- 著者: Takahashi A, Okada R, Nagao K, Kawamata Y, Hanyu A, Yoshimoto S, et al.
- Corresponding author: Akiko Takahashi (Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo) / Eiji Hara (Osaka University)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-05-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 28508895
背景
エクソソーム (exosome) は直径約40-150nmのendosome由来膜小胞で、後期endosomeの内向き出芽により形成されるmultivesicular endosome (MVE) 内に蓄積し、原形質膜との融合を経て細胞外へ放出される。近年、エクソソームがタンパク質・脂質・核酸を運ぶ細胞間コミュニケーションの媒体として機能することが多数報告され (Valadi et al. 2007、Tkach & Théry 2016)、その「受け手側」での生物学的作用の理解は急速に進んだ。一方で、エクソソーム放出が「放出する側の細胞」にとってどのような意味を持つのかはほとんど検討されておらず、エクソソームを当初提唱された「不要分子を排出する細胞のゴミ袋」とみなす古典的仮説 (Raposo & Stoorvogel 2013) は実験的証明が不足したまま放置されていた。また老化細胞ではエクソソーム放出が増加することが知られていた (Lehmann et al. 2008) が、その増加が分泌細胞の恒常性に果たす役割は手薄なまま残されていた。さらに、損傷核DNAが細胞質へ移行し細胞質DNAセンサーSTING/cGASを介してI型IFN経路やDNA損傷応答を惹起しうることが報告されていた (Ishikawa et al. 2009) ものの、この細胞質DNA蓄積とエクソソーム放出を結び付ける視点は存在せず、両者の関係は未解明のまま残された knowledge gap であった。
目的
エクソソーム放出が分泌細胞自身の細胞恒常性維持において果たす役割を明らかにし、その分子機構を解明することを目的とした。具体的には、(1) エクソソーム放出を阻害したときに分泌細胞に何が起こるか、(2) エクソソームが有害な細胞質DNAを排出する経路として機能するか、(3) その異常が自然免疫応答とDNA損傷応答 (DDR: DNA damage response) を介してアポトーシス・老化様細胞周期停止を誘発するか、(4) この機構が生体内および抗ウイルス防御でも作動するか、を検証した。
結果
エクソソーム放出阻害がアポトーシスと老化様細胞周期停止を誘発する: 連続継代またはoncogenic Ras発現で誘導した老化TIG-3細胞でAlixまたはRab27aをsiRNAでノックダウンすると、NTAとexosomal marker western blottingでエクソソーム放出の顕著な減少が確認され、これに伴い4日目のアポトーシスが対照群より有意に増加した (p<0.001、one-way ANOVA、n=3 independent experiments、mean ± s.d.、Fig 1a-f)。前老化 (pre-senescent) 細胞でも同効果がより軽度に現れ、こちらは老化様の不可逆的細胞周期停止が主体となった (p<0.01、Fig 2a-c)。siRNA耐性Alix/Rab27a cDNAの再導入で表現型が回復したためオフターゲットは否定され (Fig 2e,f)、化学的阻害剤GW4869 (10 μM)・Spiroepoxide (10 μM) でも同結果が再現された。
ATM/ATR依存性DNA損傷応答を介した恒常性維持: エクソソーム放出を阻害するとγH2AX fociとpS/TQ (ATM/ATR基質リン酸化) が前老化HDFで有意に増加した (3 foci以上陽性核を100細胞以上で計数、p<0.001、Fig 2d)。ATMとATRを同時にノックダウンすると、Alix/Rab27a欠失によるアポトーシスと細胞周期停止がほぼ完全に消失した (p<0.01、Fig 3a,b)。DDRやcell cycle checkpoint経路が破綻したヒト癌細胞株ではこれらの表現型が誘導されなかったことから、本機構が正常細胞特異的であることが裏付けられた。
エクソソームが全染色体由来のdsDNA断片を内包・排出する: 前老化TIG-3細胞のMVE内エクソソームにdsDNAが存在することをanti-dsDNA抗体のimmuno-gold標識TEMで可視化した (Fig 4a)。Bioanalyzerおよびdeep sequencingにより、エクソソームには全染色体にまたがる多様な長さのdsDNA断片が含まれる一方、ミトコンドリア由来DNAは含まれないことが示された (Fig 4b,c)。エクソソームDNAリードは500-kb binごとのRPKM補正後に全ゲノムへほぼ均等に分布し、特定座位への偏りは認められず、損傷核DNAが無作為に断片化・積載されることを示した (Fig 4c)。sucrose density-gradient分離では染色体DNA断片がcanonical exosomal marker陽性かつ密度1.05-1.25画分に共局在した (Fig 4d)。エクソソームDNA量はDNA傷害剤処理や老化誘導で増加し、放出阻害は細胞質核DNAの蓄積を増やしたことから、損傷核DNAがエクソソームDNAの供給源であると示された。
STING/cGAS-IFN-ROS軸がDDRを駆動する: エクソソーム放出阻害後にIFN-β遺伝子発現がqPCRで著明に上昇し、細胞内ROSも増加した (Fig 5e)。細胞質dsDNAを分解するlysosomal endonuclease Dnase2aの過発現は、細胞質核DNA量・DDRマーカー・IFN-β発現・ROS・アポトーシスをいずれも軽減した (p<0.01、p<0.001、Fig 5a-e)。抗酸化剤N-acetyl-L-cysteine (NAC) 1 mM処理でもDDR活性化とアポトーシスが抑制され (p<0.05、Fig 6)、STINGまたはcGASのノックダウンでも同等の保護効果が得られた (p<0.01、Fig 7)。これらは細胞質核DNA → STING/cGAS → I型IFN → ROS → ATM/ATR-DDRという経路を支持する。
