- 著者: James W. Clancy, Colin S. Sheehan, Alex C. Boomgarden, Crislyn D’Souza-Schorey
- Corresponding author: Crislyn D’Souza-Schorey (Department of Biological Sciences, University of Notre Dame)
- 雑誌: Cell Reports
- 発行年: 2022
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 35235806
背景
腫瘍由来マイクロベシクル (TMV) は、プラズマ膜から直接出芽して産生される直径200 nm以上の細胞外小胞であり、エンドソーム経路由来のエクソソームとは異なる生合成経路(ARF6、RhoA、Rab35依存的)を持つことが知られている。TMVはCD63を含まず、β-インテグリンを含むという分子マーカープロファイルを持つ。細胞外DNAが細胞外小胞 (EV) に含まれるという報告は増加しているが、そのDNAがTMVに真に封入されているのか(膜保護を受けているのか)、またどのような機序でプラズマ膜出芽過程に取り込まれるのかは未解明であった。Jeppesen et al. Cell 2019は、アンフィソーム(オートファジーと多胞体 (MVE) の融合体)依存的な二本鎖DNA (dsDNA) 分泌を示したが、この機序はエクソソームを介するものであり、エクトソーム/TMV系でのDNA搭載機序は独立して検証される必要があった。また、Balaj et al. NatCommun 2011やThakur et al. CellRes 2014はEV中のDNAの存在を報告しているが、TMVにおけるDNAの存在と機能に関する詳細なメカニズムは不足している。
目的
本研究の目的は、TMVへのdsDNA封入が真に存在するかを技術的に確認し、その封入量と割合を定量化することである。また、TMV-dsDNAの起源(ミトコンドリア、アンフィソーム、微小核の関与)を否定または肯定することを目指した。さらに、ARF6シグナリングがTMV産生およびdsDNA封入に果たす役割を解明し、細胞質DNAセンサーであるcGASのdsDNA-TMV搭載における機能を同定することを目的とした。最終的に、TMVを介して転送されるdsDNAがレシピエント細胞の挙動に与える生物学的影響を評価することも目的とした。
結果
TMVへのdsDNA封入:膜保護の確認と定量化: Benzonase処理後もTriton X-100で膜を破壊すると内部dsDNAが検出されたことから、TMV内にdsDNAが膜保護されて封入されていることが確認された (Figure 1E)。定量では、平均5.609×10⁻⁶ pg/TMVのdsDNAが存在し、n=6の実験で出芽中のTMVの22.46% ± 2.54%にdsDNA陽性染色が検出された (Figure 1F, 2F)。A375-MA2(転移性)細胞はA375P(非転移性)細胞よりもTMV当たりのDNA量が多く、約1.5倍のdsDNAが検出され、転移性が高い細胞ほど多量のDNAをTMVに搭載する傾向が示された (Figure 2C)。また、LOX黒色腫、乳癌、前立腺癌、肺癌などの複数の癌細胞株でTMVへのdsDNA封入が確認され、普遍的な現象であることが示された (Figure S1)。
DNA起源の同定:ミトコンドリア、アンフィソーム、微小核は非主要経路: ミトコンドリアトラッカーとdsDNAの共局在を検討したが、TMV内dsDNAとミトコンドリアの重複は見られず、ミトコンドリアDNA起源が主要でないことが示された (Figure S3D)。CD63(エクソソームマーカー)がTMVに存在しないこと、およびARF6とCD63の共局在がないことから、アンフィソーム(Jeppesen et al. Cell 2019が示した機序)はTMVへのDNA搭載の主要経路でないことが明らかとなった (Figure 3A, 3B)。emerin(微小核マーカー)の検索でも微小核の増加はARF6-Q67L活性化と無相関であり、微小核経由のDNA放出も否定された (Figure 4A, 4B)。
ARF6活性化がTMV産生とdsDNA放出を増強する: ARF6-Q67L(恒常活性型GTP固定変異)を発現させると、TMV出芽が増加し細胞外dsDNA量が増加した (Figure S4)。EGFP cDNA追跡実験では、ARF6活性化により細胞外EGFP DNAの放出速度が加速し、かつ放出されたDNAの多くがTMVサイズ粒子に分布することが示された (Figure 4F)。ARF6-Q67L細胞では、TMV当たりのdsDNA量がLOX細胞と比較して減少したが (p<0.05, n=4)、これはTMVの shedding が増加した結果であると考えられる (Figure 4E)。逆にARF6 T27N(ドミナントネガティブ)発現細胞では細胞外dsDNAが著明に減少した (Figure 4G, 4H)。これによりARF6 GTP/GDPサイクリングがTMVへのdsDNA封入の調節因子であることが確立された。また、ARF6-Q67L細胞では、流出したdsDNAのより高い割合がTMVサイズの粒子内に含まれ、Triton X-100によるEV破壊後にのみ検出された (Figure 4I, 4J)。
cGASの液相凝縮によるdsDNA-TMV搭載機序: cGASがTMVに濃縮されること、ARF6活性化がTMV内cGAS量をさらに増加させることが確認された (Figure 5A)。cGAS siRNAノックダウンによりTMVへのdsDNA封入が著明に減少し、約50%の減少が認められ (p<0.001, n=5)、cGASがdsDNA搭載に必須の役割を持つことが示された (Figure 5H)。cGAS-GFP融合タンパク質はdsDNA添加により液相凝縮(liquid-liquid phase separation)によるドロップレット(液滴)を形成し、このドロップレットがプラズマ膜出芽のTMV形成部位に局在することが可視化された (Figure 5D, 5G)。in vitro実験では、cGASがGTP結合型ARF6に優先的に結合することが示され、GTPγ-S存在下でcGASの共沈降が約2.0-fold増加した (p<0.01, n=4) (Figure 5C)。機序モデルとして、ARF6 GTPアーゼ活性化→プラズマ膜出芽誘導→細胞質cGAS-dsDNA液相凝縮体がブレビング部位に動員→TMVへ封入というシーケンシャルな過程が提示された。
