• 著者: Fitzgerald B, Connolly KA, Cui C, Fagerberg E, Mariuzza DL, Hornick NI, Foster GG, William I, Cheung JF, Joshi NS
  • Corresponding author: Nikhil S. Joshi (Department of Immunobiology, Yale University School of Medicine)
  • 雑誌: Cell reports methods
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-09-16
  • Article種別: Original Article (Resource/Methods Paper)
  • PMID: 34632444

背景

肺がん治療の進歩が人口死亡率の低下に寄与しているものの Howlader et al. NEnglJMed 2020、Kras駆動肺腺がん (LUAD: lung adenocarcinoma) は、非小細胞肺がん (NSCLC: non-small-cell lung cancer) の中で最も頻度が高く、全がん死亡の20%以上を占める極めて予後不良な疾患である。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) を用いた治療が一次治療として承認され、一部の患者で劇的な効果が示されているが、その恩恵を受けられる患者は限定的であり、奏効率の低さが課題となっている。

広く用いられてきたKP (Kras-Lox-STOP-Lox-G12D p53 flox/flox) 遺伝子改変マウスモデル (GEMM: genetically engineered mouse model) DuPage et al. NatProtoc 2009 は、ヒトLUADの組織学的特徴を高精度に再現する。しかし、腫瘍細胞における体細胞変異負荷が極めて低く、ネオアンチゲンをほとんど発現しないため、抗腫瘍T細胞応答が乏しく、ICI療法に対しても抵抗性を示すという根本的な制限があった。Kras駆動肺腺がんにおける遺伝子変異負荷の低さは、先行研究 McFadden et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016 でも報告されている。さらに、EGFR変異肺がんにおけるゲフィチニブの奏効機序 Lynch et al. NEnglJMed 2004 のように、ドライバー変異に応じた治療標的の同定は進んでいるが、Kras変異肺がんにおける免疫療法の反応性を規定する因子は依然として未解明な点が多い。

この問題を克服するため、レンチウイルス (LV: lentivirus) ベクターを用いてネオアンチゲンを腫瘍細胞に導入する試みがなされてきた。しかし、気管内へのLV投与は感染に伴う一過性の炎症反応を惹起し、さらに非腫瘍性の免疫細胞にまで遺伝子が導入されるため、純粋な抗腫瘍T細胞応答の評価を混乱させる要因となっていた。また、LV由来のネオアンチゲンはゲノムへのランダムな組み込みやプロモーターのサイレンシングにより、腫瘍間や細胞株間での発現量のばらつきが非常に大きく、再現性のある定量的評価が困難であった。

このように、従来のモデルでは腫瘍発生と抗原発現を時間的・空間的に精密に制御する手法が確立されておらず、初期の免疫プライミングや免疫編集の動態を正確に追跡するためのツールが不足していた。特に、腫瘍の誘導と抗原の発現を時間的に分離して制御するシステムが手薄であり、感染に伴う急性炎症が免疫応答の解析に及ぼす影響を排除できないという課題が残されている。著者らは、先行研究で開発されたNINJA (inversion inducible joined neoantigen: 反転誘導型結合ネオアンチゲン) システムをKPモデルと統合することで、これらの課題を解決する新規モデルの構築を試みた。

目的

本研究の目的は、LVベクターに依存せず、腫瘍誘導とネオアンチゲン発現を時間的に完全に分離し、肺上皮細胞に限定して一貫した抗原発現を誘導可能な新規Kras駆動LUADマウスモデルであるKP-NINJA (Kras-Lox-STOP-Lox-G12D p53 flox/flox - inversion inducible joined neoantigen) マウスモデルを開発・検証することである。これにより、定量的かつ選択的な内因性抗腫瘍CD8+ T細胞応答を誘発し、免疫チェックポイント療法に対する治療反応性を再現性高く評価できるプラットフォームを確立することを目指す。

