• 著者: Angelica Ortiz, Jun Gui, Farima Zahedi, Pengfei Yu, Christina Cho, Sabyasachi Bhattacharya, Christopher J. Carbone, Qiujing Yu, Kanstantsin V. Katlinski, Yuliya V. Katlinskaya, Simran Handa, Victor Haas, Susan W. Volk, Angela K. Brice, Kim Wals, Nicholas J. Matheson, Robin Antrobus, Sonja Ludwig, Theresa L. Whiteside, Cindy Sander, Ahmad A. Tarhini, John M. Kirkwood, Paul J. Lehner, Wei Guo, Hallgeir Rui, Andy J. Minn, Constantinos Koumenis, J. Alan Diehl, Serge Y. Fuchs
  • Corresponding author: Serge Y. Fuchs (University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30645975

背景

転移はがん関連死の最大の原因であり、Paget (1889) の “seed and soil” 理論が示すように、遠隔臓器の正常細胞が腫瘍の “soil (土壌)” として親和性のある環境を形成することが転移成立の前提条件となる。腫瘍由来細胞外小胞 (tumor-derived extracellular vesicles; TEV) は、この正常細胞の “education (教育)” を遠隔から推進し、肺などに前転移ニッチ (pre-metastatic niche) を形成して転移を促進することが Peinado et al. NatMed 2012Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015 らの研究で示されてきた。TEV は、その多様な生体分子の送達を通じて、正常細胞の機能を変化させ、腫瘍の進行と転移に寄与することが知られている (Becker et al. CancerCell 2016)。特に、肺における骨髄系細胞の浸潤やフィブロネクチン沈着といった前転移ニッチの形成は、TEV によって誘導されることが Kaplan et al. Nature 2005Liu et al. CancerCell 2016 によって報告されている。

しかし、腫瘍担持生体においても大多数の正常細胞は限られた TEV 取込みしか示さず、TEV 教育に見かけ上耐性を示す事実は、未同定の防御機構が正常細胞に備わっていることを示唆していた。この防御機構の実体と、腫瘍がそれを能動的に回避するメカニズムはこれまで未解明であった。また、TEV の取り込みを阻害することで、正常細胞の「教育」を阻止し、転移を抑制する治療戦略は未開拓の領域であり、この点において知識のギャップが残されている。本研究は、この防御機構の分子実体と、腫瘍がそれを能動的に破綻させるメカニズムを解明し、さらにその防御軸を再活性化する薬理学的アプローチの可能性を探ることを出発点とした。

目的

本研究の目的は、TEV 取込みに対する正常細胞の内在的防御機構を同定し、腫瘍がその防御を能動的に破綻させる分子機序を解明することである。具体的には、I型インターフェロン (IFN) シグナル経路が TEV の取り込みと前転移ニッチ形成にどのように関与するかを明らかにすることを目指す。さらに、この防御軸の再活性化が前転移ニッチ形成および転移を抑制できるかを薬理学的に証明し、既存薬の再利用 (drug repurposing) による補助療法への応用可能性を示すことを目指す。最終的には、メラノーマ患者における防御機構の破綻と予後との相関を解析し、臨床的意義を評価する。

結果

TEV による IFNAR1 ダウンレギュレーションの発見: SILAC (Stable Isotope Labeling by Amino Acids in Cell Culture) プロテオミクス解析により、TEV 処理 THP-1 細胞 (n=3 replicates) の表面タンパク質の中で IFNAR1 (I型 IFN 受容体) が最も顕著に減少することを発見した (fold change >2、p<0.05) (Figure 1A)。TEV は IFNAR1 mRNA レベルには影響せず (Figure S1C)、IFNAR1 タンパク質を減少させたが、STAT1 の活性化は誘導しなかった (Figure S1D)。これは、TEV が IFN 非依存的な経路で IFNAR1 をダウンレギュレーションすることを示唆する。さらに、TEV は p38α キナーゼを活性化し (Figure S1D)、IFNAR1 の Ser リン酸化とユビキチン化を促進し (Figure 1C)、その後のプロテアソーム分解を誘導することが示された。p38 阻害剤 LY2228820 および Mapk14 (p38α をコードする遺伝子) 欠損により、この IFNAR1 喪失が阻止された (Figure S1E, 1G)。

