- 著者: Yoshiko Iwai*, Masayoshi Ishida*, Yoshimasa Tanaka, Taku Okazaki, Tasuku Honjo, Nagahiro Minato (*equal contribution)
- Corresponding author: Nagahiro Minato (minato@imm.med.kyoto-u.ac.jp) (Department of Immunology and Cell Biology, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Yoshida-Konoe, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan); Contributed by Tasuku Honjo
- 雑誌: PNAS
- 発行年: 2002
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 12218188
背景
PD-1 (programmed death-1) は、活性化T細胞およびB細胞に発現するI型膜タンパク質であり、Honjoグループによってアポトーシス関連分子として発見された。PD-1欠損マウスが種によって異なる自己免疫疾患(ループス様糸球体腎炎や拡張型心筋症)を自然発症することから、PD-1が末梢免疫寛容の維持に必須の負の調節受容体であることが確立されていた (Nishimura et al. Immunity 1999、Nishimura et al. Science 2001)。その後、PD-1リガンドとしてPD-L1 (B7-H1) およびPD-L2 (B7-DC) が同定された (Freeman et al. JExpMed 2000)。PD-L1は様々な組織の非造血細胞に広く発現し、IFNγ刺激により誘導されることが示されていた。
腫瘍細胞がT細胞の免疫応答を回避するために免疫抑制分子を利用する可能性は以前から提唱されていた。例えば、CTLA-4の遮断が抗腫瘍免疫を増強し、腫瘍の有意な抑制を誘導することが複数の実験的マウスモデルで示されていた (Leach et al. Science 1996)。しかし、CTLA-4のリガンドは腫瘍細胞自体にはほとんど発現せず、主に宿主のB7陽性抗原提示細胞を介したT細胞の活性化と増殖を制限すると考えられていた。一方で、PD-1リガンドであるPD-Lは心臓、肺、肝臓、腎臓などの非リンパ組織にも発現しており、これらの組織に発現するPD-Lが自己反応性エフェクターT細胞に対する「拒否分子」として機能する可能性が推測されていた。このような背景から、腫瘍細胞が直接的に免疫抑制分子を発現し、免疫応答を回避するメカニズムの存在が示唆されていた。
しかし、腫瘍細胞上のPD-L1が宿主免疫逃避に直接機能するのか、そしてPD-1/PD-L1経路の遮断が抗腫瘍免疫療法として有効であるのかについては、そのメカニズムと臨床的応用可能性が未解明であった。特に、腫瘍細胞自体がPD-L1を発現することで、直接的にCTLの攻撃から逃れるメカニズムを確立しているのか、そしてその経路を標的とした治療がどの程度の効果を発揮するのかについては、明確な実験的実証が不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、腫瘍細胞上のPD-L1発現が宿主免疫系からの腫瘍の逃避に直接的に寄与するかどうかを検証することである。具体的には、PD-L1を遺伝子導入した腫瘍細胞を用いてin vitroでのCTLによる細胞傷害性への影響を評価し、in vivoでの腫瘍形成能と浸潤性に対するPD-L1の影響を解析する。さらに、抗PD-L1抗体による腫瘍免疫増強効果、およびPD-1ノックアウトマウスにおけるPD-L1陽性腫瘍の増殖抑制効果を実験的に実証し、PD-1/PD-L1経路の遮断が腫瘍免疫療法の有望な戦略となり得ることを示すことを目指した。これらの検証を通じて、PD-L1が腫瘍免疫逃避の新たな標的となり得ることを明らかにする。
結果
PD-L1発現腫瘍細胞はCTL傷害を回避し、in vivoで急速増殖・浸潤・転移を示す: P815細胞にPD-L1を遺伝子導入したP815/PD-L1クローンは、親株P815細胞と比較して、2C CTLによる⁵¹Cr放出が著明に低下した (E:T比20:1、40:1、80:1のすべての条件で抑制)。この細胞傷害性の低下は、抗PD-L1抗体F(ab’)2断片 (10 µg/ml) を添加するとほぼ完全に回復した (Fig. 1C)。これは、PD-L1が直接CTL傷害を阻害することを示唆する。同系DBA/2マウスへの皮下移植実験 (n=6 mice/group) では、P815/mock細胞は70%のマウスで2〜3週で腫瘍が退縮したが、P815/PD-L1細胞は100%の動物で腫瘍を形成し、急速に増殖して2〜4週以内に全例が死亡した (Fig. 2A Left, 2B)。腫瘍体積はP815/PD-L1群でP815群と比較して有意に大きかった (p < 0.01)。組織学的検索では、P815/PD-L1は肝臓や腹腔内への浸潤・転移を示した (Fig. 2C)。H-2適合性のBALB/c nu/nuマウス (n=6 mice/group) では、P815とP815/PD-L1の両細胞株が同等に急速な腫瘍形成を示し、4週以内に全例が死亡した (Fig. 2A Right)。この結果は、PD-L1の腫瘍促進効果がT細胞依存的であり、NK細胞やマクロファージには依存しないことを示唆している。
