• 著者: Yanfang Liu, Yan Gu, Yanmei Han, Qian Zhang, Zhengping Jiang, Xiang Zhang, Bo Huang, Xiaoqing Xu, Jianming Zheng, Xuetao Cao
  • Corresponding author: Xuetao Cao (National Key Laboratory of Medical Immunology, Institute of Immunology, Second Military Medical University, Shanghai; and Chinese Academy of Medical Sciences, Beijing, China)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27505671

背景

腫瘍転移はがん死亡の主要な原因であり、原発腫瘍由来の因子が遠隔臓器に転移を支持する微小環境、すなわち前転移ニッチ (pre-metastatic niche; PMN) を形成することが知られている Hanahan et al. Cell 2011。このPMN形成には、骨髄由来細胞 (bone marrow-derived cells; BMDCs) の動員が重要な役割を果たすことが示唆されており、特にVEGFR1陽性骨髄系細胞が中心的役割を担うことが報告されている Kaplan et al. Nature 2005。しかし、肺などの遠隔臓器に常在する宿主間質細胞、特に肺胞上皮細胞が、原発腫瘍由来のシグナルをどのように感知し、BMDCのリクルートを誘発するのか、そして肺特異的な転移の臓器指向性 (organ-specific tropism) を決定する能動的なメカニズムについては未解明な点が多かった。

Toll-like receptors (TLRs) は、パターン認識受容体 (pattern-recognition receptors; PRRs) として自然免疫において中核的な役割を担い、病原体由来の分子や内因性の損傷関連分子を感知して炎症性サイトカインやケモカインの産生を誘導する。これまでの研究では、TLR2/TLR6やTLR7/TLR8などが腫瘍転移促進に関与することが報告されており、例えば腫瘍が産生する因子が骨髄系細胞のTLR2/TLR6複合体を活性化し、TNF-α分泌を介して肺転移を促進することが示されている Kim et al. Nature 2009。また、腫瘍由来のマイクロRNAが免疫細胞のTLR7/TLR8に結合し、転移促進性の炎症反応を引き起こすことも報告された Melo et al. CancerCell 2014。しかし、肺特異的な転移における宿主TLRの役割、特に肺胞上皮細胞が関与するメカニズムについては、依然として不明な点が多かった。

腫瘍由来のエクソソームは、その内容物(タンパク質、RNA、DNAなど)を介して遠隔臓器の細胞に影響を与え、PMN形成に寄与することが示唆されている Peinado et al. NatMed 2012。エクソソームはまた、その膜表面のインテグリンを介して臓器指向性転移を決定することも報告されている Hoshino et al. Nature 2015。しかし、腫瘍エクソソームが肺胞上皮細胞のTLRをどのように活性化し、PMN形成と好中球動員を駆動するのか、その具体的な分子メカニズムについては、これまで詳細な解析が不足していた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、肺特異的な転移の臓器指向性における宿主間質細胞のToll-like receptor (TLR) の役割を同定することである。特に、原発腫瘍由来のエクソソームが肺胞上皮細胞をどのように活性化し、骨髄由来細胞 (BMDC) の動員と前転移ニッチ (PMN) 形成を駆動するかの分子メカニズムを解明することを目的とした。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. 肺転移における特定の宿主TLRの関与を評価し、その重要性を確立する。本研究では特にTlr3、Tlr4、Tlr9遺伝子欠損マウスを用いて、どのTLRが肺転移に影響するかを評価する。
  2. TLR活性化がPMN形成およびBMDC、特に好中球のリクルートにどのように影響するかを解析する。フローサイトメトリーを用いて肺、末梢血、脾臓における好中球の割合と絶対数を測定し、PMN関連遺伝子の発現を評価する。
  3. 原発腫瘍由来のエクソソームが肺胞上皮細胞のTLRを活性化するメカニズムを特定し、エクソソームに含まれる特定の分子がTLRリガンドとして機能するかを同定する。エクソソームのin vivo取り込み、エクソソーム由来RNA (exoRNA) のTLR3活性化能、およびexoRNAのRNAシーケンシング解析を行う。
  4. in vitroおよびin vivo実験を通じて、TLR活性化、ケモカイン産生、好中球動員、および肺転移の間の因果関係を確立する。骨髄キメラ移植、アデノウイルスによるTlr3レスキュー、および好中球除去実験を実施する。
  5. ヒト肺癌患者におけるTLR発現と好中球浸潤が臨床転帰と関連するかを評価し、本研究で解明されるメカニズムの臨床的意義を検証する。非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者90名の組織を用いてTLR3発現と好中球浸潤を評価し、全生存率との関連を解析する。

