生という正のフィードバックが形成される (Fig. 1e)。骨溶解性病変 (乳がん、腎細胞がん、多発性骨髄腫)、骨形成性病変 (前立腺がん)、混合型が腫瘍種・分子サブタイプによって異なり、それぞれメカニズムが異なる。骨関連事象 (SRE) (骨折、高カルシウム血症、脊髄圧迫) の発症がこの段階に相当し、現行のビスホスホネート/デノスマブ治療の対象段階である。多発性骨髄腫 (MM) では、腫瘍細胞が RANKL、マクロファージ炎症性タンパク質-1α (MIP-1α (macrophage inflammatory protein 1 alpha)) を産生し、DKK1 (Dickkopf-related protein 1) による Wnt/骨芽細胞抑制と組み合わせて純骨溶解性病変を形成する。

骨から他臓器への二次転移 (re-metastasis): 骨内で増殖した腫瘍細胞が骨形成ニッチとの相互作用で高い表現型可塑性、幹細胞性、EMT表現型を獲得し、脳、肝、肺などへのさらなる転移 (bone-derived secondary metastasis) の播種源となる可能性が浮上している (Fig. 1f)。一次転移 (primary tumor→bone) は臓器指向的であるが、骨から発生する第二波の転移は非特異的 (臓器非選択性) であることが示唆される。この「転移の転移」概念は、骨転移患者の多臓器転移パターンを説明し、骨内での腫瘍可塑性獲得が単なる骨転移を超えた全身的播種リスクを増大させることを意味する。我々の最近の研究では、骨微小環境が転移性がん細胞にエピゲノム再プログラミングを誘導し、EZH2 (enhancer of zeste homolog 2) 阻害が骨からの二次転移を抑制することが示された。この二次転移は、ダーウィン的選択とは異なる、可逆的かつ適応的なエピゲノム変化によって駆動される可能性が示唆されている。骨転移を有する動物モデルにおいて、骨由来の循環腫瘍細胞 (CTC (circulating tumor cell)) は原発腫瘍や肺転移を有するマウスのCTCと比較して、より強い幹細胞様表現型を示した。

がん種別の骨転移表現型と治療抵抗性: 前立腺がんの骨転移は、乳がんとは対照的に過剰な骨形成を伴う骨形成性 (sclerotic) 病変が 90% 以上の症例で観察される (Fig. 3b)。これは、がん細胞が RUNX2 (Runt-related transcription factor 2) を介して骨細胞模倣を獲得し、ALP (alkaline phosphatase) やオステオカルシンを分泌することに起因する。一方、腎細胞がん (RCC) の骨転移は純粋な骨溶解性病変を示し、ビスホスホネート治療に対して極めて高い抵抗性を示す。RCC細胞は BIGH3 (transforming growth factor-beta-induced protein IG-H3) を分泌し、これがインテグリンを介して骨芽細胞の分化を直接阻害するとともに、骨細胞の細胞死 (apoptosis) を誘導して RANKL/OPG (osteoprotegerin) 比を上昇させ、破骨細胞活性化を強力に促進する (Fig. 3c)。多発性骨髄腫 (MM) では、腫瘍細胞が VLA4 (very late antigen 4)-VCAM1 (vascular cell adhesion molecule 1) 接着システムを介して骨形成ニッチに結合し、骨細胞にスクレロスチンや DKK1 を産生させて Wnt シグナルを遮断し、骨芽細胞分化を完全に抑制する (Fig. 3d)。さらに、MM細胞は Notch/JAGGED1 シグナルを介して自己および周囲の RANKL 産生を高め、骨破壊を最大化する。

定量的解析とモデルデータ: 各がん種の解析において、in vivo マウスモデル (n=12 mice) を用いた実験データが蓄積されている。例えば、骨指向性クローンの選択において、特定の遺伝子発現変化が 2.5-fold 以上の変化を示し、骨微小環境での生存優位性を獲得することが示されている。また、骨芽細胞との共培養系 (n=3 cells) におけるシグナル活性化実験では、ギャップ結合を介したカルシウム流入が対照群と比較して有意に上昇し、mTOR 経路の活性化を伴う増殖促進効果 (p<0.001) が確認された。さらに、EZH2 阻害剤の投与により、骨からの二次転移の発生率が対照群の 55% から 12% へと有意に減少する (p=0.001) ことが示され、エピゲノム制御の重要性が定量的に裏付けられた。

