- 著者: Zhicheng Zeng, Yuling Li, Yangjian Pan, Xiaoliang Lan, Fuyao Song, Jingbo Sun, Kun Zhou, Xiaolong Liu, Xiaoli Ren, Feifei Wang, Jinlong Hu, Xiaohui Zhu, Wei Yang, Wenting Liao, Guoxin Li, Yanqing Ding, Li Liang
- Corresponding author: Li Liang (Department of Pathology, Nanfang Hospital, Southern Medical University / Guangdong Province Key Laboratory of Molecular Tumor Pathology, Guangzhou, China)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-12-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 30568162
背景
前転移ニッチ形成は、遠隔臓器に播種する腫瘍細胞の生着と成長を支える重要な過程であり、炎症、免疫抑制、血管新生、血管透過性亢進、臓器向性などを特徴とする。がん由来エクソソームは、前転移ニッチ形成の主要なドライバーとして確立されつつあるが、特定のmiRNAカーゴが血管内皮細胞を介して血管透過性や血管新生をどのように制御するかは未解明な点が多かった。例えば、Kaplan et al. Nature 2005やPeinado et al. NatMed 2012は、骨髄由来前駆細胞が前転移ニッチ形成に関与することを示したが、エクソソームmiRNAの直接的な役割は不明であった。また、Peinado et al. NatRevCancer 2017やBecker et al. CancerCell 2016は、エクソソームが転移における細胞間メディエーターとして機能することを概説したが、具体的な分子メカニズムには依然として多くの課題が残されていた。miR-25-3pは、大腸がん (CRC) の進行を促進するmiRNAとして知られていたが、その転移促進における詳細な機序は不明であった。
目的
本研究の目的は、CRC由来エクソソームmiR-25-3pが血管内皮細胞に転送され、KLF2 (Krüppel-like factor 2) およびKLF4 (Krüppel-like factor 4) を標的とすることで血管透過性亢進、血管新生、および前転移ニッチ形成を誘導し、CRC転移を促進するという分子メカニズムを解明することである。さらに、CRC患者の血清エクソソームmiR-25-3pレベルが転移のバイオマーカーとして有用であるかを評価することも目的とした。
結果
CRC組織・細胞でのmiR-25-3p高発現と転移との相関: miRNAアレイ解析により、転移を有するCRC組織で有意に高発現するmiRNAとしてmiR-25-3pを含む4種が同定された (Supplementary Figure 1A)。27例のCRC組織におけるRT-PCR解析では、miR-25-3pは転移を有する患者 (n=10) で転移のない患者 (n=17) よりも有意に高い発現を示し (p<0.01) (Fig. 1b)。また、5種類のCRC細胞株でも正常大腸粘膜上皮細胞NCM460と比較してmiR-25-3pが高発現していた (Supplementary Figure 2A)。FISH解析では、CRC細胞におけるmiR-25-3pの発現が隣接する血管内皮細胞 (CD34陽性) のmiR-25-3p発現と正の相関を示した (Pearson r>0, p<0.05) (Fig. 1c)。
エクソソームを介したmiR-25-3pのHUVECへの転送: SW480/miR-25-3p細胞由来のエクソソームは、透過型電子顕微鏡により50〜100 nmの膜結合性粒子として確認され、ウェスタンブロットではエクソソームマーカーであるCD63およびTSG101が陽性であった (Fig. 1d, e)。Cy3標識miR-25-3pを内包するPKH67標識エクソソームがHUVECに取り込まれることが蛍光顕微鏡により確認された (Fig. 1f)。HUVECをSW480/miR-25-3pエクソソームとインキュベートすると、HUVEC内の成熟miR-25-3pレベルが有意に上昇したが (p<0.001)、pri-miR-25-3pレベルには変化がなかった (Fig. 1g, Supplementary Figure 2F)。エクソソーム取り込み阻害剤であるAnnexin Vの処理により、HUVECへのmiR-25-3pの転送が抑制された (Supplementary Figure 2H)。
miR-25-3pによるKLF2/KLF4抑制と血管機能障害: SW480/miR-25-3pエクソソームは、HUVECにおけるKLF2およびKLF4のmRNAおよびタンパク質発現を著明に抑制した。これにより、KLF2の下流であるVEGFR2の発現が増加し、KLF4の下流であるZO-1、occludin、Claudin5 (Claudin 5) の発現が減少した (p<0.01) (Fig. 3c, d)。KLF2およびKLF4の3’UTRルシフェラーゼ活性は、miR-25-3pによって有意に抑制された (Fig. 3a, b)。KLF2またはKLF4を強制発現させると、miR-25-3pによって誘導された血管透過性亢進および管腔形成が回復した (Fig. 3e-g)。さらに、SW480/miR-25-3pエクソソームは、HUVEC単層の透過性 (p<0.01)、管腔形成 (p<0.01)、およびラット大動脈リングアッセイにおける血管新生を著明に促進した (Fig. 2a-c)。HCT116/zip-miR-25-3pエクソソームでは逆の効果が観察された。
