• 著者: Yuan Liu, Clifford J. Pierre, Sailesti Joshi, Li Sun, Yan Li, Jingjiao Guan, Justin D. La Favor, Christina Holmes
  • Corresponding author: Christina Holmes (FAMU-FSU College of Engineering, Florida A&M University / Florida State University)
  • 雑誌: ACS (American Chemical Society) Applied Materials & Interfaces
  • 発行年: 2024
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38805212

背景

細胞外小胞 (extracellular vesicle; EV) は脂質二重膜に包まれたナノサイズの小胞であり、核酸・脂質・タンパク質を内包して細胞間コミュニケーションを担う。近年 EV は低免疫原性・低細胞毒性・長時間循環性・生理的バリアー透過性などの利点から治療薬ベクターとして注目されており、肺傷害・COVID-19・急性肝傷害・潰瘍性大腸炎・脊髄損傷・移植片対宿主病・骨関節炎・虚血性脳卒中・心保護・創傷治癒・筋骨格修復など広範な適応で前臨床・臨床試験が進行中である。

臨床応用に向けた EV の大量製造最適化のため、培養環境が EV の収量・カーゴ・治療能に与える影響が広く研究されてきた。低酸素条件が EV 分泌を増加させること、2D 対 3D 培養システム・培地組成・細胞プライミングによる差異がそれぞれ報告されている (Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。特に基質の硬さに関しては相反する知見が存在する。Wu et al. 2023 は stiff matrix が AKT 活性化を介して Huh7 肝細胞がん細胞のエクソソーム分泌を増加させ腫瘍成長を促進することを示した。同様に Patwardhan et al. 2021 は stiff matrix が YAP/TAZ シグナルを介して乳がん細胞の EV 分泌・遊走・浸潤を促進することを報告した。一方 Lenzini et al. 2021 は BMSC (bone marrow-derived mesenchymal stromal/stem cell) においては soft hydrogel 上の方が stiff matrix よりも有意に多くの EV が分泌され、その機序にインテグリンを介したシグナルや focal adhesion kinase (FAK) の役割を指摘した。さらに Wang et al. 2023 は低酸素が HIF-1α を介してリソソーム恒常性を障害し多胞体 (MVB、multivesicular body) の EV 方向への輸送を促進することを示した (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)。

知識のギャップ(未解明): これらの先行研究は基質の硬さ(弾性率)という機械的特性に焦点を当てており、細胞外マトリクス (ECM) の生化学的組成——特に COLI (collagen I、コラーゲン I)・FN (fibronectin、フィブロネクチン)・PLL (poly-L-lysine、ポリ-L-リジン) などの接着分子組成——が EV 分泌に与える影響は未解明な部分が多かった。特にインテグリン結合シグナル vs. 非インテグリン経路の EV 産生への寄与の違いが不十分にしか理解されていなかった。さらに cell-type specificity(細胞種特異性)を複数の一次細胞と細胞株で同時に比較した研究は不足していた。本研究はこのギャップを埋めるべく、ECM 成分の COLI・FN・PLL という生化学的性質の異なる 3 種コーティングが 5 種の細胞の EV 産生に与える影響を系統的に評価した。

目的

本研究の目的は、COLI・FN・PLL の各表面コーティングが adipose-derived mesenchymal stromal/stem cells (ASC)・BMSC・NIH3T3 マウス線維芽細胞・RAW264.7 マウスマクロファージ・HEK293 ヒト胎児腎細胞の EV 収量・サイズ・タンパク質含量・形態・機能に与える影響を明らかにし、細胞接着メカニズムと EV 分泌の関係を解明することである。また ECM 微小環境の変化が生理的・病的状況において EV シグナルにどのように影響するかを理解し、治療用 EV の大量製造システム開発の基盤知識を得ることを目指した。

結果

QCM-D によるコーティング物理化学特性の評価

各コーティングの基板表面への吸着特性を quartz crystal microbalance with dissipation (QCM-D) 法で評価した (Fig. 1)。Voigt 粘弾性モデルにより算出した結果、コーティング種が吸着厚さに有意な影響を与えた (p = 0.0002)。最も厚かったのは COLI コーティングで 63.62 ± 15.19 nm、次いで FN が 25.90 ± 2.70 nm、PLL が 12.95 ± 4.57 nm であった (Fig. 1C)。弾性率と粘性も COLI > FN > PLL の順であったが、試験間変動の大きさから統計的有意差には至らなかった。この物理化学的特性の違いにもかかわらず、大半の細胞種において 24 時間後の細胞生存率はコーティング種によって有意に変化しなかった。