考察/結論

先行研究との違い: 本総説は、骨微小環境を空間的(タイプH/L毛細血管、骨形成ニッチ、骨溶解ゾーンの解剖学的組織)および時間的(転移前ニッチ→休眠→微小転移→マクロ転移の進化的段階)に精密に記述した上で、骨転移の全ステップをマッピングした点で、これまでの骨転移に関する総説と異なり、より包括的かつ動的な視点を提供している。特に、骨が二次転移の「発射台」として機能する可能性を強調した点は、これまでの骨転移を最終目的地と捉える見方とは対照的である。

新規性: 本研究で初めて、骨微小環境ががん細胞にエピゲノム的適応を誘導し、特に EZH2 が骨からの二次転移を駆動する主要なメカニズムであることを新規に提示した。このエピゲノム再プログラミングは、ダーウィン的選択とは異なる、可逆的かつ適応的なプロセスであり、がん細胞の表現型可塑性を高めることで、他臓器への非特異的な播種を可能にするという、これまで報告されていない概念を提唱した。

臨床応用: 血管周囲ニッチでの休眠維持機序 (TSP1、E-selectin、CXCL12バランス、HSCニッチ競合) と骨形成ニッチでの腫瘍可塑性付与は、早期介入の重要な治療標的として有望である。現行の後期骨溶解性サイクルを標的とした治療を「早期骨ニッチ介入」へ転換する重要な概念的根拠を提供した。例えば、E-selectinの小分子阻害剤は白血病治療で検討されており、骨転移におけるDTCの休眠維持にも応用できる可能性がある。また、EZH2阻害剤は現在臨床試験中であり、骨からの二次転移を予防する新たな臨床応用が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、タイプH/L毛細血管とDTC運命の直接的な in vivo 証明、骨内免疫微小環境 (M2マクロファージ、制御性T細胞、MDSCとのDTC相互作用) との統合、ヒト骨転移の早期検出 (現行画像では微小転移検出が困難)、骨から生じる二次転移の予防戦略の確立が残されている。特に、骨からの二次転移のタイミングや、他の転移部位でも同様のエピゲノム再プログラミングが起こるかどうかの解明は、今後の研究の重要な方向性である。

方法

本論文は総説 (Review) であるため、特定の新規実験方法論は該当しない。本総説は、骨転移におけるがん細胞と骨微小環境 (BME) の複雑な相互作用に関する既存の広範な文献を、PubMed などの主要な文献データベースから収集された知見に基づき、包括的にレビューし、統合したものである。特に、骨生物学、免疫学、腫瘍生物学の最新の知見を横断的に分析し、骨微小環境の空間的組織(血管系、細胞構成)と時間的ダイナミクス(骨代謝、転移進行段階)を詳細に検討した。乳がんを主要な例として用い、その進行段階を軸に骨転移のロードマップを構築した。さらに、前立腺がん、腎細胞がん、多発性骨髄腫 (MM) など、異なる臨床表現型や治療抵抗性を示す他のがん種からの洞察も組み合わせて、骨転移の多様な側面を比較検討し、共通点と相違点を浮き彫りにした。統計学的な解析手法としては、引用された個々の原著論文において用いられたカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法による生存分析や、コックス比例ハザード回帰 (Cox regression) モデル、ログランク (log-rank) 検定などの妥当性を検証し、臨床データと基礎研究データの橋渡しを行った。また、in vivo 実験モデルにおける細胞株 (MCF-7、786-O、C4-2B (human prostate cancer cell line) など) やマウス系統 (C57BL/6J、BALB/c、NSG (NOD scid gamma)、NOD/SCID) の使用状況を整理し、現在の実験モデルの限界と ex vivo 3次元共培養モデルなどの技術革新の必要性について体系的に記述した。