マウス肝臓での生体内検証と抗ウイルス活性: ICRマウス (n=3 mice per group) へのhydrodynamics-based tail vein injectionでAlix shRNAを肝臓に導入すると、エクソソーム放出が減少し肝細胞の53BP1陽性核 (DDRマーカー、3 foci以上を陽性、100細胞以上計数) が有意に増加した (p<0.001、Fig 8)。さらにAd-GFP (MOI=10、multiplicity of infection) 感染TIG-3細胞ではウイルスDNAがエクソソームへ排出され (Fig 9d)、放出阻害でGFPタンパク発現とHEK293細胞での感染性アデノウイルス産生が劇的に増加した (p<0.001、Fig 9e-i)。これはエクソソームが外来ウイルスDNAの排出による抗ウイルス防御にも寄与することを示す。
考察/結論
本研究は、エクソソーム放出が細胞質に蓄積する有害な核DNA断片を排出することで分泌細胞自身の恒常性を維持するという、これまで報告されていない機構を提示した。受け手側の細胞間コミュニケーションに偏っていた既報のエクソソーム研究とは対照的に、本研究で初めて「放出する側の細胞」にとっての生理的意義に焦点を当てた点が新規である。エクソソームが当初提唱された「細胞のゴミ袋」仮説を、有害DNAの能動的排出という具体的分子像で実験的に裏付けた点にnovelな価値がある。
分子機構として、細胞質核DNAの蓄積がSTING/cGASに感知されI型IFN経路を活性化し、ROS産生を介してATM/ATR依存性DDRが誘発され、最終的にアポトーシスまたは老化様細胞周期停止に至る経路が、Dnase2a過発現・STING/cGASノックダウン・NAC処理という複数の独立した手法で一貫して遮断できたことが強みである。Dnase2a欠損マウスで自己DNA蓄積と炎症性経路活性化が起こるという既報や、autophagy-lysosome融合阻害がエクソソーム放出を増やすという報告と合わせると、autophagyとエクソソーム放出が相補的に炎症性DNAを処理している可能性が示唆される。
臨床的意義としては、本機構が癌細胞ではDDRやcell cycle checkpoint破綻のため作動しない一方、正常細胞特異的に恒常性を守る点が重要で、老化・炎症・抗ウイルス免疫の制御へbench-to-bedsideの橋渡しとなりうる。エクソソームDNA排出能の破綻を介入標的とする臨床応用の方向性も開ける。
本研究の限界 (limitation) として、Alix・Rab27a・nSMaseはエクソソーム放出以外 (cytokinetic abscission等) にも機能するため他経路の関与を完全には排除できないこと、細胞質核DNAがどのように小胞へ積載されるか (histoneを介する可能性が示唆されるのみ) が未解明である点が挙げられる。今後の課題として、エクソソームDNA積載機構の解明、老化・癌病態における本経路の破綻の意義、in vivoでの組織恒常性への寄与の定量的検討が必要である。
エクソソーム放出と恒常性をつなぐ本知見は、Alix依存性biogenesis (Baietti et al. NatCellBiol 2012)、Rab27a/b依存性分泌 (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)、標準的単離・characterization法 (Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006) という基盤研究の上に立ち、その後のEV-DNA積載 (Clancy et al. CellRep 2022) やEV-DNAによるSTING経路活性化 (Kitai et al. JImmunol 2017) の研究群へと接続する。
方法
正常ヒト二倍体線維芽細胞 (HDF: human diploid fibroblast) であるTIG-3細胞を主モデルとし、HEK-293T・HeLa・U2OS細胞およびマウス胎仔線維芽細胞 (MEF) も用いた。老化は連続継代 (>70 population doublings) またはoncogenic Ras (V12) 強制発現で誘導した。エクソソーム放出の阻害は、(1) 検証済みsiRNA (small interfering RNA) によるAlix・Rab27a・Tsg101・Rab27b・Slp4のノックダウン、(2) n-sphingomyelinase阻害剤GW4869およびSpiroepoxideによる化学的阻害の2系統で行った。エクソソームの単離はdifferential ultracentrifugation法 (300 g・2,000 g・10,000 gの段階遠心 → 0.22 μmフィルター濾過 → 100,000 g 70 minの超遠心) で実施し、必要に応じてsucrose density-gradient (0.25-2.0 M) で精製した。characterizationはNanoSight NTA (nanoparticle tracking analysis) による粒径・粒子数測定、CD63に対するimmuno-gold標識とtransmission electron microscopy (TEM)、canonical exosomal marker (CD63・CD81・Tsg101) のwestern blottingで行い、単離物がエクソソームであることを確認した。DDRはγH2AX fociとATM/ATR基質 (pS/TQ) の免疫蛍光染色 (100細胞以上を計数) で評価した。エクソソームDNAはBioanalyzerによるDNAサイズ分布解析とdeep sequencing (Illumina Genome Analyzer IIx、約10^7 reads、BWAでhg18へalignment、500-kb binごとのRPKM補正) で解析した。細胞質核DNAはqPCR (GRM7・FGFR2・GPC6) で定量し、ROS (reactive oxygen species) はDCF-DA (20 μM、37℃ 20 min) で測定した。in vivo実験はICRマウス (30日齢、体重24.2-26.2 g) へのhydrodynamics-based tail vein injection (n=3/群) でAlix shRNAを肝臓に導入して行った。統計はStudent’s t-testおよびone-way ANOVA (analysis of variance) で評価した。