抗PD-L1抗体治療はPD-L1陽性腫瘍移植マウスで40%の完全寛解を誘導する: P815/PD-L1細胞 (3 × 10⁶個) を移植したDBA/2マウス (n=6 mice/group) に、抗PD-L1 mAb (0.1 mg/回、day 1/3/5/7) を腹腔内投与した。対照群 (正常ラットIgG投与) は100%が進行性腫瘍で全例が6週以内に死亡したのに対し、抗PD-L1処置群では40%の動物で腫瘍が完全に消失し、生存が継続した (Fig. 3B)。残りの60%でも腫瘍増殖は認められたが、対照群と比較して有意な遅延が観察された。組織学的には、CD4+およびCD8+ TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) の浸潤増加が確認された。並行して実施したin vitroアッセイでは、CTLとの共培養において抗PD-L1抗体F(ab’)2断片添加により、細胞傷害活性 (⁵¹Cr放出) およびIFNγ産生が完全に回復した (Fig. 3A)。IFNγ産生はP815/PD-L1細胞に対するCTL応答で約50%抑制されたが、抗PD-L1抗体によりほぼ100%回復した。これは、PD-L1遮断がCTLのエフェクター機能を回復させることを明確に示している。
自然発生PD-L1発現骨髄腫細胞はPD-1欠損マウスで完全に抑制される: マウス腫瘍細胞株のスクリーニングにより、J558L、SP2/0、P3U1、X63 (すべてBALB/c由来形質細胞腫) がフローサイトメトリーで強いPD-L1発現を示すことが確認された (Fig. 4A)。一方、B16メラノーマ (C57BL/6由来) はPD-L1陰性であった。J558L細胞 (2.5 × 10⁵個) を移植したBALB/cマウス (n=9 mice/group) に抗PD-L1抗体 (0.1 mg、day 1/3/5/7) を投与したところ、有意ではあるものの、一過性の腫瘍抑制効果のみが認められ、完全寛解は得られなかった (p < 0.01で有意な抑制、p < 0.1で一過性の抑制)。しかし、J558L細胞 (2.5 × 10⁵個) をPD-1欠損 (PD-1-/-) BALB/cマウス (n=4 mice/group) へ移植したところ、野生型BALB/cマウスでは全例が腫瘍形成・進行したのに対し、PD-1-/-マウスでは腫瘍が完全に抑制され、腫瘍形成は全く認められなかった (p<0.001) (Fig. 4C Left)。これは、内在性のPD-L1がPD-1シグナリングを介して宿主免疫を抑制することをin vivoで直接実証するものである。さらに、B16細胞 (PD-L1陰性、1 × 10⁶個) をPD-1-/- C57BL/6マウス (n=10 mice/group) へ移植した実験では、野生型C57BL/6マウスと腫瘍増殖に差異は認められなかった (Fig. 4C Right)。この結果は、PD-1/PD-L1軸が腫瘍細胞上のPD-L1発現に依存して機能すること、すなわちPD-L1陰性腫瘍ではこの経路の遮断が意味を持たないことを確認した。
考察/結論
本論文は、Honjo・Minato (京都大学) グループが、腫瘍細胞上のPD-L1が宿主CD8+ CTLによる免疫監視を直接回避し、腫瘍進行を促進する機能的メカニズムを初めて実証した画期的な研究である。
新規性: 本研究で初めて、腫瘍細胞自体がPD-L1を発現することで、直接的にエフェクターT細胞の機能(細胞傷害性およびIFNγ産生)を抑制し、in vivoでの腫瘍増殖、浸潤、転移を促進するというメカニズムを明らかにした。これは、CTLA-4が主にT細胞プライミング段階で機能するのに対し、PD-1/PD-L1経路がエフェクター段階でも腫瘍免疫を抑制するという、これまで報告されていない重要な知見である。
先行研究との違い: 本研究で示された「抗PD-L1抗体で腫瘍が退縮する」という治療効果と、「PD-1欠損マウスではPD-L1陽性腫瘍が完全に抑制される」という遺伝学的証拠は、PD-1/PD-L1軸が腫瘍免疫逃避の中心的な経路であることを確立した。これは、CTLA-4遮断が腫瘍免疫を増強するという先行研究の知見とは異なり、腫瘍細胞自体が免疫抑制リガンドを発現するという直接的なメカニズムを提示した点で重要である。特に、PD-L1陰性であるB16メラノーマではPD-1欠損マウスでも腫瘍増殖に差がないという陰性対照実験は、作用機序がPD-L1発現依存的であることを明確に示した点で重要である。