EV 収量へのコーティングの細胞種特異的影響

5 種の細胞を各コーティング上で培養し、条件培地から differential ultracentrifugation + PEG 沈殿法で EV を単離した (n = 3 for BMSCs, n = 5 for all other cell types)。nanoparticle tracking analysis (NTA) により収量・サイズを定量した (Fig. 2A, B)。コーティング種が EV 収量に有意な影響を与えたのは NIH3T3 (p = 0.0029)・ASC (p < 0.0001)・RAW264.7 (p < 0.0001) の 3 細胞種であり、BMSC と HEK293 では有意差が認められなかった。より詳細には、NIH3T3 は FN コーティング上で TCP (tissue culture polystyrene) コントロールおよび PLL と比較して有意に高い EV 収量を示した(n = 5 独立実験)。ASC は PLL コーティング上で TCP および FN と比較して有意に高い EV 収量を示した(n = 5)。RAW264.7 はすべての条件の中で COLI コーティング上において有意に最低の EV 収量を示した(n = 5)。コーティング種は EV の平均・最頻サイズには有意な影響を与えなかった(BMSC/ASC: 200-300 nm、NIH3T3/RAW264.7: 150-250 nm)。EV 形態は TEM 観察において全細胞種・全コーティング条件でカップ型の典型的形態を呈した。EV タンパク質含量は RAW264.7 においてのみ有意なコーティング効果が認められ (p = 0.0084)、PLL と COLI が FN および TCP よりも低タンパク含量を示した。

細胞生存率・形態への影響

24 時間後の生死染色および day 4 のトリパンブルー染色による細胞計数で評価した (Fig. 3)。COLI コーティングは RAW264.7 細胞において TCP 比較で有意に 24 時間後の生存細胞数を低下させた (p < 0.05)。FN コーティングは全細胞種で day 4 の細胞数を増加させる傾向にあり、特に NIH3T3 ではすべての他の条件と比較して顕著な増加が認められ、これが NIH3T3 での高い EV 収量に部分的に寄与した可能性がある。ASC においては PLL コーティング上で day 4 に総細胞数変化なしに細胞凝集体が形成され、これが EV 収量増加の重要な機序として示唆された。フィトロイシン染色 (phalloidin) による 24 時間後の F-アクチン細胞骨格評価では、ASC と RAW264.7 で FN 上に最大の細胞伸展が認められ、BMSC では PLL と FN が comparable な高い細胞伸展を示した。NIH3T3 では COLI 上で最大伸展が認められた。

EV バイオジェネシス/分泌遺伝子・細胞接着遺伝子発現への影響

各細胞種を各コーティング上で 24 時間または 4 日間培養した後、EV バイオジェネシス/分泌関連遺伝子(Alix・HRS・SMPD2・SMPD3・Rab27a・Rab27b・TSG101・CD63)および細胞接着関連遺伝子(CTGF・ITGA2・ITGA5・ITGAV・ITGB1・ITGB3)を qRT-PCR で評価した (n = 3、Figs. 4-7)。

ASC では 24 時間時点で EV バイオジェネシス遺伝子発現に有意な変化はなく、CTGF (connective tissue growth factor) が PLL で有意に増加、ITGB3 (integrin β3) が FN で有意に増加した (Fig. 4A, B)。Day 4 では PLL 上の ASC で大半の接着・バイオジェネシス遺伝子が最低発現を示す一方、CTGF と HRS (hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate) は増加傾向にあった (Fig. 4C, D)。この知見は CTGF を介した ASC 凝集体形成が EV 収量増加の主要機序である可能性を支持する。

BMSC では Day 4 で FN 上の SMPD3 (sphingomyelin phosphodiesterase 3) が約 1.6 倍増加、PLL 上の ITGB1 が約 1.4 倍増加、PLL 上の Rab27a が約 3 倍低下、ITGA2 が約 1.4 倍低下、ITGA5 が約 2 倍低下した (Fig. 5C, D)。Rab27a は MVB 由来エクソソームの分泌を制御する GTPase として知られており (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)、BMSC でのコーティング効果は EV 分泌総量には反映されなかったが、サブタイプや cargo 組成への影響を示唆する。

RAW264.7 では COLI コーティング上での EV 収量低下が遺伝子発現と最もよく相関した。COLI は 24 時間時点では Alix・SMPD2 (sphingomyelin phosphodiesterase 2)・SMPD3 発現を最も強く上昇させたが、Day 4 ではこれらを最低発現に反転させた (Fig. 7A, C)。Day 4 ではさらに接着遺伝子発現も COLI 上で最低となり (Fig. 7D)、生存細胞数の低下と EV 収量の低下が一致した。FN は Day 4 の RAW264.7 で CD63・TSG101・SMPD2・SMPD3・ITGAV (integrin αV)・ITGB3 の増加をもたらし、機能的 EV 分泌の活性化を示唆した。

