- 著者: Frederik J. Verweij, Celine Revenu, Guillaume Arras, Florent Dingli, Damarys Loew, D. Michiel Pegtel, Gautier Follain, Guillaume Allio, Jacky G. Goetz, Pascale Zimmermann, Philippe Herbomel, Filippo Del Bene, Graca Raposo, Guillaume van Niel
- Corresponding author: Frederik J. Verweij; Guillaume van Niel (Institut Curie, PSL Research University; Institute for Psychiatry and Neuroscience Paris, INSERM U894, Paris)
- 雑誌: Developmental Cell
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-02-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 30745143
背景
細胞外小胞 (EV)、特にエクソソーム (直径50〜200 nm、多胞体エンドソーム [MVE] の形質膜融合により分泌) は細胞間コミュニケーションの重要な媒体として注目されている。しかし、生体内での産生、組織間輸送、標的細胞への取り込みを直接観察した証拠はこれまでほとんど存在しなかった。従来の研究は主に変換癌細胞由来EVや体外注射した外因性EVを対象とするものであり、内因性EVの生理的動態を忠実に反映しない可能性が指摘されていた点が課題として認識されていた。例えば、Zomer et al. Cell 2015やvanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018は、EVの生体内での役割を示唆したが、内因性EVの動態をリアルタイムで追跡するモデルは未確立であり、この点に大きな知識ギャップが残されていた。
CD63はエクソソームのマーカーテトラスパニンであり、pHluorin (pH感知性GFP変異体) との融合タンパクは細胞外中性pH環境では蛍光を発し、エンドソームやリソソームなどの酸性内腔では消光するため、エクソソームの分泌と細胞外環境での存在を特異的かつリアルタイムに可視化できる。ゼブラフィッシュ幼生は体が透明で発達中の血管系を持ち、高時空間解像度での生体内イメージングに適した脊椎動物モデルである。同グループによる先行in vitro研究でCD63-pHluorinがMVE-形質膜融合をリアルタイムで可視化できることが示されており (Verweij et al., 2018)、本研究ではこの戦略をin vivo系に移植することが試みられた。また、syntenin-ALIX-ESCRT-III (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport-III) シグナル経路がin vitroでエクソソーム生合成の主要分子機構のひとつであることが知られており (Baietti et al. NatCellBiol 2012)、本研究はこれをin vivoで検証する機会を提供した。これらの背景から、内因性エクソソームの生体内動態を直接追跡し、その生理的役割を解明するモデル系の確立が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、ゼブラフィッシュ幼生にCD63-pHluorin蛍光レポーターを発現させ、内因性エクソソームの産生源、血流への放出、組織間輸送、標的細胞への取り込み機構、取り込み後の細胞内運命、および生物学的機能をin vivoで初めて直接可視化・追跡し、内因性EV生物学の研究系として確立することである。特に、卵黄嚢層 (YSL) からのエクソソーム放出がsyntenin依存的であるか、また尾部静脈叢 (CVP) のマクロファージおよび内皮細胞への取り込みがスカベンジャー受容体およびダイナミン依存的であるかを検証し、エクソソームがCVPの成長に寄与する栄養支持の役割を果たすかを明らかにすることを目指した。
結果
YSLからの内因性エクソソームの血流への大量放出: YSLにCD63-pHluorinを発現させたゼブラフィッシュ幼生において、連続的なエクソソームの血流への放出をリアルタイムで世界で初めて可視化することに成功した。CD63-pHluorin陽性小胞は24 hpf (血液循環開始直後) から観察され、3 dpf以降には血管系全体 (頭部、鰓、尾部) を循環する大量のCD63陽性構造体が検出された (Figure 2A, 2B)。IEMによる確認では、アンチGFP金粒子で標識された直径80〜150 nmの単一小胞が血管内に存在し、非注射対照群との比較では注射群のみに標識小胞が確認された (Figure 2C, 2D)。YSL内に多胞体エンドソーム (MVE) が存在し、CD63-pHluorin陽性腔内小胞を含むことがIEMで示され (Figure 3G)、放出されたEVがエンドソーム由来であることが確認された。NTA分析では、CD63-pHluorin発現がEVの数やサイズに有意な影響を与えないことが示された (Figure S1E)。
