• 著者: J. Castillo, V. Bernard, F.A. San Lucas, K. Allenson, M. Capello, D.U. Kim, P. Gascoyne, F.C. Mulu, B.M. Stephens, J. Huang, H. Wang, A.A. Momin, R.O. Jacamo, M. Katz, R. Wolff, M. Javle, G. Varadhachary, I.I. Wistuba, S. Hanash, A. Maitra, H. Alvarez
  • Corresponding author: Anirban Maitra (Sheikh Ahmed Pancreatic Cancer Research Center, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29045505

背景

膵管腺癌 (PDAC) は組織生検が困難なため、液体生検 (liquid biopsy) によるゲノムプロファイリングへの期待が高い。Bailey et al. (Nature 2016) はPDACゲノム解析で複数の分子サブタイプを同定し、Waddell et al. (Nature 2015) は全ゲノム解析でPDACの変異景観を再定義するなど、包括的ゲノム情報が診断・予後・治療選択に有用であることが示されている。腫瘍由来の細胞外小胞であるエクソソームは、DNA・microRNA・タンパク質などのcancer-specific materialを膜内に包含しており、循環腫瘍DNA (ctDNA) に並ぶ液体生検の有望な素材として注目されてきた。Costa-Silva et al. はPDAC由来エクソソームが肝転移前ニッチ形成を促進することを示し (Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015)、Kahlert et al. はPDAC患者血清エクソソームに全染色体にわたるKRAS・TP53変異を含む二本鎖DNAが含まれることを報告した (Kahlert et al. JBiolChem 2014)。しかし、循環エクソソームの大部分は非腫瘍組織由来であり、腫瘍由来エクソソームが大量の非腫瘍由来核酸に希釈されることで、特に化学療法施行中の患者ではctDNA・exoDNAの検出感度が著しく低下するという問題が指摘されていた。PDAC特異的エクソソーム表面マーカーの研究として、Melo et al. はGPC1 (glypican-1) が高感度・高特異的なPDAC exosomeバイオマーカーになりうると報告したが (Melo et al. Nature 2015)、その独立した再現性は手薄であり、複数の研究施設での検証が不足していた。すなわち、「PDAC由来エクソソームを血漿から選択的に濃縮するための信頼性の高い表面マーカーパネル」の確立が未解明であり、液体生検の実臨床応用における重大なギャップ (gap) となっていた。何が不足していたかというと、大量の非腫瘍由来エクソソームの中からPDAC特異的エクソソームのみを選択的に濃縮するための、検証済みの複数マーカーパネルと免疫捕捉プロトコルが確立されていなかった点である。本研究はこの課題に対し、網羅的プロテオミクスによるPDAC exosomal surfaceomeの包括的解析によって取り組んだ。

目的

液体クロマトグラフィー質量分析法 (LC-MS) によるPDAC細胞株エクソソームのsurfaceome包括解析でPDAC特異的表面タンパク質候補を網羅的に同定し、選択した抗体カクテルによるビーズ免疫捕捉法でPDAC由来エクソソームを血漿から特異的に濃縮することにより、化学療法施行中PDAC患者でのKRAS変異検出率の向上と包括的NGS (next-generation sequencing, 次世代シーケンシング) 分子プロファイリングの実現可能性を実証すること。

結果

PDAC特異的エクソソーム表面マーカーの同定とバイオマーカー選定:PDAC細胞株13種・非腫瘍細胞株2種のLC-MS/MSにより7,086タンパク質 (3,663遺伝子) を同定し、≥3検体で表面発現が確認された1,057タンパク質 (482遺伝子) を「エクソソームsurfaceome」として定義した (Fig 1A)。非腫瘍細胞株での最大スペクトラルカウント≤1かつ≥3 PDAC細胞株で発現する条件でPDAC特異的候補を絞り込み、ExoCarta注釈・生物学的合理性・抗体入手可能性で優先順位付けした。ウエスタンブロット検証を経て最終的に6種の抗体カクテルを選定した:CLDN4 (claudin-4、PDACおよびその前駆病変であるPanIN (pancreatic intraepithelial neoplasia, 膵上皮内腫瘍) で過剰発現、早期検出への示唆あり)、EPCAM (epithelial cell adhesion molecule、FDA承認のCTC (circulating tumor cell, 循環腫瘍細胞) 単離マーカー)、CD151 (tetraspanin, テトラスパニン; EMT (epithelial-mesenchymal transition, 上皮間葉転換) 誘導・転移促進に関与)、LGALS3BP (galectin-3 binding protein、腫瘍細胞の生存・遊走・転移促進、予後バイオマーカー候補)、HIST2H2BE・HIST2H2BF (histone H2B variants, ヒストンH2B変異体; 腫瘍由来エクソソームに選択的に濃縮)。ウエスタンブロットでは、CD151やH2Bは細胞ライセート全般で発現するものの、エクソソーム分画ではPDAC細胞株にのみ濃縮されるという選択的濃縮パターンが確認された (Fig 1B)。