ヒト患者での IFNAR1 喪失の確認: メラノーマ患者血漿由来 EV (n=13 donors) は、THP-1 細胞 (n=3 replicates) の IFNAR1 タンパク質レベルを有意に低下させたが、健常者由来 EV (n=8 donors) ではこの効果は見られなかった (Figure 1D, p<0.001)。さらに、メラノーマ患者の末梢血白血球では、健常者と比較して表面 IFNAR1 レベルが低く (p<0.001)、特に転移巣陽性患者で最も低値であった (n=40 patients, Figure 1E)。WT 担腫瘍マウス (n=4 mice) の循環白血球も TEV 産生に応答して IFNAR1 が低下したが、SA マウス (n=4 mice) では低下が見られなかった (Figure 1H)。これらの結果は、in vivo における IFNAR1 喪失が腫瘍依存的であることを実証した。

IFNAR1 維持が TEV 教育に抵抗: IFNAR1 のユビキチン化・分解に抵抗性を持つ SA 脾細胞 (n=6 replicates) は、WT 細胞と比較して TEV 取込みが有意に低かった (DiD+ 細胞率が約 5% vs 20%、p<0.001) (Figure 2D)。この TEV 取込みの抑制は、抗 IFNAR1 抗体によって回復した (Figure 2E)。SA マウス (n=6 mice) は、TEV 静注後の in vivo 脾細胞および骨髄における TEV 取込みにも抵抗性を示した (Figure 2F)。IFN-β 前処理も同様に WT 細胞の TEV 取込みを抑制し (Figure 2D)、TEV と IFN が相互に拮抗することを示唆した。SA マウス (n=3 mice) は TEV 投与による肺の CD11b+ 骨髄浸潤クラスターおよび fibronectin 沈着 (前転移ニッチ形成) に抵抗性を示し (Figures 3C, 3D)、TEV 教育骨髄移植による B16F10 肺転移促進も SA 骨髄では見られなかった (Figure 3F)。これらのデータは、IFNAR1 が TEV 取込みと TEV 誘発性の正常細胞教育を制限する上で重要であることを示唆する。

CH25H が IFNAR1 下流の防御エフェクター: IFN-β は WT 細胞の TEV 取込みを抑制したが、Ch25h ノックアウト細胞 (n=6 replicates) では IFN の抑制効果が消失した (Figure 4A)。CH25H の産物である 25-hydroxycholesterol (25HC) は、直接 TEV 取込みを抑制し、Ch25h 欠損細胞でもその効果は維持された (Figure 4A)。TEV は Ch25h mRNA を特異的に低下させ (Figure S4E)、SA 細胞は WT 細胞と比較して Ch25h の基礎発現が高いことが示された (Figure 4C, p<0.01)。SA/Ch25h 二重変異マウス (n=3 mice) は、in vivo TEV 取込みを WT レベルに回復させ、前転移ニッチ (CD11b+ 浸潤および fibronectin 沈着) も形成された (Figure 4E)。この結果は、CH25H が IFNAR1 の下流で防御機能を担うことを遺伝学的に証明した。

患者 CH25H とメラノーマ予後の相関: メラノーマ患者血漿 EV (n=13 donors) はヒト細胞の CH25H 発現を低下させたが、健常者 EV (n=8 donors) ではこの効果は見られなかった (Figure 6A, p<0.001)。転移性メラノーマ患者の白血球 CH25H mRNA レベルは、健常者および非転移性患者と比較して有意に低値であった (n=17 patients, Figure 6B, p<0.001)。CH25H 低発現患者は遠隔転移発生率が高く (Fisher 検定 p=0.000661)、Kaplan-Meier 解析では生存期間も有意に短縮した (Figure 6C, 6D)。これらの結果は、正常細胞における CH25H のダウンレギュレーションがメラノーマの進行と転移に対する CH25H 媒介防御を破綻させる可能性を示唆する。

