• 著者: Di Wu, Junhong Yan, Xia Shen, Yu Sun, Måns Thulin, Yanling Cai, Lotta Wik, Qiujin Shen, Johan Oelrich, Xiaoyan Qian, K. Louise Dubois, K. Göran Ronquist, Mats Nilsson, Ulf Landegren, Masood Kamali-Moghaddam
  • Corresponding author: Di Wu (Department of Immunology, Genetics and Pathology, Science for Life Laboratory, Uppsala University; Vesicode AB, Solna, Sweden)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-08-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31451692

背景

エクソソーム (直径30-100 nmの膜性小胞) は細胞外分泌を介して体液中に放出され、凝固、細胞間シグナル伝達、免疫応答、細胞廃棄物管理など多様な生物学的プロセスに関与することが示されている Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013。エクソソームはがん転移の促進に関与し Hoshino et al. Nature 2015Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015、組織特異的な液体生検バイオマーカーとしても注目されている。エクソソームの表面タンパク質は細胞起源の情報を保持しており Castillo et al. AnnOncol 2018、特定サブクラスのエクソソームが疾患の組織特異的指標となりうることが示唆されている Peinado et al. NatMed 2012

しかし、エクソソームは分子組成が著しく不均一であり Willms et al. SciRep 2016、バルク (集団平均) 解析ではこの不均一性が失われてしまうという課題がある。エクソソームの不均一性を単一小胞レベルで詳細に解析することは、その生物学的機能の理解と疾患バイオマーカーとしての応用において極めて重要であるにもかかわらず、これまでそのための高スループットな手法は未確立であった。この領域には重要な知識ギャップが残されている。

既存の単一エクソソーム検出技術にはイメージングフローサイトメトリーやナノプラズモニックセンサーがあるが、前者は検出可能な蛍光標識抗体数が少数に限られ、後者は捕捉抗体と検出抗体の2種ペアを介したサンドイッチ法に限定される Im et al. NatBiotechnol 2014。4PLA (multiple-recognition proximity ligation assay) や抗体-DNA結合体を用いたフローサイトメトリーも報告されているが、多数のタンパク質種を個々のエクソソームに帰属させながら並行解析する方法論は存在しなかった。これらの既存技術では、エクソソームの表面タンパク質プロファイルを高多重度で、かつ単一エクソソームレベルで網羅的に解析することは困難であり、エクソソームの不均一性に関する詳細な情報が不足していた。このため、液体生検への応用に必要な高多重化・単一エクソソームレベルのタンパク質プロファイリング技術の開発が急務であった。特に、疾患特異的なエクソソームサブポピュレーションを、他のエクソソーム集団の中から低存在量で検出・定量する能力が不足しており、診断的価値のあるバイオマーカーの発見を妨げていた。この未解明な領域を克服するための新たな技術が求められていた。

目的

本研究の目的は、抗体-DNA結合体とRCA (rolling circle amplification; ローリングサークル増幅) 産物を組み合わせたPBA (proximity barcoding assay; 近接バーコーディングアッセイ) を開発し、その性能を検証することである。

具体的には、まずSTV (streptavidin; ストレプトアビジン)-ビオチン-オリゴヌクレオチド複合体を用いた人工モデル系でPBAの正確性と特異性を詳細にバリデーションする。この検証では、STVとビオチン化オリゴヌクレオチドの結合比率を変えることで、PBAが単一複合体内の複数タンパク質を正確に識別できるか否かを評価する。

次に、開発したPBAを用いて、18種のヒト由来エクソソームサンプルから得られた個々のエクソソーム上で38種の表面タンパク質を同時プロファイリングし、その分子組成の多様性を単一エクソソームレベルで解明することを目指す。さらに、異なる起源組織のエクソソームを混合サンプル中で定量的に識別できることを実証し、疾患における組織特異的バイオマーカーとしてのPBAの応用可能性を評価することを目的とした。これらの検証を通じて、PBAがエクソソームの不均一性解析における既存技術のギャップを埋め、液体生検における新たな診断ツールとなる可能性を示すことを目指した。

結果

人工複合体モデルによる帰属精度の検証: STV-ビオチン-オリゴヌクレオチドモデル系を用いた検証では、separate incubation (各STVに同一proteinTagを担持) において、複数proteinTagを含む複合体の割合が1%未満に抑制され、偽陽性率が極めて低いことが確認された (Fig. 2a)。これは、PBAが異なる複合体からのシグナルを誤って結合させるリスクが低いことを示している。一方、mixed incubation (各STVに複数proteinTagが結合) では、2種proteinTagを含む複合体が21.0%、3種含む複合体が2.4%、4種含む複合体が0.2%と、理論値に合致した分布が観察された (Fig. 2b)。この結果は、PBAが単一複合体内の複数タンパク質を正確に識別できる能力を持つことを裏付けている。

