• 著者: Marina Colombo, Catarina Moita, Guillaume van Niel, Joanna Kowal, James Vigneron, Philippe Benaroch, Nicolas Manel, Luis F. Moita, Clotilde Théry, Graça Raposo
  • Corresponding author: Clotilde Théry; Graça Raposo (Institut Curie, Paris, France)
  • 雑誌: Journal of Cell Science
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-10-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24105262

背景

エクソソームは多胞体 (MVB) の内腔小胞 (ILV) が細胞外に分泌されたものであり、その生合成にはESCRT (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport) 機構が関与すると考えられていた。ESCRTは約20種類のタンパク質で構成され、ESCRT-0・-I・-II・-III複合体とVPS4・ALIX等の付属タンパク質からなる。ESCRT-0 (HRS/HGS, STAM1/STAM) がユビキチン化カーゴを認識し、ESCRT-I・-IIが膜変形を担い、ESCRT-IIIが小胞の切り出しを行い、最後にVPS4 ATPaseがESCRTの解離・再利用に機能する。

しかし、過去の研究では単一のESCRTサブユニットしか検討されておらず、23種類の主要サブユニットを体系的に解析した研究は存在しなかった。この点が未解明なままであり、エクソソーム生合成におけるESCRTの役割に関する知識にギャップが残されている。また、ESCRT非依存的なセラミド介在経路 (Trajkovic et al. Science 2008) やテトラスパニン依存的な経路 (van Niel et al. DevCell 2011) の存在も報告されており、エクソソーム生合成の複雑性が示唆されていた。樹状細胞 (DC) はMHC IIやCD63など異なるマーカーを持つ小胞サブポピュレーションを分泌することが知られており (Buschow et al. Traffic 2009)、各集団の生合成経路の違いは不明であった。さらに、HeLa-CIITA細胞由来のエクソソームと初代DC由来エクソソームとの組成の差異も不明であった。エクソソームの正確な定義については議論が残されているものの (Raposo et al. JCellBiol 2013)、その生合成機構の全容解明はエクソソーム機能の理解と応用において重要な課題である。

目的

23種類のESCRTサブユニットおよび関連タンパク質を体系的にshRNAスクリーニングし、エクソソームの分泌量、サイズ分布、マーカー組成 (MHC II、CD63、HSC70、CD81) への影響を解析することで、エクソソーム生合成における各ESCRTサブユニットの役割を明らかにし、エクソソームの不均一性の分子基盤を解明すること。特に、細胞型間でエクソソームの特性が異なる可能性を考慮し、HeLa-CIITA細胞と初代ヒト樹状細胞 (DC) の両方で解析を実施した。

結果

ESCRT-0/-Iサブユニットのサイレンシングがエクソソーム分泌を著明に減少させる: 23候補のESCRTタンパク質に対するshRNAスクリーニングの結果、HRS (Hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate)、STAM1 (Signal Transducing Adaptor Molecule 1)、TSG101 (Tumor Susceptibility Gene 101) の3種のESCRT-0/-Iサブユニットのサイレンシングがエクソソーム分泌を明確に減少させた (Figure 1B)。これらの遺伝子のサイレンシングは、2種以上のshRNAによりエクソソーム分泌を50%以上有意に減少させた (p<0.001)。大規模WB解析でも、MHC II、HSC70 (Heat Shock Cognate 70)、CD63の3種のエクソソームマーカーがすべて減少し、総エクソソーム分泌量の低下が確証された (Figure 2A-D)。qRT-PCRにより、各標的遺伝子のmRNA発現が有意に抑制されていることを確認した (Supplementary Figure S4)。IEM解析では、HRS KD細胞で拡張した初期エンドソームとILV数の減少が観察され、ESCRT-0のILV形成への直接的関与を形態学的に支持した。HRS KDでは30〜50 nm以下の小型小胞比率がわずかに増加する一方、50〜100 nm・100〜200 nmの小胞が減少した (Figure 3B)。TSG101 KD・STAM1 KDではCD63・MHC IIとも陰性の小胞比率が全サイズカテゴリーで増加し、これらカーゴの内腔小胞への選別にTSG101・STAM1が必要であることが示唆された (Figure 3C, D)。OVA分泌への影響はHRS/STAM1/TSG101 KDでは見られなかったため、これらの効果はエクソソーム特異的であることが確認された。

