- 著者: Dana R. Leach, Matthew F. Krummel, James P. Allison
- Corresponding author: James P. Allison (Cancer Research Laboratory and Department of Molecular and Cell Biology, University of California, Berkeley, CA 94720, USA)
- 雑誌: Science
- 発行年: 1996
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 8596936
背景
多くの腫瘍は、宿主免疫系によって認識可能な抗原を発現しているにもかかわらず、効果的な抗腫瘍免疫応答を誘導できないことが知られている。この免疫原性の低さの主要な原因の一つとして、T細胞の完全な活性化に必要な共刺激シグナル、特にB7-CD28相互作用が腫瘍細胞によって提供されないことが挙げられていた。T細胞の活性化には、T細胞受容体と主要組織適合性複合体 (MHC) に結合した抗原ペプチドとの結合に加え、共刺激シグナルが必須である (Mueller et al. 1989)。最も重要な共刺激シグナルは、T細胞上のCD28と、専門的抗原提示細胞 (APC) 表面のB7-1 (CD80) およびB7-2 (CD86) との相互作用によって提供されると考えられている (Linsley and Ledbetter 1993; June et al. 1994; Allison 1994)。B7共刺激分子の発現は専門的APCに限定されており、ほとんどの組織由来腫瘍はMHC分子の文脈で抗原を提示しても、共刺激能力の欠如により効果的な免疫を誘導できない可能性がある。この概念を支持する複数の研究が存在する。様々なモデル系において、共刺激B7分子を発現するように遺伝子導入された腫瘍細胞は、改変された腫瘍細胞と未改変の腫瘍細胞の両方に対して強力な応答を誘導した (Chen et al. 1992; Townsend and Allison 1993; Baskar et al. 1993)。これは、B7を導入された腫瘍細胞がAPCとして機能し、腫瘍特異的T細胞を直接活性化できることを示唆している。
一方、CTLA-4はCD28のホモログであり、B7-1およびB7-2の両方にCD28よりもはるかに高い親和性で結合することが示されていた (Brunet et al. 1987; Linsley et al. 1991; Linsley et al. 1994)。最近の証拠は、共刺激が当初考えられていたよりも複雑であり、競合する刺激および抑制シグナルイベントが関与することを示唆している (Jenkins 1994; Bluestone 1995; Linsley 1995; Allison and Krummel 1995)。in vitro研究では、CTLA-4の抗体架橋が抗CD3によって誘導されるT細胞増殖およびインターロイキン-2産生を抑制する一方、可溶性抗体またはFabフラグメントによるCTLA-4の遮断は増殖応答を増強することが示されていた (Walunas et al. 1995; Krummel and Allison 1995)。同様に、可溶性抗CTLA-4抗体またはFabフラグメントは、in vivoで名目上のペプチド抗原またはスーパー抗原であるブドウ球菌エンテロトキシンBに対するT細胞応答を大幅に増強する (Kearney et al. 1995; Krummel et al. in press)。さらに、CTLA-4の関与が活性化T細胞のアポトーシスを誘導する可能性も示唆されていた (Gribben et al. 1995)。決定的に、CTLA-4欠損マウスは重篤なT細胞増殖性疾患を示すことが報告されており (Waterhouse et al. 1995)、CTLA-4がT細胞応答の負の調節因子であることを明確に示していた。これらの結果は、CTLA-4-B7相互作用によって伝達される抑制シグナルを遮断することで、腫瘍細胞に対するT細胞応答を増強し、抗腫瘍免疫を強化できる可能性を示唆していた。