結果

ウイルスベクターの感染指向性と肺内炎症の時系列動態: 気管内へのウイルス投与における感染細胞の同定において、普遍的プロモーターを持つLV-CMV-GFPを投与した群 (n=8 mice) では、GFP陽性細胞の 66.6 ± 30.3% がCD45+免疫細胞であり、EPCAM+上皮細胞は 26 ± 29% にとどまった。同様にAd-CMV-GFP投与群 (n=2 mice) でも、感染細胞の 86.6 ± 15% がCD45+細胞であり、上皮細胞への導入効率は極めて低かった (Fig 2A)。この課題に対し、組織特異的プロモーターを用いたAd-SPC-Cre (adenovirus-surfactant protein C-Cre) を適用することで、高用量 (10^9 PFU) 投与時においてEPCAM+上皮細胞への感染比率を 27% まで向上させ、CD45+細胞への異所性導入を抑制した (Fig 2B)。さらに、Ad-SPC-Cre (2.5 x 10^7 PFU) 投与後の肺内炎症動態をLuminexアッセイ (n=3 mice per timepoint) で評価したところ、投与24時間後には顕著な急性炎症反応 (IL-5が 9.3-fold、G-CSFが 6.2-fold、IL-6が 5.1-foldの上昇) が確認されたが、これらの炎症性サイトカインは第7日までにほぼすべてが baseline (1.0-fold) 付近まで速やかに減衰した (Table 1)。この知見に基づき、感染に伴う炎症が完全に消退した第7〜10日にドキシサイクリンおよびタモキシフェンによるネオアンチゲン誘導を行うスケジュールを確立した。KP-NINJA/Tomマウスを用いた検証では、誘導されたGFP+ (ネオアンチゲン陽性) 細胞においてCD45+細胞の混入は一切認められず、CCSP-rtTA3 (Clara cell secretory protein-reverse tetracycline-controlled transactivator 3) を介した肺上皮細胞特異的な抗原発現が実証された (Fig 2D)。

腫瘍発生率とネオアンチゲン発現の高度な均一性: Ad-SPC-Creにより腫瘍誘導を行ったKP-NINJAマウスは、感染後20〜25週において 34/34 mice (100%) の高い確率で肺腺がんを形成し、優れた腫瘍発生率を示した (Fig 3A)。組織病理学的解析において、形成された腫瘍はヒトLUADに類似した高分化〜中分化の腺がん形態を示した。樹立したKP-NINJA腫瘍細胞株 (n=5 lines) におけるネオアンチゲン発現の均一性を検証したところ、すべての株 (100%) で 16.8%〜79.1% の細胞がGFP陽性であり、株間におけるGFPのMFI (mean fluorescence intensity: 平均蛍光強度) 分散はわずか約5倍 (5-fold) 以内に収まっていた (Fig 3E)。これに対し、従来のレンチウイルスベクター (Cre-GFP33 LV) を用いて樹立したKP細胞株 (n=9 lines) では、抗原発現細胞を含む株は 56% (5/9株) にとどまり、株間における陽性細胞比率の分散は 715-fold、GFPのMFI分散は 26.5-fold と極めて大きなばらつきを示した (Fig 3G)。また、LucOS-Cre LVを用いて樹立した細胞株でも、ルシフェラーゼ活性に 41-fold の大きな分散が認められた (Fig 3D)。この結果は、ゲノム組み込み型ベクターによる抗原サイレンシングや発現の不均一性を、定量的遺伝子改変モデルであるKP-NINJAが劇的に改善できることを示している。

内因性腫瘍特異的CD8+ T細胞応答の定量的検出: 腫瘍誘導後8週目のKP-NINJAマウス (n=20 mice) の肺組織を解析したところ、全例において肺実質内 (静脈内投与したCD45抗体陰性画分) へのCD8+ T細胞の有意な浸潤増加が認められた (Fig 4F)。さらに、そのうち 85% (17/20 mice) において、GP33特異的MHCクラスIテトラマー陽性のCD8+ T細胞が検出され、その割合は全肺実質内CD8+ T細胞の平均約9% (8.8 ± 5%) を占めていた (Fig 4D, 4E)。これに対し、腫瘍を形成しない対照群 (P-NINJAマウス、n=3 mice) では、GP33特異的CD8+ T細胞の有意な増加は観察されなかった (0.3 ± 0.2%)。CD3+ T細胞の腫瘍内浸潤に関する盲検スコアリングでは、8週目のKP-NINJA腫瘍の 75% (8/12) が高度浸潤 (>50% 腫瘍実質) に分類されたのに対し、Cre-GFP33 LV誘導腫瘍では 70% (7/10) が低度浸潤 (<10%) であった (Fig 4A)。また、20週目のKP-NINJA腫瘍のIF (immunofluorescence: 免疫蛍光染色) 解析 (n=60 tumors) では、43.3% (26/60) の腫瘍周囲において、T細胞 (CD3+) およびB細胞 (B220+) の集積からなるTA-TLS (tumor-associated tertiary lymphoid structure: 腫瘍随伴三次リンパ組織) 様構造の形成が確認された。FIJIソフトウェアを用いて画像をオーバーレイした (Fig 4B) Schindelin et al. NatMethods 2012