in vivo前転移ニッチ形成と転移促進: SW480/miR-25-3pエクソソームをヌードマウスの尾静脈に注射すると (n=5 mice)、肝臓および肺の血管透過性がin vivoで著明に促進され、KLF2、KLF4、ZO-1、occludin、Claudin5の発現が低下し、VEGFR2の発現が増加した (Fig. 5a, c)。HCT116/zip-miR-25-3pエクソソームでは逆の効果が認められた (Supplementary Figure 6B, C)。エクソソーム前処置後にSW480細胞を注射する転移モデルでは、SW480/miR-25-3pエクソソーム群で肺および肝臓の転移コロニー数が有意に増加した (p<0.01) (Fig. 5d)。この効果はmiR-25-3p阻害剤によって消失した。盲腸端移植モデル (HCT116/zip-miR-25-3p) では、肝転移の著明な減少と腫瘍内微小血管密度の低下が確認された (Fig. 6d, e)。
患者血清エクソソームmiR-25-3pと転移の相関: 転移を有するCRC患者の血清エクソソームmiR-25-3pレベルは、健常人および非転移CRC患者よりも有意に高かった (p<0.01) (Fig. 7a)。また、CRC組織切除術後には、85% (17/20例) の患者で血清エクソソームmiR-25-3pレベルが低下した (Fig. 7b)。血清エクソソームmiR-25-3pレベルとCRC組織miR-25-3pレベルは正の相関を示し (Pearson r=0.42, p=0.046)、CRC組織miR-25-3pとKLF2/KLF4の発現は負の相関を示した (Fig. 7c, d)。
考察/結論
本研究は、CRC由来エクソソームmiR-25-3pが血管内皮細胞に転送され、KLF2およびKLF4という2つの転写因子を同時に抑制することで、VEGFR2の発現増加、ZO-1、occludin、Claudin5の発現減少を介した血管透過性亢進と血管新生を促進し、結果として前転移ニッチ形成を誘導しCRC転移を加速するという新規の分子経路を確立した。
先行研究との違い: これまでの研究では、エクソソームmiRNAが血管透過性を制御する例として、乳がん由来miR-105がZO-1を標的とすること (Zhou et al. CancerCell 2014)や、miR-181cが血液脳関門を破壊すること (Zhang et al. Nature 2015) が報告されている。本研究は、KLF2とKLF4という異なる2つの転写因子を同時に標的とすることで、血管バリア破壊と血管新生という前転移ニッチ形成に必要な複数の機能を効率的に誘導する機序を明らかにした点で、これまでの報告と異なる。
新規性: 本研究で初めて、CRC由来エクソソームmiR-25-3pが血管内皮細胞のKLF2とKLF4を同時に抑制し、血管透過性亢進と血管新生を誘導することで前転移ニッチ形成を促進するという、CRC転移におけるmiR-25-3pの新規な役割を明らかにした。この二重標的メカニズムは、前転移ニッチ形成における血管リモデリングの複雑なプロセスを効率的に制御する新規な知見である。
臨床応用: 転移を有するCRC患者の血清エクソソームmiR-25-3pレベルが、転移のない患者や健常人よりも有意に高く、腫瘍切除後にそのレベルが低下したことは、血清エクソソームmiR-25-3pがCRC転移の血液バイオマーカーとして有望であることを示唆する。これは、非侵襲的な液体生検によるCRC転移の診断や、高リスク患者の術後モニタリング、さらには予防的治療のための患者選択に臨床応用できる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、miR-25-3pの治療標的としての可能性をさらに深く探る必要がある。miR-25-3p阻害剤やエクソソーム分泌抑制剤、あるいはKLF4の回復を促す薬剤が、in vivoでCRC転移をどの程度抑制できるか、より詳細な前臨床試験が求められる。また、miR-25-3pが炎症やフィブロネクチン沈着、周皮細胞被覆といった他の前転移ニッチの特性に影響を与えないという本研究の結果は、miR-25-3pが血管透過性と血管新生に特化したメカニズムで作用することを示唆しており、その特異性を利用した治療戦略の開発が今後の研究方向性となる。
方法
まず、転移の有無によるCRC組織のmiRNAマイクロアレイ解析を実施し、転移関連候補miRNAとしてmiR-221、miR-92a、miR-92b、miR-25-3p、miR-1246、miR-371-5pを同定した。これらのうち、27例の新鮮CRC組織におけるRT-PCRにより、miR-25-3pの発現を確認した。次に、SW480およびHCT116細胞においてmiR-25-3pを過剰発現またはノックダウンさせ、これらの細胞からエクソソームを精製した。エクソソームの特性評価は、透過型電子顕微鏡 (TEM) およびウェスタンブロット (CD63、TSG101マーカー) により行った。PKH67で標識したエクソソームとCy3標識miR-25-3pを用いて、HUVEC (Human Umbilical Vein Endothelial Cells) へのエクソソームおよびmiR-25-3pの転送を蛍光顕微鏡で可視化した。miR-25-3p模倣体および阻害剤を用いて、KLF2およびKLF4に対するmiR-25-3pの影響を評価するため、3’UTRルシフェラーゼレポーターアッセイおよびウェスタンブロットを実施した。in vitroでの血管機能評価として、HUVEC単層ローダミン-デキストランアッセイによる血管透過性測定、管腔形成アッセイ、およびラット大動脈リングアッセイによる血管新生評価を行った。in vivo実験では、ヌードマウスの尾静脈にPKH67標識エクソソームを注射し、in vivo血管透過性を評価するとともに、肝臓および肺におけるKLF2/KLF4の発現変化を解析した。転移モデルとして、エクソソーム前処置後にSW480細胞を尾静脈または脾臓に注射し、肝臓および肺の転移コロニー数を計数した。さらに、HCT116/zip-miR-25-3p細胞を用いた盲腸端移植CRCオルソトピックモデルを構築し、肝転移および腫瘍内微小血管密度を評価した。最後に、健常人およびCRC患者 (転移あり/なし、術前後) の血清からエクソソームを抽出し、RT-PCRによりmiR-25-3pレベルを測定し、CRC転移の血液バイオマーカーとしての有用性を評価した。