これらの目的を達成することで、肺転移の新たな治療標的を特定し、がん転移制御への貢献を目指す。

結果

TLR3欠損が肺前転移ニッチ形成と転移を特異的に阻止する: Tlr3⁻/⁻マウス (n=12 mice) は、Lewis lung carcinoma (LLC) およびB16/F10 melanomaの自然転移モデルにおいて、野生型 (WT) リターメイトと比較して肺転移結節が有意に減少した (H&E染色およびbioluminescence imagingで確認)。具体的には、LLCモデルではWTマウスで平均約80個の転移結節が観察されたのに対し、Tlr3⁻/⁻マウスでは約20個に減少し (p<0.001)、生存期間も有意に延長した (p<0.001、Kaplan-Meier検定) (Figure 1A-1C)。対照的に、Tlr4⁻/⁻およびTlr9⁻/⁻マウスでは肺転移に有意な差は認められなかった (Figure S1C-S1E)。原発腫瘍の増殖曲線はWTとTlr3⁻/⁻マウス間で差がなく、TLR3の欠損が転移特異的な効果を示すことが示唆された (Figure 1D)。PMN関連遺伝子であるBv8、S100a8、S100a9、Mmp9、およびfibronectinの肺組織における発現は、Tlr3⁻/⁻マウスで有意に低下しており、TLR3がPMN形成に寄与することが示された (Figure 1E, 1F)。

宿主間質細胞TLR3がケモカイン産生と好中球動員を制御する: フローサイトメトリー解析では、腫瘍接種後のWTマウスの肺においてCD11b+骨髄系細胞が著しく増加し、その中で好中球 (CD45+CD11b+Ly6G+Ly6Cint) が最も優勢なBMDCサブセットであった (Figure 2A, 2B)。Tlr3⁻/⁻マウスでは、前転移肺、末梢血、脾臓のすべての部位で好中球の割合と絶対数が有意に減少したが (p<0.001)、骨髄中の好中球数には変化がなく、好中球自体の本質的な欠陥ではないことが示された (Figure S2B)。Tlr3⁻/⁻マウスでは、WTマウスと比較して血清および気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中のCXCL1、CXCL2、CXCL5、CXCL12といった好中球走化性ケモカインのレベルが有意に低かった (p<0.001) (Figure 2D, 2E)。骨髄キメラ移植実験では、WT骨髄を移植したTlr3⁻/⁻宿主マウスにおいて、ケモカインレベルの低下、好中球リクルートの減少、および肺転移の減少が観察された (Figure 2F-2I)。この結果は、造血系細胞のTLR3ではなく、宿主間質細胞、特に肺胞上皮細胞のTLR3がケモカイン産生と好中球動員に必須であることを明確に示した。qPCR解析により、Tlr3は肺上皮細胞、樹状細胞、マクロファージで高発現しているが、好中球や線維芽細胞では低発現であることが確認された (Figure 3A, 3B)。免疫蛍光法では、TLR3がSftpD陽性肺胞II型 (AT-II) 上皮細胞に主に発現していることが示された (Figure 3C)。アデノウイルスベクターを介したTlr3遺伝子の気道への導入により、Tlr3⁻/⁻マウス (n=8 mice) における好中球浸潤と肺転移が回復し、この回復効果は抗Ly6G抗体による好中球除去によって消失したことから、TLR3→好中球→転移という経路が確立された (Figure 3H-3K)。

腫瘍エクソソーム由来のsnRNAがTLR3リガンドとして同定され、ヒト肺癌予後と相関する: PKH67標識エクソソームをin vivoで静脈内投与すると、SftpD陽性AT-II細胞に効率的に取り込まれた (エクソソーム陽性細胞の41.2%がAT-II細胞であった) (Figure 4C)。腫瘍エクソソームの投与は、対照のリポソームとは異なり、肺におけるPMN関連遺伝子およびケモカインの発現を増加させ、好中球の集積と肺転移を促進した (Figure 4E-4J)。この効果はTlr3⁻/⁻マウスでは抑制された。AT-II細胞にエクソソーム由来RNA (exoRNA) を添加すると、RNase処理で消失するがDNase処理では消失しないTLR3およびケモカイン遺伝子の発現誘導が認められた (Figure 5E-5G)。これはpoly(I:C)と同様のNFκBp65、ERK、JNK、p38 MAPKのリン酸化パターンを示した (Figure 5H)。HiSeq2500 RNAシーケンシング解析により、exoRNAは200 bp以下のフラグメントが主体であり、非コードRNAが70%以上を占め、特にsnRNAとtRNAが最も豊富なクラスであることが明らかになった (Figure 6A, 6B)。U1 snRNAは腫瘍エクソソーム中で原発腫瘍と比較して1,000倍以上濃縮されており、これらのsnRNAはステムループ二次構造を持ち、二本鎖RNA様構造を形成してTLR3のリガンドとなり得ることが示唆された (Figure 6C, 6D)。