これまでの抗腫瘍戦略は、腫瘍細胞へのB7遺伝子導入やGM-CSF分泌操作に限られており、宿主免疫系のブレーキそのものを解除するというアプローチは未開拓であった。本研究に先立ち、Krummel and Allison (1995) はin vitroでの抗CTLA-4抗体によるT細胞増殖促進を実証しており、この原理をin vivo腫瘍モデルに応用する動機が存在した。しかし、in vivoでのCTLA-4遮断が、特にB7陰性の未改変腫瘍に対して、また既存腫瘍に対しても有効であるかは未解明であった。この領域における知識の不足は、新たな治療戦略の開発を阻害する要因となっていた。
目的
本研究の目的は、抗CTLA-4抗体のin vivo投与がマウス腫瘍モデルにおける抗腫瘍免疫を増強できるかを検証することである。具体的には、以下の点を評価する。第一に、B7陽性腫瘍細胞に対する拒絶反応を促進・加速するか。第二に、B7陰性 (共刺激欠損) の未改変腫瘍に対しても効果があるか、およびその効果が持続的な免疫学的記憶を誘導するか。第三に、既存の触知可能な腫瘍に対しても抗CTLA-4抗体治療が有効であるか。最後に、これらの効果が異なる腫瘍種およびマウス系統においても再現可能であるかを検証し、CTLA-4遮断が広範な抗腫瘍戦略として機能する可能性を探る。これらの検証を通じて、CTLA-4がT細胞活性化の負の調節因子であるという知見をin vivoの抗腫瘍免疫に応用し、新たな治療戦略の基盤を確立することを目指す。
結果
B7陽性腫瘍への効果:抗CTLA-4が拒絶を促進・加速: BALB/cマウスにB7-1陽性トランスフェクタントB7-51BLim10細胞 (4 × 10^6 cells) を皮下注射し、抗CTLA-4抗体 (100/50/50 μg、day 0/3/6の3回腹腔内投与) または抗CD28抗体・無処置対照と比較した (Fig. 1)。対照群 (n=5 mice) は急速増殖後に80% (8/10例) が約day 23に自然退縮し、残りの20% (2/10例) は90日以上腫瘍静止状態が持続した。抗CD28投与群でも類似のパターンを示した。一方、抗CTLA-4投与群 (n=5 mice) では5/5例 (100%) がday 17までに完全退縮を達成し、うち3/5例は非常に小さな腫瘍を一過性に呈するのみであった。腫瘍径積の平均値±SEMを経時的に表示したグラフでは、抗CTLA-4群が対照群・抗CD28群と比べてday 10以降で著明な腫瘍縮小を示し、day 17での腫瘍径積平均値±SEMが抗CTLA-4群で0 ± 0 mm^2 (全例退縮) と対照群の峰値から劇的に低下した。B7陽性腫瘍は対照群でも自然退縮傾向があるため劇的な差ではなかったものの、抗CTLA-4処置が腫瘍拒絶を阻害しないことの確認と、拒絶速度の加速 (完全退縮率 100% vs 80%) が示された。
B7陰性腫瘍への顕著な効果:完全拒絶と免疫学的記憶の誘導: B7陰性ベクターコントロールV51BLim10細胞 (4 × 10^6 cells) を注射した対照群では全例 (n=5 mice、100%) がday 35までに進行性腫瘍で安楽死を必要とした (Fig. 2A)。一方、抗CTLA-4投与群 (n=5 mice) は5/5例 (100%) が腫瘍を完全拒絶し、90日以上無腫瘍で生存した。低用量の2 × 10^6個のV51BLim10細胞を注射した実験でも、対照全例 (n=5 mice、100%) がday 35以内に死亡する一方、抗CTLA-4投与群では3/5例 (60%) がday 80以降まで無腫瘍を維持した (Fig. 2B, C)。残りの2例のうち1例は急速な腫瘍形成、もう1例は後発腫瘍を発症した。この結果は、CTLA-4遮断がB7陰性腫瘍細胞の拒絶を著しく増強することを示している。免疫学的記憶の評価では、V51BLim10拒絶後70日目に野生型51BLim10細胞 (4 × 10^6 cells) を対側皮下に再注射した既免疫マウス5例を、ナイーブ対照マウス5例と比較した (Fig. 2D)。ナイーブ対照全例 (n=5 mice、100%) がday 35に腫瘍死したのに対し、既免疫マウスの2/5例 (40%) はday 70以降も無腫瘍を維持し、3例は遅発性腫瘍を発症した。この知見は、チェックポイント遮断による抗腫瘍免疫学的記憶の誘導を初めて実証したものである。