VPS4Bのサイレンシングがエクソソーム分泌を逆説的に増加させる: ESCRT-III解離ATPaseであるVPS4Bのサイレンシングは、スクリーニングとWB大規模検証の両方でエクソソーム全分泌量を100%以上有意に増加させた (p<0.001) (Figure 1C, 2A-D)。3種のエクソソームマーカー (MHC II、HSC70、CD63) はすべて増加し、IEM解析では小胞サイズ分布はほぼ変化しなかった (Figure 3B)。この逆説的な増加は、ESCRT-III複合体がリソソームへのカーゴ選別に優先的に機能し、VPS4B消失によりESCRT-IIIを解離できないまま分泌経路にカーゴがシフトすることで生じると解釈された。OVA分泌もVPS4B KDで100%以上増加したことから、古典的分泌経路にも影響することが判明した。

ALIXのサイレンシングがエクソソーム組成を選択的に変化させMHC II含量を増加させる: ALIX (ALG-2-interacting protein X) のサイレンシングはエクソソームの総分泌量を変化させず、MHC IIのエクソソームへの取り込みを選択的に増加させた一方でCD63の含有量には有意な変化がなかった (Figure 2A-D)。この組成変化はスクリーニング・WB大規模検証・IEMすべてで一貫して観察された (Figure 3C, D)。IEM解析では、ALIX KD細胞由来エクソソームでMHC II陽性小胞の比率が全サイズカテゴリーで著しく増加し、さらにSTAM1 KD同様に大型小胞 (>100 nm) の比率が増加した (Figure 3B)。細胞レベルでの解析により、ALIX KD細胞では総MHC II量が25〜140%増加しており (WB・FACS)、MVBのMHC IIも増加していた (超薄切片IEM) (Figure 4A-C)。この増加はMHC IIのmRNA (HLA-DRA・HLA-DRB1) レベルの増加によるものであり、ALIXを再発現させると抑制されたことから、ALIXが予期せぬ形でMHC IIの転写調節に関与することが示された (Figure 5A, B)。初代ヒトDCでもALIX KDにより未熟DC細胞のMHC II量が増加したが (30-400%増加)、CD63は変化しなかった (Figure 6A, B)。

エクソソームの組成不均一性と細胞型間の差異: 全量標本IEM解析から、100,000 gペレット中には単一均質な集団ではなく少なくとも3種類の小胞が存在することが明らかになった。30〜50 nm小型小胞はCD63に富み、50〜100 nm中型小胞がCD63/MHC II両方を発現する割合が最高であり、100〜200 nm大型小胞はMHC IIに富んだ (Figure 3C)。CD63とMHC IIの両方を発現する小胞は条件によらず総小胞の10〜20%のみであった。HeLa-CIITA由来小胞と比較して、初代ヒトDC由来小胞はサイズが不均一 (50〜100 nmと100〜200 nmが同比率)、CD63陽性率が低く、MHC II含量が高いという特徴を持ち、ドナー間変動も大きかった (Figure 7C, D)。ALIX KDによるDCのMHC II増加は、HeLa-CIITA細胞での明確な増加と対照的に、7名中2名のみで軽度の増加が認められ、他は変化なしまたは減少であった (Figure 7A)。これはDC由来EVが異質性の高い集団からなり、異なるドナー間で多様なサブポピュレーションが分泌されることを示す。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は23種類のESCRTサブユニットを系統的にスクリーニングした最初の研究であり、エクソソーム分泌に明確な影響を持つサブユニットはHRS、STAM1、TSG101、VPS4Bの4種のみであることを確立した点で、これまでの単一または少数のESCRTサブユニットに焦点を当てた研究と異なり、より包括的な知見を提供した。特に、VPS4Bのサイレンシングがエクソソーム分泌を増加させるという逆説的な結果は、ESCRTが単にILV形成を促進するだけでなく、リソソーム分解経路と分泌経路の間のカーゴ運命決定にも関与するという「リソソーム-分泌バランス」モデルを支持するものであり、先行研究の知見を拡張する。