Reserpine の抗転移補助療法効果: 脂質膜融合阻害薬 6 種のスクリーニングにより、抗高血圧薬 reserpine が B16F10 TEV 取込みを最も効果的に抑制することが同定された (Figure S5A)。Reserpine は、マウス脾細胞、骨髄細胞、ヒト THP-1 細胞 (n=3 replicates) において TEV 取込みを阻害した (Figures 5A, 5B, p<0.001)。in vivo 投与では、reserpine は TEV 誘導性の IFNAR1 喪失を予防し (Figure 5C)、Ch25h を含む ISG の発現を肺組織で上昇させ (Figure S5D)、前転移ニッチ形成 (CD11b+ 浸潤および fibronectin 沈着) を阻止した (Figure 5D)。単独投与では原発腫瘍増殖への効果は限定的であったが (Figure S7F)、外科切除前後の補助療法モデル (n=12-16 mice) では、reserpine 投与群で肺転移負荷が事実上消失し (Figures 7E, 7F, p<0.01)、がん関連生存期間が有意に延長した (Figure 7D, p<0.05)。動物の体重や一般状態への悪影響は観察されなかった (Figure S7D)。Reserpine は TEV そのものの産生特性や、TEV の正常細胞への教育能には影響しなかった (Figure S7B, S7C)。

考察/結論

本研究が提示した IFNAR1 → CH25H → 25HC という IFN 駆動型オキシステロール防御軸は、腫瘍が正常細胞を “education” するために必要な受動的な受容性を能動的に破壊するという新規概念を分子レベルで解明した点で革新的である。これまでの研究では、TEV が正常細胞を教育し、前転移ニッチを形成することが示されてきたが、正常細胞が TEV の取り込みに抵抗性を示すメカニズムは未解明であった。本研究は、この防御機構の実体とその破綻メカニズムを分子レベルで明らかにした点で、先行研究と異なる新規性を持つ。

通常、IFNAR1 の非リガンド依存的分解は炎症時の組織保護に機能するが、TEV はこの生理的メカニズムを “乗っ取り”、IFN-IFNAR1 シグナルを失活させて自らの取込みと教育効果を増幅するという “positive feedback loop” を形成する。このループは、TEV → IFNAR1 分解 → ISG 失活 → CH25H 低下 → TEV 取込み亢進 → さらなる IFNAR1 分解という自己増強性を持ち、転移進行に伴い加速すると考えられる。本研究で初めて、この自己増強的なメカニズムがメラノーマの転移促進に寄与することを遺伝学的・薬理学的に実証した。

Reserpine はこの機序に対し、TEV 取込みを直接阻害し (脂質膜融合阻害を介すると推定)、IFNAR1/CH25H の保護を間接的にも達成する。補助療法モデルでの顕著な効果は、転移過程が「継続的な教育」に依存しており、その遮断が手術後残存癌の転移定着を阻止しうることを示す。これは、既存の抗高血圧薬である reserpine を抗転移補助療法として臨床応用する可能性を提示するものであり、臨床的意義は大きい。FDA に承認されている reserpine は、転移性癌よりもはるかに軽度な疾患の患者にも忍容性があるとされているため、メラノーマ補助療法におけるこの薬剤の臨床的有効性を早急に検証すべきである。