既存腫瘍への効果:触知可能腫瘍に対する遅延投与でより有効: 野生型51BLim10細胞 (2 × 10^6 cells) 注射後day 0から抗CTLA-4投与を開始した群 (n=10 mice) と、day 7 (多数が触知可能腫瘍形成後) に開始した群 (n=5 mice) を、ハムスターIgG対照群 (n=10 mice) と比較した (Fig. 3)。対照群は全例が急速に腫瘍が増大した。day 0開始およびday 7開始いずれの抗CTLA-4投与群も対照より腫瘍体積が著明に小さかった。特に遅延投与群 (day 7開始) ではより顕著な効果が得られ、2/5例 (40%) がday 30以降も無腫瘍を達成した。この結果は、既存の触知可能な腫瘍に対してもin vivo抗CTLA-4投与が有効であることを初めて示した知見であり、臨床応用における重要な前提となった。
SaIN線維肉腫への効果:別腫瘍種・別マウス系統でも有効性を再現: A/JCrマウスにSaIN線維肉腫細胞 (1 × 10^6 cells) を注射した対照群 (n=5 mice) は全例がday 7以内に計測可能腫瘍を形成し、day 30までに安楽死を要した (100%) (Fig. 4)。抗CTLA-4投与群 (n=5 mice) では2例のみがday 30時点で腫瘍を有し、1例はday 40頃発症し、残りの2/5例 (40%) はday 55時点まで無腫瘍であった。別の実験で4 × 10^6個のSaIN細胞を注射した追加実験 (n=10 mice/群) では、対照全例 (10/10、100%) が急速腫瘍を形成した一方、抗CTLA-4治療群では7/10例 (70%) がday 25以降無腫瘍を達成した。ハムスターIgGコントロール抗体群は全例腫瘍形成 (100%) という明確な対照結果が得られた。これらの結果は、B7発現の有無、組織型 (大腸癌 vs 線維肉腫)、およびマウス系統 (BALB/c vs A/JCr) の組み合わせを問わず、CTLA-4遮断の抗腫瘍効果が広く再現されることを示している。
考察/結論
本論文は、抗CTLA-4抗体のin vivo投与によってB7陰性の未改変腫瘍細胞の拒絶が可能であることを初めて実証した、免疫チェックポイント遮断療法の根拠となった原著論文である。
先行研究との違い: これまでの抗腫瘍免疫増強戦略は、腫瘍細胞自体を遺伝子改変すること (例: B7発現導入、GM-CSF分泌) に依存していた。本研究は、これらと異なり、腫瘍細胞を改変することなく、宿主免疫系の阻害シグナルを解除するだけで有効な抗腫瘍免疫が誘導できるという、根本的に異なるアプローチを提示した。この概念は、後のイピリムマブ (ヒト化抗CTLA-4抗体、2011年FDA承認) 開発を直接牽引した。
新規性: 本研究で初めて、in vivoでのCTLA-4遮断がB7陰性腫瘍の拒絶を誘導し、さらに既存の触知可能な腫瘍に対しても有効であること、そして腫瘍拒絶が持続的な免疫学的記憶を誘導することを新規に示した。特に、既存腫瘍への有効性 (day 7遅延投与で2/5例が無腫瘍化) と免疫学的記憶の誘導 (再チャレンジで2/5例が長期無腫瘍) は、臨床応用における持続的な治療効果を予示するものであった。