組織特異的な蓄積と標的細胞の同定: YSL由来CD63陽性EVは尾部静脈叢 (CVP) に選択的に蓄積し、尾部動脈 (CA) ではほとんど検出されなかった (6胚のヒートマップで定量、Figure 4C)。CVP内のパトロールマクロファージ (Tg(mpeg1:mCherryF) で同定) と静脈内皮細胞が主要な取り込み細胞として同定された (Figure 4E)。マクロファージは樹状突起/偽足を伸展させてエクソソームを内皮表面から「収穫」する能動的な取り込みを行い (1〜3分以内)、取り込み後の蛍光強度は10分〜3時間後に低下した (酸性区画への移行)。BODIPY-C12で標識された超低密度リポタンパク質 (VLDL) はエクソソームと重複せず、マクロファージにも取り込まれなかったことから、CD63-pHluorin陽性EVがVLDLとは異なるエクソソームであることを裏付けた (Figure 4G)。
取り込み機構の解明:スカベンジャーレセプター依存・ダイナミン依存性エンドサイトーシス: BafA処理で内在化エクソソームを可視化した状態でPyrimidyn-7投与を行うと、内皮細胞でのエクソソーム取り込みのMander’s coefficient (M2) が10倍以上低下した (p≤0.0001、n≥3 embryos) (Figure 6A, 6B)。マクロファージでも5倍の低下が確認された (p≤0.0001、n=7 macrophages)。DexSO4-500K投与では内皮細胞でのエクソソーム取り込みが4倍以上低下し (p≤0.05、n≥2 embryos)、スカベンジャーレセプターとエクソソームが同一受容体を競合することが示された (Figure 6D, 6E)。一方、マクロファージでのDexSO4-500K競合阻害効果は有意でなかった (Figure S1H)。これは、DexSO4がScavenger receptor class Aと競合するが、マクロファージでの取り込み機構はやや異なる可能性を示唆する。
Syntenin依存的エクソソーム生合成とCVP成長への機能的寄与: SyntA MO注射胚ではCD63-pHluorin陽性エクソソームのCVP蓄積が著明に低下し (BafA条件下でのM2が20倍以上低下、p≤0.0001、n=5 embryos)、対照MO注射胚ではエクソソームが豊富に検出された (Figure 7D, 7F)。CVP高さ (第2ISVレベル) の定量では、SyntA MO胚がCtrl MO胚に比べて約18%低下した (p≤0.05、n≥9 embryos) (Figure 7G, 7H)。35〜40 hpfの経時観察では、SyntA MO胚でCVP成長と内皮細胞増殖が有意に低下したが (p≤0.05〜0.01、n=4 embryos)、細胞運動性への影響は検出されなかった (Figure 7I-7K)。MO非感受性野生型syntenin-a pDNAの共注射でエクソソーム放出とCVP表現型の双方が救済されることも確認された (Figure S2A, S2B)。これは、in vivoにおいてもsyntenin-ALIX-ESCRT-III経路がエクソソーム生合成の主軸であることを初めて動物個体レベルで実証した。
エクソソームの分子組成: YSL由来EV画分の質量分析 (ラベルフリー、GFP免疫沈降後) で、syntenin-a、TSG101、Rab7、ADAM10、V1 ATPaseサブユニットB2が特異的に濃縮され、後期エンドソーム・MVB由来エクソソームに特徴的なタンパク組成であることが確認された (Figure 3F)。Alix (34-fold enrichment)、CHMP4c (9-fold enrichment)、EHD1、CD63、CD82等も同定された。遺伝子オントロジー (GO) 解析でYSL由来エクソソームは「陰イオン結合」「小分子結合」「輸送活性」のタームが濃縮しており、亜鉛・アミノ酸トランスポーター (slc30a1a・slc3a2b) が含まれていた。これはエクソソームが単なるシグナル分子の運び屋ではなく、栄養素・代謝物を組織間で輸送する「マクロ分子デスペンサー」として機能する可能性を示唆する。GW4869 (中性スフィンゴミエリナーゼ阻害剤) 処理はYSLからのエクソソーム放出に影響を与えず (Figure S2D)、ceramideは少なくともYSL由来エクソソームの主要な生合成経路ではないことが示された。