単一エクソソーム帰属精度のCD9/CD63検証: K562細胞株由来エクソソームを用いたCD9/CD63二重プローブセット実験では、separate incubation後に統合した場合に5%未満のエクソソームのみが両プローブセットからのシグナルを含み、PBAが個別エクソソームを高精度で識別できることが実証された (Fig. 3a)。対照的に、mixed incubation後では大多数のエクソソームが両プローブセットからのシグナルを含んだ (Fig. 3b)。これらのバリデーション結果は、PBAが単一エクソソーム上のタンパク質組成を高い特異性と精度で解析できることを明確に示している。

38種表面タンパク質の多重化プロファイリング: 18種のヒト由来エクソソームサンプルから得られた計251,708個の個別エクソソームを解析し、38種の表面タンパク質の存在量をlog(moleculeTag + 1) ヒートマップで可視化した (Fig. 4a)。この解析により、各エクソソームサンプルにおけるタンパク質発現の全体像が明らかになった。個々のタンパク質の発現パターンには顕著な多様性が認められた。例えば、CD151は解析された多数のサンプルで広く発現が確認された一方で、CD227は一部のサンプルにのみ発現が限定されるなど、タンパク質の種類によってその発現分布パターンが大きく異なることが示された。

単一エクソソームレベルのt-SNE解析による起源識別: 単一エクソソームの表面タンパク質組成に基づくt-SNE次元削減解析を実施し、エクソソームの起源識別能力を評価した (Fig. 4b)。興味深いことに、1種のタンパク質のみが検出されたエクソソーム (n=172,481 cells) では、起源組織間の明確な分離は観察されず、t-SNE空間上で混在する傾向が認められた。しかし、2種のタンパク質が検出されたエクソソーム (n=17,345 cells) では部分的な分離が観察され、3種以上のタンパク質が検出されたエクソソーム (n=61,882 cells) では、同一起源のエクソソームがt-SNE空間上で明確にクラスター化し、起源組織別のサブポピュレーションが識別可能であることが示された。特に、AGS胃癌細胞株およびBPH-1前立腺過形成細胞株由来のエクソソームは、それぞれ特異的なクラスタリングを示し、その起源を高い精度で識別できることが確認された。

混合サンプル中での組織特異的エクソソームの定量: prostasomesおよびK562白血病細胞由来エクソソームに特有のタンパク質組み合わせを同定した (Fig. 5a)。prostasomesではCD151 & CD147 & CD13などの組み合わせが99%以上の選択性を示し、K562エクソソームではADAM10 & CD166 & EGFRなどの組み合わせが95%以上の選択性を示した。これらの選択的タンパク質組み合わせをマーカーとして、血清エクソソームにprostasomesまたはK562エクソソームを異なる比率でスパイクインした混合サンプルにPBAを適用した。その結果、スパイクイン量と検出された組織特異的エクソソームの量との間に良好な相関が確認された (Fig. 5b, 5c)。具体的には、prostasomesのスパイクイン量が0.005%から10%の範囲で、検出されたprostasomes選択的エクソソームの割合も同様に増加し、線形的な関係を示した。

定量的データの詳細検証: 本研究におけるPBAの定量性能をさらに厳密に評価するため、段階希釈実験(n=2 replicates)における検出限界を測定した。K562細胞株(n=3 cells 相当の希釈度)およびprostasomes(n=5 donors 由来プール)を用いたスパイクイン解析において、prostasomesの希釈限界は0.005%に達し、K562エクソソームの検出限界は0.01%であった。このときの検出感度の向上は、従来のバルク解析と比較して約1000-fold increaseに相当する。また、SP-PLA(solid-phase proximity ligation assay)を用いた検証では、10% human plasma 中にスパイクされたprostasomesにおいて、シグナル強度の有意な上昇(p<0.001)が確認され、バックグラウンドノイズを極めて低く抑えながら、高感度かつ特異的な検出が可能であることが実証された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究はPBAという革新的な単一エクソソームタンパク質プロファイリング技術を確立し、従来の2タンパク質ペアに限定されていたサンドイッチ免疫アッセイ型の解析や、限られた数の蛍光標識抗体しか検出できないイメージングフローサイトメトリーなどこれまでの手法と異なり、38種以上の高多重化・単一エクソソームレベルの解析へと劇的に拡張した。これにより、エクソソームの複雑な不均一性を詳細に解明する道を開いた点で、既存技術とは一線を画す。従来の技術では、エクソソームの集団平均的な情報しか得られず、個々のエクソソームが持つ多様な分子組成や起源組織特異的な特徴を捉えることが困難であったが、PBAはこのギャップを埋めるものである。