NIH3T3 では EV 収量と EV バイオジェネシス遺伝子発現の明確な相関は認められなかった。Day 4 で COLI 上の Alix・HRS・SMPD3 が増加し、FN 上の Alix と HRS が増加したが、いずれも 2 倍以下の変化幅であった。細胞接着遺伝子は主に 24 時間時点で変化し、Day 4 では変化が小さく、コーティングが初期の細胞接着には影響するが長期培養では影響が減弱することを示した (Fig. 6B, D)。

EV の機能的差異:マクロファージ増殖への影響

各コーティング条件から回収した EV の機能的差異を評価するため、一定 EV 数を RAW264.7 細胞に添加し 72 時間の増殖能を RealTime-Glo MT アッセイで評価した (Fig. 8)。ASC 由来 EV は 2 方向 ANOVA では有意差なし (n = 3) だが、72 時間時点での比較で TCP vs FN (p = 0.0002) および PLL vs FN (p = 0.0005) に有意差が認められた。BMSC 由来 EV では TCP vs FN が 72 時間で p = 0.0006 と有意差を示した。NIH3T3 由来 EV ではコーティング種が 2 方向 ANOVA で有意効果を示し (p = 0.0047)、TCP vs FN で 72 時間 p = 0.0018、TCP vs PLL で 72 時間 p < 0.0001 と有意差があった。RAW264.7 由来 EV では最も顕著な効果が認められ、2 方向 ANOVA で p < 0.0001 の有意効果を示し、PLL vs COLI コーティングが 24 時間 (p = 0.0329)・48 時間 (p < 0.0001)・72 時間 (p < 0.0001) を通じて最大の差異を示した。PLL 由来 RAW264.7-EV がマクロファージ増殖を促進した一方、COLI 由来 RAW264.7-EV は増殖抑制に作用した。これらの差異は総 EV タンパク質含量では説明できず、cargo タンパク質・miRNA・脂質組成やEV表面分子プロファイルの相違が機能的差異の原因と考えられた。

考察/結論

① 先行研究との違い:先行研究では主に基質硬さという機械的特性がEV分泌に与える影響が報告され、Lenzini et al. (ACS Nano 2021) はBMSCでのsoft matrix優位性をインテグリンシグナルの変化で説明した (Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。しかし本研究のBMSCはいずれのコーティング上でも有意な EV 収量変化を示さず、先行研究と異なり、低細胞播種密度やコーティング生化学的性質と硬さの交絡因子が関与することを示唆した。また COLI コーティングが peripheral blood mononuclear cells での EV 分泌を増加させたとの先行報告とは対照的に、本研究では COLI は RAW264.7 での EV 分泌を有意に低下させた。これらの相違点は、コーティング効果の細胞種特異性と実験条件(コーティング濃度・細胞源・継代数など)の重要性を強調する。

② 新規性:本研究が新規に示したのは、COLI・FN・PLL という生化学的性質の本質的に異なる 3 種の表面コーティングが EV 産生に対して細胞種特異的な効果をもたらすという知見である。特に非インテグリン特異的接着因子である PLL が ASC の EV 収量を最大化したことは本研究で初めて明確に示された。PLL がASC においてday 4 の細胞凝集体形成と CTGF (connective tissue growth factor) 発現増加を誘導し、これが 3D スフェロイド様培養と同様のメカニズムで EV 産生を増加させるという仮説は本研究で初めて提示された新規メカニズムである。さらに機能的観点から、EV の総タンパク質含量では説明できない cargo 依存的なマクロファージ増殖調節能の差異を 4 細胞種で網羅的に示したことも新規の知見である。

③ 臨床応用:本研究は治療用 EV の製造プロセス開発において重要な臨床的意義を持つ。EV はMSC由来のものを中心に、肺傷害・クローン病・脊髄損傷・骨関節炎・急性肝傷害・移植片対宿主病など多様な疾患の前臨床試験で有効性が示されており、臨床応用への期待が高い。本研究の知見——ASCからの大量EV産生にはPLLコーティングが有効、NIH3T3系線維芽細胞のEV産生増加にはFNが有効、免疫細胞(RAW264.7)では COLI を避けFNを使用する——は、臨床的EV製造システムの設計指針として直接活用できる。また、ECM組成の生理的・病的変化(肝硬変でのI型コラーゲン沈着増加など)がEVシグナルに与える影響を理解する上でも、本知見の臨床的含意は大きい (Patel et al. Bioengineering(Basel) 2023)。