既報GPC1の腫瘍特異性の否定:GPC1について4種類の市販抗GPC1抗体を用いたウエスタンブロットを実施したところ、PDAC細胞株3種のエクソソームでは発現が確認されず、非腫瘍細胞株 (CAF19、SC2 (non-malignant stromal cell line)) での発現が検出された。ExoCarta公開データベースでもGPC1は非腫瘍組織由来EVで発現が確認されており、GPC1単一マーカーとしての特異性に根本的な疑問が生じた。Yang et al. (Sci Transl Med 2017) も多パラメータEVプロファイルがPDAC診断に有効と報告しており、単一マーカーよりも多重化パネルの優位性が支持された。

KRAS変異検出率の大幅向上 (ddPCR):化学療法施行中コホート1 (n=74名、136検体、総エクソソーム・濃縮なし) でのKRAS変異全体検出率は44.1%であり、内訳は切除可能32.7% (17/52)、局所進行50.0% (15/30)、転移51.8% (28/54) であった (Fig 2A)。抗体カクテル免疫捕捉を施行したコホート2 (n=29名、37検体) では全体73.0% vs 44.1%に改善し、切除可能70.6% vs 32.7% (12/17 vs 17/52)、局所進行71.4% vs 50.0% (5/7 vs 15/30)、転移76.9% vs 51.8% (10/13 vs 28/54) といずれの病期でも一貫した改善を示した。この検出率はddPCRアッセイの理論上検出上限 (既知KRASホットスポットの最大80%検出) に近い水準であり、化学療法中でも大多数の患者に腫瘍由来循環物質が存在するが非腫瘍エクソソームに圧倒されていることを示す。コホート全体で捕捉後サンプルはKRAS陽性である確率が3.28-fold高く (OR 3.28、95% CI: 1.41-8.19、p=0.002)、特に切除可能患者で有意な改善が認められた (p=0.024、OR 4.11、95% CI: 1.14-17.19)。

KRAS MAFの有意な増加とNGS適格率の改善:捕捉エクソソームは総エクソソームと比較し切除可能患者 (p=0.003) および転移患者 (p=0.015) においてKRAS MAFが有意に高く (片側Wilcoxon Rank Sum検定、Fig 2B)、これは腫瘍由来核酸の選択的濃縮効果を定量的に裏付ける。DNA収量は濃縮エクソソーム平均19.17 ng (範囲0.11-125.72 ng)、総エクソソーム平均24.13 ng (範囲0.12-636.00 ng) であった。NGS適格率 (KRAS MAF >1%かつDNA量 >1 ng の両条件を満たす) は切除可能患者で総エクソソーム44%から濃縮後67%に改善し、最も腫瘍量が少ないとされる切除可能期患者における有用性が示された。

転移性PDAC症例でのPARP阻害剤耐性機構の解明:膵がん切除後に肝転移を来たし、生殖細胞系列BRCA2 L583* (フレームシフトストップゲイン変異) を有するためPARP1阻害剤ルカパリブ臨床試験に組み込まれた転移性PDAC患者1例について、経時的液体生検を実施した (Fig 3A)。ddPCRによるKRAS変異量が疾患進行と一致して増加することを確認し、ddPCR陰性 (KRAS MAF 0%) であった治療中検体でも免疫捕捉濃縮後にKRAS MAFが3.2%に上昇した。分子バーコード付きターゲットNGSにより、原発腫瘍・転移組織に共通するKRAS・TP53・BRCA2変異を同定した (Fig 3B)。さらに液体生検でのみ検出された二次BRCA2スプライスサイト変異を同定し、この変異がBRCA2 L583* 変異を含むエクソン10をスプライシングアウトして全長mRNAの転写を可能とし、PARP阻害剤耐性を付与する分子機構を解明した (Fig 3C)。これはエクソソーム濃縮を組み合わせた液体生検が治療抵抗性機構のリアルタイム検出に有用であることを示す注目すべき実証例であった。

考察/結論

本研究は、LC-MSによるPDAC exosomal surfaceomeの系統的解析を通じて、血漿からPDAC由来エクソソームを選択的に捕捉するための6種の抗体カクテル (CLDN4・EPCAM・CD151・LGALS3BP・HIST2H2BE・HIST2H2BF) を確立し、化学療法施行中のPDAC患者でKRAS変異検出率を44.1%から73.0%へ向上させた本研究で初めて包括的なPDAC exosomal surfaceome解析が臨床液体生検の感度改善に結び付けられた。これまでの研究では、循環腫瘍由来核酸が大量の非腫瘍由来エクソソームに希釈されるという根本問題が解決されておらず、特に化学療法中の患者での「偽陰性」問題が液体生検の臨床実装における大きな壁となっていた。本研究で初めてsurfaceome解析に基づく腫瘍特異的濃縮戦略がこの希釈問題を克服できることが実証されたことは新規な知見である。