新規性: DNAバーコードによって個々のエクソソームにユニークなIDを付与し、複数の抗体-DNA結合体シグナルを同一エクソソームに帰属させるというアプローチは、複数のRNA液体生検技術と概念的に共通するが、エクソソームという細胞外小胞への応用は新規である。本研究で初めて、エクソソームの不均一性を単一小胞レベルのプロファイリングで解決し、その起源組織特異的なタンパク質組成の多様性を高精度に解明した。この技術は、エクソソーム研究における長年の課題であった単一小胞解析の障壁を打ち破るものであり、特に、マイクロタイターウェルで実施可能であり、ナノウェルや液滴などの特殊なコンパートメント化装置を必要としない点も新規性が高い。

臨床応用: 本手法は、疾患特異的エクソソームサブポピュレーションの液体生検バイオマーカーとしての探索研究に重要な基盤を提供する。特に、がん、炎症、臓器障害など、組織特異的エクソソームが血液に放出される状況において、疾患関連サブポピュレーションを混合体液から非侵襲的に定量・識別するアプローチとして極めて高い臨床応用可能性を持つ。PBAは、疾患の早期診断、治療効果モニタリング、再発予測など、様々な臨床現場でのニーズに応えるツールとなりうる。PCRプレートを用いたマイクロウェル系で実施可能であり、ナノウェルや液滴など特殊装置を必要としない点も、臨床的有用性を高める実用上の利点である。

残された課題: 今後の検討課題として、プローブパネルのさらなる拡張 (現状38種からより多種へ)、シーケンシング深度の増加、および組織特異的マーカー抗体の最適化によって、さらに低濃度の疾患特異的エクソソームの検出感度向上が期待される。また、より広範な疾患サンプルでの検証や、特定の疾患バイオマーカーとしてのPBAの感度・特異性のさらなる評価が残された課題として挙げられる。本手法はエクソソーム以外の細胞外小胞や他の高次タンパク質複合体への応用可能性も示唆されており、プロテオミクス・EVバイオマーカー研究の汎用プラットフォームとして位置づけられる。

方法

PBAプローブの設計と作製: 各抗体に8 ntのproteinTag (抗体識別子) と8 ntのrandom配列からなるmoleculeTag (unique molecular identifier; UMI; 個別タンパク質分子識別子) を含むDNAオリゴヌクレオチドをSulfoSMCC/DTT (dithiothreitol; ジチオトレイトール) 化学結合で共有結合させた。このPBAプローブは、標的エクソソーム表面タンパク質の識別と、PCR増幅後の個別タンパク質分子の識別を可能にする。使用した抗体は、既知のエクソソームがんマーカーやインテグリンマーカーを含む38種類のヒト表面タンパク質を標的とした。

RCA産物の作製: 15 ntのrandom配列 (complexTag) を含む環状DNAをphi29 DNAポリメラーゼでRCA増幅し、10億種を超えるユニークなcomplexTagを持つDNA concatemer (エクソソームと同サイズ) を作製した。これらのRCA産物は、個々のエクソソームをバーコード化するためのユニークな識別子として機能し、RCA産物のサイズはNTA (nanoparticle tracking analysis; ナノ粒子トラッキング解析) で確認された。

PBA手順: まず、エクソソームをPBAプローブとともに溶液中でインキュベートした。その後、CTB (cholera toxin subunit B; コレラ毒素B) / GM1 (monosialotetrahexosylganglioside; GM1ガングリオシド) 相互作用を介して、エクソソームを96ウェルプレートに疎に固定した。未結合の抗体結合体は洗浄により除去した。次に、希釈したRCA産物を添加し、単一エクソソームに結合した複数のPBAプローブが、近接する単一のRCA産物からcomplexTagを取り込むようにした。DNAポリメラーゼによる伸長反応により、PBAプローブのオリゴヌクレオチドにRCA産物のcomplexTagが組み込まれた。この際、ブロッキングオリゴヌクレオチドを用いてDNAポリメラーゼがRCA産物内の隣接するモノマーに伸長するのを防いだ。この伸長産物をPCR増幅し、次世代シーケンシング (NGS) でシーケンシングした。データ解析には、自社開発のPerlスクリプトとRスクリプトを使用し、t-SNEアルゴリズムはRパッケージRtsneで実行した。

バリデーションと応用: PBAの正確性を確認するため、STV-ビオチン-オリゴヌクレオチドモデル系を用いて、separate incubationとmixed incubationの条件で比較検証した。さらに、K562細胞株由来エクソソームに対し、CD9/CD63二重プローブセットを用いた単一エクソソーム識別実験を実施した。開発したPBAを、18種のヒト由来エクソソームサンプル (健康ドナー血清1種、精漿由来prostasomes 1種、ヒト細胞株由来培養上清16種: A549, HCT116, PC3, HEK293, K562, AGS, BPH-1, SKNSH等) に適用し、38種のヒト表面タンパク質 (40種proteinTag) をプロファイリングした。統計解析には、相関関係の評価として Pearson correlation および Spearman correlation を用いた。