残された課題として、(1) reserpine の他癌種 (非小細胞肺癌、乳癌、膵癌など) での検証、(2) TEV 取込みを制御する CH25H の詳細な細胞内機序 (膜流動性変化の種類・下流シグナル)、(3) 25HC アナログや CH25H 活性化剤の開発、(4) 既存 IFN 療法との併用での相乗効果、(5) 前転移ニッチのバイオマーカーとしての CH25H の prospective 検証が挙げられる。また、reserpine の TEV 取込み阻害以外の作用機序の関与は排除できず、今後の検討が必要である。本研究は、腫瘍微小環境と正常細胞間のクロストークに対する宿主防御機構の存在を初めて分子的に解明した画期的な成果であり、TEV 研究、転移予防戦略、IFN 補助療法の合理化に広範な影響を及ぼすと考えられる。

方法

プロテオミクスによる防御標的の同定: ヒトメラノーマ 1205Lu 由来 TEV をヒト単球 THP-1 細胞に処理し、stable isotope labeling by amino acids in cell culture (SILAC) ベースの plasma membrane proteomics (Matheson et al. 2015) で表面タンパク質レパートリーの変化を網羅的に解析した。366 タンパク質を同定し、fold change >2 かつ p<0.05 で減少したタンパク質を優先的に解析した (Figure S1A)。

IFNAR1 経路の解析: THP-1 細胞および初代マウス脾細胞への TEV 処理でフローサイトメトリー (表面 IFNAR1)、免疫沈降/ウエスタンブロット (IFNAR1 のリン酸化・ユビキチン化)、qPCR (IFNAR1 mRNA、ISG mRNA) を測定した。Mapk14 (p38α をコードする遺伝子) ノックアウト (p38α 欠損) 脾細胞と p38 阻害剤 LY2228820 を用いた機序実験を実施した。IFNAR1 の Ser526 を Ala に置換した SA (Ser-to-Ala) knockin マウス (IFNAR1 ユビキチン化・分解耐性) を in vivo モデルとして使用した。SA マウスは IFNAR1 のユビキチン化と分解に抵抗性を示すことが特徴である (Bhattacharya et al. 2014)。

CH25H 防御機構の同定: IFN-β 前処理および 25HC (4 µM、2 時間) 処理細胞への TEV 取込み実験 (DiD 標識 TEV のフローサイトメトリー) を実施した。Ch25h ノックアウトマウスと SA/Ch25h 二重変異マウスで in vitro および in vivo TEV 取込み、前転移ニッチ形成を評価した。B16F10 メラノーマ TEV (8 µg、週 3 回、3 週間静注) による肺の CD11b+ 骨髄浸潤クラスター (免疫蛍光) および fibronectin 沈着を定量した。骨髄移植実験では、TEV 教育骨髄の転移促進能を評価した (Figure 3E)。

Reserpine の薬理効果: 抗高血圧薬 reserpine (10 µM in vitro、1 µg/kg i.p. in vivo) を標的とした仮説駆動型スクリーニング (脂質膜融合阻害剤 6 種をスクリーニング、Table S2) で同定した。in vitro (THP-1 細胞) および in vivo (WT マウス) で TEV 取込み、IFNAR1 発現、Ch25h・ISG 発現、前転移ニッチ形成を解析した。B16F10 皮下腫瘍の外科切除 (腫瘍 約200 mm²) 前後に reserpine を投与する補助療法モデル (neoadjuvant/adjuvant) で肺転移量と生存を評価した (Figure 7C)。

ヒト患者相関解析: 健常者 (n=8) およびメラノーマ患者 (n=13) の血漿由来 EV を THP-1 細胞に処理し IFNAR1・CH25H への影響を測定した。末梢血白血球の表面 IFNAR1 (健常者 10 例、ステージ I-IV メラノーマ 40 例、センチネルリンパ節転移陽性/陰性各 20 例) と CH25H mRNA (転移あり n=17、なし n=20) をフローサイトメトリー・qPCR で定量し予後相関を解析した。統計解析には、Student’s t 検定、一元配置分散分析 (ANOVA)、二元配置分散分析 (ANOVA) に Bonferroni の事後検定、Kaplan-Meier 曲線とログランク検定、Fisher’s exact 検定を用いた。細胞株としてTHP-1、1205Lu、B16F10、EO771を使用した。