ヒト肺癌患者におけるTLR3高発現と好中球浸潤が予後不良と関連する: ヒト非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者90名の腫瘍隣接組織の解析では、TLR3高発現と好中球浸潤が密接に相関し (p<0.001, r=0.47)、両者はS100A8/S100A9の高発現とも相関した (Figure 7A-7E)。TLR3高発現または好中球浸潤増加は、それぞれ単独で全生存率を有意に低下させ (p<0.001、Kaplan-Meier検定)、多変量解析においても独立した予後不良因子として同定された (TLR3: HR 2.2, 95% CI 1.3-3.7, p=0.004; 好中球: HR 2.4, 95% CI 1.5-4.0, p=0.001) (Figure 7F, Table S2)。

考察/結論

本研究は、宿主肺胞II型上皮細胞のToll-like receptor 3 (TLR3) が、原発腫瘍由来エクソソームに含まれるsmall nuclear RNAs (snRNA) をリガンドとして感知し、CXCLケモカインの分泌と好中球の動員を通じて肺前転移ニッチ (PMN) を形成するという、これまで未解明であった臓器特異的転移のメカニズムを初めて解明した画期的な研究である。

先行研究との違い: これまでTLR3は主にウイルス由来の二本鎖RNA (dsRNA) を認識する受容体として知られていたが、本研究は、腫瘍由来の内因性snRNA(特にU1 snRNA)がTLR3の内因性リガンドとして機能することを明らかにした点で、これまでの知見と大きく異なる。また、骨髄由来細胞 (BMDC) がPMN形成に寄与することは広く認識されていたが、本研究は非造血系の宿主間質細胞(肺胞上皮細胞)がTLR3を介してBMDCのリクルートを開始するという「逆方向」のシグナル伝達経路を実証した。これは、臓器特異的転移が単なる解剖学的な「first-pass filter」ではなく、腫瘍エクソソームと肺胞上皮TLR3の能動的な分子対話によって決定されるという概念を提示し、Hoshino et al. Nature 2015が報告したインテグリンによる臓器指向性転移のメカニズムと相補的な視点を提供する。

新規性: 本研究で初めて、腫瘍エクソソームがsnRNAを濃縮して含有し、これが肺胞上皮細胞のTLR3を活性化する主要なリガンドであることを新規に同定した。特に、U1 snRNAが腫瘍エクソソーム中で原発腫瘍と比較して1,000倍以上濃縮されているという発見は、エクソソームが特定のRNA種を選択的に輸送し、遠隔臓器の細胞に特異的な影響を与えるメカニズムに関する重要な知見である。さらに、TLR3→CXCLケモカイン→好中球動員という明確なシグナル軸が肺特異的PMN形成を制御するという、これまで報告されていないメカニズムを確立した。

臨床応用: 本研究の知見は、肺転移の予防および治療における新たな臨床応用戦略を示唆する。具体的には、TLR3阻害剤による肺転移予防、エクソソーム中のsnRNAを標的とした中和療法(例:アンチセンスオリゴヌクレオチド)、および好中球のリクルートを阻害する薬剤(例:CXCR2拮抗薬)が、肺転移を制御するための新規標的となり得る。ヒト非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者におけるTLR3高発現と好中球浸潤が独立した予後不良因子であることが示されたことは、本機序の臨床的関連性を強く支持し、TLR3発現と好中球浸潤を組み合わせた複合スコアによる患者層別化や予後予測の可能性を示す。