これまでの研究においてGPC1が高感度・高特異的なPDAC exosomeマーカーと報告されていたが (Melo et al. Nature 2015)、本研究の知見はこれと対照的に、GPC1が非腫瘍細胞株エクソソームにも発現することを複数抗体を用いて実証した。この相違は使用した抗体クローン・細胞株・エクソソーム単離条件の違いを反映する可能性があり、既報のGPC1特異性については今後の検討が必要である。またHistoneH2B (HIST2H2BE・HIST2H2BF) がPDAC由来エクソソームに選択的に濃縮されたという知見は既報にはなく、核内でDNAセンサーとして機能するH2BがCD63陽性後期エンドソームを介してエクソソームに組み込まれ、変異DNAとともに輸送されるという新規なDNAパッケージング機構を示唆する。

本知見の臨床応用として、最も重要な点は化学療法施行中の患者において従来法で陰性であった「偽陰性」検体からも腫瘍DNAを検出できた点であり、治療効果モニタリングおよび耐性機構のリアルタイム検出への臨床的意義が大きい。特にBRCA2変異を有するPARP阻害剤耐性症例において、組織生検では検出不能であった二次BRCA2スプライスサイト変異を液体生検で同定できたことは、エクソソーム濃縮と次世代シーケンシングを組み合わせた新規な個別化治療戦略の橋渡し (bench-to-bedside) における実現可能性を示す。エクソソームはDNAのみならずmRNAやタンパク質も包含するため、液体生検から得られる腫瘍情報量をctDNA単独と比較して大幅に拡張できる可能性がある (San Lucas et al. AnnOncol 2016)。

残された課題として、第一に血漿量制約 (11.7 mL) から同一患者での捕捉・非捕捉サンプルの同時採取ができず直接比較が不能であったこと、第二に捕捉コホートがn=29名と小規模であり結論の一般化には限界があること、第三に健常対照コホートでのKRAS偽陽性率評価が未実施であること、第四に超遠心法+ビーズ免疫捕捉を組み合わせた4日間のプロセスが臨床現場での実装コストを高めることが挙げられる。今後の検討として、マイクロフルイディクスを用いたエクソソーム捕捉システム (ExoChip等) やナノプラズモニクスベースの迅速低コスト手法への移行、大規模前向きコホートでの独立検証、および多重化液体生検パネルにおけるGPC1の役割の再評価が今後の研究における重要な課題となる。

方法

試料・細胞株とエクソソーム単離:MIAPaCa-2 (human pancreatic carcinoma cell line, ATCC CRL-1420)、Pa01C (patient-derived PDAC cell line)、Pa02C (patient-derived PDAC cell line)、Pa03C (patient-derived PDAC cell line)、Pa04C (patient-derived PDAC cell line)、Pa07C (patient-derived PDAC cell line)、Pa08C (patient-derived PDAC cell line)、Pa09C (patient-derived PDAC cell line)、Pa021C (patient-derived PDAC cell line)、Pa028C (patient-derived PDAC cell line)、PATC43 (patient-derived tumor culture)、PATC66 (patient-derived tumor culture)、PATC92 (patient-derived tumor culture) の計13種のヒトPDAC細胞株、およびCAF19 (cancer-associated fibroblast cell line) とHPNE (human pancreatic normal epithelial cell line) の2種の非腫瘍細胞株からエクソソームを単離した。エクソソーム単離はdUC (differential ultracentrifugation, 超遠心法) に基づく標準的手順で実施し、canonical EV characterization markers (CD63, CD9, TSG101) のウエスタンブロット陽性により、ISEV/MISEV (International Society for Extracellular Vesicles / Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) characterization criteria に準じたエクソソーム分画の確認を行った。

Surfaceome解析 (LC-MS/MS):エクソソーム表面タンパク質をビオチン標識→モノマーアビジンアフィニティー捕捉で貨物区画から分離し、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析 (LC-MS/MS) で解析した。計7,086タンパク質 (3,663遺伝子) を同定し、ExoCarta EVデータベース (160エクソソーム実験・166サンプル由来) で注釈を付与した。PDAC特異的候補はウエスタンブロットで検証した。

臨床検体と液体生検プロトコル:103名のPDAC患者から前向きに173検体の血液を収集し超遠心法でエクソソームを単離した。コホート1 (n=74名、136検体) に対し化学療法施行中にddPCR (droplet digital PCR, BioRad) によるKRAS MAF (mutant allele frequency, 変異アレル頻度) をベースラインとして評価した。コホート2 (n=29名、37検体) に対し、選択した6種の抗体カクテル (抗CLDN4、EPCAM、CD151、LGALS3BP、HIST2H2BE、HIST2H2BF) を用いたビーズ免疫捕捉法でPDAC特異的エクソソームを濃縮し、ddPCRでKRAS変異を解析した。治療抵抗性転移性PDAC患者1例の濃縮exoDNAに対し、分子バーコード付きターゲットNGSパネルで包括的な分子プロファイリングを実施した。

統計解析:KRAS MAFの群間比較には片側Wilcoxon Rank Sum検定を使用し、KRAS検出率の比較にはロジスティック回帰によるodds ratio (OR) と95% CIを算出した。病期分類はAmerican Joint Committee on Cancer (AJCC) ガイドラインに従った。