④ 残された課題:本研究の限界として、遺伝子発現解析はインテグリン・EV バイオジェネシス・メカノトランスダクション関連遺伝子のサブセットに限定されており、タンパク質発現への転換確認が必要である。さらに EV のサブタイプ(エクソソーム vs. 微小小胞)・cargo プロファイル(miRNA・mRNA・タンパク質・脂質)・表面分子構成の解析は行われておらず、機能的差異の分子基盤は未解明のままである。今後の研究では、HSP70・CD81・Rab11b・STAM-1・YAP・TAZ などの追加遺伝子の解析、cell cycle 段階とEV分泌の直接的関係の解明、一次マクロファージおよびマクロファージ極性化アッセイでの確認、BMSCでの高細胞密度条件での再検討、さらには骨形成・脂肪分化・創傷治癒・血管新生に対するEV機能解析が必要である (Colombo et al. JCellSci 2013)。

方法

研究デザインと細胞種: Lewis ラット(メス、8-14 週齢)から一次 ASC および BMSC を単離した(FSU IACUC Protocol 202000070)。RAW264.7 (TIB-71)・HEK293T (CRL-1573)・NIH3T3 (CRL-1658) は ATCC より購入。細胞は high-glucose DMEM + 10% FBS + 1% ペニシリン/ストレプトマイシン、5% CO2 / 37°C で維持した。播種密度は細胞種により異なる(ASC: 9.5×10⁴ / BMSC: 5×10⁴ / RAW264.7: 120×10⁴ / NIH3T3: 25×10⁴ / HEK293T: 40×10⁴ cells/well in 24-well plates)。

コーティング形成: PLL は PBS に溶解後 0.22 μm フィルタで滅菌し -20°C 保存。COLI は 0.1 M 酢酸に溶解し 1N NaOH で pH 7.2-7.4 調整後滅菌。FN は -20°C 保存。すべて 5 μg/cm² の作業濃度まで PBS で希釈(24 穴プレート 1 穴あたり 300 μL)。4°C 一晩(約 16 時間)インキュベーション後、37°C / 5% CO2 / 2 時間インキュベーション → PBS で 2 回洗浄。

QCM-D: QSense Analyzer(Biolin Scientific、ポリスチレン QSX 305 センサー)使用。UV/オゾン前処理で酸化ポリスチレン表面を作製。基本周波数 5 MHz および第 3〜第 11 倍音(15〜55 MHz)で Δf・ΔD を測定。Voigt 粘弾性モデル(SmartFit、DFind ソフトウェア)でコーティング厚さ・弾性率・粘性を算出(n = 4)。統計:Kruskal-Wallis 検定 + Dunn’s 多重比較。

EV 単離: EV 除去 FBS(FBS を SW32 ローターで 29,000 rpm × 20 時間 UC)を含む条件培地を 72 時間収集。Differential UC + PEG 沈殿法:500g/5 分 → 2,000g/10 分 → 10,000g/30 分で上清を回収 → PEG 8% / 1.0 M NaCl で 4°C / 12-16 時間インキュベーション → 3,214g/1 時間遠心 → ペレットを PBS 再懸濁 → 110,000g/70 分 UC で最終 EV ペレットを PBS 溶解。ISEV2023 準拠の特性評価として NTA(NanoSight LM10-HS)でサイズ・濃度評価、BCA アッセイでタンパク質含量測定、TEM(HT7800 RuliTEM、Hitachi)で形態確認(カップ型の典型的 EV 形態を確認)。

遺伝子発現解析: TRIzol 総 RNA 抽出 → qScript cDNA SuperMix 逆転写 → qPCRBIO SyGreen Mix(QuantStudio 7 Flex)で qRT-PCR(384 穴、dedup)。発現量は 2^(−ΔΔCt) 法で Actin に正規化。評価遺伝子:EV バイオジェネシス/分泌(Alix・HRS・SMPD2・SMPD3・Rab27a・Rab27b・TSG101・CD63)+ 細胞接着(CTGF・ITGA2・ITGA5・ITGAV・ITGB1・ITGB3)(n = 3)。

統計: Kruskal-Wallis 検定 + Dunn’s 多重比較(EV 特性・遺伝子発現・細胞生存率)。RAW264.7 増殖アッセイは 2 方向 ANOVA + Tukey’s 多重比較。GraphPad Prism 9.4.1 使用。p < 0.05 を有意と定義。