- 著者: Vincent Bernard, Dong U. Kim, F. Anthony San Lucas, Jonathan Castillo, Kelvin Allenson, Feven C. Mulu, Bret M. Stephens, Jonathan Huang, Alexander Semaan, Paola A. Guerrero, Nabiollah Kamyabi, Jun Zhao, Mark W. Hurd, Eugene J. Koay, Cullen M. Taniguchi, Joseph M. Herman, Milind Javle, Robert Wolff, Matthew Katz, Gauri Varadhachary, Anirban Maitra, Hector A. Alvarez
- Corresponding author: Anirban Maitra, Hector A. Alvarez (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX)
- 雑誌: Gastroenterology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-01-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 30240661
背景
膵管腺がん (PDAC (pancreatic ductal adenocarcinoma)) は、全悪性腫瘍の中でも極めて予後が不良な疾患であり、切除可能な段階で発見される割合は15%未満にとどまり、5年生存率は30%以下である。治療効果の判定や再発の早期検知には、リアルタイムで腫瘍の動態を把握するモニタリング手法が必要不可欠である。近年、循環腫瘍DNA (ctDNA (circulating tumor DNA)) を用いたリキッドバイオプシーが、乳がんや大腸がん、肺がんなどの領域で臨床的有用性を示してきた。しかし、PDACにおいては腫瘍由来のctDNAが血中に放出される量が極めて少なく、検出感度が不安定であるため、予後予測因子としての一貫したエビデンスは十分に確立されていなかった。一方、細胞外小胞の一種であるエクソソームは、腫瘍細胞から大量に分泌される直径40-150 nmの脂質二重膜小胞であり、その内部に包含される核酸 (exoDNA (exosome-derived DNA)) はヌクレアーゼによる分解から保護され、高分子量フォーマットで血中を安定して循環することが知られている。先行研究として、Thakur et al. CellRes 2014 や Kahlert et al. JBiolChem 2014 は、エクソソーム内に二本鎖ゲノムDNAが存在し、がん検出の新規バイオマーカーとなり得ることを報告した。また、Bettegowda et al. SciTranslMed 2014 は様々な進行固形がんにおけるctDNAの検出感度を評価したが、PDACにおける検出率は他のがんに比べて低く、臨床的有用性の確立には至っていなかった。さらに、Lucas et al. AnnOncol 2016 はエクソソームを用いたゲノム・トランスクリプトーム解析の可能性を示したものの、大規模な前向きコホートにおいてexoDNAとctDNAの予後予測能や治療モニタリングにおける有用性を直接比較した研究は不足しており、両者の相補的な役割や臨床的な位置づけは未解明のままであった。この臨床的有用性に関するエビデンスの不足が、PDAC治療におけるリアルタイムな意思決定の大きな課題となっていた。
目的
本研究の目的は、PDAC患者の前向き大規模コホートにおいて、血漿exoDNAおよびctDNA中のKRAS変異アレル頻度 (MAF (mutant allele fraction)) を定量し、その臨床的有用性を多角的に検証することである。具体的には、(1) 治療前のexoDNAおよびctDNAのKRAS MAFと、患者の無増悪生存期間 (PFS (progression-free survival)) および全生存期間 (OS (overall survival)) との独立した予後相関を明らかにすること、(2) 組織生検および切除標本におけるKRAS変異とリキッドバイオプシーとの一致率を比較検証すること、(3) 治療中の縦断的腫瘍モニタリングにおいて、放射線画像診断や既存の腫瘍マーカーであるCA19-9 (carbohydrate antigen 19-9) に対する循環核酸の優位性やリードタイムを検証すること、(4) 術前化学放射線療法 (neoadjuvant therapy) を受ける局所切除可能患者における切除可能性の予測能を評価すること、を目的とする。これにより、複数の循環核酸マーカーを組み合わせたマルチアナライトアプローチが、PDACの個別化治療における予後予測精度を向上させるかを検証する。
結果