免疫チェックポイント阻害薬に対する治療反応性と評価系の樹立: KP-NINJAマウスの原発腫瘍から樹立し、GFP陽性画分をソートして得られた細胞株「KPN1.1」は、免疫不全NSGマウスにおいて一貫した造腫瘍性を示した (Fig 5B)。同細胞株を野生型C57BL/6Jマウスに皮下移植したところ、その腫瘍増殖速度は、T細胞欠損Rag1-/-マウスや抗原寛容を持つNINJA(F)マウスへの移植群と比較して有意に遅延した (p<0.05, Fig 5C)。この増殖遅延効果は、抗CD8抗体による枯渇処理によって消失したことから、内因性のCD8+ T細胞に依存した抗腫瘍免疫応答であることが実証された (Fig 5D)。腫瘍内に浸潤したGP33特異的CD8+ T細胞であるTIL (tumor-infiltrating lymphocyte: 腫瘍浸潤リンパ球) の 97% 以上がPD-1を高発現しており、免疫チェックポイント阻害療法の標的として適していることが確認された (Fig 5F)。KPN1.1移植モデルに対し、抗PD-1抗体および抗CTLA-4抗体の併用療法であるcombo CPI (combination checkpoint immunotherapy: 併用免疫チェックポイント療法、各200 µg、第3、6、9日投与) を施行したところ、単剤療法 (抗PD-1単剤で 10% [1/10]、抗CTLA-4単剤で 10% [1/10] の完全奏効) と比較して、併用群では 67% (6/9 mice) という極めて高い確率で完全な腫瘍消失 (complete regression) が得られ、優れた治療反応性が示された (p<0.001, Fig 5G, 5H)。IFN-gamma刺激によるMHCクラスIの上レギュレーションは、先行研究 Bullock et al. LifeSciAlliance 2019 と整合する所見であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究で開発されたKP-NINJAモデルは、従来の遺伝子導入型肺がんモデルと異なり、腫瘍の発生(Creによるトランスフォーメーション)とネオアンチゲンの発現(ドキシサイクリン/タモキシフェンによる誘導)を時間的に完全に分離できる設計となっている。従来のレンチウイルスを用いたネオアンチゲン導入モデル DuPage et al. NatProtoc 2009 では、ウイルス感染に伴う初期炎症反応が抗原提示細胞の活性化や初期のT細胞プライミングに交絡因子として影響を及ぼしていた。これに対し、KP-NINJAモデルではアデノウイルス感染による急性炎症が完全に消退した第7日以降に抗原発現を誘導できるため、純粋な腫瘍抗原特異的免疫応答の解析が可能である。また、非腫瘍性免疫細胞への異所性遺伝子導入を排除し、肺上皮細胞特異的に抗原を発現させる空間的制御を実現した点も、これまでのモデルと大きく異なる特徴である。

新規性: 本研究で初めて、ゲノムにコードされた精密な制御システムを肺がんGEMMに統合し、きわめて均一なネオアンチゲン発現を維持する自発性肺腺がんモデルを新規に構築した。従来のウイルスベクターによる抗原導入では、プロウイルスのサイレンシングやゲノム挿入部位の差異により、腫瘍間での抗原発現量に数十倍から数百倍のばらつきが生じていた。KP-NINJAモデルでは、樹立細胞株間における抗原発現量のばらつきを従来の約41倍から約5倍へと大幅に低減し、すべての腫瘍細胞株において一貫した抗原提示能を維持することに成功した。これは、腫瘍免疫編集(immunoediting)やT細胞の疲弊(exhaustion)プロセスを定量的に追跡するための極めて新規性の高いツールである。