臨床応用: 本知見は、その後の抗PD-1 (ニボルマブ/ペムブロリズマブ) および抗PD-L1 (アテゾリズマブ/デュルバルマブ) 抗体の臨床開発に直接つながる、極めて臨床的意義の高い発見であった。腫瘍細胞上のPD-L1発現が免疫チェックポイント阻害療法のバイオマーカーとして注目されるきっかけとなり、臨床現場での患者選択や治療戦略に大きな影響を与えた。抗PD-L1抗体による一過性の腫瘍抑制 (J558L) と完全寛解 (P815/PD-L1) の差異は、腫瘍微小環境における免疫抑制機構の多重性を示唆しており、今後の併用療法戦略開発の必要性を示唆する。
残された課題: 今後の検討課題としては、ヒトがんにおけるPD-L1発現と臨床アウトカムとの相関関係のさらなる詳細な解析、最適な抗体フォーマット (F(ab’)2 vs 全長IgG) の検討、PD-L1誘導機構 (IFNγ以外のシグナル) の解明、および他の免疫抑制機構との併用療法戦略の開発が挙げられる。本論文は、腫瘍免疫学における最も引用される論文の一つであり、現在のがん免疫療法の根幹的な概念的・実験的基盤を提供した点で、その重要性は計り知れない。Tasuku Honjoはこの研究を含む一連のPD-1研究でJames P. Allisonとともに2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
方法
マウスは、BALB/c、BALB/c nu/nu、DBA/2、C57BL/6 (B6) を日本クレアから購入し、PD-1欠損マウスはB6またはBALB/cマウスに15世代以上戻し交配されたものを施設内で維持した。PD-1欠損マウスは、PD-1遺伝子の欠損が確認された。
細胞株として、P815 (肥満細胞腫)、B16 (メラノーマ)、SP2/0 (骨髄腫)、P3U1 (骨髄腫)、X63 (骨髄腫)、J558L (骨髄腫)、PAI (骨髄腫/形質細胞腫) を使用し、10% FCS、10⁻⁵ M 2-メルカプトエタノール、抗生物質を添加したRPMI 1640完全培地で培養した。アロ (H-2Ld) 反応性細胞傷害性T細胞 (CTL) クローン2Cは、2C-トランスジェニックB6マウス由来のものを京都大学のK. Udaka氏から供与され、10〜12日ごとに100 Gy照射P815細胞で刺激し、5%ラットConA条件培地を添加したRPMI 1640完全培地で維持した。同系腫瘍特異的CTLを樹立するため、DBA/2マウスに100 Gy照射P815細胞 (5 × 10⁶個) を2週間間隔で腹腔内投与し、脾細胞をin vitroで照射P815細胞と6日間再刺激後、照射P815細胞、同系脾細胞、25 units/mlヒトIL-2存在下で限界希釈を行った。
抗体として、ラット抗マウスPD-1およびPD-L1モノクローナル抗体 (mAb) を独自に樹立し、抗H2Ld抗体はe-Bioscienceから購入した。フローサイトメトリー解析はFACScan (Becton Dickinson) を用いて実施し、細胞表面抗原の発現を評価した。
遺伝子導入では、G. J. Freeman (Harvard Medical School) から供与されたPD-L1 cDNAをEcoRIで消化し、pApuroXS発現ベクターに組み込んだ。P815細胞にpApuroXS-PD-L1を360 V、500 µFでエレクトロポレーションにより導入し、ピューロマイシン (3 µg/ml) で選択後、PD-L1を安定発現する独立クローンを樹立した。これにより、PD-L1を強制発現するP815/PD-L1細胞株が作成された。
細胞傷害性アッセイは標準的な⁵¹Cr放出アッセイで実施し、エフェクター細胞と標的細胞の共培養における細胞溶解活性を測定した。IFNγはELISAキット (e-Bioscience) を用いて定量し、T細胞の機能的応答を評価した。
腫瘍増殖アッセイでは、腫瘍径をキャリパーで測定し、腫瘍体積は既報の計算式で近似した。抗体治療のため、抗マウスPD-L1 mAbまたは対照として正常ラットIgGを、腫瘍接種後1、3、5、7日目に各0.1 mg/マウスを腹腔内投与した。各群には6〜10匹のマウスが含まれた。
組織学的解析は、P815/PD-L1腫瘍細胞を接種したDBA/2マウスを20日目に屠殺し、組織を10%ホルムアルデヒドで固定後、パラフィン包埋し、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った。統計解析にはStudent’s t検定を使用し、p値が0.05未満を有意とした。