治療前exoDNA KRAS MAF 5%以上による強力な予後予測能: 転移性PDACの治療前未治療患者 (n=104) において、治療前の血漿exoDNAにおけるKRAS MAF 5%以上は、Kaplan-Meier解析において極めて有意な予後不良因子であった。具体的には、exo KRAS MAF 5%以上の群は5%未満の群と比較して、PFS中央値が 71 vs 200日 (HR 4.78 (95% CI 2.47-9.26, p<0.0001)) と有意に短縮し、OS中央値も 204 vs 440日 (HR 7.31 (95% CI 3.15-17.00, p<0.0001)) と著しく不良であった (Figure 3)。多変量解析においても、exo KRAS MAF 5%以上はPFSの独立した予後不良因子 (HR 2.28 (95% CI 1.18-4.40, p=0.014)) およびOSの独立した予後不良因子 (HR 3.46 (95% CI 1.40-8.50, p=0.007)) として有意性を維持した。さらに、マルチアナライトアプローチとして、治療前のexo KRAS MAF 5%以上とctDNA陽性の両方を満たす患者群では、OSのハザード比が HR 7.73 (95% CI 2.61-22.91, p=0.00002) と極めて高い値を示し、両マーカーを組み合わせることで予後予測能が大幅に向上することが示された。また、exo KRAS MAF 5%以上と CA19-9 300 U/mL 以上の組み合わせにおいても、OSのハザード比は HR 6.41 (95% CI 2.31-17.80, p=0.0004) を示し、強力な予後予測能が確認された。
exoDNAとctDNAの検出感度および臨床的背景との相関: 治療前の転移性PDAC患者 (n=102) におけるKRAS変異検出率は、exoDNAで61%であり、ctDNAの53%と同等以上であった (Figure 1)。一方、局所切除可能PDAC患者 (n=66) における検出率は、exoDNAで38%、ctDNAで34%であった。疾患対照群 (膵嚢胞でexoDNA 12%, ctDNA 16%、非腫瘍性膵疾患でexoDNA 25%, ctDNA 17%) と比較して、PDAC患者では有意に高いKRAS MAFを示した (p<0.0001)。また、肝転移を有する患者は、肺や腹膜転移のみの患者と比較して有意に高いKRAS MAFを示し (p=0.044)、線形回帰分析においてexoDNAおよびctDNAのKRAS MAFは、腫瘍径の指標であるSLD (sum of longest diameters) と有意に相関した (exoDNA: p=0.0353, ctDNA: p=0.0008)。ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) が悪化するにつれて、KRAS MAFも有意に上昇した (p=0.018)。これらの結果は、循環核酸中のKRAS変異量が、生体内の総腫瘍量や患者の全身状態をリアルタイムに反映していることを示唆している。
組織変異とリキッドバイオプシーの高い一致率: 外科切除標本 (n=22) における組織とリキッドバイオプシーのKRAS変異一致率は、exoDNAで95.5%であったのに対し、ctDNAでは68.2%にとどまった。また、細針吸引生検 (n=12) における一致率は、exoDNAで83.3%であったのに対し、ctDNAでは66.8%であった (Table S4)。この結果は、exoDNAが組織生検の代替として極めて高い精度を持つことを示しており、ctDNAの一致率を大きく上回るものであった。この一致率の差は、エクソソームの脂質二重膜構造が内部 of DNAを核酸分解酵素から保護し、高分子量フォーマットで保持する特性に起因すると考えられた。これにより、従来のctDNA解析では検出が困難であった低濃度の腫瘍由来ゲノムDNAであっても、エクソソームを介することで高感度かつ安定的に検出可能となることが実証された。
縦断的モニタリングにおける画像診断に先立つ病勢進行の早期検知: 転移性PDAC患者 (n=34) から採取された123サンプルの縦断的解析において、治療中のexo KRAS MAFが1%以上のピークに達することは、RECIST 1.1基準による画像上の病勢進行と極めて有意に関連した (p=0.0003) (Figure 4)。このexo KRAS MAF 1%以上のピーク検出は、感度79%、特異度100%で病勢進行を予測できたが、ctDNAの縦断的変動には予測的な有意性は認められなかった。さらに、exo KRASのピーク検出から実際のCT画像による進行確認までには中央値50日のリードタイムが存在したのに対し、CA19-9の上昇 (20%以上の増加) によるリードタイムは中央値0日であり、画像診断とほぼ同時にしか進行を検知できなかった。Bayesian推論では、exo KRAS MAF 1%以上出現時の進行確率は100%であり、1%未満を維持した場合の非進行確率は90%であった。この50日というリードタイムは、画像上で明らかな増悪が認められる前に、治療抵抗性を早期に察知し、治療レジメンの変更を検討するための極めて重要な時間的猶予をもたらす。
術前化学放射線療法における切除可能性の予測: 局所切除可能PDAC患者 (n=34) を術前化学放射線療法前後で縦断的に評価したところ、治療前後でのexo KRAS MAFの低下は、その後の外科切除の実施と有意に相関した (OR 38.4 (95% CI 3.95-373.3, p=0.0002)) (Figure 2)。実際に切除が行われた患者の71% (12/17) でベースラインからのMAF低下が確認されたのに対し、切除不能となった患者の94% (16/17) ではMAFが増加または不変であった。CA19-9の変動も切除可能性と相関したが (OR 28.0 (95% CI 2.65-295.9, p=0.003))、CA19-9非発現患者 (全体の33%) や閉塞性黄疸を合併する患者ではCA19-9の信頼性が失われるため、exoDNAが唯一の有用なモニタリング指標となった。ある1例においては、画像上は進行が不明瞭であったにもかかわらず、術前のexo KRAS MAF上昇が認められ、その後の開腹手術においてCTでは検出できなかった大網転移が発見され、切除中止となった事例も報告された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、ctDNAのみに焦点を当てていたこれまでの小規模な研究と異なり、前向き大規模コホートにおいて血漿exoDNAとctDNAを直接比較し、その動態を詳細に追跡した点で大きく異なる。また、Mohrmann et al. ClinCancerRes 2018 が進行固形がんにおいてexoDNAの独立した予後予測能を示したことと調和的でありつつ、本研究はPDACに特化してその有用性を強固に実証した。