臨床応用: 本モデルから樹立されたKPN1.1細胞株は、野生型C57BL/6Jマウスにおいて明らかな免疫原性を示し、抗PD-1抗体および抗CTLA-4抗体の併用療法に対して高い完全奏効率を示した。CTLA-4阻害による抗腫瘍免疫の活性化 Leach et al. Science 1996 や、PD-L1を介したがん細胞の免疫逃避機構 Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002 が明らかにされて以来、免疫療法の併用は臨床現場での重要な戦略となっている。本モデルは、新規の免疫療法や複合療法の有効性を前臨床段階で評価するためのトランスレーショナルなプラットフォームとして機能することを示している。特に、ヒトLUADにおいてICI併用療法が標準治療となっている現状において、ベンチからベッドサイドへの橋渡し研究を加速させる臨床的意義は極めて大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、ドキシサイクリン/タモキシフェンの投与プロトコルをさらに最適化し、腫瘍内におけるネオアンチゲン陽性細胞の比率を100%に近づける手法の確立が挙げられる。第二に、本モデルにおいて観察された三次リンパ組織であるTA-TLSのより詳細な細胞組成や機能的成熟度(高内皮細静脈や濾胞樹状細胞のマーカー解析など)の解明が必要である。第三に、NINJAシステムが提示する抗原はLCMV由来の限定的なエピトープに依存しており、実際の患者における多クローン性かつ多様な突然変異負荷を完全には模倣していない点がlimitationとして残されている。今後は、本システムを他の臓器不全モデルや異なるがん種のGEMMへ応用し、より汎用的ながん免疫研究の基盤として拡張していくことが期待される。

方法

KP (Kras-Lox-STOP-Lox-G12D p53 flox/flox) マウスに、R26-NINJA (Rosa26-inversion inducible joined neoantigen) アリルおよびCCSP-rtTA3 (Clara cell secretory protein-reverse tetracycline-controlled transactivator 3) トランスジェニックアリルを交配させ、KP-NINJAマウスを作製した。

自発性肺腫瘍の誘導は、組織特異的プロモーターを用いたアデノウイルスベクターであるAd-SPC-Cre (adenovirus-surfactant protein C-Cre、2.5 x 10^7 PFU) の気管内投与により第0日に行い、Kras G12Dの活性化とp53の欠失を誘導した。その後、感染に伴う初期炎症が消失した第7〜10日に、ドキシサイクリン含有飼料の給餌およびタモキシフェンの経口ゾンデ投与を行い、CCSP-rtTA3依存的にFLPoERを発現させ、NINJAネオアンチゲンの発現を誘導した。

ウイルスの感染指向性(トロピズム)評価には、LV-CMV-GFPおよびAd-CMV-GFPを用いて、肺内のCD45+免疫細胞とEPCAM+上皮細胞におけるGFP発現比率をFACS (fluorescence-activated cell sorting: フローサイトメトリー) で定量した。炎症動態の評価には、Ad-SPC-Cre感染後の0、1、7、14日目に肺組織ホモジネートを回収し、Luminexアッセイを用いて44種類のサイトカイン・ケモカイン濃度を測定した。

腫瘍形成率は感染後20〜25週目に組織学的に確認し、ネオアンチゲン発現の均一性は樹立した腫瘍細胞株におけるGFPのMFI (mean fluorescence intensity: 平均蛍光強度) およびルシフェラーゼ活性により定量評価した。抗腫瘍T細胞応答の評価は、感染後8週目の肺組織において、MHCクラスI GP33テトラマーを用いたFACS解析、および静脈内投与したCD45抗体による肺実質内細胞の標識、IHC (immunohistochemistry: 免疫組織化学) 染色により実施した。

本研究では、C57BL/6J、NSG、Rag1-/-、およびNINJA(F)などのマウス系統(mouse strain)を使用し、さらにHEK293T細胞株や樹立したKPN1.1細胞株(cell line)を用いてin vitroおよびin vivoの検証を行った。統計解析には、GraphPad Prismを用い、2群間比較には Student t-test を、複数群の経時的比較には two-way ANOVA を適用した。