- 著者: EV-TRACK Consortium
- Corresponding author: An Hendrix (Ghent University)
- 雑誌: Nature Methods
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-02-28
- Article種別: Commentary
- PMID: 28245209
背景
細胞外小胞 (EV) 研究は、過去10年間でその重要な生理学的および病理学的役割が認識され、急速に拡大している分野である Melo et al. Nature 2015、Peinado et al. NatMed 2012。EVは放出される細胞の種類や単一細胞種からでもサイズ、タンパク質、核酸、脂質組成において不均一性を示すことが知られている Willms et al. SciRep 2016、Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016。この不均一性は、EVの単離を困難にし、しばしば類似の特性を持つ夾雑物の存在によって複雑化される Bobrie et al. JExtracellVesicles 2012。異なる単離法は、多様な組成と可変的な純度を持つ単一または複数のEVサブタイプを濃縮するため、方法依存的なEV含有量と機能の同定につながる。さらに、各検出および特性評価法は、EVを測定する上での独自の精度と正確性を持つ。
EV研究の急速な進展にもかかわらず、機能研究がEV生物学や方法論に焦点を当てた研究を大幅に上回っている現状がある。他の分野における最小情報チェックリストと同様に、国際細胞外小胞学会 (ISEV) はMISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) ガイドラインを導入した。しかし、これらのガイドラインの普及は遅れており、EV研究の急速な展開が広範な採用を妨げている。その結果、EV研究におけるデータの解釈と再現性には依然として大きな課題が残されており、実験の厳密性と透明性が不足していることが指摘されている。特に、EVの単離方法や特性評価に関する詳細な報告が不足しているため、異なる研究間で結果を比較したり、再現性を検証したりすることが困難であるという知識ギャップが存在する。このような背景から、EV研究の標準化と透明性の向上が喫緊の課題として認識されている。
目的
本研究の目的は、細胞外小胞 (EV) 研究における透明性と再現性を向上させるため、実験パラメータを体系的に記録するクラウドソーシング型ナレッジベース「EV-TRACK」を構築することである。EV-TRACKは、研究者間で関連する実験パラメータに関する情報に基づいた対話を生み出し、EVを研究する実験の厳密性と解釈可能性を改善し、EV研究の進化を記録するユニークなリソースとなることを目指す。さらに、EV-TRACKに蓄積されたデータを用いて、現行のEV研究実践を定量的に評価し、報告の不均一性を明らかにする。最終的な目標は、EV-METRICという報告品質評価システムを開発し、その適用を通じてEV研究の標準化を促進することである。EV-METRICは、著者、査読者、編集者、および資金提供者が実験ガイドラインを実践に移すことを奨励し、EV分野全体の成熟と潜在能力の最大限の実現に貢献する。
結果
単離法の著しい不均一性: EV-TRACKに記録された1,742の実験から、190種類の固有のEV単離法と、生体液からEVを回収するための1,038種類の固有のプロトコルが特定された。差速超遠心 (dUC) が最も一般的な方法であり、全実験の45%で使用されていた (Supplementary Tables 2, 3)。しかし、細胞培養上清を用いたdUC実験 (n=813) だけでも、218種類の遠心ステップと最終ペレット化時間の組み合わせが記録されており、43種類のロータータイプが使用されていた。ロータータイプの報告率はわずか28%にとどまった。遠心分離のg値と持続時間はほぼ全てのdUC実験 (96%) で報告されていたが、同様の沈降係数を持つ物体をペレット化するためにk因子とペレット化時間の比率が一定であるべきであるにもかかわらず、実際にはそうではないことが示された (Supplementary Fig. 4)。密度勾配遠心分離は18%強の実験で実施され、そのうちロータータイプは30%、EV密度は60%で報告された。分析期間中、密度勾配の使用は減少し、市販の単離法の導入が増加していることが示された (Supplementary Fig. 5)。その他の単離法としては、免疫アフィニティー捕捉 (2.2%) やサイズ排除クロマトグラフィー (5.6%) が挙げられる。