TMV移送dsDNAの生物活性と遺伝子発現への影響: TMVに封入されたdsDNAはヒストンH3との会合が低く(H3K9トリメチル化なし)、転写活性型のクロマチン状態に類似することが示された (Figure 3D, 3E, 3F, S3E)。TMV dsDNAを受取細胞に添加すると受取細胞の遺伝子発現変化が誘導されることが確認されており、TMVを介したDNA転送が受取細胞の機能的変化をもたらす可能性が示唆された (Figure 6E, 6F)。具体的には、LOX TMVの添加によりMCF-10A細胞の増殖率が増加し、アンカー非依存性増殖(スフィア形成効率)が約2倍向上した (p<0.001, n=12) (Figure 6G, 6H)。この効果はSRY shRNAにより抑制された (Figure 6I)。
考察/結論
本研究は、TMV(腫瘍マイクロベシクル)へのdsDNA封入がARF6-cGAS液相凝縮軸を介した新規機序で達成されることを初めて明らかにした。Jeppesen et al. Cell 2019が示したアンフィソーム依存的エクソソーム系とは独立した、プラズマ膜出芽(エクトソーム)系の独自のDNA封入経路の存在を示した点で、細胞外DNA生物学に重要な概念的追加を提供した。これまで報告されていないARF6とcGASの直接的な結合(Figure 5C)およびそのGTP/GDPサイクルによる制御は、TMVを介したdsDNA排出の新規メカニズムを提示する。
先行研究との違い: これまでの研究では、エクソソームを介したDNA放出が主に報告されてきたが、本研究は、エクソソームとは異なるTMVが、ARF6とcGASの協調作用によりdsDNAを搭載し放出するという、これまでとは対照的なメカニズムを明らかにした。特に、アンフィソームや微小核の関与を否定した点は、EVサブタイプ間のDNA搭載経路の多様性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、ARF6の活性化がcGASの液相凝縮を促進し、このcGAS-dsDNA複合体がプラズマ膜出芽部位に動員され、TMVに封入されるという新規の分子メカニズムを同定した。また、TMV中のdsDNAがレシピエント細胞に転送され、SRY遺伝子発現やアンカー非依存性増殖を促進し、細胞挙動を変化させることを初めて実証した。
臨床応用: 転移性が高い癌細胞(A375-MA2)がより多くのDNAをTMVに搭載するという知見は、TMV dsDNAが腫瘍の転移性と連動するバイオマーカーとなる可能性を示唆する。これは、癌の診断や予後予測における臨床応用への道を開くものである。cGAS液相凝縮体のTMVへの封入という機序は、cGASのDNA感知機能(炎症・I型インターフェロン (IFN-I) 応答)をEV介在的に受取細胞に転送する仕組みを示唆し、腫瘍免疫シグナリングの新しい経路として注目される。ARF6やcGASの発現レベルが複数の腫瘍タイプで増加しているというTCGAデータ(Figure S5L)は、これらの分子を標的とした治療戦略の臨床的有用性を示唆する。
残された課題: 今後の検討課題としては、TMV dsDNAの受取細胞でのcGAS-STING活性化への影響、in vivo転移モデルでの機能的検証、およびヒト臨床検体でのTMV dsDNA解析が挙げられる。また、転写活性型クロマチン状態のDNAがTMVに優先的に搭載されるという知見は、特定の遺伝情報が選択的に細胞間移送される可能性を示し、腫瘍内不均一性の水平伝播という観点から意義があるが、その選択メカニズムの詳細は今後の研究で解明される必要がある。本研究はEV集団内の不均一性というlimitationも認識しており、より高感度な技術を用いたTMV dsDNAの分布、トラフィッキング、一貫性の大規模シーケンシングが今後の方向性である。
方法
LOX黒色腫、A375P(非転移性)、A375-MA2(転移性)黒色腫、MDA-MB-468/231乳癌、T47D、PC3前立腺癌、SW480大腸癌、H460肺癌など、複数の癌細胞株を使用した。TMV (tumor microvesicle) は2,000×gペレットから単離し、超遠心分離で得られる小型EV (sEV)/エクソソームと区別した。TMVの特性解析には、透過型電子顕微鏡 (TEM)、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、フローサイトメトリーを用いた。膜保護されたdsDNA (double-stranded DNA) の存在を確認するため、benzonase(細胞外DNA分解酵素)とTriton X-100(膜破壊剤)を組み合わせた処理を行った。蛍光標識dsDNA (YOYO-1) および抗ヒストンH3免疫蛍光を用いてTMV内DNAを可視化した。EGFPをコードするcDNAの細胞外放出の時系列解析により、ARF6-Q67L(恒常活性型)とT27N(ドミナントネガティブ)変異の効果を比較した。ミトコンドリアトラッカー、CD63染色、emerin(微小核マーカー)の検索によりDNA起源の関与を評価した。液相分離検定では、cGAS-GFP融合タンパク質の凝縮体形成をDNA添加前後で観察した。cGAS (cyclic GMP-AMP synthase) siRNAノックダウンを行い、TMV中のdsDNA量変化を評価した。レシピエント細胞へのTMV dsDNA転送実験では、SRY遺伝子をマーカーとして用い、レシピエント細胞の遺伝子発現およびアンカー非依存性増殖への影響を評価した。統計解析にはStudent t-testおよびone-way ANOVAを用いた。