新規性: 本研究で初めて、治療中の血漿exoDNAにおけるKRAS MAFの1%以上のピークが、画像上の病勢進行に先立って中央値50日のリードタイムをもって進行を予測できることを新規に同定した。また、exoDNAとctDNAが異なる生物学的起源(エクソソームは生細胞からの能動的分泌、ctDNAは壊死・アポトーシス細胞からの受動的放出)を反映している可能性を示し、両者の組み合わせが極めて強力な予後予測能(OS HR 7.73)を持つことを本研究で初めて明らかにした。
臨床応用: 本知見は、PDAC治療におけるリキッドバイオプシーの臨床応用に直結する。特に、画像診断より約50日早く治療抵抗性を検知できることは、無効な化学療法を早期に中止し、患者の全身状態が維持されているうちに次の治療レジメンへ移行するという、臨床現場における個別化治療の実現に大きく貢献する。また、CA19-9非発現患者や黄疸患者においても、exoDNAが信頼性の高い代替マーカーとして機能することは、極めて高い臨床的有用性を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、単一のKRAS変異アッセイ(理論的検出上限は約80%)から、TP53、CDKN2A、SMAD4などを含むマルチジーンパネルへの拡張による検出感度の向上が挙げられる。また、本研究で設定されたMAFの閾値(5%および1%)について、多施設共同の前向きコホートによる外部検証と標準化を行うことが残された課題である。さらに、治療レジメンごとのexoDNA動態パターンの違いを解析することや、Castillo et al. AnnOncol 2018 が示したようなエクソソーム表面プロファイリング技術を応用し、がん特異的なエクソソームを濃縮することで、RNAやタンパク質カーゴを統合した包括的な多変量リキッドバイオプシーパネルの開発を進めることが今後の研究方向性として期待される。これらのがんゲノムデータの統合的解析には、Cerami et al. CancerDiscov 2012 などのオープンなプラットフォームの活用も視野に入れるべきである。
方法
本研究は、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターにおいて、2015年4月7日から2017年10月13日までに前向きに登録された、組織学的に確認されたPDAC患者194例 (転移性104例、局所切除可能90例) を対象とした。これらの患者から、治療前 (ベースライン) および治療中の複数のタイムポイントにおいて、合計425サンプルの全血を採取した。また、疾患対照群として、膵嚢胞患者25例および非腫瘍性膵疾患患者12例を含む37例からも血液サンプルを収集した。全血から遠心分離により血漿を分離し、超遠心法を用いてエクソソームを単離した。exoDNAおよびctDNAの抽出には QIAamp Circulating Nucleic Acid Kit を使用した。KRAS変異の定量には、ddPCR (droplet digital polymerase chain reaction) (BioRad QX200) を用い、主要な7種の変異 (G12V, G12D, G12R, G12C, G12S, G12A, G13D) を検出するマルチプレックスアッセイを実施した。ddPCRのPCR効率確認および陽性コントロールとして、膵がん細胞株である Pa04C および Panc1 のDNAを使用した。組織変異との一致率検証は、外科切除標本22例 (FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded)) および細針吸引生検12例で実施した。縦断的解析は、34例の転移性患者から得られた123サンプルの連続血液検体を用いて実施した。画像上の病勢進行は、RECIST 1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours version 1.1) 基準 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づき、盲検化された放射線科医が評価した。予後解析には Kaplan-Meier 法および Cox 比例ハザードモデル (Cox regression) を用い、単変量および多変量解析を実施した。KRAS MAFの最適閾値は、ROC (receiver operating characteristic) 解析における Youden index を用いて決定した。術前化学放射線療法前後における循環核酸の変動と外科切除実施率との関連は、Fisher’s exact 検定を用いてオッズ比 (OR (odds ratio)) を算出し評価した。群間比較には Wilcoxon signed-rank test、Mann-Whitney U test、Kruskal-Wallis 検定、および線形回帰分析を用いた。さらに、縦断的モニタリングにおける病勢進行の確率評価には Bayesian 推論を用いた。