EV特性評価の不十分さ: 全実験の17%ではEVの特性評価が全く行われていなかった。特性評価がタンパク質分析のみに限定された実験は29%、粒子分析のみに限定された実験は39%であった。タンパク質と粒子の両方の分析を含む実験はわずか18%であった。プロテオミクスによるEVタンパク質のバイアスなしの特性評価は16%の実験で実施された。55%の実験では、抗体ベースのアッセイのみがEVタンパク質の検出に用いられた。これらの実験のうち、1つのタンパク質が報告されたのは21%、2つは25%、3つは26%、3つ以上は29%であった。ツリーマップ分析により、CD63、CD9、CD81、PDCD6IP (Programmed Cell Death 6 Interacting Protein)、およびTSG101が最も頻繁に評価されるEV濃縮タンパク質であることが明らかになった (Supplementary Fig. 6)。EV調製物中の汚染タンパク質の評価は17%の実験でのみ行われ、典型的にはオルガネラタンパク質に限定されていた。抗体が使用された場合、クローンまたはカタログ番号と希釈率は14%の実験で報告された。溶解バッファーの調製は29%の実験で詳細に記述されていた。定性的 (電子顕微鏡 (EM) または原子間力顕微鏡 (AFM)) および定量的 (EM、ナノ粒子追跡分析 (NTA)、動的光散乱 (DLS)、調整可能抵抗パルスセンシング (TRPS)、高分解能フローサイトメトリー (hrFC)) 粒子分析の両方を含む実験は18%であった。透過型電子顕微鏡 (TEM)、NTA、DLSが最も使用される粒子分析法であり、それぞれ41%、17%、6%の実験で使用された。免疫EMは10%の実験で実施され、CD63が最も頻繁に評価されるタンパク質 (36%) であった。EM画像分析によるEVサイズは3%の実験で報告された。その他の粒子分析法としては、クライオEM、走査型EM、TRPS、AFM、hrFCがあり、これらを合わせた使用率は全記録実験の11%であった。
EV-METRICの開発とプラットフォーム機能: これらの分析によって明らかになった異質性は、EV実験の評価と再現性を向上させるための報告ガイドラインの必要性を示している。この結果を受けて、EV-METRIC (Extracellular Vesicle-METRIC) が開発された (Box 1, Fig 3)。EV-METRICは、EV単離の詳細、タンパク質解析、粒子解析の質的・量的評価、汚染評価など、9つの必須コンポーネントから構成されるスコアリングシステムである。これは、実験の報告透明性を定量的に評価し、査読者、編集者、資金提供者への情報提供を目的とする。EV-TRACKプラットフォームは、Upload (出版前データ登録とEV-TRACK ID付与)、Query (データベース検索)、Compare (プロトコル比較)、Recommend (コミュニティフィードバック) など、7つの主要な機能を実装している (Fig 1)。研究者はオンラインインターフェースを通じてEV実験をアップロードし、各実験にはEV-TRACK IDが付与される (Fig 2)。EV-METRICは、報告された実験パラメータに基づいてEV実験に割り当てられ、実験の解釈と再現に必要な情報が十分に提供されているかを評価する。EV-TRACKのデータマイニングにより、EV単離と特性評価の特定の側面でEV研究者をガイドする必要性が特定され、EV-METRICの開発につながった。EV-METRICの実験パラメータは現在十分に報告されていないが、このシステムの適用が研究者に非現実的な負担を課すことはないと信じられている。調査された実験の81%において、追加の分析なしで報告を増やすことでEV-METRICのスコアを向上させることができた (Supplementary Table 4)。
考察/結論
本研究で構築されたEV-TRACKは、EV研究者間の情報共有対話を創出し、EVを研究する実験の厳密性と解釈可能性を向上させ、EV研究の進化を記録するユニークなリソースである。我々の分析は、EVに関する多数の論文が、実験の明確な解釈や再現に不十分な情報しか含んでいないことを明らかにした。これは、EV単離法の著しい不均一性 (190種類の固有単離法) や、EV特性評価の不十分さ (17%の実験で特性評価が全く行われていない) に起因する。
先行研究との違い: これまでのMISEVガイドラインの導入にもかかわらず、その実装率は低く、EV研究の透明性と再現性には課題が残されていた。本研究は、MISEVガイドラインを補完し、より実践的な形で実験パラメータの報告を促すクラウドソーシング型ナレッジベースと評価システムを開発した点で、これまでの取り組みと対照的である。特に、EV-TRACKは、単にガイドラインを提示するだけでなく、実際の研究データを収集・分析し、その結果に基づいて報告の質を定量的に評価するEV-METRICを開発した点が新規である。
新規性: EV-TRACKは、2010-2015年に発表された1,226報のEV関連論文から1,742の実験データを収集し、115の実験パラメータを記録した世界初のクラウドソーシング型ナレッジベースである。この大規模なデータ収集と分析により、EV単離法や特性評価における著しい不均一性が定量的に明らかになったことは、本研究で初めて報告された知見である。また、9つの必須コンポーネントからなるEV-METRICの開発は、EV研究の報告透明性を評価する新規なツールを提供する。