新規性: 本研究で初めて、ALIXがMHC IIの細胞内発現量およびmRNAレベルを調節するという新規の役割を同定した。これは、ALIXが単に小胞輸送に関わるだけでなく、遺伝子発現制御にも関与する可能性を示唆する。また、HeLa-CIITA細胞と初代DC由来エクソソームの組成とサイズ分布が大きく異なることを詳細に示した点も新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、エクソソームを治療担体や抗原提示担体として利用する際の臨床応用に直結する。特定のカーゴを持つエクソソームサブポピュレーションを選択的に産生・精製するための分子機構の理解は不可欠であり、ESCRT依存的なHRS/TSG101経路とALIX依存的な経路を選択的に操作することで、特定のカーゴを持つエクソソームサブポピュレーションを優先的に産生する戦略が可能となる。

残された課題: 今後の検討課題として、スクリーニング系の設計がCD63・CD81・MHC IIを二重検出する特定の集団のみを捕捉するため、他のエクソソームマーカーを持つ集団への影響は不明のままである。また、各ESCRTサブユニットがどのサイズ・組成のILVの形成に特異的に関与するかのより詳細な解析、およびセラミド経路やテトラスパニン依存的経路との相互作用の解明が今後の重要課題として残されている。初代DCとHeLa-CIITA細胞で異なる反応パターンが観察されたことは、in vitroモデルから臨床応用への外挿に慎重さが必要なことを示すlimitationである。

方法

細胞と実験系: MHC II発現HeLa-CIITA-OVA細胞株を使用。この細胞はOVA (オバルブミン) を分泌するため古典的分泌経路の対照としても利用できる。23種類のESCRTタンパク質 (ESCRT-0: HRS/HGS, STAM1/STAM; ESCRT-I: TSG101, VPS28, VPS37A; ESCRT-II: SNF8, VPS25, VPS36; ESCRT-III: CHMP1B, CHMP2A, CHMP2B, CHMP4A, CHMP4B, CHMP4C, CHMP5, CHMP6; 解離複合体/付属タンパク: VPS4A, VPS4B, VTA1, ALIX 等) を標的とするshRNAをレンチウイルスベクターで感染導入しピューロマイシン選択した。

スクリーニング: 各候補遺伝子に対して5種類のshRNAを使用し、96ウェルプレート形式で実施した (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)。各細胞をエクソソーム除去培地で48時間培養後、抗CD63コートビーズにエクソソームを捕捉し、抗CD81・抗HLA-DR (MHC II) 抗体でフローサイトメトリー定量した。CD63はHeLa-CIITA細胞のMVB内腔小胞に蓄積することが報告されている (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)。OVAは抗OVAビーズで捕捉し古典的分泌経路を評価した。少なくとも2種のshRNA (mRNA発現が50%以上抑制) が同方向に分泌を変化させた場合に候補遺伝子と判定した。細胞増殖や生存に影響を与えないshRNAのみをさらなる解析の対象とした。

検証実験: 大規模培養 (n=1-2×10⁸ cells) で差次遠心法によりエクソソームを精製した (Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006)。ウエスタンブロット (WB) でMHC II・HSC70・CD63を定量した。免疫電子顕微鏡 (IEM) で100,000 g沈殿物を全量標本として金コロイド (PAG10: CD63、PAG15: MHC II) で免疫標識し、200個の小胞をサイズ・金粒子数について定量した。ALIX KDの解析ではWB・FACS・超薄切片IEMを組み合わせ、mRNA発現はqRT-PCRで定量した。

初代DC: ヒト血液単球由来DCをshALIX処理し、WBとFACSでMHC II発現を解析した。成熟DC (LPS+IFNγ処理) と未熟DCを比較した。統計解析にはGraphPad Prismソフトウェアを使用し、一元配置ANOVA、Tukeyの多重比較検定、Wilcoxon符号順位検定、対応のあるt検定を用いた。