作用機序: 著者らは、CTLA-4遮断による抗腫瘍免疫の正確な機序は未解明であるとしながらも、2つの非排他的な可能性を提唱している。第一に、抑制シグナルの除去によりT細胞活性化の全体的な閾値が低下し、通常は不反応性のT細胞が活性化される可能性。第二に、CTLA-4遮断が活性化T細胞の増殖を維持し、通常は応答を終了させる抑制シグナルを除去することで、腫瘍特異的T細胞のさらなる拡大を可能にする可能性である。これらの機序は、Krummel and Allison (1995) がin vitroでCTLA-4遮断によるT細胞増殖促進を示した先行研究と一致する。
臨床応用: 本知見は、免疫チェックポイント遮断という全く新しい治療概念を確立し、がん免疫療法の臨床応用への道を開いた。特に、既存腫瘍に対する効果と免疫学的記憶の誘導は、臨床現場での長期的な治療効果と再発予防の可能性を示唆するものであり、極めて臨床的意義が高い。CTLA-4遮断は、共刺激経路に関わる他の治療アプローチ (例: 樹状細胞ワクチン) と組み合わせることで、特に有用な補助療法となる可能性も示唆された。
残された課題: 本論文の限界として、使用したマウス腫瘍モデルが免疫原性の高い実験的腫瘍であること、および少例数 (n=5〜10 mice) であることが挙げられる。今後の検討課題として、CTLA-4遮断の詳細な作用機序 (例: CD4+制御性T細胞の抑制への関与)、ヒト腫瘍への応用可能性、他の免疫チェックポイント分子の同定、および自己免疫毒性プロファイルの評価が残されている。James P. Allison博士はこの業績を中心として2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
方法
BALB/cマウスに、B7-1陽性トランスフェクタントであるB7-51BLim10大腸癌細胞 (4 × 10^6個または2 × 10^6個) またはベクターコントロールであるV51BLim10細胞 (B7陰性、4 × 10^6個または2 × 10^6個) を皮下注射した。V51BLim10および野生型51BLim10腫瘍細胞は、フローサイトメトリー分析により検出可能な量のB7-1、B7-2、またはCTLA-4を発現しないことを確認した (Townsend et al. 1994)。A/JCrマウスには、急速増殖性線維肉腫SaIN細胞 (1 × 10^6個または4 × 10^6個) を使用した (Baskar et al. 1995)。
抗CTLA-4抗体 (非刺激性・二価) または対照抗体 (抗CD28抗体または無関係なハムスターIgG) を腹腔内投与した。抗体はハイブリドーマ上清からプロテインG精製され、紫外線分光光度計で定量された (Krummel and Allison 1995)。投与スケジュールは、day 0、day 3、day 6にそれぞれ100 μg、50 μg、50 μgの3回投与を基本とした。一部の実験では、day 0、day 3、day 6、day 9に100 μgの抗体を投与した。
既存腫瘍に対する効果を評価するため、野生型51BLim10細胞 (2 × 10^6個) 注射後、day 7 (多くのマウスで触知可能な腫瘍が形成された時点) から抗CTLA-4投与を開始した群と、day 0から投与を開始した群を比較した。
免疫学的記憶の評価のため、V51BLim10腫瘍を拒絶した抗CTLA-4治療マウスに対し、最初の腫瘍注射から70日後に、対側の皮下にナイーブ野生型51BLim10細胞 (4 × 10^6個) を再注射し、ナイーブ対照マウスと比較した。
腫瘍サイズは、二等分した腫瘍直径の積として測定し、平均値±標準誤差 (SEM) で示した。マウスは、腫瘍サイズが200 mm^2に達するか、または潰瘍形成が認められた場合に安楽死させた。グループ内の個々のマウスが安楽死させられた場合、その最終測定値は後続の時点に引き継がれた。
統計解析については、具体的な手法の記載はないが、グラフデータは平均値と標準誤差で示されており、群間比較は視覚的に評価された。本研究は基礎研究であり、BALB/cマウスや A/JCrマウスといった特定の系統を用いたin vivo実験が主体であるため、臨床試験のようなNCT番号やUMIN IDは存在しない。