臨床応用: EV-TRACKとEV-METRICの広範な実装は、EV研究の標準化を促進し、ひいてはEVベースの診断法や治療法の開発における信頼性と再現性を向上させる上で臨床的意義を持つ。より厳密な報告は、臨床試験の設計や結果の解釈を改善し、最終的に患者への臨床応用を加速させる可能性を秘めている。例えば、EVのバイオマーカーとしての利用や、EVを用いたドラッグデリバリーシステム開発において、実験プロトコルの標準化は不可欠である。
残された課題: EV-METRICは現時点での報告基準を反映する動的なツールであり、分野の進化に伴い更新される必要がある。今後の検討課題として、EVのRNA含有量分析に関するガイドラインの確立が挙げられる。これはEV調製物の純度によって大きく影響されるためである Chevillet et al. ProcNatlAcadSciUSA 2014。また、細胞培養や動物モデルにおけるEV処理に関するガイドラインも今後の研究方向性として重要である。EV-METRICは、サンプルが希少である、または量が限られている場合など、特定のコンポーネントに準拠することが困難な場合があるというlimitationも認識されている。このような場合でも、EV-TRACKは透明な議論を可能にする。最終目標は、EV研究の標準化を促進し、分野がその潜在能力を最大限に発揮できるよう支援することである。資金提供機関、編集者、編集委員は、EV関連の助成金申請や原稿における潜在的な限界を適切に特定するために、EV-TRACKとEV-METRICの実装を奨励することが推奨される。
方法
EV-TRACKナレッジベースの構築にあたり、2010年から2015年までに発表されたEV関連論文1,226報を対象とした。複数のサンプルタイプや単離法を含む論文は、それぞれ個別のエントリーとして扱われ、合計1,742の実験データが収集された。各実験について、MISEVガイドラインを部分的に基にした115のパラメータからなるチェックリストを用いて、方法論的仕様を詳細に記録した。これらのパラメータには、サンプルタイプ、前処理変数、単離プロトコル、および特性評価方法が含まれる。データはナレッジベースに含める前にキュレーションされ、http://evtrack.org で自由にアクセス可能である。
EV研究の実践を評価するため、EV-TRACKナレッジベースのデータを詳細に分析した。これにより、EV単離法の広範な不均一性、およびEVサイズ、組成、純度の単離法と特性評価を含む重要な実験パラメータの不整合な実装と報告が明らかになった。
EV-TRACKプラットフォームは、研究者を支援するための7つの主要な機能を実装した。
- Upload: 研究者はオンラインインターフェースを通じてEV実験をアップロードできる。各アップロードには、サンプルタイプ、前処理変数、単離プロトコル、特性評価方法などの実験パラメータが記録され、一意のEV-TRACK IDが付与される。未発表のEV実験は、研究著者、編集者、査読者のみがアクセスできる「クローズド」セクションに格納される。
- EV-METRIC: 報告された実験パラメータに基づいて、EV実験にEV-METRICスコアが割り当てられる。このスコアは、実験の解釈と再現に必要な情報が十分に提供されているかを評価する。EV-METRICは、EV実験の明確な解釈と独立した再現に不可欠であるとコンソーシアムが判断した9つの検証実験と実験パラメータのコンポーネントで構成される。
- Query: ユーザーは、様々な検索パラメータを用いてデータベースを検索できる。検索結果リストには、最も一般的なEV単離プロトコルとEV濃縮タンパク質の概要が示される。各実験について、EV-METRIC、他の注釈付き実験におけるそのパーセンタイル、および生のアノテーションデータが参照可能である。
- Coaching: EV関連論文の検索と比較を容易にすることで、EV研究者が関連する実験パラメータに慣れることを支援する。
- Methods: EV分野は新しいEV単離・特性評価方法の開発により急速に進化しており、コミュニティによるアノテーションはこれらの方法の特定を可能にし、実験ガイドラインが必要とされる時期を監視するのに役立つ。
- EV biology: EV-TRACKは実験パラメータを超えて、EVの生化学的および物理的特性を体系的にカタログ化する。これにより、EVサブセットの同定やそれらを単離するための最適なプロトコルなど、EV生物学の基礎に関する洞察が得られる。
- Community: EV-TRACKは、コミュニティコンセンサスアプローチを用いて実験パラメータの標準化された報告を増やすことを目指す。登録されたEV-TRACKユーザーは、EV-TRACKとそのEV-METRICに関する将来の意思決定に、推奨事項を提出することで関与する。