血管外間質液でのエクソソーム観察と細胞特異性: CVP領域の外側にもCD63-pHluorin陽性小胞が観察され、後部脊索静脈 (PCV) の外側、筋節覆い、神経管内に広く分布していた (Figure 5E, 5F)。その動態はBrownian motion様で細胞内エンドソーム輸送とは異なった。しかしBafilomycin A1処理では内皮細胞・マクロファージ以外の筋肉細胞等ではエクソソームの蓄積は観察されず (Video S5D)、エクソソームの取り込みと分解が内皮細胞・マクロファージに特異的であることが示された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、ゼブラフィッシュ幼生におけるCD63-pHluorinレポーターを用いた内因性エクソソームの単一小胞レベルでのin vivo追跡を世界で初めて達成した画期的な研究である。従来の研究は外因性EVを体内注射して追跡するもの (Zomer et al. Cell 2015) であり、生理的な内因性EV動態を直接追跡したものではなかった。本研究はこの空白を初めて埋め、内因性エクソソームが血流を通じて臓器間コミュニケーションを仲介することの直接的証拠を提供した点で、これまでの研究と対照的なアプローチである。また、外因性腫瘍由来EVと内因性生理的EVが尾部静脈叢において共通の取り込み機構 (スカベンジャーレセプター・ダイナミン依存性) を示すことも新規の知見である。
新規性: in vivoでのsyntenin-ALIX経路がエクソソーム生合成に必要であることを組織特異的ノックダウンとレスキュー実験で実証したこと、さらにCVP成長 (主に増殖促進) というエクソソームの具体的な生理機能を動物個体レベルで初めて示したことが際立った新規性である。CVPのScavenger Endothelial Cells (SEC) 機能が哺乳類の肝臓類洞内皮細胞 (LSEC) と機能的に相同であることも、ゼブラフィッシュモデルの臨床的妥当性を支持する。
臨床応用: 血中エクソソームの主要な代謝・クリアランス経路としてのSEC/LSEC経路が示されたことは、EV治療薬のBiodistribution設計に直結する。スカベンジャー受容体を回避してターゲット臓器への送達効率を上げる戦略、あるいは逆にスカベンジャー受容体を利用して肝臓特異的送達を行うEVベースドラッグデリバリー設計への臨床応用が期待される。また腫瘍由来EVと内因性EVが共通のクリアランス経路を競合することは、癌診断のための液性生検でのEVバイオマーカー解釈にも影響を与える可能性がある。
残された課題: 本研究はYSL由来エクソソームのみを追跡しており、他の細胞種由来EVの動態は対象外である点がlimitationとして挙げられる。CD63-pHluorinは特定のEVサブポピュレーション (CD63陽性) のみをラベルするため、CD63陰性EVを追跡するには他のTSPAN-pHluorin融合体 (CD81、CD9等) が今後の検討課題となる。MO戦略の限界 (オフターゲット効果の可能性) や、MO効果の持続時間の制約から、今後はCRISPR/Cas9を用いた組織特異的KO系統の確立が必要とされる。また取り込まれたエクソソームカーゴが受容細胞内で生物学的に利用されるのか、単に分解されるのかという重要な問いは未解決である。
方法
ゼブラフィッシュ幼生 (Casperおよびトランスジェニック系統 Tg(kdrl:HRAS-mCherry)、Tg(mpeg1:mCherryF)) にubi:CD63-pHluorinプラスミドDNA (pDNA) を1細胞期に注射してユビキタス発現を誘導した。あるいは、1,000細胞期 (4 hpf) に卵黄嚢層 (YSL) 特異的に直接注射してYSL組織特異的発現を誘導した。高速共焦点顕微鏡 (Zスタック、0.5〜2 µm間隔、1〜8フレーム/秒) および4Dタイムラプスイメージングを実施し、エクソソームの動態をリアルタイムで観察した。免疫金電子顕微鏡 (IEM) を用いてCD63-pHluorinの局在と小胞サイズを定量解析し、95%以上の小胞が150 nm以下であることを確認した。
GFP免疫沈降後のラベルフリー質量分析により、YSL由来エクソソームのタンパク組成を同定した。syntenin-a機能阻害モルフォリノ (SyntA MO) をYSLに注射し、CVP成長を定量化した (n=9〜10胚)。Bafilomycin A1 (BafA、100 nM) でリソソーム酸性化を阻害し、内在化エクソソームを可視化した。Pyrimidyn-7 (3 µM、ダイナミン阻害剤) とDextran Sulfate 500K (DexSO4-500K、スカベンジャーレセプター競合阻害) を用いて、取り込み機構を薬理学的に検討した。Nanoparticle Tracking Analysis (NTA) により、EVの数とサイズを定量した。
統計解析にはGraphPad Prism version 6.0を使用し、Studentのt検定 (Student’s two-tailed t test) を用いて有意差を評価した。データは平均値±標準偏差 (mean ± SD) で示され、p値は図または図の凡例に記載された。質量分析データはProteomeXchange Consortium (Vizcaíno et al., 2014) のPRIDE (ProteomeXchange ID) パートナーリポジトリにPXD011258として寄託され、EV関連の実験詳細はEV-TRACK (transparent reporting and centralizing knowledge in extracellular vesicle research) 知識ベース (EV-TRACK ID: EV180009) に提出された (VanDeun et al. NatMethods 2017)。