残された課題: 今後の検討課題として、TLR3活性化に関与する具体的なsnRNA種の機能差(U1、U2、U4/U6などの違い)を詳細に解明する必要がある。また、TLR3阻害薬の肺転移予防における臨床試験の実施が求められる。同様のメカニズムが肝臓、脳、骨などの他の転移臓器においても存在するかどうかの探索も重要である。さらに、早期がん診断における循環腫瘍エクソソーム中のsnRNAのバイオマーカーとしての応用可能性、TLR3活性化後の具体的なシグナル経路(NFκBとMAPK各成分の相対的寄与)の精密解析、および腫瘍由来エクソソーム内へのsnRNAの選択的封入メカニズムの解明が残された課題である。本論文は、腫瘍エクソソームと宿主細胞の相互作用をめぐる研究の重要な礎石であり、今後の研究の方向性を示すものである。

方法

本研究では、Lewis lung carcinoma (LLC) およびB16/F10 melanoma細胞を用いた自然転移マウスモデルを採用し、Tlr3⁻/⁻、Tlr4⁻/⁻、Tlr9⁻/⁻マウス (n=12 mice per group) を用いて肺転移における宿主TLRの役割を評価した。原発腫瘍は皮下接種し、外科的切除後に肺転移を評価した。肺転移の評価は、H&E染色による転移結節の計数、ex vivo luciferase-based bioluminescence imaging、およびKaplan-Meier生存解析によって行った。

前転移ニッチ (PMN) 形成の評価には、PMN関連遺伝子 (Bv8/Prok2、S100a8、S100a9、Mmp9) およびfibronectinの肺組織における発現を定量的RT-PCR (qPCR) および免疫染色で解析した。骨髄由来細胞 (BMDC) の組成変化は、フローサイトメトリー (FACS) を用いて肺、末梢血、脾臓で解析し、好中球 (CD45+CD11b+Ly6G+Ly6Cint)、単球 (Ly6G-Ly6C+)、マクロファージ (F4/80+)、樹状細胞 (CD11c+Ia/e+) の割合と絶対数を測定した。Tlr3⁻/⁻マウスの好中球自体の機能欠陥の可能性を排除するため、骨髄中の好中球数も評価した。

宿主間質細胞と造血系細胞におけるTLR3の寄与を区別するため、骨髄キメラ移植実験を実施した。具体的には、WTまたはTlr3⁻/⁻マウスの骨髄細胞を、致死量照射したTlr3⁻/⁻またはWT宿主マウスに移植した (n=10 mice per group)。肺組織におけるTLR3発現細胞の同定には免疫蛍光法を用い、SftpD陽性肺胞II型 (AT-II) 上皮細胞とTLR3の共局在を確認した。

腫瘍由来エクソソームの単離は、腫瘍組織を無血清培地で培養後、段階的遠心分離と0.2 µmフィルターろ過、超遠心分離によって行った。PKH67標識エクソソームをin vivoで静脈内投与し、肺組織への取り込みをFACSで解析し、AT-II細胞によるエクソソーム取り込み率 (41.2%) を確認した。エクソソーム由来RNA (exoRNA) を単離し、RNaseまたはDNase処理後、AT-II細胞に添加してTLR3およびケモカイン遺伝子発現誘導への影響をqPCRで評価した。エクソソームによるシグナル伝達経路として、NFκBp65、ERK、JNK、p38 MAPKのリン酸化をウェスタンブロットで解析した。

エクソソームに含まれるRNAの特性を明らかにするため、HiSeq2500次世代シーケンシングを用いてexoRNAの分類を解析した。特に、非コードRNAの割合とsmall nuclear RNA (snRNA) の濃縮度を評価し、U1 snRNAのコピー数を定量的RT-PCRで測定した。

TLR3のin vivoでの機能回復実験として、アデノウイルスベクターを介したTlr3遺伝子の気道への導入をTlr3⁻/⁻マウスに行い、好中球浸潤と肺転移への影響を評価した (n=8 mice per group)。さらに、抗Ly6G抗体による好中球除去を行い、TLR3-好中球-転移経路の因果関係を検証した。

臨床的関連性を評価するため、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者90名の腫瘍隣接組織におけるTLR3発現、好中球浸潤、S100A8/S100A9発現を免疫組織化学染色で評価した。これらの臨床病理学的因子と全生存率 (overall survival; OS) との関連をKaplan-Meier法および多変量Cox比例ハザード回帰分析で統計解析した。統計解析にはSPSSソフトウェアを使用し、群間の比較にはStudentのt検定、生存率にはKaplan-Meier検定を用いた。統計的有意水準はp<0.05とした。